とつぜん夜中におなかを痛くする
私はそんな子供だった
そのたびに
父の大きな手が
私のおなかを温めてくれた
ときには私の頬をぶった
太い血管がうきでた手
ぶ厚いふとんよりもしっかりと
私の痛みを押さえてくれた
今でも私は
夜中におなかを痛くすることがある
そんなときは
おなかに自分の手を当てたまま
しばらく痛みに耐えている
私の体には
ときどき毒がたまるのだろう
もう温かい父の手はない
私の手は
きょう娘の頬をぶった手だ
マーマ ごめんなさい
マーマ ごめんなさい
私の手はまだ濡れたままで
痛むおなかの上に
自分の手をのせていると
あたたまった毒が
じわじわと体じゅうに溶けて
私はまた
おさない夢の始めにおちてゆく
(2004)