読書感想149 日本史の謎は「地形」で解ける 【文明・文化篇】
著者 竹村公太郎
出版年月 2014年2月
出版社 (株)PHP研究所
★感想★
本書は2013年10月に出版された「日本史の謎は『地形』で解ける」の姉妹本である。著者は文明を上部構造ではなく下部構造から解き明かそうとしている。著者が意味する下部構造は「安全」「食糧」「エネルギー」「交流」の4つの機能で構成され、それが立脚しているのが気象と地形であると説明する。そして本書では日本だけでなく、エジプトのピラミッドの謎にも挑戦している。
著者はエネルギーの観点から江戸遷都を見る。エネルギーは森林資源で、畿内の森林資源は枯渇していたのに対し、徳川家康が見た関東地方には豊富な森林資源が残っていた。それが天下人となっても家康が江戸を離れなかった理由である。エネルギー問題の解決は江戸の人口増、繁栄を支えることになっていく。幕末にはその森林資源が全国的に枯渇し、それが安藤広重の東海道53次などにも描かれるようになる。その幕末のエネルギー問題を解決したのは黒船を動かす石炭だったという。
また幕末の薩英戦争、下関戦争で薩摩や長州は負けていなかったと著者は言う。それは英国艦隊の砲弾の届かない背後の山地に薩摩藩が本陣を撤退させたからだ。鹿児島の城下町は焼失したが、死者は非戦闘員の5名のみであった。それに対して英国艦隊の死者は旗艦館長を始め11名におよび、弾薬や燃料の消耗により3日後に撤退せざるを得なかった。また、下関戦争でも4か国艦隊は長州の砲台を占拠し下関まで英国軍は進撃した。しかし結局下関を制圧することは出来ず撤退を余儀なくされた。それは鬱蒼とした山々と湿地帯の棚田の続く地形が欧米軍の得意とする騎馬軍団の戦法を使えなくしたからだと著者は言う。更に幕末に欧米の植民地化を日本が免れた理由は地形にあると続ける。70%の山と10%の湿地帯で、金やダイヤモンドといった鉱物資源もなく、プランテーションに適する広大な土地も無い上に、巨大地震(1854年安政伊賀地震、安政東海地震、1855年安政江戸地震)や台風などの自然災害の多い国が日本だ。気象や地形が日本を欧米列強から守ったと述べている。
エジプトのピラミッドの謎もおもしろい。ピラミッドはナイル側の西岸にだけ存在し、その数は100基に及ぶという。著者によればこの説をある国際会議で披露したときに、カイロ大学の教授が初めて合理的な説明を聞いたと発言し、著者は面目を施したという。
歴史を科学的に見る視点を提起してくれる、有意義な歴史書だ。