織絵は昨年の秋に陽道に殺されていた。
織絵を我物にしようとした陽道が織絵を無理やり押さえ込んだ。
その手から逃れようとする織絵と陽道の葛藤がしばらく続き、
あと、ぐぎと音がすると織絵の首の骨が折れた。
舌を噛もうとする織絵の顔を押さえつけ
止めようとしたのがいけなかった。
陽道はまっ青になった。
同時に織絵をその腕に抱くと大声を上げ咽び泣いた。
無体な事をしようとしていたのであるが
陽道は織絵に心底、惚れていた。
惚れていた故の無体である。
成せる仲になりたいと思うが余り、
己の手でどうにも成せぬ仲にしてしもうたのである。
「は、は、ははは。これでわしのものじゃ。わしだけの物じゃ・・」
織絵の身体を開くと陽道はぐなりとした足を肩に担ぎ、
そこに開かれた織絵の物に己の物を付きこんでいった。
まだ、温かい身体は陽道を拒む事無く
陽道の物に鈍い破瓜の抵抗を与えると
生きているかのような鮮血を落としながら
陽道の実を呑み込んで行った。
見開かれたままの瞳が一点を見詰めている様に見える。
その美しい顔を見ながら
陽道は織絵の中に己の精をはたきこんだ。
狂おしい欲情が沈むと織絵の身体を抱き締めて
陽道はまた、泣き伏した。
どうにも動かぬ物になってしまった体が
冷え堅くなってくる頃に陽道は事の始末を考えあぐねていた。
織絵の父である鉄斎にどう言い逃れようか、
言い逃れる法はいくらでもある。
が、織絵を亡くしたのが己であるという事実が
陽道を打ちのめした。
「おとなしくしておらば、もっともっと、わしの物になれたのに」
その自信が織絵を無理にでも抱かば、
己が手に落ちると考えさせたのである。
「どうするか」
怨霊として蘇えらせた所で、恨まれる相手は自分である。
死霊として側においても同じだろう。
反魂で生き帰らせるにしても、
首の骨を折ったのは致命傷である。
背筋を伝うて魂を与うるに首を通らぬと
気狂いのような物が出来てしまう。
それもぞっとせぬことである。
やはり、諦めて鉄斎になんぞ言い分けを作るしかないか?
狂い暴れる織絵を抱くのも一興かもしれぬが、
それで又も、死なせる羽目にでもなったら?
色に狂うて戯けた事しか考えない男である。
戯けた者は又戯けた者を呼ぶとみえる。
「はああーー」
大きな声と伴に陽道の前に飛び降りてくる者があった。
「何者?」
曲げた足を伸ばし延び上がる女が
鬼であるのは直に陽道にも判った。
「ほほほ。えらい事をやってしもうたの。陽道」
「おのれ。なにもの。何故わしを知りおる」
「詮議は後で良いわ」
「・・・・」
「その女。生き返らせてやろうか」
「なに?できるのか?本当に?」
「お前も鉄斎に言えぬであろう。助けてやっても良い」
なんの魂胆があるのか
読み透かす事が出来ない所を見ると、
この女鬼も陽道同様何かの神の名の元に行を積んだようである。
が、仕方が無い。
「頼む」
「その代わり。その女。我にくるるな」
「あっ」
その身に取り付くと言うていいのだろうか。
同化というて良い。移し身の高位な術である。
「そういう事じゃ。厭か?」
「・・・・・」
「その、身体抱かせてやるぞよ」
陽道はごくりと唾を呑みこんだ。
中身はこの鬼であるが、
それでも織絵の美しい肢体のまま生き返ってくる。
鉄斎からも逃れられる。
「わかった」
「ふ・・・」
陽道の情交と豪奢で楽な暮らしがほしいだけの女鬼である。
「暴かれぬようにな」
「任しおれ」
ふっと鬼女が、織絵の姿に重なると
織絵一人が横たわっている。
うっすらと胸が蠢き出すと頬に紅が差し、生きた色に変り始めた。
覗き込む陽道をこれもまた、薄っすらと眼を開けて見ていたが、
つと手を差し延べると陽道を掴み引寄せた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます