河村亮が青田邸を後にしている頃、A大学にて、赤山雪は授業を受けていた。
伊吹聡美(雪の髪で遊び中)と福井太一(目を開けて眠り中)も一緒である。
入院までしたんだから、厄落とし出来たハズでしょ‥
雪は授業を聞く傍ら、そんなことを考えていた。思わず不敵の笑みが漏れる。
私に残るは平和のみ‥。んふふふふ‥
すると不意に、ポケットに入れていた携帯が震えた。メールが一通届いている。
「ん?」
鼻ちょうちんをくっつけた太一の隣で、思わず目を丸くする雪。
そして授業終了後、雪は聡美と太一と共に、待ち合わせ場所へと向かったのだった。
「よっ!」
そこに立っていたのは、高校時代からの友人、萌菜であった。
「おお!来たんだ?!」「ん」
萌菜は雪を見て、心配そうに声を掛ける。
「なに、あんた身体大丈夫なの?昨日は病院にいたっていうのに、
今日こんな風に私と会ったりして大丈夫なの?」「うん、もう大丈夫」
そう口では答える雪だが、声はガラガラ‥。
「ダイジョウブ‥」
「そっか。死ぬんじゃないよ」
昔から苦労の多い雪を労る萌菜。二人の間にある空気は随分と優しい。
するとそんな会話を交わしている二人のことを、傍に居た聡美と太一が好奇心の溢れる瞳で見つめていた。
ダレ?ダレ? 前メールしてたトモダチ?
以前雪から話は聞いていたものの、聡美と太一が実際に萌菜と会うのは初めてだ。
お昼時ということもあって、四人はそのままランチへと向かった。
料理がテーブルに並べられると、萌菜はニッコリと笑ってこう言った。
「高いもんじゃないし、私がご馳走するよ。なんてったって雪の友達だもんね」
萌菜は気前良くそう提案すると、フレンドリーな調子で二人に声を掛けた。雪はおかゆを前に白目を剥いている。
「この子から話沢山聞いてるよ~。タメ口でいいよね?」「うん!」
「ハイ。あ、雪さんおかゆ残すんなら俺に下サイ」 「私だけおかゆ‥。まずいおかゆ‥」
皆が料理に手をつけ始めてから、雪は聡美と太一に向かって萌菜の紹介を始めた。
「えっと‥前に話したよね?休学してアパレルで働いてる友達」
「ネットショップで服売ってるんだ」
「HPのアドレス教えるからさ、時々覗いてみてよ」
「えっ!その友達ってあなただったの!」
ネットショップの話に、聡美がテンション高く食いついた。萌菜を尊敬の眼差しで見つめている。
「すっごーい!あたしも卒業したらアパレル関係の仕事したいって考えてたんだー!」
「へぇ、そうなんだ」
しばしテーブルは萌菜の仕事の話題一色だ。
「大変そうだよ~」「体一つでやってるからね‥知り合い達と起業資金集めて‥etc」
そしてひと通りの話が済んだ後、萌菜はニヤッとしながら口を開いた。
「てか‥」
その視線の先には、ご飯を頬張りながら目を丸くしている太一が居る。
萌菜は立ち上がり、太一のことを色々な角度で観察し始めた。
そしてウンウンと頷きながらこう口にする。
「この子‥さっきから気になってたんだけど‥」
「身長は大丈夫ね。顔もなかなか‥」
萌菜の言動に首を傾げる雪と聡美、そして太一。
萌菜はそんな太一に向かってニコリと笑うと、一つ提案をした。
「ねぇ、おねーさんの店でアルバイトしてみない?雪の友達だから優遇するわ」
「え?」と思わず聞き返す聡美。
しかし萌菜がそれに答える前に、太一はその提案を了承していた。
「やりマス!」
萌菜は微笑み、
「オッケ。契約♪」と上機嫌だ。携帯を取り出し、雪に写真を撮るよう頼んだ。
「この子‥クールじゃね?
」
双方の同意を経て、萌菜の店での太一のアルバイトが決まった。萌菜は太一の肩に触れ、彼を激励する。
「よろしくね」 「ハイ」 「近いうち連絡するわ」
そんな彼らのことを、聡美は目を丸くして見つめていた。
そして雪はそんな聡美のことを見つめながら、思わず言葉に詰まる‥。
食堂を出てから、四人は秋空の下を大学に向かって歩いた。
雪は太一と並んでぼんやりと歩き、聡美と萌菜がその後ろでネットショップのことについて話をしている。
「ごめんなさい、ネットショップってあんま知らなくて‥」「ようやく安定してきたところでさ」
「メンズ服も‥取り扱ってるんですね‥」「一緒にやってる子がそういうの好きでね。今度新しいページを開設しようとしてるのよ」
すると萌菜は嬉しそうな顔をして、太一の背中に軽く触れた。
「しっかしタイミングいいわ~。
こんな良いモデルが現れるなんてね!」
そう言われた太一はピースサイン片手に得意顔だ。
聡美は太一を睨みながら、ぼそっと彼に小言を零す。
「一体幾つバイト掛け持ちしてんのよ‥」
しかし太一にその呟きが届くことはなく、四人は岐路でそれぞれ別れを告げ合った。
「それじゃそろそろ萌菜送ってくから」 「うん。じゃあね」
「連絡くださいネ」 「オッケー。後でやっぱ辞めるとかナシだかんね?」
萌菜は雪と肩を組み、聡美と太一に手を振って歩いて行った。
さすが雪の高校時代からの友人だけあって、その姿がしっくり馴染んでいる。
二人の背中が小さくなるのを、聡美は仏頂面をして見つめていた。
太一は聡美の表情を見て、ふと少し昔を思い出す。
以前雪の幼馴染の小西恵と一緒に居る雪を見て、
聡美はジェラシーを感じていた‥。
太一は軽く溜息を吐きながらこう言った。
「なんスか。また雪さん取られると思ってジェラってんスか?」
「違うし
」
聡美の苛立ちの原因は太一にあるというのに、太一はまるで見当違いなことを言ってくる。
いつも一緒にいると思っていた太一が、気がつけば遠かった。
しかし聡美はそれを言葉にすることが出来ずに、ただ仏頂面で黙り続けていた。
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<萌菜の誘い>でした。
これは新しい展開ですね~。萌菜が雪と先輩の間に入って色々進めてくのかな、と思ったこともありましたが、
まさか聡美と太一の間に入ることになろうとは‥。
これで聡美の気持ちが良い方に思い切れると良いんですがね~。
次回は<歪む軌道>です。
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