「本当に何とも思ってなかったんですか?」

雪が発したその言葉は、亮の心を突き刺した。
亮は瞬きも忘れたように、雪のことを凝視し続けている。

そしてその視線を外さぬまま、亮は雪の方へと一歩踏み出した。

思わずビクッと反応する雪。

亮は何も言わない。
ただ、雪の方へと一歩一歩踏み出してくる。


雪は幾分動揺しながらその場に突っ立っていた。
自分の方に向かって来た亮が、たった数歩残して立ち止まる。


亮は険しい表情のまま、ただじっと雪のことを見ていた。
雪は何も言うことが出来ないまま、ただ亮のことを見つめている。
「‥‥‥‥」

すると亮が、一言発した。
「オレの感情‥」

先ほど雪から問われたその言葉が、亮の脳内を駆け巡る。
「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?」


依然として押し黙っている亮を前にして、雪は彼から目を逸らした。
何も言うべき言葉が見当たらない。

亮は先程の険しい表情とは打って変わって、ただ静かに雪のことを見ていた。
やはり何も口にはしない。

二人の間に、しんとした沈黙が落ちる。
雪はもう一度顔を上げ、言葉にならない声を漏らした。
「あ‥」

亮はスローモーションを見ているかのように、
彼女の形の良い唇が、僅かに開くのを見つめていた。

そして再び俯いた彼女の耳元で、柔らかな髪が揺れるのも。

蓋をして押し込めた”感情”が、徐々にその顔を覗かせる。
亮はいつかの亡霊に取り憑かれた時のように、ぼんやりと雪のことを見つめている。

「河村氏‥」と自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。
亮はその声に誘われたかのように、そっと彼女に手を伸ばす。


ゆっくりと、雪の方へと伸びて行く右手。
雪は目を見開いたまま、彼の一挙一動をただ見つめている。


ゆっくりと伸ばされたその手は、やがて雪の耳元へと近付いて行った。
その手が微かに触れるか触れないかといった時、雪がビクッと身を竦める。
「あ‥」

すると、亮の手が再び彼女から離れた。
少し下方へと手が下る。

そして亮の手は、その柔らかな頬に触れる代わりに、
雪の腕を強く掴んだのだった。
ぐっ‥


突然強い力で腕を掴まれた雪は、驚きのあまり目を見開き、亮の顔を見上げた。
彼は何の感情も読み取れないような表情をしている。
「?」

その行動の真意が掴めず、困惑する雪。
亮は右手に力を込めながら、元同僚の男が言った言葉を思い出していた。
「結局は捕まって、ズルズル付きまとわれるだけだと思う‥絶対‥」

覗いた感情が、再び奥の方へと逃げていく。
亮は抑揚のない声で、ポツリとこう呟いた。
「感情なんて凍っちまったよ」

ガッ!

雪がその言葉を聞き返すより早く、亮はより一層強く雪の腕を掴み、彼女の方へと身を乗り出した。
「誰が何と言っても出て行くから、今後オレに連絡すんじゃねぇ。待ってても無駄だ」
「か、河村氏?!」
「どうせ淳の傍に居る女がどんなもんか見に来ただけなんだ」

「もう用無しなんだよ。オレが無意味にお前の周りをウロチョロしてるとでも思ったか?」

口元に嘲笑いを浮かべながら、彼は”淳の女”に向かって意地悪く言葉を続ける。
「淳の女の好みがどんなもんか、結局この程度だってのが分かったからもういいんだよ。
今は自分の人生の方が大切だからな。あの野郎の近辺をうろつくのも時間のムダだって気づいたし」

「つーかこれ以上お前に何の用もねぇんだよ」
「何ですって?!」

その失礼な物言いに、雪は青筋を立てて言い返した。
しかし掴まれた腕はびくともしない。
「お前さぁ、どうしてこんなひつこくつきまとって来んだよ。
オレになんか未練でもあんのか?」

蓋をした感情を押さえつけるかのように、亮はより一層強くその腕を握る。
「もう止めろよ。そろそろムカついて来てんだよ」
「うっ‥」

腕に痛みを感じた雪は、思わず声を上げた。
「ちょっと待って!ちょい待ちちょい待ち!」

しかし雪のその声のトーンは、どこか緊迫感の無いものだった。
思わず眉を寄せる亮。
「んだよ」「河村氏、」

そして雪は亮を見上げて、彼の虚偽を見抜いたのだった。
「今わざとイチャモンつけてるでしょ?」


思わず目が点になった。
この女は、どうしてこんなに鋭いんだろうーー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(3)ー虚偽ー>でした。
亮さん‥!バレバレ‥!!

