浜松国際コンクール
読書感想262 蜜蜂と遠雷
著者 恩田陸
生年 1964年
出身地 宮城県
出版年 2016年
出版社 (株)幻冬舎
直木三十五賞、本屋大賞 受賞
☆☆感想☆☆☆
ピアノのコンクールをテーマにした作品である。コンクールにエントリーする候補者たち、彼らを取り巻く人々。その中には彼らの恩師や同じ師に師事した先輩ピアニストの審査員もいる。そして候補者たちの背負っている背景から繰り広げられるピアノ音楽の多様さが、聴衆も読者も魅了する。コンクールの舞台は実際の浜松国際コンクールを模した芳ケ江国際ピアノコンクール。芳ケ江国際ピアノコンクールはピアニストの登竜門として世界中から才能ある若者を呼び寄せている。コンクールは最初に世界各地でエントリーしたピアニストの生演奏での選抜から始まる。パリのエントリー会場に現れたのは、16歳の風間塵。今は亡き巨匠ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状を持った彼は音楽学校に在籍していたわけでもなく、コンクールに出場した経歴もない。自宅にピアノすらないという。彼の生み出す音はすさまじい。喝采と反発の中で風間塵は出場権を獲得、芳ケ江へやってくる。芳ケ江国際コンクールは第1次予選、第2次予選、第3次予選、本選と続く。風間塵と競うのは、栄伝亜夜20歳。天才少女としてデビューしながら母の死後ステージでピアノが弾けなくなっていた。楽器店勤務のサラリーマン高島明石28歳。かつての天才少年は思い出としてコンクールに参加。そしてニューヨークからやってきた優勝候補のマサル19歳。
様々なピアノ曲が演奏されるなか、弾き手によって生み出される世界の違いを、著者が音ではなく筆で描写するのが素晴らしい。音楽に対する著者の愛情が伝わってくる。
風間塵のバルトーク3番について著者は次のように描写する。
―なんと言えばいいのだろう。すごくよく通る、美しい声が森の中から響いてきたかのような。-
もう一度ピアノの名曲を聴きなおしたくなってくる。