読書感想217 鹿の王
著者 上橋菜穂子
生年 1962年
出身地 東京都
出版年月 2014年9月
本書の受賞 日本医療小説大賞
本屋大賞
☆感想☆☆☆
架空の国と時代を舞台に繰り広げられるファンタジー小説。それでも現実の国と時代を重ね合わせて読んでしまう。トナカイや飛鹿に乗る遊牧民を強大な帝国が支配していく。そして遊牧民が服属していた国も強大な帝国に支配される。トナカイを放牧する人々が暮らす土地はシベリアからモンゴル高原にかけて、強大な帝国は中国、強大な国に服属した国は中央アジアの国。そのように読めてしまう。物語の中で架空の夢の動物が登場する。森の中も急峻な崖も素晴らしい速さで走ることのできる飛鹿。この飛鹿が原因不明の疫病から人々を救う鍵になる。そして主人公の相棒でもある。
事件は強大な帝国にあくまでも抵抗した山の民の戦士団〈独角〉の頭でただ一人の生き残りのヴァンが、奴隷となって岩塩鉱で囚われていた時に起こった。たくさんの山犬が岩塩鉱に中に入り込み、働いていた囚人を次々にかんでいった。かまれた囚人は高熱を発してばたばたと死んでいった。奇跡的にもヴァンはその疫病にかからず岩塩鉱から脱出する。脱出するときに、山犬にかまれながらも発病せず生き残っていた赤ん坊ユナを助け出す。生き残ったのはヴァンとその赤ん坊ユナだけだった。その疫病はかつて一つの国を滅ぼした。その亡国の子孫である医者ホッサルが、岩塩鉱で死なずに逃げた者がいると知り、ヴァンを探し始める。
ホッサルがヴァンに病気の免疫について語る場面である。
「身体の中に、すでに黒狼熱の病素がいたからこそ、君たちは、〈キンマの犬〉に噛まれても、重い黒狼熱にはならずに、たすかったんだと思う」
「身体が以前とは変わってしまったと言っておられましたけど、それを害だと感じておられるのは、あなたの心であって、身体ではないってことなのだと思います。身体にとっては、命に関わらなければ排除する必要がないから、あなたの身体は、その病素と共存しているのでしょう」
病素と共存という言葉に感銘をうけた。