読書感想254 もっと言ってはいけない
著者 橘玲
生年 1959年
出版年 2019年1月20日
出版社 (株)新潮社
☆☆感想☆☆
前作「言ってはいけない 残酷すぎる真実」がベストセラーになり、2017年新書大賞を受賞。本作はその続編になる。前作同様、人間は環境要因より遺伝子の影響を強く受けるという主張を展開している。前作ではサイコパスと遺伝の関係をあつかっていたが、今回扱っているのは知能の格差である。その調査資料の一つはPIAAC(OECD主催の国際調査で、16歳から65歳までの成人を対象にした読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力を測定する「国際成人力調査」)である。そこで日本は平均1位、読解力と数的思考力は1位である。しかし著者がここから導き出しているのは日本人の三分の一の成人が初歩的な読解力がなく、三分の一が小学校3,4年生の数的思考力しかない。そしてパソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいないということである。OECDの平均では先進国の成人の半数が簡単な文章が読めないし、半分以上が小学校3,4年の数的思考力しかない。そしてパソコンを使った基本的な仕事ができるのは20人に1人(5.8%)しかいない。この現状に対して著者は、一般知能(IQ)の遺伝率の高さ(77%)からいって「ずっと昔からこんなものだった」というのだ。今まで問題にならなかったのはそれでもできる仕事がたくさんあったからだ。つまり無意識の知能「暗黙知」がある領域では意識(論理的思考能力)超えることが明らかになっている。直観であり、職人の知恵が生きる世界である。IT化の進む知識社会では「暗黙知」の生きる仕事の分野は減ってきているという。
次に教育の達成度における遺伝子と生育環境の影響を調べたノルウェーの調査から、貧富の差などの生育環境が改善されると、生育環境の影響力は下がり、遺伝子の影響が大きくなるという。ノルウェーでは第二次世界大戦後、教育達成度は遺伝子の影響が70%まで上がった。「リベラルな社会ほど遺伝率が上がる」。また行動遺伝学では「知能に及ぼす遺伝の影響は発達とともに増加するという。赤ちゃんの時は環境要因の影響が強く、成長するにつれて遺伝の影響が強まると言う。成人初期には遺伝率は70%に達する。これも従来の常識とは反対である。
次は人種による一般知能(知能テストで計測されるIQ)の格差である。それには「知能における人種的ちがい」(リチャード・リン)による各国別のIQ一覧を紹介している。データ数が全体的に少ないのが気にかかるが、その中でも日本は上から2番目に多い24データ出ている。中国は12データ、韓国は6データ。そういう資料に基づくと、東アジアは一般知能が高い。著者は日系移民が南米のエクアドルの極貧生活から大成功を収めた理由を一般知能の高さにあると指摘する。米国では第二次世界大戦で全財産を没収された日系米国人が70年たって数々の優遇策を受けた黒人の2倍の収入を得ている。白人の平均よりも25%も高くなっている。
日系人の成功がその頭の良さにあるというのは嬉しいかぎりだ。本書のなかには、まだまだ面白いテーマがある。
「ゲイ遺伝子の発見」「極端な男の知能、平均的な女の知能」「ユダヤ人の知能は高くない?」
示唆に富む話題が多く、従来の常識を破っていく論理展開が面白かった。