もう去年のことを見て見ぬふりはしない、過去のことをただ埋めておくことは出来ないー‥。
先ほど雪はそう口にした。そして雪はゆっくりと、彼の方へと視線を流す。


淳はその場で身動ぎ一つしなかった。何も喋らない。
雪は構わず、彼に向かって言葉を紡ぐ。
「だからずっと聞き続けたんです。先輩は本当に、」

「”横山があんな奴だって分からなかった”んですか?」

それはもはや質問ではなかった。真実を知っている彼女の、誘導尋問だ。
淳はその中に隠された真意を嗅ぎ取り、じっと雪の瞳を見つめる。

雪もまた、じっと淳のその瞳を見ていた。
目を逸らさずに、ただ真っ直ぐに。

彼の瞳の中に灯っていた光が、徐々にその輝きを失って行く。
そしてその代わりに暗く不安定なものが、その中にゆらゆらと立ち上るのが見えた。

淳の瞳が完全に光を失っても、尚もそれは雪の瞳を見つめ続けていた。
彼女が視線を逸らすのを、まるで恐れているかのような目つきで。

空間は暗く歪み、その中で雪と淳は真っ直ぐに相対していた。
雪から以前向けられたあの怯えたような視線が、淳の脳裏を掠めるー‥。


その沈黙を破ったのは、淳の突然の行動だった。
彼は勢い良く雪の手首を掴むと、瞬きもせず彼女に詰め寄る。
「どんな答えを聞きたい?」

そして淳はあの高圧的な眼差しをしながら、再度彼女にこう告げた。
「この前も言ったじゃないか。
過ぎたことを一つ一つ問い質して、何をどうするつもりなんだ」

その淳の眼差しは、幼い頃から彼が向けられて来た父親からのそれに似ていた。
それ以上立ち入ることを許さない、それ以上の反抗を許さない、その言葉なき命令にー‥。

けれど雪は怯まなかった。
真っ直ぐに淳の目を見ながら、声を荒げて言い返す。
「過ぎたことに目を逸し続けたせいで、私は今回また同じ目に合いました!」

雪は続けた。
今までずっと耳にして来た、問題の原点をはぐらかすその言葉を。
「”俺には分からなかった” ”そこまでするとは思わなかった” ”そこまでは意図してなかった”」

今まで彼が口にして来たそれらを、次々と雪は並べた。
そして彼女は淳に向かって、ハッキリとこう言ったのだ。
「私が先輩に望んでる答えは、そういう類のものじゃありません」

するとそれまで口を噤んでいた淳が、ふと言葉を発する。
「それじゃ何だよ‥?」

そして淳は俯きながら声を上げた。
まるで追い詰められた時の、子供のように。
「それじゃ何て言えばいいんだよっ?!」

突然のその大声に、雪はビクッと身を竦めた。
初めて目にする彼の一面を前にして、雪は目を見開く‥。


彼の声の余韻が、しんとした部屋を微かに震わせている。
淳は雪の手首を握ったまま、浅い呼吸を繰り返している。

俯いた淳のその瞳は、何も映っていないかのように真っ暗だった。
ゆらゆらと揺れる視線の中に、隠された彼の一面がチラリと覗く。

体温を感じられない程冷たい手は、ガタガタと震えていた。
雪はその手を見つめながら、彼の中に居るその存在を確かに感じる。

しかし程なくして、手は体温が徐々に戻り、その震えも治まった。
淳は気持ちを落ち着けるように、一つ深呼吸をする。

そして淳は握っていた手を離した。彼女から顔を逸らしながら。
「雪ちゃん、こんなの違うよ。
俺は横山なんかのせいで、雪ちゃんとこんな風になりたくない‥」

彼はまた目を背けようとしていた。
ようやく僅かに開いた心の扉が、再び閉まろうとしているのだ。

雪は心のままに、淳に向かって手を伸ばした。
力加減なんてする余裕は無かった。そのまま両手で淳の胸ぐらを掴み、ぐっと自分の方に引き寄せる。
「”お前のことが嫌いで、わざと横山にそう話した”」

雪は射るような目つきで、淳の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞳は決して逸れない。燃えるように紅い決意の炎が見える。

雪は向き合い続けた。
生臭くて、残酷で、目を背けたくなるようなその真実と。
「"ただ忙しくて連絡出来なかったんじゃない" ”亮のせいで腹が立って連絡しなかった”」

「これが、私の望む答えです」

淳は逃げることが出来なかった。
剥き出しの彼を知りたい、その強い決意が込められた彼女の瞳が、全力で淳を引き留めるー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<直面(1)ー知りたいー>でした。
鬼気迫るような雪ちゃんが、全力で淳を引き出そうとしている‥!
淳は動揺していますね。そりゃそうです。今までこんな風に人とぶつかったこと無かったんですもの‥。
物語は急展開!先が楽しみですね~~^^
というところで水を差すようですが‥。
本日9月23日は、平井和美女史の誕生日です~

今頃留学先で楽しくやってるんでしょうか‥。
とにかくおめでとうございます!
次回は<直面(2)ー伝えたいー>です。
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先ほど雪はそう口にした。そして雪はゆっくりと、彼の方へと視線を流す。


淳はその場で身動ぎ一つしなかった。何も喋らない。
雪は構わず、彼に向かって言葉を紡ぐ。
「だからずっと聞き続けたんです。先輩は本当に、」

「”横山があんな奴だって分からなかった”んですか?」

それはもはや質問ではなかった。真実を知っている彼女の、誘導尋問だ。
淳はその中に隠された真意を嗅ぎ取り、じっと雪の瞳を見つめる。

雪もまた、じっと淳のその瞳を見ていた。
目を逸らさずに、ただ真っ直ぐに。

彼の瞳の中に灯っていた光が、徐々にその輝きを失って行く。
そしてその代わりに暗く不安定なものが、その中にゆらゆらと立ち上るのが見えた。

淳の瞳が完全に光を失っても、尚もそれは雪の瞳を見つめ続けていた。
彼女が視線を逸らすのを、まるで恐れているかのような目つきで。

空間は暗く歪み、その中で雪と淳は真っ直ぐに相対していた。
雪から以前向けられたあの怯えたような視線が、淳の脳裏を掠めるー‥。


その沈黙を破ったのは、淳の突然の行動だった。
彼は勢い良く雪の手首を掴むと、瞬きもせず彼女に詰め寄る。
「どんな答えを聞きたい?」

そして淳はあの高圧的な眼差しをしながら、再度彼女にこう告げた。
「この前も言ったじゃないか。
過ぎたことを一つ一つ問い質して、何をどうするつもりなんだ」

その淳の眼差しは、幼い頃から彼が向けられて来た父親からのそれに似ていた。
それ以上立ち入ることを許さない、それ以上の反抗を許さない、その言葉なき命令にー‥。

けれど雪は怯まなかった。
真っ直ぐに淳の目を見ながら、声を荒げて言い返す。
「過ぎたことに目を逸し続けたせいで、私は今回また同じ目に合いました!」

雪は続けた。
今までずっと耳にして来た、問題の原点をはぐらかすその言葉を。
「”俺には分からなかった” ”そこまでするとは思わなかった” ”そこまでは意図してなかった”」

今まで彼が口にして来たそれらを、次々と雪は並べた。
そして彼女は淳に向かって、ハッキリとこう言ったのだ。
「私が先輩に望んでる答えは、そういう類のものじゃありません」

するとそれまで口を噤んでいた淳が、ふと言葉を発する。
「それじゃ何だよ‥?」

そして淳は俯きながら声を上げた。
まるで追い詰められた時の、子供のように。
「それじゃ何て言えばいいんだよっ?!」

突然のその大声に、雪はビクッと身を竦めた。
初めて目にする彼の一面を前にして、雪は目を見開く‥。


彼の声の余韻が、しんとした部屋を微かに震わせている。
淳は雪の手首を握ったまま、浅い呼吸を繰り返している。

俯いた淳のその瞳は、何も映っていないかのように真っ暗だった。
ゆらゆらと揺れる視線の中に、隠された彼の一面がチラリと覗く。

体温を感じられない程冷たい手は、ガタガタと震えていた。
雪はその手を見つめながら、彼の中に居るその存在を確かに感じる。


しかし程なくして、手は体温が徐々に戻り、その震えも治まった。
淳は気持ちを落ち着けるように、一つ深呼吸をする。


そして淳は握っていた手を離した。彼女から顔を逸らしながら。
「雪ちゃん、こんなの違うよ。
俺は横山なんかのせいで、雪ちゃんとこんな風になりたくない‥」

彼はまた目を背けようとしていた。
ようやく僅かに開いた心の扉が、再び閉まろうとしているのだ。

雪は心のままに、淳に向かって手を伸ばした。
力加減なんてする余裕は無かった。そのまま両手で淳の胸ぐらを掴み、ぐっと自分の方に引き寄せる。
「”お前のことが嫌いで、わざと横山にそう話した”」

雪は射るような目つきで、淳の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞳は決して逸れない。燃えるように紅い決意の炎が見える。

雪は向き合い続けた。
生臭くて、残酷で、目を背けたくなるようなその真実と。
「"ただ忙しくて連絡出来なかったんじゃない" ”亮のせいで腹が立って連絡しなかった”」

「これが、私の望む答えです」

淳は逃げることが出来なかった。
剥き出しの彼を知りたい、その強い決意が込められた彼女の瞳が、全力で淳を引き留めるー‥。
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<直面(1)ー知りたいー>でした。
鬼気迫るような雪ちゃんが、全力で淳を引き出そうとしている‥!
淳は動揺していますね。そりゃそうです。今までこんな風に人とぶつかったこと無かったんですもの‥。
物語は急展開!先が楽しみですね~~^^
というところで水を差すようですが‥。
本日9月23日は、平井和美女史の誕生日です~


今頃留学先で楽しくやってるんでしょうか‥。
とにかくおめでとうございます!
次回は<直面(2)ー伝えたいー>です。
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