読書感想211 それを愛とは呼ばず
著者 桜木紫乃
生年 1965年
出身地 北海道
出版年 2015年
出版社 (株)幻冬舎
☆☆感想☆☆
二人の人物が交互に独白し舞台を移動しながら物語が進んでいく。
一人目は伊澤亮介。伊澤亮介の新潟の生活からスタート。伊澤亮介は新潟で10歳年上の妻と暮らしていたが、ある日突然その妻が交通事故で意識不明の植物状態になってしまう。妻の会社の副社長を務めていた亮介は妻の前夫との間の息子、慎吾との確執から会社を去ることになり、職を求めて東京へ行く。
二人目の人物は東京に住む白川沙希。高校時代に美少女コンテストで準優勝した彼女は北海道から東京に出てきて芸能活動を始めたが、鳴かず飛ばずで10年がたった。そして所属芸能事務所から契約解除を言い渡された日に、アルバイト先の銀座のキャバレーで、支配人に会いにきていた伊澤亮介と出会う。
舞台は北海道の千歳の南側の南神居町に移る。伊澤亮介はそこのリゾートマンションの販売責任者になって赴任する。20年前のバブル期に建てられたそのリゾートマンションは住む人もいなく、荒れ放題になっている。そして東京の生活に区切りをつけた白川沙希も伊澤亮介を訪ねてやってくる。そこにリゾートマンションの7階の所有者が20年ぶりに現れる。
登場人物も多彩。伊澤亮介の周囲には財産を巡る物欲の人間模様が展開される。妻の章子の遠縁の弁護士、片倉肇や義理の息子の伊澤慎吾。白川沙希の周囲には心優しいが、不幸な境遇にある人達。キャバレーの衣装係の吉田典子。優しく白川沙希の相談に乗ってくれるが、認知症の母親を抱えて無理心中。元俳優の独居老人の佐野悦郎。人形を愛人にする小木田。そして沙希を必要としない離婚した両親。それぞれ新しい家庭を作ろうとしている。
沙希の中にある愛が不幸な人々に向かった時に何が起こったのか。この小説の後半はそれに費やされている。「それは愛とは呼ばず」というタイトルどおりの展開だ。