「この人変態です!早く捕まえて下さい!」 「はぁ?!!」

青天の霹靂とも言える女からの訴えに、思わず秀紀が狼狽する。
自分のことを覗き見していたと言うその言葉に、秀紀は感情的に言い返した。
「ふざけんな!こっちだって見たくて見たんじゃないわ!
カーテンも閉めずに着替えてたのはあんたでしょーが!!」

雪は秀紀の墓穴の掘りっぷりに頭を抱えた。
何にせよ覗いたのは事実‥。刑事の表情が曇り、秀紀に声を掛ける。
「失礼ですが、ここ最近この周辺で下着泥棒が出没しました。
その上昨晩は暴行事件まで」

「かなり深刻な事態ですので、少しでも疑わしい人は調査せざるを得ないんですよ。
失礼ですが、昨晩は何をされていましたか?」
刑事は疑心の目を秀紀に向けながら、質問から事情聴取へとその深刻さを深めた。
当然秀紀は立腹し抗ったが、先ほどの女からの苦情もあり、変に言い逃れするより素直に従った方が懸命だと判断する。

ありもしない罪を疑われ納得のいかない秀紀だが、一つ息を吐くと昨晩のことを話し始めた。
隣にいる雪を指さし、この子と飲んでいたんだと。

雪も証言した。秀紀が先に寝てしまって、先輩と共に家まで送ってあげたということを。
刑事は事実関係を確認し頷いていたが、次の瞬間野次馬の中年女性達が、秀紀を見て声を上げた。
「やだ!やっぱりあの人だったんだわ!さっきの刑事さんと一緒だもの。
ね?変態だったでしょ?」

先日雪と亮と秀紀が一緒に居た時も、秀紀に疑いの目を向けていた中年女性達だ。
秀紀は彼女らに向かって声を荒げ、身の潔白を訴えた。
「ちょっとなんなのあんた達!実際に見たわけ?!
言ってみなさいよ!あたしは潔白よ!まるで白鳥のように真っ白‥」

そこまで言ったところで、再び刑事が秀紀に声を掛けた。
雪の証言で昨晩の暴行事件の疑いは晴れたが、下着泥棒の方の線で秀紀が引っかかったのだ。
「失礼ですが家の中を見せて頂いてもよろしいですか?
誤解されるよりはそちらの方がよろしいかと‥」

ついに任意の家宅捜査にまで事が及んでいたが、秀紀は開き直って承諾した。
疑わしいことなんて何一つ無いからだ。
「分かったわ好きにして!何も出て来なかったら承知しないから!」

秀紀は野次馬たちを指さし、もし自らの潔白が証明できれば、あんた達を訴えてやると息巻いた。
上から覗いでいる先ほどの女にも、虚偽告訴罪で訴訟を起こすとも。
「全員覚悟しとくのね!!」

秀紀の啖呵が道に響き渡る。
衆人環視の中、そのまま三人は家への階段を上がり、秀紀の家へと入っていった。
しかしそこで彼らが直面したのは、思いがけない事実だった。

洗面の前の棚に、女性用下着が山のように積まれている。
それらを前に刑事は冷静に観察し、雪は驚愕し、秀紀は顔面蒼白した。

当然秀紀には覚えが無かった。
なぜこんなものが家にあるのかと狼狽する横で、雪があることに気がつく。

自分の下着だった。
思わずハッとした表情を浮かべた一瞬を、刑事は見逃さなかった。
「どうしました?あなたの下着もここに?」

雪は言葉を濁した。秀紀のこと云々もあるが、男性二人の前で自分の下着が目の前にあるとはやはり言い辛い。
そんな雪の様子を見て、刑事は冷静に口を開いた。事実を明確にする必要があるので、ハッキリ言って下さいと。
「あ‥えーと‥私の物ではあるんですが‥。たまたま同じものかもしれないし‥」

雪は曖昧な言い方をしたものの、
刑事から「とにかくあなたの下着もあるということですね」と言われ、頷くしかなかった。
秀紀が声を荒げる。
「あ、ありえない‥!」

昨日まではこんな物は無かったと、秀紀は切々と訴えた。
誰かが侵入して置いていったに違いないと。
「だって昨日は酔っ払って完全に記憶が無かったんですよ?!間違いなく誰かが侵入したとしか‥!」

その秀紀の言葉を受けて、雪はあることを思い出した。
昨晩先輩と秀紀を送ってきた際、彼の部屋は鍵が開いていたのだ。
「これ、おじさんの鍵‥」

雪がポケットから秀紀の家の鍵を取り出すと、彼は解せない表情をする。
「‥?なんであんたがこれを?」
「鍵開けっ放しだと危ないと思って、代わりに戸締まりして朝にでも返そうかと思って‥」

