「さて・・・」
男がアマロを見る。目はもう一度上から下までアロマを舐める。
「お前の心がけ次第だが。他にやるにはおしい・・」
アマロの美貌をして、アマロを独占したくなると男はもらした。
だれかれお構いなく伽の相手を勤めるよりは、この男だけの女で居た方が良いだろうと、男はアマロをなだめてみたのか、おどしてみたのか。
「どっちにしろ・・」
答えかけてアマロはやめた。
陵辱にかわりはしない。こういえば、男の癇がたつ。
癪に触ったばかりに男はいうとおり、アマロを群れの中になげこむ。
せめても、たしかにこの頭領格の男の独占下に入った方がアマロの身も安泰である。
アマロが言いかけた言葉を飲み込んだ事で、男はアマロを支配下に置いたと覚った。
「いい心がけだ」
アマロの選択を了承すると
「俺の名はロァだ。ついてこい」
男の名前をしらされた。
ロァに命ぜられるままアマロは彼に従った。
いきておればこそ。
アマロは悲壮な覚悟を決意に替え、生きる事をえらんだ。
ロァの部屋は操舵室のうしろにある。
小部屋の前にたつと、ロァはアマロをふりかえった。
「女のかわりはいくらでもいる」
ロァの言葉の意味を理解するのにさして時間はかからない。
「ジニー」
ロァは部屋の中にいる女の名をよんだ。
ドアを開けたジニーなる女の顔を見詰めるアマロの前でロァはつげた。
「ジニー。下におりろ」
顔を出したジニーのこわばった表情をアマロはみつめつづけた。
ロァにオンリーの女がいるのは当り前のことであろう。
だが、ジニーの立場はアマロの出現で一気にくずれさった。
ロァの言葉に従うしかないジニーはロァの一言で安泰な地位を新しい女に譲らなければ成らなくなった。
ロァが今までの略奪でも、他の女に興を得なかったことに安心していたジニーの慢心がくずれさってゆく。
ロァが下に降りろと命じた事はすなわちジニーを捨て新しい女を替わりに刷るということである。
下に降りればジニーは多くの男たちに身体をなげうつことになる。
が、そうなってもかまわないほどロァの興味が他の女にうつってしまうなら、もうジニーの手当ての法はない。
「飽きられたのだ。で、無ければよほど新しい女に心うばわれたのだ」
一度飽きた女を他の男たちに晒したロァが思いをかえることはない。
雑巾のように他の男の穢れを拭った女になれば、
ロァは尚更ふりむきはしない。
異常なほどに独占欲が強い。
ジニーは今まで見てきた事実でロァを判断すると
いまから、娼婦にもなれない自分をあざわらった。
そうだろう?娼婦なら身体を売った見返りは金で清算される。
女の持ち物だけが慰められる男の欲望を拭い去るぼろ布になる。
今の今までロァの権力と云う傘下で安泰な立場を得た事が見返りだったとするなら今のいままで、ジニーは娼婦だったろう。
だが、これからは、違う。
娼婦にもなれない女がだれかれお構いなく身体をひらいてゆくだけ。
見返りなぞ何ひとつもなく・・・。
ジニーはアマロにとり替わられた「ロァの女」の立場を憎しみを籠めた一言をそえてアマロにゆずった。
[お前さえこなければ・・・]
アマロの横をすり抜けるとき、呟かれた言葉の鋭さはロァの言葉を裏打ちしている。
ロァの好む所である鼻っ柱の強い女であるジニーがロァの一言で敗退を決意していた。
けれど、アマロは虚しいだけである。
『こんなことが、私達の憎しみあいになる?』
もし、普段の生活の中でアマロがうら若き乙女で、ジニーと永年の恋敵で、ロァを奪い合っていたならばあるいはロァの選択に勝ち誇った気分を味わえるかもしれない。
だが、現実は違う。
自分の人生を投げ捨てる。
こんな惨めな境遇にまだ、哀しい争奪がある。
いっそ、ジニーに負けていればよかったと思おうにも、思える領分がない。
我が身の保身が欲しいのはアマロも同じであった。
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