6月4日 午前中近所の歯科医院に行く。3回目だったがまだ終わらず、次回を予約して帰宅。
昼食を早めにすませて赤十字病院にむかう。まず補聴器メーカーのマキチエの担当者から補聴器の説明を受け、私の検査結果にあわせて調整した補聴器を渡されて試用をはじめた。2週間後に再度調整し、いろいろ経験してから購入するという段取りだ。
試用なので両方の耳でためしてみることにした。耳かけ式で耳にはいる細い管の先に超小型のスピーカーがついているタイプだ。鼓膜に近いところに音源があるので音の明瞭度が高いという。それとよくあるイヤホンのように耳あなに突っ込んで固定するのでなく、穴の中で浮いている感じで耳をふさがれた感じが少ない。
試用して最初に感じたのは自分の声がまるで違って聞こえることだ。これはメーカーの担当者も「みなさんそういいます」と答えていたが、息や舌のこすれ音がいやに耳につく。聴力が落ちている高音部を強調していあるので当然の結果というわけだ。これに慣れるまでが補聴器のやっかいなところらしい。
今回試用した機器は片耳17万円。両耳では割引があって30万円だそうだ。片耳15万から20万と想定していたのでまずは想定内というわけだ。それにしても高い。まして両耳ではたいへんだ。しかも小型の精密機器であり、目立たないようにつくってあるので落とすとやっかいなのだ。耳掛けの本体と耳にはいるスピーカーをつなぐ細いくだなど壊れやすそうに感じたので聞いてみると「引っ張ったくらいではこわれませんから」とちょっと安心させるようなことをいわれた。試用期間中に壊れたりしても損害賠償をもとめたりはしないようだ。
前にも書いたことだが、私の右耳はかなり前から聞こえが悪くなっていた。しかし、左の耳でカバーしているのでとりあえずは生活に不自由は感じなかった。それでも他人のことばが聞き分けにくくなっていたことは事実で、ときどき聞き返さなければわからないという事態が発生した。
そのうちに左の耳の高音の聞き取りが悪くなってきた。鳥の声、秋の虫の声が聞こえない。テレビの自然番組で、鳥のさえずりなどが紹介されるとまるで「口ぱく」状態なのだ。人の会話も聞き分けにくさが進んできたなと感じたのもこのころからだ。
本で読んだことだが、人間が、さまざまな音の中から言葉を聞き分けるというのも、左右の耳から入ってきた音の微妙な違いなどを利用して、脳の働きによって言葉を聞き分けているということらしい。だから片方の耳が悪くなると語音と背景の雑音との区別がつけにくくなるという。私もこういう状態がかなりながく続いたと思う。
左の耳の高音の感度が落ちたころから、妻からも「耳が悪くなったんじゃない」と指摘されるようになった。これも本で知ったことだが、語音の聞き分けには、子音の微妙な違いを聞き分けているそうだが、子音の聞き分けには高音部が関係している。舌先と口蓋の微妙な間隔から発声する擦過音や空気の流れに生まれる音は高音の成分が多いのだそうだ。その高音が聞き取れなくなると子音の違いがわかりにくくなるということだ。
こんな話をしだすと延々と続いてしまうのでこの辺にしておく。とりあえず両耳に補聴器をして部屋をでて、次の主治医の診察を待つ間、まず気がついたのは、少しはなれたところにある受付の女性の話し声が聞こえるということだった。それも左の方だなとわかるのだ。これはちょっとうれしかった。やはり補聴器は効果があると感じた瞬間だった。でもことはそう単純ではなかった。
診察室に入って医者と会話するとそれほど聞き取りがよくなったわけではなかった。こんどは子音が強調されすぎて母音にかぶってくる感じでやはり聞き分けにくいのだ。これも補聴器の機能としては当然の結果とわかっていても少しがっかりさせられる。これまでの生活で聞き分けにくい高音を聞き取ろうと脳が努力してきた結果、受け取る側の感度があがってしまっているということのようだ。補聴器によって高音部を強調して、それによって脳に届く信号は正常な人に近づいったのだが、受け取る側が正常な人より高音部を敏感にうけとってしまう。だからちゃらちゃらした音が語音につきまとってうるさいし聞き分けにくい。これに慣れるのには時間がかかる。いやいや何ヶ月もかかるということだ。