そう言った雪を見ながら、秀紀の表情が微細に変化した。
その瞳の中に、疑心が浮かぶのが見て取れる。
「あ‥そう」

その表情に、雪の心の中がざわめく。
え?何あの表情‥。まさか私のこと疑ってるの?
疑いたいのは私の方なのに‥。

それでも信じようとしてあげてるのに‥。
そんな二人の心の変化には構わず、刑事はおもむろに下着の写真を撮り始めた。
証拠写真を収めさせて頂きます、と言って。

秀紀は自身の思いとは裏腹に、着々と進んでいく事態に思考がついていかない。
令状もなしにこんなことが許されるのかと主張もしたが、刑事は先ほど秀紀自身が家宅捜査に応じたことを持ち出し、
その必死な訴えも却下された。クラクラと目の前が暗くなる。

下着の写真を撮り続けながら、「こんなに沢山‥」と刑事は嘆くように言った。
その言葉に、思わず秀紀がカッとなる。
「ホントに違うんだってば!なんであたしが女の下着を盗まなきゃなんないの?!
興味なんかないっつーの!あたしはねぇ‥!!」

そこまで言ったところで、刑事の目が光った。
じっと秀紀のことを観察するように見続けている。

秀紀は言葉を続けられなくなって、そのまま俯いた。
すると刑事は秀紀に、署まで同行するよう依頼した。とにかく署にて調査をする必要があると。

秀紀は刑事の依頼を嫌だと突っぱね、尚も自らの潔白を訴えた。
しかし先ほどの野次馬達の姿が思い浮かび、このまま家にいるよりは署で事実を明らかにする方が良いと思い直した。
「いいわ!行く!行ってやろうじゃないの!白黒ハッキリつけようじゃないの!」

思いもかけない事態の進行に、雪は慌てるしかなかった。
何も言葉を掛けられないまま、刑事と秀紀は車に乗って警察署まで行ってしまった。

一人残された雪は、家の前で呆然と立ち尽くした。
何が起こったのか、未だハッキリと把握出来ないままで。

とにかく先輩に連絡しようと携帯を取り出すと、ちょうど誰かからの着信が入って来たところだった。
画面には”品川さん”の文字が踊る。

電話を取った雪の耳に、狼狽した品川助手の声が届く。いつもとは違うその声に、雪は耳を澄ました。
「え?」

耳に入って来たのは、思いがけない知らせだった。
大きく動き出した運命の、歯車が回る音がする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<墓穴>でした。
秀紀さんを信じようとしているのに、雪を疑いの目で見た秀紀の心情を読み取り、それに不満を持つ雪‥。
なんて繊細な感情を描き出すんでしょうね~チートラってば!すごい漫画です、本当。
そして最後、雪に品川さんからの電話がかかってくるんですが、日本語版では突如「石森さん」になっていました(苦笑)
誰‥(^^;)
次回は<曖昧な自身>です。
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青天の霹靂とも言える女からの訴えに、思わず秀紀が狼狽する。
自分のことを覗き見していたと言うその言葉に、秀紀は感情的に言い返した。
「ふざけんな!こっちだって見たくて見たんじゃないわ!
カーテンも閉めずに着替えてたのはあんたでしょーが!!」

雪は秀紀の墓穴の掘りっぷりに頭を抱えた。
何にせよ覗いたのは事実‥。刑事の表情が曇り、秀紀に声を掛ける。
「失礼ですが、ここ最近この周辺で下着泥棒が出没しました。
その上昨晩は暴行事件まで」

「かなり深刻な事態ですので、少しでも疑わしい人は調査せざるを得ないんですよ。
失礼ですが、昨晩は何をされていましたか?」
刑事は疑心の目を秀紀に向けながら、質問から事情聴取へとその深刻さを深めた。
当然秀紀は立腹し抗ったが、先ほどの女からの苦情もあり、変に言い逃れするより素直に従った方が懸命だと判断する。

ありもしない罪を疑われ納得のいかない秀紀だが、一つ息を吐くと昨晩のことを話し始めた。
隣にいる雪を指さし、この子と飲んでいたんだと。

雪も証言した。秀紀が先に寝てしまって、先輩と共に家まで送ってあげたということを。
刑事は事実関係を確認し頷いていたが、次の瞬間野次馬の中年女性達が、秀紀を見て声を上げた。
「やだ!やっぱりあの人だったんだわ!さっきの刑事さんと一緒だもの。
ね?変態だったでしょ?」

先日雪と亮と秀紀が一緒に居た時も、秀紀に疑いの目を向けていた中年女性達だ。
秀紀は彼女らに向かって声を荒げ、身の潔白を訴えた。
「ちょっとなんなのあんた達!実際に見たわけ?!
言ってみなさいよ!あたしは潔白よ!まるで白鳥のように真っ白‥」

そこまで言ったところで、再び刑事が秀紀に声を掛けた。
雪の証言で昨晩の暴行事件の疑いは晴れたが、下着泥棒の方の線で秀紀が引っかかったのだ。
「失礼ですが家の中を見せて頂いてもよろしいですか?
誤解されるよりはそちらの方がよろしいかと‥」

ついに任意の家宅捜査にまで事が及んでいたが、秀紀は開き直って承諾した。
疑わしいことなんて何一つ無いからだ。
「分かったわ好きにして!何も出て来なかったら承知しないから!」

