風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

どこから悪夢はやってくるのか

2016年03月04日 | 「詩集2016」

夜中に、腹が痛くて目が覚めた。
この痛みは夢の中からずっと続いていたようだ。奇妙な夢ばかり見ていた。体がよじれるような夢の中から、いきなり暗闇に放り出されたみたいだった。

もともと胃腸はあまり丈夫ではなく、しくしく痛みがしみるような腹痛は、甘いものや辛いものを食べすぎたあとなどによく起きることなので、時間がたてばおさまると思っている。
しかし今回は、いつもの腹痛とちがって就寝中に起きた。みぞおちを突き上げてくるような鈍痛が、襲ってきたり治まったりする。このような痛みも珍しいものだったので、すこし不安になった。
痛みがしばらく治まっていると、いつのまにか眠りに入っている。そしてまた、夢の中でしばらく悪夢と格闘しているが、ふたたび鈍器で夢の壁を破かれて、夢の外へ放り出される。

そのうち治まるだろうと思いながら、悪夢は朝まで続いた。
軽い頭痛もするので、とりあえずルル3錠の風邪薬と甘くて苦い漢方胃腸薬を服用した。流行りの風邪と昨夜食べた鯖の食あたりを疑ってみたのだった。
痛みは治まったが睡眠不足で頭が朦朧とするので、一日中寝床に入っていた。午後になると、日頃の疲れまで洗い流されたみたいにすっきりした。
こんなに昼も夜も寝ていたのは久しぶりだ。

すこし頭が澄んできたら、子どもの頃、夜中に腹痛を起こした時のことを思い出した。痛みも同じだったような気がする。
父が腹を揉んだり擦ったりしてくれたが治まらず、真夜中に自転車の荷台に乗せられて町医者まで連れていかれた。眠りから起こされた医者も、大いに迷惑したことだろう。
腹部に冷たい聴診器を当てられたころには、ぼくの腹痛はすでに治まっていたのだった。
眠りを裂いて突然おそってきた、あの腹痛はなんだったのだろうか。ぼくが父親だったら、夜中に自転車を走らせたりしただろうか。たぶん、朝まで我慢しろと言ったにちがいない。

*

  ヘロイン

夜中に突然おなかを痛くする
私はそんな子供だった
そのたびに
父の大きな手が
私のおなかを温めてくれる

ときには私の頬をぶった
太い血管がうきでた手
ぶ厚いふとんよりもしっかりと
私の痛みを押さえてくれた

私の体には
ときどき毒がたまるのだろう

今でも私は
夜中におなかを痛くすることがある
そんなときは
おなかに自分の手を当てたまま
しばらく痛みに耐えている

もう温かい父の手はない
私の手は
きょう娘の頬をぶった手だ





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1 コメント

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ブログを拝見しました (つねさん)
2016-03-14 07:04:17
こんにちは。ブログを拝見させて頂きました。これからもブログの運営頑張って下さい。

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