
”被害者意識に囚われた、ゴミみたいなヤツ”ー‥。
盲目的な被害者意識に囚われたこの男からそう言われたことに、亮は耐えられなかった。
怒りのあまり震える手で掴んだ淳の胸ぐらを、ぐいっと自分の方に引き寄せる。
「オレがダメージの家族に良い顔してるって?」

亮は目を見開いたまま、瞬きもせずに淳に詰め寄った。
「じゃあお前は?」

投げかけられる亮からの問い。淳は呟くように口を開く。
「俺が何‥」

亮と至近距離で相対し、淳はその色素の薄い瞳の中に映った自分の顔を見た。
傷だらけの顔の中にある、光を宿さぬ陰った瞳。


自分は間違っていない、変なんかじゃないー‥。
そう幼い頃から肯定してきた自分自身。
しかし今自分は、亮から問われている。
おかしいのはお前自身の方なんじゃないか?被害者意識に囚われているのは、お前の方なんじゃないかー‥。
「俺が何だよ!!」

そう大きな声で叫びながら、淳は思い切り拳を振るった。
殴られた亮は顔を押さえながら、再び淳の胸ぐらを掴みにかかる。
「こんの‥クッソ‥!」

「自分で分かんねーのかよ!」

亮は淳の胸ぐらを掴みながら、彼の身体を強く蹴り上げた。
「この蛇野郎がっ‥!」

強いその攻撃に、亮の胸ぐらを掴んでいた手が外れた。
淳はその場でたたらを踏み距離を取ると、鋭い目つきで亮を睨む。

亮は溜まっていたものを吐き出すように、淳に対して思うことを捲し立てた。
「いつもいつも正義のヒーローぶってんのはテメーじゃねーかよ!
障った奴らに報復すんのに神経使ってご大層なこって!!」

「どんな時だって自分に被害が及ばねーように他人の後ろに隠れて!
彼女がストーカーに追っかけられてる状況でだって、
すぐ駆けつけるどころかあの男を利用することを考えて!」

心の中に燻っていた、炎が燃える。雪の存在が、それを焚き付ける。
「それがお前にとってのダメージを守る方法だってのかよ?!んな方法が?!」


心に湧き上がる、不吉な予感。
不安なのは、一番信用出来ない男が、彼女の一番傍に居るという今の状況‥。

亮は怒りのあまり大きく震えていた。
目の前の男を許せない、その思いが、雪が絡むとより顕著になる。
「ハッキリ言えよ。お前あの時ダメージを守ることよりも、
オレと静香を片付ける方法を考えてたんだろ?」

亮の問いに対し、淳が答えを返す。
「何にせよ雪を助けただろ。それがどうかしたか?」

その曖昧な返しに、亮は逆上した。
「よく言えたもんだな!静香がタダで動くわけねぇ!何か企んでんだろーが!
オレが見張ってる状況下だってのに、アイツを弄びやがって!」


怒りのあまり、亮の拳は震えた。
美術という夢の欠片を利用して、姉を動かしたことが許せない。
ピアノという何よりも大切にしていた夢を潰しておいて、何の罪の咎めも無い顔をしているのが許せないー‥。
淳は弁解しない。亮は感情のままに叫んだ。
「そら見ろっ!テメーには罪悪感も、それを変えようとする意思もねぇ!オレにも!ダメージにも!」

亮がそこまで言ったところで、淳は亮に対して真っ直ぐにパンチを食らわせた。
地面に倒れ込む亮。すぐさま、淳が亮の上に乗る。


「この‥!」と亮は声を上げかけたが、それを遮るように淳が口を開いた。
「おい、」

「俺が雪をどんな方法で大事にしようがしまいが、お前に何の関係がある?」


亮は目を見開いた。
凄まじい目つきをした淳が、自分を排しようと射るように睨んでいる。
「お前、何なんだよ」

その口調は静かだった。
しかしそれに反比例するように、胸ぐらを掴む手には力がこもる。
「どうしてお前が、そんなことを気にする?」

亮は歯をぐっと噛み締めると、思い切り淳に向かって頭を起こした。
「んだコラァ!」

固い額を鼻にぶつけられ、淳は思わず地面に倒れ込んだ。
攻撃を仕掛けた亮もダメージを受け、二人は各々痛みに呻く。
「ぐっ‥」

地面に頭をつけるような姿勢の淳と、再び仰向けになった亮。
痛みに耐える二人の内、亮の方が先に半身を起こす。
「テメーこの野郎‥」

そしてまだ顔を押さえている淳に向かって、亮は先ほどの「なぜお前がそんなことを気にするのか」という問いに答えた。
「お前昔、ダメージのことも苦しめたんだろ?!
気に障るからって、片付けようとしたんだろ?!知ってんだぜ?」

そして亮は、掠れた声でこう言った。
「人は絶対変わんねーって、テメーが言ったんじゃねーかよ‥」

鼓膜の裏に蘇るのは、いつか聞いた淳の言葉。

人の核心は、変わらない。
亮は淳への不信感を、まるで偽らず口に出す。
「昔のあのことみてーなことを‥
今後テメーがダメージにまたしねぇっつー保証があんのか?」

背中越しに亮の言葉を聞いていた淳も、その内容を耳にしてゆっくりと顔を向けた。
細かく震えながら、暗く陰った瞳にその過去を映しながら。

淳のその表情を見て、亮は彼が過去を思い出したことを確信して息を吐いた。
は、と軽く笑うように。

そして亮は話し始めた。
暗い過去の記憶の引き金となる、あの頃の話を。
「二年の時のこと、覚えてるかよ?」

瞼の裏に、浮かんで来る光景があった。
それは淳と亮が、高校二年生の時に起こった事件ー‥。
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<タイマン勝負(4)>でした。
いや~激しいですね。殴り合いもさることながら、内面をえぐるような言葉の応酬が‥。
しかし亮さんの言葉に、うんうんと頷く方も多かったんじゃないでしょうか。
亮はここまで淳の本質を理解してるんですねぇ。。
これで亮が「なぜ淳がこういった本質になったか」まで考えが及んでくれれば、
二人の関係も違ったものになるのかもしれませんが‥今のままじゃ難しいでしょうね。。
さて次回から、淳と亮の高校二年生時の過去回想となります。
出てくるのは実に三年半ぶり、西条和夫です。

↑‥と亮さんのようになったアナタ(笑)、<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(1)ー
で思い出しておいてくださいね‥!
次回<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(2)ー
です。
カテゴリは<河村姉弟>に入ります~。
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