読書感想240 維新と戦った男 大鳥圭介
作者 伊東潤
生年 1960年
出身地 神奈川県横浜市
出版年 2015年
出版社 (株)新潮社
「死んでたまるか」の題名で出版。
☆☆感想☆☆
戊辰戦争のなか、土方歳三とともに函館戦争まで戦い抜いた大鳥圭介の物語。函館戦争では榎本武揚や土方歳三の活躍は知られているが、大鳥圭介という人物はほとんど知られていない。この物語では土方歳三とすべてが対照的な人物としてスポットライトを当てている。大鳥圭介は播州赤穂の医者の家に生まれ、岡山藩の閑谷学校で学んだ。その後大阪の緒方洪庵の塾で蘭学を学び、医業ではなく兵学の専門家になった。鳥羽伏見の戦いのときには江戸でフランス式の軍隊を作る責任者になっていた。そしてその仏式軍隊の伝習隊2000名を率いて、新選組の土方歳三と合流して北上していくことになる。たたき上げの土方歳三は実戦の指揮官だったのに対して、大鳥圭介は教養豊かな理論的な指揮者である。両者はともに生まれたときからの幕臣ではなく、幕末に能力を見込まれて幕臣になった人達で、むざむざ幕府が薩長に白旗を挙げるのが我慢できなかったのだ。大鳥圭介は伝習隊を最強の軍隊と自負していたし、同じく最強の艦船を持っていると思っていた榎本武揚も志を一つにした。この小説の中で、蝦夷地で新しい国を作ることに、勝海舟も一役買っている。榎本武揚に資金を与え、品川沖からの出航を許している。さらに新政府軍の攻撃の前に勝海舟は黒田了介(清隆)との話はついているから降伏しろと蝦夷政府の大鳥圭介に使者を送ってきたりする。勝海舟の暗躍は事実かどうかわからないがありそうなことだ。
大鳥圭介のもとにフランス軍事教官のブリュネら7人がはせ参じたが、新政府軍の攻撃のまえにフランスの船に乗って退去するように言う場面がある。死ぬ覚悟ができているというブリュネに対して「よせやい。これは、お前らの戦いじゃない。どうして、そこまで付き合う。」
また、土方歳三が大鳥圭介に最後に語った言葉。
「おれは明日、死ぬつもりだ。それゆえ伝えたいことがあって来た。大鳥さん、あんたらは生きろ。榎本やあんたは、この国のために必要な人材だ。おれのような一介の剣客とは違う。あんたらは降伏しても、死罪にはならねえ。おれの首を獲れば、薩長の連中は、あんたらのことなど忘れちまうよ。つまり奴らは、おれが死ねば満足する」徳川反乱軍の象徴こそ土方歳三なのだと大鳥圭介が納得する場面だ。
新政府軍にたいして劣勢になっていた蝦夷政府のほうは独立国家がだめなら屯田兵として蝦夷地での生存を認めてほしいと懇願しているし、幕臣に蝦夷地を与えてほしいということも勝海舟が交渉の中で取り上げている。そう言う点から見ても、榎本武揚や大鳥圭介が勝海舟などの幕府の責任者と無関係に行動しているわけではないかもしれない。そう思わせるのでこの小説は面白い。そして土方歳三は新しい時代を見つめつつ、古い武士の生き方を貫いてここでも恰好がいい。