読書感想172 冬の伽藍
著者 小池真理子
生年 1952年
出身地 東京都
出版年 1999年
出版社 (株)講談社
感想
冬の軽井沢に降り立った悠子は、別荘地の一角にある診療所に向かった。薬剤師として働くために来た悠子を待つのは、医師の兵藤義彦。3年前に夫を交通事故で亡くした27歳の悠子と、孤独で人を寄せ付けない義彦の出会いだった。
あの、と悠子は、兵藤医師の背に向かって声をかけた。「・・・・今日から仕事をさせていただいてもかまわないですか」
振り返った青年医師の顔に、ガラス越しに射し込んでくる午後の柔らかな光があたって弾けた。
悠子はその、美しい彫像を無感動に眺めながら軽く微笑んでみせた。「早く仕事に慣れたいんです」
兵藤は気だるそうに瞬きをし、そうしてくれれば、こっちも助かりますよ、とそっけない口調で言った。
恋の始まりを予感させる場面だ。二人の恋の行く手に大きく影を落とす人物が義彦の義父、兵藤英二郎。東京の兵藤クリニック院長で稀代の女好き。そしてその情婦聡美。診療所のお手伝いの春江。そして義彦の亡妻、美冬、悠子の友達で診療所の前任の薬剤師、摂子。
軽井沢の冬の物淋しい雰囲気がこのラブストーリーにぴったり合っている。