風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ソーダ水あかき唇あせぬまに

2016年02月11日 | 「詩集2016」

マリさんのソーダ水を
久しぶりに飲んだ
細かい気泡がはじける
みどり色のグラスの向うに
マリさんの憧れ
大正デモクラシーのロマンがみえる

声が少女のようにピアノだったな
白いナース服の背筋が伸びた
オールドミスの天使
ソーダ水を懐かしんだ
横浜の不二家が日本最初だったそうね
白いおしゃれな喫茶店
カウンターもテーブルも白い大理石
コーヒーカップも白
ボーイさんも白のコート
レモン オレンジ ストロベリー
バニラ ラズベリー ルートビア
噴き出すソーダ水
ピカピカの赤銅レバーは
メイド・イン・シカゴだったって

鋭い針をもつ女王蜂
さっさと青い尻を出しななんて
マリさんのソーダ水はチクリと痛かった
平塚らいてうも知らないでしょ
自分の光で輝くこともできない
女は夜の月だって言ったのよ
ずっと昔
女は太陽だったってね
新しい時代に新しい女
与謝野晶子に松井須磨子
ソーダファウンテンのソーダ水
そうだソーダ ソーダ水だよ
みんな元気になるね
スカッとするね
コカコーラだってあったそうだよ

ソーダファウンテンという
店の名を知ったのは
マリさんが横浜に落ちついたあとだった
ブルーストッキング(青鞜)のヨコハマ
バスガール エアガール マリンガール
憧れだったんかな
あの白いナースキャップも

あ~あ
あれもバブルだったんかねえ
ソーダ水の泡つぶみたいなもんかね
今日はふたたび来ぬものを……なんてね
泡が消えたらただの甘い水なのさ
青いソーダ水
ストローのさきで
ぼくの舌が麻痺している
喪失の泡がかけのぼってゆく
白いマリさんが
爽やかに真空になる





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