風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

秋の魚あはれ

2015年08月22日 | 「詩集2015」

木の葉が
風に散っていく
表になり裏になり
葉脈の流れをとめて
秋の波紋がひろがっていく

セコと呼ばれる河童が
山へと帰っていく季節だった
雨が降ったあとの小さな水たまりが
河童の目ん玉でいっぱいだった
その道を
山から川へと帰っていく人もいた
その人は
一枚の葉っぱが
魚に変身するのを見たという
美しい魚だった

エノキの葉っぱが魚になったので
エノハと名付けられた

水が激しく落ちこむ瀬に
大きく竿を振って瀬虫を放りこむ
手元にぐぐっとくる動きを引き上げる
しびれたように痙攣しながら
あはれ銀色の魚体が
宙を泳いだ

一瞬の秋が落ちる
そのとき
釣り人の手に残されたのは
色あざやかな
一枚の葉っぱだった










この記事についてブログを書く
« 夏の魚となって | トップ | 朝顔が咲いている »
最新の画像もっと見る

「詩集2015」」カテゴリの最新記事