佐奈と朋世からこの物語は始まってゆく。
佐奈の指先が細かく震えていた。
佐奈のしでかした事に脅える眼のまま、
少女は僅かに身体を動かした。
男、いや、少年が
もう自分を押さえ込むことはないと判ると
少女ははだけられた着物の前を合わせていたが、
今更逃げる気もうせはてていた。
陵辱の痕に少女が気付くと、
呆然としたまなざしでその血の色を見定めていた。
―何かが死んだ。自分の中の何かが死んだー
血の色は朋世の瞳の中でじっとうずくまっていた。
―自分の中の何かが血を流し、ここで息絶えたのだー
既に失われた物をこれ以上失うことはない。
朋世は逃げる事も忘れはて、
陵辱のその場所にじっと座り込んでいた。
―これ以上、もううしなう物などありはしないのだー
おびただしい破瓜の血の跡を、
座り込んだまま見つめている少女の肩に佐奈は手を置いた。
恐れる心もなくしはてて、
少女は佐奈の手をぼんやりとみつめた。
「す・・・すまなんだ」
何故、少女にこんなことをしでかしてしまったのか。
佐奈は山童に囲まれた少女を助け出した。
その時は確かに腐肉さえ漁る山童が少女を捕らえていた。
少女が喰われると、佐奈が思ったとき、
山童は少女の足をとらまえ
その白い太ももをあらわにさせていた。
山童の醜く青黒い一物がそそりたちあがっているのが
佐奈の目の端にとまったとき、
佐奈は印綬の符号を唱え山童を蹴散らしていた。
そして、脅える瞳の少女を引き起こしかけた。
乱れる着物のあわせから白すぎる胸元がみえた。
「大丈夫か?」
佐奈には、そう声をかけた覚えがある。
が、少女の白い足に目をやった途端、
佐奈は少女を押さえ込んでいた。
押さえ込んだまま自分の着物の前をはだけ上げると
狂おしく欲情しきっている物を
少女で宥めたおすしかなかった。
「いやっ・・・」
少女が小さく叫んだ声が悲痛な悲鳴になった。
破瓜の痛みにもがく少女であるのに、
佐奈は己の欲望を選んだ。
「すんだら・・・はなしてやる・・・」
少女をそう宥めた覚えもある。
あきらめきった少女がいた。
少女に突きこむものが、己にも鈍い痛みを与えていた。
だが、そのときの佐奈には何の後悔もあるはずがない。
佐奈がうけた鈍い痛みが、
少女が初女(うぶめ)である事を物語っていた
と、悟ったのは、
少女の異様なぬめりに気がついたときである。
『もう、男をしっておるのか?』
抱きかかえた女の幼さと裏腹なぬめりに
佐奈は手を伸ばし軽い嫉妬で拭うてみせた。
「あ・・・」
透明であるはずのぬめりが真っ赤な色を呈していた。
だが、佐奈は己に伝わってくる少女の肉の絡みを
味わいつくした。
白い体液を少女の中に吐き出し尽すまでは、
佐奈も山童と同じ女を漁る獣でしかなかった。
だが、今。
少女の肩に手を置いたまま、佐奈はうなだれていた。
「すまなんだ・・・・」
口をついてくる言葉が
取り返しのつかないことをしでかした自分を
思い知らせていた。
少女は男を見ようとしなかった。
肩口の男の手の向こうに見える地面にまで
滴り落ちた破瓜の痕をじっと見つめていた。
肩に伸ばされた手も、佐奈の言葉も
少女に今更何を返せるという?
そして、少女の悲しい諦念が見えた。
肩に伸ばされた手に力が込められ、
男が再び陵辱を繰り返すかもしれない事を
少女は受け入れようとしている。
流され様としている。
逃げようともせず既に諦めているのである。
―これ以上・・・何を失うことがあろう―
少女がなくし去った物を見つめる瞳からは、
涙さえ湧いてこなかった。
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