欧州農政改革 したたかな戦略に学べ (2013/11/23)
iframe.twitter-share-button { width: 95px!important;}
「キャップ(CAP)」の呼び名で知られる欧州連合(EU)の共通農業政策が、来年から変わる。単純に競争力を追い求めるのではなく、国民が納得できる農業経営を手厚く支援する。海外からの安値攻勢には品質本位の競争ができる環境を整備し、輸出拡大に結び付ける。国民の満足度を高めながら、農家の実利も追求する欧州流のしたたかな戦略は、効率優先コスト削減一辺倒の日本の農政改革とは一線を画す。
CAPで直接支払いを受ける農家はこれまでも、環境、食品安全、動物福祉、農地保全の環境要件を満たすことが義務付けられてきた。2020年までの7年間が対象の新CAPは、グリーニングと名付けられた新たな環境要件が加わることが最大の特徴だ。今回上乗せされる要件に農家が対応しないと、補助金は大きく削減される。
例えば一定規模以上の農地には単作を禁じて3種類以上の作物を植えることを求める。多様な生き物を保つためだ。コスト削減だけを考えれば、大規模な単一作物栽培が有利なことは明らか。しかし、EUはそうした規模の経済よりも農業が持つ生物多様性を重視した。
今月来日したEUのダチアン・チオロシュ農業担当委員(農相)は新たな環境要件の上乗せの理由として「欧州の納税者は食料安保や食品の品質が高いことと同時に、環境に優しい農業を求めている。土地は農業の耕作地である一方、国民全体の公共所有物でもある」と日本農業新聞に説明した。国民が求めることを農業側に求め、対価としてEUが税金で支援をするという考え方だ。
欧州経済が停滞する中で「農家支援の論理だけではCAPそのものが持たない」という危機感が関係者の間で共有された。多額の補助金を受ける巨大企業や王侯貴族の農場に対する直接支払額を減らすのも、新CAPが国民目線を強く意識していることの表れだ。
農産物貿易自由化時代、競争力が低下すれば大量の海外産農産物がなだれ込む。EUは地理的表示(GI)と呼ばれる産地保護の仕組みを広げている。欧州の地名を冠した伝統ある高級食品の品質を保証し、「コピー食品」は徹底的に取り締まる。トウモロコシ、大豆など一般農産物の価格競争では南米や北米にかなわないが、高級なハムやチーズ、バターなど消費者が直接目にする商品では、高級イメージも手伝ってEU産に十分な競争力が生まれる。GIの追い風もあってEUは10年から農産物の純輸出国に転じている。
農産物の安さだけでなく環境や生き物に優しい農業を望む国民の要望をくみ取りながら、伝統と品質に裏打ちされた農産物が市場で高く評価される仕組みも整えるEU。確かな理念と手厚い制度、それを支える国民の高い意識などEUの取り組みは、今まさに農政改革を進める日本も学ぶ点が多い。
iframe.twitter-share-button { width: 95px!important;}
「キャップ(CAP)」の呼び名で知られる欧州連合(EU)の共通農業政策が、来年から変わる。単純に競争力を追い求めるのではなく、国民が納得できる農業経営を手厚く支援する。海外からの安値攻勢には品質本位の競争ができる環境を整備し、輸出拡大に結び付ける。国民の満足度を高めながら、農家の実利も追求する欧州流のしたたかな戦略は、効率優先コスト削減一辺倒の日本の農政改革とは一線を画す。
CAPで直接支払いを受ける農家はこれまでも、環境、食品安全、動物福祉、農地保全の環境要件を満たすことが義務付けられてきた。2020年までの7年間が対象の新CAPは、グリーニングと名付けられた新たな環境要件が加わることが最大の特徴だ。今回上乗せされる要件に農家が対応しないと、補助金は大きく削減される。
例えば一定規模以上の農地には単作を禁じて3種類以上の作物を植えることを求める。多様な生き物を保つためだ。コスト削減だけを考えれば、大規模な単一作物栽培が有利なことは明らか。しかし、EUはそうした規模の経済よりも農業が持つ生物多様性を重視した。
今月来日したEUのダチアン・チオロシュ農業担当委員(農相)は新たな環境要件の上乗せの理由として「欧州の納税者は食料安保や食品の品質が高いことと同時に、環境に優しい農業を求めている。土地は農業の耕作地である一方、国民全体の公共所有物でもある」と日本農業新聞に説明した。国民が求めることを農業側に求め、対価としてEUが税金で支援をするという考え方だ。
欧州経済が停滞する中で「農家支援の論理だけではCAPそのものが持たない」という危機感が関係者の間で共有された。多額の補助金を受ける巨大企業や王侯貴族の農場に対する直接支払額を減らすのも、新CAPが国民目線を強く意識していることの表れだ。
農産物貿易自由化時代、競争力が低下すれば大量の海外産農産物がなだれ込む。EUは地理的表示(GI)と呼ばれる産地保護の仕組みを広げている。欧州の地名を冠した伝統ある高級食品の品質を保証し、「コピー食品」は徹底的に取り締まる。トウモロコシ、大豆など一般農産物の価格競争では南米や北米にかなわないが、高級なハムやチーズ、バターなど消費者が直接目にする商品では、高級イメージも手伝ってEU産に十分な競争力が生まれる。GIの追い風もあってEUは10年から農産物の純輸出国に転じている。
農産物の安さだけでなく環境や生き物に優しい農業を望む国民の要望をくみ取りながら、伝統と品質に裏打ちされた農産物が市場で高く評価される仕組みも整えるEU。確かな理念と手厚い制度、それを支える国民の高い意識などEUの取り組みは、今まさに農政改革を進める日本も学ぶ点が多い。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます