風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

UFO

2010年05月14日 | 詩集「一瞬の夏」
Glass


からまつの暗い林を
どこまでも歩いたような気がする
急に空が明るくなって
その先に白い家があった
それは夏の終わりだったと思う
空へ伸ばしたきみの腕が
ブラウスの袖から露わになって
一瞬だけ宇宙人の細い腕がみえた


きみの空には
しばしばUFOが飛来するという
ぼくにはそれは
赤いナナホシテントウムシだったり
オオキンカメムシだったりしたのだが
きみは得意になって
小さなUFOをつかまえては
ふしぎな言葉を交わしていた


空に円をえがくきみの
快活な指先を追いながら
ぼくはきみから宇宙語を教わった
あなたが好きだとか
あなたのことは忘れないとか
キスしようとか
永遠だねとか
どれも夢のような言葉ばかりだったが
テントウムシは背中に星を背負っているから
いつでも宇宙には手がとどく
きみはそう言い残していなくなった


それは夏の終わりで
ぼくは永遠という宇宙語だけが思い出せず
ナナホシテントウムシは
ぼくの掌から飛び立とうとして
そのまま地球の草むらに
落下したのだった


(2008)


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