花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

紅葉と楓をたずねて│其の九・花の命を見つめる

2017-09-17 | アート・文化


所属する華道大和未生流、創流100周年記念・第二十九回奈良いけばな展が、前期と後期、各々三日間の会期で開催された。華展最終日、後期展示で担当させて頂いた作品の花材、楓と鶏頭を自宅に持って帰り、水きりをした後に丹波焼の丸壺に投入れた。楓、鶏頭ともに生け込んだ日からは三日を経過しているが、会場で眺めた際には左程の変化を感じなかった。ところが改めて床の間に生けてみれば、葉や茎は少しも塩垂れてはいないものの、生気を失いつつある気配がすでに表に現れていた。いわば花の望診である。

切り花の推移として、早々に枯れ萎む花の姿もあれば、生けた時の形は殆ど変わらないまま、照り映える色艶だけが失われてゆく花の姿もある。後者は切花延命剤を溶解した水を満たしている時である。この場合、色合いが褪せるよりも、先に艶の方が失われてゆく。花の命は切花延命剤を用いることにより延びるが、それも早いか遅いかの違いである。最後の時は確実に花に訪れる。華展が終了してはや五日、しばしこのままで置いておこうか、それとも美しい姿を脳裏に留めて有難うと別れを告げるべきかと、今年もまた名残の花を前にして思案の時が来た。

生け花を観賞して下さる方々の御眼には触れることのない花の姿がある。生け込みの際の、怒号こそ飛び交わないが殺気立つ会場に次々と搬入されてくる花。会期が始まった後に、控室の一隅に片寄せられて、大方は陽の目を見ることがない残花。そして宴が果てたのち、それぞれ別の空間で尽きて生涯を終える花である。