
自身に迫り来る新たな危険のことなど露ほども知らない雪は、相変わらず授業中船を漕いでいた。
グラグラと不安定な頭が、前に倒れたかと思えば後ろに倒れ‥。隣に座る男子学生もビックリである。

この後雪は眠気のあまりペンを落とし、この隣の男子学生に拾ってもらった。
しかし意識を取り止めようとすればするほど睡魔は自身を襲い、授業終了後に見たノートは途中から解読不可能‥。


雪は溜息を吐きながら、試験についての連絡をする教授の話に耳を澄ます。
「それでは期末は、グループ発表に置き換えさせてもらいます」

その教授の話に、雪は尚の事溜息が出た。またグループワーク‥。
きっと卒業まで続くであろうその苦行に、雪はもうウンザリだ。

その後雪は同じグループの人と携帯番号を交換し合ってから、教室を出た。
授業中にどれだけ寝ても、いくらでも出るアクビを噛み殺しながら‥。

一人構内を歩いていると、ふと携帯が震えた。
取り出してみると先輩からメッセージが入っている。雪はそれにすぐ返信する。
今日もひたすらコピーばっかりさせられてるよ‥T T
先輩がコピー?ウケるww

すると再び携帯が震え、彼からのメッセージが一言。
あー会いたいな

その甘い言葉に、雪はくすぐったくなって思わずその場でニヤけてしまう。
くぅ~っと一人声を漏らしながら。

気分が良くなった雪は、ふと空を見上げてみた。
秋晴れの空は瑞々しいほど青く、爽やかな風が天空を吹き抜けていく‥。

そのあまりの心地良さに、雪はふにゃっと顔を緩めて一人笑った。
あ~~いい天気だわぁ~~~

心が浮き立つような気分で、今まで引きずるように歩いていた足取りも思わず軽くなった。
雪はニヤニヤと笑いながらスキップを始める。
そうよ!鼻血が何よ!鼻血流してまで勉強して、卒業したらZ企業に行くのよ!
輝かしい未来がそこにあるのよーっ!

‥というゴキゲン雪ちゃんを、一人眺めていた人間が居た。
河村静香である。


ピシッと、思わず石になる雪‥。
しかし静香は構わず声を掛けてきた。サングラスで目元は見えないが、不敵に口角が上がる。
「どーーも」

静香を前にして、思わず雪の顔は引き攣った。挨拶を返しつつも、その動揺は隠せない‥。
「あ‥はぁ‥こんにちは‥ちょくちょく会いますネ‥」「嫌なの?」「い、いえそんな‥


その気まずさに耐え切れず、「それじゃこのへんで‥」と立ち去ろうとする雪と、静香は気にせず会話を始める。
「デートでも行くのぉ?バカみたいに嬉しそうだったけど」

雪は目玉をクルクルさせながら、小さな声でモゴモゴと返した。
「‥いえ、まだ授業が一つ残って‥行かないと‥」

しかし静香はどこか楽しそうに、雪をからかいつつ彼女の周りを回った。
「あら~マジメなのね~~。顔に性格が表れるって言うけどぉ」

そして静香は、何気なくその名前を口に出す。
「だから淳が好きなの?」

優等生スタイルって感じ、と静香は皮肉ってそう言った。
高校生の時、淳の彼女が皆彼に似たような優等生タイプだったことを静香は思い出している。

雪は静香が淳の話を持ち出したことに、ついカチンと来た。
”淳‥”

雪は乾いた笑いを立てながら、適当な相槌を打つ。
「はは‥。はい、まぁ‥」
「「はは‥はい、まぁ‥」?クソテキトーな答えね~」

適当に流せると思いきや、意外に静香は雪のその答えに食いついた。
ジリジリと近寄りながらツッコミを続ける。
「あまりにも当然のことすぎて話すことないってこと?」
「い、いえそういうわけじゃ‥ど、どうしていきなりこんな‥」「え?」

雪はその追及にタジタジだ。完全に静香のペースである。
「あたしが何したって?」

サングラス越しの瞳が、意地悪そうに嗤っている。
まるで目の前にした獲物を屠りながら、楽しんでいるような。
彼女のその本心を見抜いて雪は顔を顰めたが、静香は更に言葉を続けた。
「社長令嬢~アンタ思ったより相当やり手じゃない。ちょっと秘訣を教えてよ」
「な‥何を‥」 「ケロッとした顔しちゃってぇ。あたしの弟もゾッコン、淳ちゃんもゾッコン~」

雪の脳裏に、以前彼女が口にした言葉が蘇った。
次のターゲットは、あたしの好きなようにするわ

そう言いながらガリガリと、虎は雪の目の前で咀嚼を続けた。
雪から真っ直ぐ、目を逸らさずに。
「てかあの二人のタイプ、こういう感じじゃなかったのになぁ~超不思議~」

そのまま会話を続ける静香のことを、雪はじっと見つめた。
その横顔から覗く、サングラスの中にある彼女の本心を。


雪の鼓膜の裏に、以前電話越しに聞いた静香の声が響く。
あたしは、淳の彼女だけど?

あの時、そう口にする静香の顔を見たわけじゃない。
けれどその声に秘められた彼女の本心を、自分に向けられたその牙を、雪は確かに感じた。
自分は今この人から攻撃されている、と。彼女のターゲットとは、自分のことなのだと。

「てかご飯食べながら話さない?今日はあたしが‥」
「あの。」

突然、雪は切り出した。
自分はただ食われるだけの獲物ではないと、ハッキリと雪はその意志を表明する‥。

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<サングラス越しの瞳>でした。
今週分、アップされましたね。来月休載ということは、次回からもう休載なのか‥?
と気になりつつ、今回は本家の題名に驚かされました。
なんと「ディナーショー第三幕」!!
合コンの後のスネ淳が見どころの「ディナーショー第一幕」、

雪の家の前で亮と出くわしたスネ淳が見どころの「ディナーショー第二幕」

に続いての今回!!
作者さんのブログには「最後のディナーショーです」と書いてありましたが、
今度はどんなスネ淳が出てくるんだろう‥と気になりつつ、今後の展開にドキドキですね‥!!
次回は<宣戦布告>です。
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