ひたすら焦がれ辿り着いたと思いきや樹上の姿は消え失せる。そしてまた遥かに木下闇から此処なのにと手招きして呼ぶ涼やかな声が聞こえる。国、城あるいは身代を傾け身命を削り、芸術の美神への供物にみずからを捧げた古人は多い。魅入られ誘われた果ての深淵に臨んで立ち竦み、怖気を震った挙句に立ち帰った諸人には現し心が残っていたのか。然にあらず。引き換えに全てを棄て朽ち果つるとも我が道程に一片の悔あらんや、と言えるものに、幸か不幸か巡り合わなかっただけにすぎない。
ひたすら焦がれ辿り着いたと思いきや樹上の姿は消え失せる。そしてまた遥かに木下闇から此処なのにと手招きして呼ぶ涼やかな声が聞こえる。国、城あるいは身代を傾け身命を削り、芸術の美神への供物にみずからを捧げた古人は多い。魅入られ誘われた果ての深淵に臨んで立ち竦み、怖気を震った挙句に立ち帰った諸人には現し心が残っていたのか。然にあらず。引き換えに全てを棄て朽ち果つるとも我が道程に一片の悔あらんや、と言えるものに、幸か不幸か巡り合わなかっただけにすぎない。