生きづらい社会のカラクリは?
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この社会、なんとなく「生きづらい」と思いませんか?
「改革」を繰り返すたびに、生活は苦しくなる一方。アベノミクスってなんだったの?ちょっと目立つとバッシングされるし、だれもが「空気」を気にしつつ、ため息つきながら生きてる、そんな社会。生きるも死ぬも自己責任だし、しょうがないか・・・とあきらめるまえに、なぜそうなってしまうのか考えてみましょう。
1. それは「改革」ブームから始まった
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バブル崩壊後、大企業は政府に「改革」「規制緩和」「自由化」「民営化」を求め、日本でビジネスチャンスを広げたいアメリカもこれを後押ししました。企業がよりよい条件で「自由に」ビジネスできるようになれば社会はよくなる!という気分が広まったのです。こういう考え方は「新自由主義」とか「市場原理主義」といい、最近話題のTPPもその延長上にあります。
新自由主義の「改革」は、これまでのしがらみや既得権を壊してくれる感じがして、国民にウケました。多くの人達が「癒着で儲けてきた連中」や「制度で保護されている公務員」になんとなく反感や嫉妬心を持っていたからです。小泉純一郎元首相も、維新の橋下さんも、そういう改革イメージで人気者になり、自民党や維新だけでなく民主党の一部も新自由主義に染まっていきました。「努力した人が報われるのは当然」と、お金持ちや企業への減税が行われ、起業家や投資家が大儲けするようになりました。
新自由主義は、日本だけでなくイギリスやアメリカなど各国に蔓延しました。
2. 正社員になれない、給料上がらない……原因は「ブラック資本主義」
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ところが、いろいろな規制をなくしたことで問題が出てきます。規制の多くは、人々の暮らしや環境を守るためのものだったのに、それを壊して企業の儲けを優先するようになったからです。
たとえば大型店の出店規制の緩和です。日本中で田んぼの真ん中に東京資本や外国資本のショッピングセンターや量販店が作られ、かわりに地元資本の中小の商店がつぶれて駅前がシャッター通り化。地方経済が衰退し、どこも同じ風景になっていきました。また、通訳など専門職にしか認められなかった派遣が、事務職や工場などでもできるようになりました。正社員を雇わず派遣やアルバイトにすれば、企業は人件費を減らせるし、いつでも簡単に辞めさせられます。そのため非正規雇用の割合がどんどん増え、多くの若者が低賃金で不安定な暮らしになりました。さらに過酷な労働環境で若者を使い捨てるブラック企業も登場。そんなわけで90年代半ば以降、GDPは増えたのに国民の平均所得は下がり続けています。改革もアベノミクスも、庶民の生活を楽にするものではなかったのです。
一方で、企業の合併が進み、法人税減税も行われて、少数のグローバル大企業に富が集中。さらに富裕層への課税が減らされてお金持ちが増加。アベノミクスで株価が上がると、株を持つ彼らはさらに豊かになりました。こうして格差が拡大していったのです。「新自由主義」の経済は、一部の人達に富が集まり大多数の人達の暮らしが苦しくなる「ブラック資本主義」だったといえます。でも多くの人がそれに気づかず、「改革」「規制緩和」を叫ぶ政権を支持して、自分たちの墓穴を掘ってしまったのです。新自由主義を信じる人たちは、大企業が潤えばやがて社会の下層にまで富が行き渡るのだ、と言います(トリクルダウン理論)。しかし実際にはそうはなっていません。
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3. 生きづらい、頑張れない……これって自分が悪い?
新自由主義の社会では、生きづらさを抱える人が増えます。
新自由主義では、誰にでもチャンスがあることになっていますが、実際は人脈や資本を持つ一部の人達が有利です。たとえば規制緩和を進めた経済学者・竹中平蔵氏は、それによって急成長した人材派遣企業の取締役会長になり大儲けしています。そして大多数の人達は投資家ではなく「使われる側」として、取替えのきく部品のように不安定で苦しい暮らしを強いられます。競争や自己責任といった考え方を刷り込まれ、人と人のつながりが薄くなり、多くの人が心をすり減らします。家族のようだった「会社」共同体も、働く人の権利を守っていた労働組合も、非正規社員が増えて弱体化。さらに地方経済の衰退で、地域社会が崩壊。社会はバラバラになっていきます。生活の不安を抱え、「根ざすもの」や「属する集団」を失った人々は精神的に不安定になり、心の病が増え、ニートやひきこもりが増加。自殺者数も失業の増加にあわせて増え、1998年に年間3万人を超えました。
「自己責任」の論理を刷り込まれると、負け組になるのは自分の努力が足りないからと思いがち。でも、社会全体で非正規が増えたり自殺が増えたりしているのは社会のしくみに問題があるのです。
4. 「ニッポン最高!」という気持ち、どこから来る?
