「は‥はは‥」
雪は気まずい心の内を誤魔化すように、目を逸らし逸らし乾いた笑いを立てた。
目の前には、雪の方をまっすぐ見つめながら微笑む彼。
雪は何度も視線を天地へと泳がせるが、彼は動じずニコニコと笑みを浮かべていた。
わ、笑わないで‥
‥一体この雰囲気は何なのだ。
雪が先輩の非に怒った末の話し合いだというのに、昨日のアレで立場は逆転だ‥。
尚も視線を泳がせ話を切り出せない雪より先に、先輩の方が先に口を開いた。
「昨日さ‥考えてみたんだけど‥」
言いづらそうに若干俯きながら言葉を選ぶ彼を見て、雪はドキリとした。
脳裏に姉ちゃんフラれんじゃね?と笑う蓮の姿が浮かぶ。
ま、まさか‥
別れ話か?と思った矢先、先輩は溜息を吐きながら静かな調子で口を開いた。
「もう二度とあんなにお酒を飲むんじゃないよ。絶対な‥」
先輩は飲み過ぎた雪を注意した上で、彼女を責めること無く二日酔いを心配した。
そんな彼の気遣いが、逆に雪をいたたまれなくするのだった‥。
窓の外ではまだ日差しが眩しい。
会話が途切れた二人が、手元のコーヒーに目を落とす。
「‥お隣のおじさん、引っ越しましたよ」
アイスコーヒーは晩夏の空気に水滴を垂らし、テーブルに小さな水溜りを作っていく。
その一粒一粒がゆっくりと溜まっていくのを見ながら、ぽつりぽつり話は始まった。
「‥うん 知ってる」
淳はそれきり口を噤み、二人の間に暫し沈黙が落ちた。
「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥」
雪はテーブルに目を落としたまま、話の本題を口にした。
淡々と冷静に、自分の気持ちを彼に伝える。
「先輩が私のためにしたということでも、素直にそのまま受け入れるのは正直‥難しいです」
淳は伏せた彼女の瞼を眺めながら、その話の続きを静かに待つ。
膝の上で重ねた両手を組みながら雪は、「だけど、」と強い響きで口にして、前を向いた。
「遠藤さんの話を鵜呑みにして自分の考えを押し付けて‥ごめんなさい」
冷静になって考えて、雪は自分の非を謝った。それは彼女の誠意だった。
「先輩も悪意があってしたわけじゃないと思っているので、だから‥
今回は信じてみようと思います」
彼が雪に抱いていた好意を、雪はどうしても無下にすることが出来なかった。
だからそこの部分に関しては許したのだ。けれどやはり、受け入れられないこともある。
雪は「ただし、」と前置きした上で話を続けた。
「今後こういったことはもう止めにして下さい。私に関することは、まず私に聞いて下さい」
瞳と瞳が絡み合い、その心の動きを伝える。
二人は正面から向き合いながら、雪は自分の気持ちを伝え、淳はそれをまっすぐに受け止めた。
「そうしてもらえますか?」
そう雪が聞くと、淳はニッコリと笑って頷いた。
「うん、分かった」
雪はその笑顔に安堵した。
手持ち無沙汰に、指で耳元の髪を梳く。
そして雪はハッとあることを思い出した。
ホッとしたことで心の中に潜んでいた心配ごとが芽を出したのだ。
雪はおずおずと切り出した。
「あの‥私昨日すごい酔っちゃって‥その‥何か他におかしなことをしでかしたんじゃないかと‥」
言葉を濁しながらそう話す雪に、先輩は非常にあっけらかんと返答する。
「何が? 吐いた以外で?」
ぎゃっと雪が声を上げるのを見て、淳はクククと肩を揺らして笑った。
そして少し意地悪そうな顔をして、酔っ払って吐露していた彼女の本音を教えてあげた。
「亮とのことが気になるって何度も言ってたよ」
関わるなって言われた反動で逆に仲良くなったみたいだね、と少々の嫌味を漏らした後、淳は静かに話し始めた。
「もう知ってるかもしれないけど、亮が俺にああいう感じなのは‥自分の手のせいなんだよね」
そう言ってカップを持つ淳の手は、何の不自由も無い滑らかな動きをする。
淳は昔の記憶を回想し、幾分俯いて話し出した。
「ずっとピアノだけやって来た奴が、手が使えなくなって黒い部分だけが残っちゃったというか‥」
そして彼は語り始めた。
自分と亮が、どのように関わり合って来たのかを。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<伝える>でした。
雪ちゃんのすごいところは、物事を俯瞰して見れるところですねぇ。感情的にもなるんだけれど。
常に自分の非を振り返ってそれと相手の非を天秤にかける、というか。
とても真面目で、全然いい加減なところが無い。信頼出来る子ですねぇ‥
そして大晦日ですね~!皆様良いお年を~~~!(^^)♪
次回は<過去と未来と>です。
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雪は気まずい心の内を誤魔化すように、目を逸らし逸らし乾いた笑いを立てた。