秀紀は野次馬たちを指さし、もし自らの潔白が証明できれば、あんた達を訴えてやると息巻いた。
上から覗いでいる先ほどの女にも、虚偽告訴罪で訴訟を起こすとも。
「全員覚悟しとくのね!!」

秀紀の啖呵が道に響き渡る。
衆人環視の中、そのまま三人は家への階段を上がり、秀紀の家へと入っていった。
しかしそこで彼らが直面したのは、思いがけない事実だった。

洗面の前の棚に、女性用下着が山のように積まれている。
それらを前に刑事は冷静に観察し、雪は驚愕し、秀紀は顔面蒼白した。

当然秀紀には覚えが無かった。
なぜこんなものが家にあるのかと狼狽する横で、雪があることに気がつく。

自分の下着だった。
思わずハッとした表情を浮かべた一瞬を、刑事は見逃さなかった。
「どうしました?あなたの下着もここに?」

雪は言葉を濁した。秀紀のこと云々もあるが、男性二人の前で自分の下着が目の前にあるとはやはり言い辛い。
そんな雪の様子を見て、刑事は冷静に口を開いた。事実を明確にする必要があるので、ハッキリ言って下さいと。
「あ‥えーと‥私の物ではあるんですが‥。たまたま同じものかもしれないし‥」

雪は曖昧な言い方をしたものの、
刑事から「とにかくあなたの下着もあるということですね」と言われ、頷くしかなかった。
秀紀が声を荒げる。
「あ、ありえない‥!」

昨日まではこんな物は無かったと、秀紀は切々と訴えた。
誰かが侵入して置いていったに違いないと。
「だって昨日は酔っ払って完全に記憶が無かったんですよ?!間違いなく誰かが侵入したとしか‥!」

その秀紀の言葉を受けて、雪はあることを思い出した。
昨晩先輩と秀紀を送ってきた際、彼の部屋は鍵が開いていたのだ。
「これ、おじさんの鍵‥」

雪がポケットから秀紀の家の鍵を取り出すと、彼は解せない表情をする。
「‥?なんであんたがこれを?」
「鍵開けっ放しだと危ないと思って、代わりに戸締まりして朝にでも返そうかと思って‥」

そう言った雪を見ながら、秀紀の表情が微細に変化した。
その瞳の中に、疑心が浮かぶのが見て取れる。
「あ‥そう」

その表情に、雪の心の中がざわめく。
え?何あの表情‥。まさか私のこと疑ってるの?
疑いたいのは私の方なのに‥。

それでも信じようとしてあげてるのに‥。
そんな二人の心の変化には構わず、刑事はおもむろに下着の写真を撮り始めた。
証拠写真を収めさせて頂きます、と言って。

秀紀は自身の思いとは裏腹に、着々と進んでいく事態に思考がついていかない。
令状もなしにこんなことが許されるのかと主張もしたが、刑事は先ほど秀紀自身が家宅捜査に応じたことを持ち出し、
その必死な訴えも却下された。クラクラと目の前が暗くなる。

下着の写真を撮り続けながら、「こんなに沢山‥」と刑事は嘆くように言った。
その言葉に、思わず秀紀がカッとなる。
「ホントに違うんだってば!なんであたしが女の下着を盗まなきゃなんないの?!
興味なんかないっつーの!あたしはねぇ‥!!」

そこまで言ったところで、刑事の目が光った。
じっと秀紀のことを観察するように見続けている。

秀紀は言葉を続けられなくなって、そのまま俯いた。
すると刑事は秀紀に、署まで同行するよう依頼した。とにかく署にて調査をする必要があると。

秀紀は刑事の依頼を嫌だと突っぱね、尚も自らの潔白を訴えた。
しかし先ほどの野次馬達の姿が思い浮かび、このまま家にいるよりは署で事実を明らかにする方が良いと思い直した。
「いいわ!行く!行ってやろうじゃないの!白黒ハッキリつけようじゃないの!」

思いもかけない事態の進行に、雪は慌てるしかなかった。
何も言葉を掛けられないまま、刑事と秀紀は車に乗って警察署まで行ってしまった。

一人残された雪は、家の前で呆然と立ち尽くした。
何が起こったのか、未だハッキリと把握出来ないままで。

とにかく先輩に連絡しようと携帯を取り出すと、ちょうど誰かからの着信が入って来たところだった。
画面には”品川さん”の文字が踊る。

電話を取った雪の耳に、狼狽した品川助手の声が届く。いつもとは違うその声に、雪は耳を澄ました。
「え?」

耳に入って来たのは、思いがけない知らせだった。
大きく動き出した運命の、歯車が回る音がする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<墓穴>でした。
秀紀さんを信じようとしているのに、雪を疑いの目で見た秀紀の心情を読み取り、それに不満を持つ雪‥。
なんて繊細な感情を描き出すんでしょうね~チートラってば!すごい漫画です、本当。
そして最後、雪に品川さんからの電話がかかってくるんですが、日本語版では突如「石森さん」になっていました(苦笑)
誰‥(^^;)
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