最後の目がテンの亮さんが微笑ましいですね。
さて次回、彼との対話は最後です。
<彼との対話(4)ー決別ー>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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雪が発したその言葉は、亮の心を突き刺した。
亮は瞬きも忘れたように、雪のことを凝視し続けている。

そしてその視線を外さぬまま、亮は雪の方へと一歩踏み出した。

思わずビクッと反応する雪。

亮は何も言わない。
ただ、雪の方へと一歩一歩踏み出してくる。


雪は幾分動揺しながらその場に突っ立っていた。
自分の方に向かって来た亮が、たった数歩残して立ち止まる。


亮は険しい表情のまま、ただじっと雪のことを見ていた。
雪は何も言うことが出来ないまま、ただ亮のことを見つめている。
「‥‥‥‥」

すると亮が、一言発した。
「オレの感情‥」

先ほど雪から問われたその言葉が、亮の脳内を駆け巡る。
「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?」


依然として押し黙っている亮を前にして、雪は彼から目を逸らした。
何も言うべき言葉が見当たらない。

亮は先程の険しい表情とは打って変わって、ただ静かに雪のことを見ていた。
やはり何も口にはしない。

二人の間に、しんとした沈黙が落ちる。
雪はもう一度顔を上げ、言葉にならない声を漏らした。
「あ‥」

亮はスローモーションを見ているかのように、
彼女の形の良い唇が、僅かに開くのを見つめていた。

そして再び俯いた彼女の耳元で、柔らかな髪が揺れるのも。

蓋をして押し込めた”感情”が、徐々にその顔を覗かせる。
亮はいつかの亡霊に取り憑かれた時のように、ぼんやりと雪のことを見つめている。

「河村氏‥」と自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。
亮はその声に誘われたかのように、そっと彼女に手を伸ばす。


ゆっくりと、雪の方へと伸びて行く右手。
雪は目を見開いたまま、彼の一挙一動をただ見つめている。


ゆっくりと伸ばされたその手は、やがて雪の耳元へと近付いて行った。
その手が微かに触れるか触れないかといった時、雪がビクッと身を竦める。
「あ‥」

すると、亮の手が再び彼女から離れた。
少し下方へと手が下る。

そして亮の手は、その柔らかな頬に触れる代わりに、
雪の腕を強く掴んだのだった。
ぐっ‥


突然強い力で腕を掴まれた雪は、驚きのあまり目を見開き、亮の顔を見上げた。
彼は何の感情も読み取れないような表情をしている。
「?」

その行動の真意が掴めず、困惑する雪。
亮は右手に力を込めながら、元同僚の男が言った言葉を思い出していた。
「結局は捕まって、ズルズル付きまとわれるだけだと思う‥絶対‥」

覗いた感情が、再び奥の方へと逃げていく。
亮は抑揚のない声で、ポツリとこう呟いた。
「感情なんて凍っちまったよ」

ガッ!

雪がその言葉を聞き返すより早く、亮はより一層強く雪の腕を掴み、彼女の方へと身を乗り出した。
「誰が何と言っても出て行くから、今後オレに連絡すんじゃねぇ。待ってても無駄だ」
「か、河村氏?!」
「どうせ淳の傍に居る女がどんなもんか見に来ただけなんだ」

「もう用無しなんだよ。オレが無意味にお前の周りをウロチョロしてるとでも思ったか?」

口元に嘲笑いを浮かべながら、彼は”淳の女”に向かって意地悪く言葉を続ける。
「淳の女の好みがどんなもんか、結局この程度だってのが分かったからもういいんだよ。
今は自分の人生の方が大切だからな。あの野郎の近辺をうろつくのも時間のムダだって気づいたし」

「つーかこれ以上お前に何の用もねぇんだよ」
「何ですって?!」

その失礼な物言いに、雪は青筋を立てて言い返した。
しかし掴まれた腕はびくともしない。
「お前さぁ、どうしてこんなひつこくつきまとって来んだよ。
オレになんか未練でもあんのか?」

蓋をした感情を押さえつけるかのように、亮はより一層強くその腕を握る。
「もう止めろよ。そろそろムカついて来てんだよ」
「うっ‥」

腕に痛みを感じた雪は、思わず声を上げた。
「ちょっと待って!ちょい待ちちょい待ち!」

しかし雪のその声のトーンは、どこか緊迫感の無いものだった。
思わず眉を寄せる亮。
「んだよ」「河村氏、」

そして雪は亮を見上げて、彼の虚偽を見抜いたのだった。
「今わざとイチャモンつけてるでしょ?」


思わず目が点になった。
この女は、どうしてこんなに鋭いんだろうーー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(3)ー虚偽ー>でした。
亮さん‥!バレバレ‥!!


最後の目がテンの亮さんが微笑ましいですね。
さて次回、彼との対話は最後です。
<彼との対話(4)ー決別ー>です。
☆ご注意☆
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