毎日が山のこと

最近の山歩きの記録はもちろん、作ってみた山行プラン、過去の山歩きの記録も順次掲載中です。

甲武信岳 (1986年5月15日・16日)

2020-12-02 15:57:38 | 山日記

 日野春で目がさめた。時計を見ると4時半でもう外は明るくなっている。鳳凰の山々が中腹から雲をかぶって見えている。もう雨はあがっていた。反対の奥秩父の側を見ると、山並みのむこうに、なんと青空ものぞいているではないか。

 小淵沢では、日がさしだして青空も広がりだした。駅のホームで顔を洗い、水を補給した。小海線の列車は6時6分の発車で、キハ58系を真中に前後にサーモンピンクのキハ52系を連結してとまっていた。5時半になると町の放送塔のラウドスピーカーからチャイム音がながれ、乗務員があらわれて電源を投入した。

 小海線の沿線は新緑の盛りだ。まだ開ききっていない若葉が昨夜の雨のしずくを落としている。展望の開けるところではまだ黄色味を残したなかにカラマツのすこししずんだ緑が穂をならべて涙がでるほど美しい。

 信濃川上駅から7時7分の村営バスにのり梓山へと向かう。乗客は3人。540円だった。バスは梓川の橋の手前で折り返し川端下へとむかう。千曲川も梓川も昨夜の雨で茶褐色の水を押し出している。

 十文字峠へののぼりは地図より上手に移っており、なにやら軌道跡らしい。橋脚のあとが残っているが一部は渡渉が必要なところがあった。八丁の頭まではきつかったが、頭から峠まではカラマツの落葉をふみながらの快適な道だった。十文字小屋には10時25分に到着。小屋番の竹内氏は梓山に下っていて(竹内氏とは途中でであって今夜小屋に泊まるかと声をかけられた)、「2時頃帰ります」と黒板に書いてあった。

 十文字峠は樹林に囲まれた静かな峠だ。両神方面が開けている。小休止しながら案内板をみると、この先の大山が岩場になっていて展望がよいと書いてあったので、昼食はそこにしようと先へ進んだ。しかし、夜行の疲れがでたのか足は極端に重くなってきた。

 大山は案内どおりの好展望台だ。これからのぼる三宝山の大きさに圧倒される。南風にのって甲武信の方角から雲が吹き上がってきた。

 武信白岩へののぼりから残雪があらわれ、だんだんと多くなってきた。三宝ののぼりはうんざりするほど長いのだが、それにくわえて雪を踏み抜くことによる体力の消耗がこたえてきた。

 三宝山は山体の大きな、頂上ののっぺりした山だが、頂上からの展望は、一望にというわけにはいかないが、場所を移せば八ヶ岳、金峰、国師から甲武信、木賊と見渡せる。

 甲武信への最後ののぼりのきつかったこと。甲武信の小屋は外面丸太のいかにも秩父らしい小屋だった。風がやんですっかり曇ってしまったが、雨になるような天候ではなさそうだ。

 小屋の経営者は大滝村の山中徳治氏。他に泊り客はいないものと思っていたら、昨日から埼玉県の職員らしい人が4人泊まっていて、荒川の源流までの距離を実測していた。約400メートルだそうだ。明日天気がよければえらい人がヘリで来るらしく、ヘリポートの整地に小屋番もいっしょに出て行った。夕方の4時50分で外気温9度。わりあい暖かく感じる。夕食は県の人と一緒に焼肉をごちそうになった。

 朝5時起床。外気は氷点下2度。天気は昨日とかわらない。6時10分に小屋を出発した。

 木賊山は頂上をとおらない巻き道もあるがせっかくの機会なので山頂への道をめざした。雪は昨日よりしまっているようだが、ゆだんすると踏み抜いてしまう。たえず山梨側からガスが吹き上げてくる。これからの稜線は風当たりが強そうなので、チョッキを脱いでヤッケを着込んだ。

 木賊の山頂は樹林の中で、登山道方向だけ狭く展望できるようだが、ガスの中ではなにも見えない。破不山へののぼりにかかる鞍部に避難小屋があった。そのあたりから周囲は疎林とカヤトにかわってきた。のぼりの途中から木の丈が低くなってきて、晴れていれば展望のある快適なのぼりになるはずである。頂上近くには背丈が4~5メートルなのに幹の径が40~50センチもある古木帯があった。山頂は展望がないが、東破不までの稜線は高低もなく山梨側の展望がひらけている。風が吹き上げて気持ちよい。

 東破不からのくだりの途中からガスが切れだし、雁坂嶺の山体や峠が見え始め、鞍部についたときには雁坂嶺の全容と水晶や古礼の方まで望めるようになった。

雁坂嶺頂上到着は9時40分。山梨側から吹き上げる風はあいかわらず強い。しかし、雲の切れ間から日もさしだした。展望はよいはずだが、甲武信の方角はまだ雲の中だ。行く手には雁坂峠とそのはるか下に広瀬湖が見える。

雁坂峠。私にとって実になつかしいところだ。学生時代に来てから18年ぶりになる。カヤトの斜面に黒木の添繍。広瀬の谷はまだ芽吹き前のぼやっとした色をしている。峠には1組だけが休んでいた。吹き上げる風が実に気持ちよい。

10時18分、峠を出発。時間があるので直接広瀬にくだらずに雁峠をまわることにした。水晶ののぼりは途中から原生林となるが、急なところのない快適な道だ。古い倒木にコケがびっしりとついて寂寥の世界だ。頂上は木立のなかの広場になっていて休憩には落ち着ける場所だ。古礼への尾根道も急なところはなく、途中鞍部近くで笠取から唐松尾、白石山。右奥には飛龍ものぞめる。古礼は黒木に覆われているが、山頂はとおらずに北面をまいて雁峠にむかう。電光型に斜面をくだるとそこがカヤトの雁峠だ。

雁峠でも風が強く吹きぬけ、その風にのって流れる雲からポツリと雨粒が落ちてきた。広瀬のバスは2時すこしすぎ。くだりは2時間で充分なのであわてることはないのだが、天気も悪くなってきそうなので少しとばしてくだりはじめた。

くだりは急なところもなくすぐに樹林帯にはいり、沢沿いの道になった。家族連れなら遊ぶところにはことかかない。ただ予想以上に林道が奥までのびていて少々退屈してしまう。しかし、水の流れとカラマツの新緑になぐさめられながら、広瀬には1時40分に到着した。

バス停の前が酒屋だったので喜んで店をのぞいたが、いくら呼んでも応答がない。やむをえず自動販売機で缶コーヒー(しかもあたたかいものしか売っていない)を買い込んで菓子をほおばっていると、にわかに雨が強まって雷までなりはじめた。

ひさしぶりの広瀬は、ダムができたせいですっかり民宿部落になって建物もみなあたらしい。しかし、平日の午後とあって、人影はなく、たまに通り過ぎる車以外まったく静かだった。2時29分、雨上がりの陽光のなか、ふたたびすがたをあらわした破不や木賊の山々、そして水蒸気をあげる新緑の山々をあとにバスにのりこんだ。

後記:古い記録で写真がないため雁坂小屋のブログ写真を見出しに使いました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする