憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

箱舟   5 (№5)

2022-12-17 13:20:30 | 箱舟 第一部

私たちの研究自体、人類救済を目的としている。

異なる環境、あるいは急激な環境変化に適応出来るために、

あらゆる条件に適合できるDNAを急速に成長させる。

 

たとえば、低温。

たとえば水中生活。

その条件に見合う生物のDNAを人間に移植する。

仮に水中生活を余儀なくされたとしたら、

たとえば「いもり」など両性類のDNAを移植し

それを急速に成長させる。

これで、人間はイモリのように水中でも陸上でも生活できる。

こういう風にあらゆる「環境条件」のDNAをそろえ

人間への移植と成長促進が確立すれば

地球上にどんな環境変化がおきても人類は生き延びることが出来る。

 

この研究を私たちは箱舟計画と名づけていた。

 

だから、彼女の発した「箱舟」は偶然の一致と片付けるに片付けられない

「一抹の危惧と無念」を味あわせていた。

 

何故「危惧」と「無念」なのか・・・。

 

私は彼女もまた「箱舟計画」を成功させた地球外生命体ではないかと思ったからだ。

たとえば、彼女の星は、星自体が消滅する。

そんな危機に立たされているに違いない。

星からの脱出以外助かる道がなくなった彼女の同胞は

「箱舟計画」のモデル生物を地球にも求めに来た。

そして、実験体として、彼女が地球人のDNAを取得し、

急速に増幅させ地球人に成りすますことが出来た。

ところが、彼女たちの捕食エネルギーは自然界における放射能だったと考えた時

捕食にたる放射能エネルギーを摂取できなかった。

 

彼女という実験は不成功に終わったと考えてよいだろう。

そこで、一つの無念。

私の想定が間違っていなかったら

「箱舟計画」の成功理論を導き出すことが出来なかったという事。

そして、危惧。

おそらく外見も地球人そのままの彼女たちが

捕食エネルギー問題だけで、地球への進出を諦めることはないのではないだろうか?

エネルギー捕食の難点を克服できれば、

彼女たちは地球にやってくる。

そして、気がついた時には地球人類が消滅していて

彼女たちが地球を掌握している。

こんな事態にもなりかねない。

彼らとの共存を果たすためにも

地球の環境変化に適合できる「箱舟計画」を完成させなければ

地球人は環境変化の時に滅びる可能性がある。

これらは、あくまでも危惧でしかない。

だが、まちがいなく

彼女たちは地球人にまざりこんでくる。
私の不安や推理を、いくら突付きまわしてみても

それは、杞憂というものにすぎない。

とにかく、彼女の発声と脳波を照合し、

不可解な文字の羅列を私たちの言語に翻訳するしかない。

 

それによっては、

杞憂が杞憂に過ぎなくなるかもしれないし

やってくる異種生物を見分けていく方法を探さなきゃ成らないかもしれない。

 

まずは、脳波。

 

時間軸と照らし合わせて、彼女が「箱舟」と発声したあたりを

まずデータから取り出し、並べてみることにしたのだが・・・・。

 

私は開かれた「文字列」を、なんども、なんども、見つめなおした。

確かに数字の羅列だった「文字列」は

私たちの言語に翻訳されている。

誰もパソコンに「箱舟」と「脳波」を照らし合わせ、解析するよう「実行」なぞかけていない。

いったい、どういうわけで、

あれほど難解だった脳波の翻訳をおこなうことができるようになったのか?

 

だが、そんな原因の追究をするより、さきに、私はその文字列を読まずにおれなかった。

その内容があまりにも、ショッキングであり、

すくなくとも、杞憂が杞憂でしかなくなり、

私の推理の半分は外れていた。

 

私はよみかけていた「脳波の翻訳」がまもなしにとだえ、

ことの重要性におののきながら彼女の脳波を取り始めた最初に戻った。

箱舟の発声以降でないと、翻訳が出来ていないのかもしれないと思いながら

最初の「脳波」の翻訳が立ち上がってくるのをまった。

 

そこに書かれていたこと。

それはまさしく、まぎれもない「箱舟計画」だった。

私は今、それを、みんなにどう伝えようか。

そして、私が読んだことを、他のスタッフがどううけとめるか・・・。

迷いながらみんなを呼び集めた。
私自身、翻訳された文章の意味をまだ、はっきりと理解していない状態だった。

むしろ、その意味合いを的確につかみとるためにも、みんなで協議するべきだと思った。

「どうした?」

「なにか、わかった?」

と、スタッフが私の周りをとりかこみ、

一様にパソコンモニター画面をのぞきこんだ。

「説明してくれる?」

スタッフのひとりが、画面をみつめながら、かけた言葉に私は多少の違和感を感じていた。

見ての通りの文字列をまず読もうとするか、

解析文字列の存在に解析成功への驚きか賞賛があってもおかしくないだろう。

だけど、変哲ないものを眺めるように・・・。

おまけに、読もうともせず、説明してくれという反応は奇妙すぎた。

だが、その奇妙な反応が無理ないとすぐに判る。

 



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