憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 2 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:09:30 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

そして、かなえは子を産んだ。

伽羅の予想をたがう事はなかったが、

かなえはもう一人悪童丸のほかに女子の子をうみおとしていた。

かなえ、そのままの面立ち。

姿かたちも人の子そのまま。

その子がかなえを死の淵から救い出す事になってゆく。

悪童丸を産み落とし海老名の手によって

その生をついえられていれば、

かなえは、ことの事実を悟って

もっと早く死を選び取っていた事であろう。

勢と名づけられた赤子は主膳にも光来童子にも似ていなかった。

が、海老名はかなえの母性を極めさすかのように言った。

「笑うとよう主膳様ににておらるる」

そうなのであろうか?

一抹の信心を育て上げてゆくためにも

赤子の笑顔はいたいけなさすぎ、

かなえは主膳との後世がしかれている事に

己を組み伏せていく事になっていった。

そうせねばならぬほどに主膳の心もまた

とめどなくやさしすぎたのである。

勢は本当はだれのこであろうか?

心の中に巣食った疑問さえ、主膳の情愛がかきけしてゆく。

それをつまびらやかにしてはならない

と、主膳の情愛がかなえを押しとどめさせていた。

赤子の名を決めるとき

「勢という名が良い」

と、主膳はいった。

その主膳の心の奥底がかなえの胸に痛い。

伊勢の姫君であったかなえに恋焦がれ

馬をかけとおし主膳はかなえに会いに行った。

恋しくて、恋しくて、心願思いをこめ弓を引き、

伊勢の地からかなえをめしいた。

伊勢の勢。

この名前にこめられた主膳の恋路の深さがおもいやられる。

伊勢の姫君が今ここにいて主膳の情愛を一心に降り注げられ、

愛は小さな命にかたちをかえたが、

今も尚主膳の思いは留まることなくかなえに流れ込んでいる。

その主膳の想いがかなえの胸に小さな錐をついたように痛みを

感じさせていた。

「この人をも・・くるしませてはならない」

勢の父である事を露一つ疑う事もなく、

かなえ一筋にいきおおす主膳をも、悲しませてはならない。

かなえをもってして生かせしめてゆこうという根源があるがゆえこそ、

そんな主膳で有らばこそ

童子もかなえの幸せを願ってゆけたのである。

 



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