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格差が広がり、人々がバラバラになって不安を抱える中、息を吹き返してきたのが国家主義です。
国家主義(ナショナリズム、全体主義)は、一人ひとりの人間より国家体制の方が大事だという考え方。戦前の日本の軍国主義もナチスも、ソ連や中国や北朝鮮も、左右の違いはあれど国家主義。国家主義の暴走は、結局は人を幸せにしないというのが歴史の教訓です。
自分は「勝ち組」になれない、取るに足らない人間だと思っていた人も、「自分は日本人だ」と自信を持ち、中国や韓国をけなしてスカッとできる。政府は愛国心をあおることで格差・貧困や原発事故などの問題から人々の目をそらさせ、何でも中韓のせいにして国をまとめることができます。「根ざすもの」を失った人たちが、「国家」に飛びついてしまったわけです。
国家主義では個人の自由や権利より国家システムが優先です。秘密保護法などで政府に都合の悪い動きを抑え、福祉を削って軍備を拡大します。こうして、支配層は自分たちのポジションをさらに強められるわけです。国家主義に染まった国民は、嬉々としてそれを支持してくれます。
5. 貧困層の若者は戦場に……
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ブラック資本主義(新自由主義)は「自由」を掲げるはずなのに、なぜ国家主義と結びつくの・・?と疑問に思う人もいるかもしれません。それは「戦争」が絡むからです。
アメリカでは、実際にそうしたことが起きています。新自由主義で格差が広がり、貧困層の若者たちが、軍の進学支援制度をめあてに入隊して、イラクなどに行かされて死んでいます。新自由主義の「自由」は、あくまで投資家や企業家の経済活動の自由であって、万人の自由ではないことを知る必要があります。格差が広がると社会が不安定になりますから、政府は国家主義で押さえつけようとします。アメリカでは911テロの後に「愛国者法」ができ、国民の人権を制限してメールなどを国が調べられるようになりました。さらにアルカイダやイラクへの敵意をあおり、軍事予算を増やして軍需産業がボロ儲けしました。日本も、集団的自衛権容認や武器輸出の解禁、秘密保護法などで同じ道を歩みつつあるように見えます。戦争になれば、徴兵制にしなくても貧困層が戦場に行ってくれます。これを「経済的徴兵制」といい、安保法制に反対するSEALDsのデモに若者たちが集まったのも、こうした危機感があるといわれています。
それにしても、「愛国心」を強調するナショナリストが、古き良きもの(地域社会や景観)を壊す新自由主義と結びついているのも皮肉な話です。
6. デモクラシーを取り戻そう
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新自由主義は民主主義をダメにします。政治をカネで買えるからです。大企業が政党に献金し、政党は広告代理店に発注してキャンペーンを行い、世論を誘導する。そうしてグローバル大企業や金持ちに有利なしくみがつくられます。選挙などの制度はあっても、実際には「お金の力」でものごとが動かされるのです。
また国家主義は、一人ひとりの国民より国家システムの方が大事だという考え方。この2つが合体することで、国や経済界の中枢に近い「1%」の持てる者達が、富や力を独占し続けるしくみがつくられるのです。「99%」の持たざる者たちは貧乏になったり戦争に行かされたり心がこじれたりで、いいことがありません。しかも「自己責任」と言われ、自分たちの責任だと思わされているのです。
この悪循環をやめる手がかりは、持たざる「99%」の人達による、民主主義=デモクラシーの力にあります。制度やタテマエとして維持されている民主主義のしくみに、血を通わせるのです。
政治家やメディアの誘導に乗らず、みんなで学び、考え、話しあい、この社会のカラクリに気づくこと。その「気づきの輪」を発信して広げていき、それぞれの地域で国民の幸せを考える代表を選ぶ。さらに、メディアや政治家が誰の方を向いているかチェックし、自分たちの声を伝えつづける。そうすることで、1%がコントロールするしくみを変えて行けるのです。(ゆ)