『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想318 戻ってきた娘

2022-12-09 19:02:41 | 小説(海外)

戻ってきた娘の画像

著者     :  ドナテッラ・ディ・ピエトラントニオ

生年     :  1962年

出身地    :  イタリア 中部アブルッツォ州

出版年    :  2017年

邦訳出版年  :  2021年

邦訳出版社  :  (株)小学館

受賞     :  カンピエッロ賞 アラッシオ賞 ナポリ賞

訳者     :  関口英子

★☆☆感想☆☆

 13歳になった「わたし」は海辺の町から山村の実の両親のもとに戻されることになった。裕福な家の一人娘として育てられていた「わたし」は見ず知らずの実家に戻された。想像を絶する貧しい実家には、無愛想な母親と寡黙ですぐ手が出る父親に、兄3人と10歳になる妹、栄養不良で発育の遅れている赤ん坊の弟がいた。「わたし」は戻された理由もわからず、新しい環境に慣れて行かなければならなかった。おねしょをする妹と同じベッドで兄たちとも同室。妹のアドリアーナと長兄のヴィンチェンツォが「わたし」に関心をもってくれる。

 アドリアーナと「わたし」の初めての会話。

ーそれまで弟を見ていた女の子の翳のある眼差しが、伏せたままわたしにむけられた。真新しい靴の金色

 の留め金を熱心に見定めてから、おろしたてのワンピースにまだぴしっとついている青いプリーツに沿

 って視線をあげた。彼女の背後で大きな蠅が飛びまわり、ときおり壁にぶつかりながら、外に出られる

 隙間を探していた。

 「その服も、あの人に買ってもらったん?」女の子が小声で尋ねた。

 「昨日、この家に戻るために買っくれたの」

 「あの人はあんたのなに?」好奇心をあらわにしている。

 「遠い親戚の叔父さん。昨日まで、あの人と、あの人の奥さんとくらしてたの」

 「じゃあ、誰があんたの母さん?」ためらいがちに訊いた。

 「二人いて、一人はあなたのお母さん」

 「ときどき、姉ちゃんがいるって言ってたけど、あいつの言うことはあんまり信用できん」

 そう言うと、いきなりわたしの服の袖を物欲しげに二本の指でつまんだ。

 「このふく、もう少ししたらあんたには小さくなる。来年はうちがお下がりでもらうから、汚さんよう 

 に気ぃつけて」ー

 ヴィンチェンツォとの初対面。

ー「おまえ、ここでねてたのか?」大人になりかけた男の声で問いかけられた。

 わたしはどぎまぎしながら、そうだと答えた。相手はこちらを露骨に眺めまわしている。

 「15歳?」

 「ううん、こんど14になるところ」

 「でも、15か、もっと上に見える。早熟なんだな」兄はそう結論づけた。

 「そっちは?」わたしも社交辞令として訊き返した。

 「じき18。俺がいちばん上だ。もう働いているけど、今日は休みさ」

 「どうして?」

 「雇い主が来なくていいって。必要なときだけ声がかかるんだ」

 「なんの仕事をしてるの?」

 「現場作業員」

 「学校は?」

 「学校なんてくだらない。中2のときに中退したよ。どうせ落第だったしな」ー

 実の両親の娘に対して負い目を持つ気持ちも良く描かれている。アドリアーナとヴィンチェンツォがまっすぐで大胆不敵なところがよく似ている。一線を越えてしまう危うさがヴィンチェンツォの魅力になっている。

 姉妹の続編「ボルゴ・スッド」が2020年に刊行されたそうだ。日本での翻訳出版が待ちどおしい。


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