![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/0f/ad8a9c1ae64d5dbdbd2b10ba91f1c923.jpg)
車は夜の道を走って行く。
雪は後部座席のシートに凭れながら、今日一日の疲れがどっと襲ってくるのを感じていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/6b/f449b4a110dcb8a29a5f0719a439badb.jpg)
明日も試験なのに、今日は全くと言って良い程勉強出来ていない。
けれど身体は鉛のように重く、テキストを開く気にもなれなかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/d0/66160081547d72e14fe656b8721f3b4f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/28/6762e0766f548a38ca412e8564122c29.jpg)
車窓に目を遣ると、景色が飛ぶように流れている。
まるで時の流れのようにその速度は早い。
雪がぼんやりとそれを見ていると、不意に運転中の父が口を開いた。
「今日は試験だったんだろう?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/d8/c18472cb5283ddd55cba1c78d0d73fb7.jpg)
「あ、うん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/8b/4371547647e4e9625fe3af9de71987a3.jpg)
雪がビクッとしながらそう返事をすると、助手席に座る母が振り返った。
「そうよ、試験期間じゃない!どうなの?今日こんな騒動で、試験は大丈夫なの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/5b/e98612d2938d686966e5d7da601c49ea.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/88/38f4466e5ce5b23ccae88787ad1f0668.jpg)
母からそう問われ、思わず雪は口を噤み俯いた。シートに置かれた自身の手を見ながら。
雪は一つ息を吐くと、重たい口を開く。
「私さ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/97/887e74421a433c6c1b3a29876c593eb4.jpg)
「今日全然勉強出来なかったし‥今回の試験、あんまり出来が良くないと思うんだ。
授業も一つ切っちゃったし‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/1d/b4b2db250bf18ee070d5212816c774ad.jpg)
「どう考えても奨学金は受けられないっぽい‥ごめんなさい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/17/57fe045ff9adb581474351e69c7bc5a7.jpg)
俯いたままそう告白した雪に向かって、母はケロリとした顔で言った。
「え?いいのよ。そんなこと気にしなさんな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/e9/27c792f89c220660d8e1a231005bd80d.jpg)
そして父も。
「弟の危機に駆けつけたんだ。試験なんてどうでもいい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/6b/0b3cf7b519f925e21d8b1c7961eb0572.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/50/c639e17d2336fdf989e40b205441b4ad.jpg)
予想外のその返答に、雪は思わず目を丸くした。
両親は前を向いたまま、更に言葉を続ける。
「俺もせっかく入った大企業を辞めて事業を始めた時は、上手く行くと思ってたんだ。
最近の若者事情は更に変わって来てるんだろ?」
「そうよ。結婚したからって皆がお金持ちになれるわけじゃないし」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/c5/1e520cef99c8941e009089bbe5be63ed.jpg)
「だから残りの大学生活だけでも、気を楽にして過ごしなさいな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/bf/16e871b13e757b3e36902da0e19cd31b.jpg)
母は変わった。
以前は口を開けば父の愚痴と、雪への叱咤ばかりだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/ce/f3358926c01025e0dc2ea091d69c1489.jpg)
「心配するな。借金をしてでもお前の学費は最後まで工面するからな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/b6/28aa17507175d73cd2e2feb4348fe728.jpg)
父も変わった。
女は大学に行く必要なんてないと言って、どんなに頑張っても褒め言葉一つ貰えなかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/e5/ab6fa5fbb77f3fa9407fc732608d97f8.jpg)
言葉を飲み込んで感情を押し殺していた昔の自分が、今初めて呼吸する。
ほんの束の間だけど、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/2f/c28d386d9ec9233fe9d29c4e9d2a2e4a.jpg)
その日私と弟は「必死に頑張らなくてもいいよ」って、
初めて認めてもらえた気がした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/88/162b1c493e162a58a324348c7aef6952.jpg)
結果としては、私の大学史上最悪の期末試験だったけど、
こんなに気を楽にして試験を受けたのも生まれて初めてだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/c9/5c0d950d0e1c633ea7c3ebc6064aeee9.jpg)
雪は窮屈な靴を脱いで膝を抱えた。
その変化の余韻を、その時の流れを、存分に味わいながら。
「それにしてもどんな会社だったんだ?」「だから騙されたのよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/48/bd0f5ffa7ac4f7d03bbf2295c3b4b50f.jpg)
両親の会話をBGMにして、車は夜の道をひた走った。
飛ぶように流れて行く景色を眺めながら、今日という日が終わって行くのを雪は知る。
笑って良いのか泣いて良いのか分からない一日が過ぎて行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/6d/14ddce39afd6c417cdaf3da721dba92a.jpg)
胸の奥から温かなものが溢れ出て、車窓の景色はぼんやりと霞んだ。
雪はそのまま目を閉じて、その心地良さに身を委ねる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<時の流れ>でした。
最後の雪ちゃんの表情!
良かったねぇぇと頭をナデナデしてあげたくなりました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_zzz.gif)
最後の「笑っていいのか泣いていいのか分からない1日」というモノローグは、
遂に雪ちゃんが泣けたことを表しているんでしょうか。本当良かったねぇ‥。
だんだんと変わって行く雪の周辺の人達。
次回はそこにつながる淳の回です。
<狂った計算式>です。
今年最後の更新です。皆さま、良いお年を〜〜
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face2_happy_s.gif)
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
![](http://image.with2.net/img/banner/banner_21.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)