目の前には、雪の方をまっすぐ見つめながら微笑む彼。
雪は何度も視線を天地へと泳がせるが、彼は動じずニコニコと笑みを浮かべていた。
わ、笑わないで‥
‥一体この雰囲気は何なのだ。
雪が先輩の非に怒った末の話し合いだというのに、昨日のアレで立場は逆転だ‥。
尚も視線を泳がせ話を切り出せない雪より先に、先輩の方が先に口を開いた。
「昨日さ‥考えてみたんだけど‥」
言いづらそうに若干俯きながら言葉を選ぶ彼を見て、雪はドキリとした。
脳裏に姉ちゃんフラれんじゃね?と笑う蓮の姿が浮かぶ。
ま、まさか‥
別れ話か?と思った矢先、先輩は溜息を吐きながら静かな調子で口を開いた。
「もう二度とあんなにお酒を飲むんじゃないよ。絶対な‥」
先輩は飲み過ぎた雪を注意した上で、彼女を責めること無く二日酔いを心配した。
そんな彼の気遣いが、逆に雪をいたたまれなくするのだった‥。
窓の外ではまだ日差しが眩しい。
会話が途切れた二人が、手元のコーヒーに目を落とす。
「‥お隣のおじさん、引っ越しましたよ」
アイスコーヒーは晩夏の空気に水滴を垂らし、テーブルに小さな水溜りを作っていく。
その一粒一粒がゆっくりと溜まっていくのを見ながら、ぽつりぽつり話は始まった。
「‥うん 知ってる」
淳はそれきり口を噤み、二人の間に暫し沈黙が落ちた。
「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥」
雪はテーブルに目を落としたまま、話の本題を口にした。
淡々と冷静に、自分の気持ちを彼に伝える。
「先輩が私のためにしたということでも、素直にそのまま受け入れるのは正直‥難しいです」
淳は伏せた彼女の瞼を眺めながら、その話の続きを静かに待つ。
膝の上で重ねた両手を組みながら雪は、「だけど、」と強い響きで口にして、前を向いた。
「遠藤さんの話を鵜呑みにして自分の考えを押し付けて‥ごめんなさい」
冷静になって考えて、雪は自分の非を謝った。それは彼女の誠意だった。
「先輩も悪意があってしたわけじゃないと思っているので、だから‥
今回は信じてみようと思います」
彼が雪に抱いていた好意を、雪はどうしても無下にすることが出来なかった。
だからそこの部分に関しては許したのだ。けれどやはり、受け入れられないこともある。
雪は「ただし、」と前置きした上で話を続けた。
「今後こういったことはもう止めにして下さい。私に関することは、まず私に聞いて下さい」
瞳と瞳が絡み合い、その心の動きを伝える。
二人は正面から向き合いながら、雪は自分の気持ちを伝え、淳はそれをまっすぐに受け止めた。
「そうしてもらえますか?」
そう雪が聞くと、淳はニッコリと笑って頷いた。
「うん、分かった」
雪はその笑顔に安堵した。
手持ち無沙汰に、指で耳元の髪を梳く。
そして雪はハッとあることを思い出した。
ホッとしたことで心の中に潜んでいた心配ごとが芽を出したのだ。
雪はおずおずと切り出した。
「あの‥私昨日すごい酔っちゃって‥その‥何か他におかしなことをしでかしたんじゃないかと‥」
言葉を濁しながらそう話す雪に、先輩は非常にあっけらかんと返答する。
「何が? 吐いた以外で?」
ぎゃっと雪が声を上げるのを見て、淳はクククと肩を揺らして笑った。
そして少し意地悪そうな顔をして、酔っ払って吐露していた彼女の本音を教えてあげた。
「亮とのことが気になるって何度も言ってたよ」
関わるなって言われた反動で逆に仲良くなったみたいだね、と少々の嫌味を漏らした後、淳は静かに話し始めた。
「もう知ってるかもしれないけど、亮が俺にああいう感じなのは‥自分の手のせいなんだよね」
そう言ってカップを持つ淳の手は、何の不自由も無い滑らかな動きをする。
淳は昔の記憶を回想し、幾分俯いて話し出した。
「ずっとピアノだけやって来た奴が、手が使えなくなって黒い部分だけが残っちゃったというか‥」
そして彼は語り始めた。
自分と亮が、どのように関わり合って来たのかを。
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<伝える>でした。
雪ちゃんのすごいところは、物事を俯瞰して見れるところですねぇ。感情的にもなるんだけれど。
常に自分の非を振り返ってそれと相手の非を天秤にかける、というか。
とても真面目で、全然いい加減なところが無い。信頼出来る子ですねぇ‥
そして大晦日ですね~!皆様良いお年を~~~!(^^)♪
次回は<過去と未来と>です。
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