Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

二学期もよろしく

2014-02-06 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
「三人の旅行は楽しかった?」 「はい楽しかったですよ。と~っても」

 

本屋にて雪と淳は会話中だ。

話題は味趣連で行った日帰り旅行の件。淳は皮肉を込めて上記のセリフを言ったのだった。

「はぁ~‥他の男と旅行に行っておいて堂々と‥」

「前から約束してたんですよ!てか昨日行って帰ってきて疲れてるんですけど



帰って来て早々淳からグチグチ言われ、雪はウンザリといった体である。

「てか太一は男じゃないですから!」と雪がこぼすと、「は~そうですか」と淳は呆れたように息を吐いた。

「とにかく私は”先輩拗ねた時積立金”したいですよ。たいそうなお金持ちになれそうです

「え?俺がいつ拗ねたって?え?



雪が考案した”先輩拗ねた時積立金”とは、どうやら彼が拗ねた時に溜まる貯金のようなものらしい^^
(そのお金で彼女は本を買うそうだ。)

ちょっとしたことで拗ねる彼と付き合い慣れてきた彼女故の、気安いジョーク。

「てか前から言ってあったじゃないですか。何で今になって‥何も無いですってば」



呆れながらもそう伝える彼女に、淳は目を閉じてフン、と拗ねる。

また雪の貯金が貯まったようだ。雪ちゃん、君がこの本屋中の本を買える日も近い。


「あ、そうだ」



ふと淳はあることを思い出し、カバンの中からある物を取り出した。

それは白い封筒だった。

「雪ちゃんのお金」



雪は驚きのあまり目を見開いた。

「あの時はバタバタしていて渡せなかったけど、」と言いながら淳は封筒を雪に差し出す。



雪は信じられない思いで、封筒を受け取った。父親からもらった、大事な大事なお小遣い。

もう二度と手元には戻ってこないと思っていた‥。

「先輩、本当にありがとうございます‥」



彼女から礼を言われ、淳は満足そうにニッコリと微笑んだ。

元々の封筒は汚れていたから捨てたと続け、

「今度からは通帳に入れておくといいよ」とアドバイスする。



雪は封筒を見つめながら、どういう経緯でこれが戻ってきたのかを改めて考えた。

脳裏に浮かんでくるのは、男の手を踏みつけていた彼の足‥。



雪の胸中は複雑な思いが渦巻いていた。

犯人を捕まえ、お金を取り返してくれたことに感謝する反面、

聡美の言うように彼に対して恐ろしいという思いもある‥。



雪は自分がどう言わなければならないか、を考えた。

彼女として、一人の人間として、彼のした行動に対しての自分の意見を。



雪は本を見ている先輩に近づくと、その服の裾を引っ張りながら声を掛けた。

「せ、先輩‥ウハハ‥あの、先輩‥」



わざとらしい笑みを浮かべる雪に、淳は思わずジト目である。



雪は笑みを浮かべながら、彼の反応を見るようにして言葉を続けた。

「だ、だけど~先輩ちょっとやり過ぎちゃったっていうか~」



雪は普段とは口調も違ってしまっているが、出来るだけ角が立たない言い方で続けた。

両手で淳の手を握りながら、自分の気持ちを口にする。

「ぼ、暴力は良くな‥」「良くないよね」



雪の言葉を先回りして口にする淳。

二人の時間が止まる‥。



見上げると淳は、怒るでも拗ねるでもない、

なんともニッコリとした笑顔を浮かべていた。




「分かってたんかい!と雪のツッコミ炸裂&気まずさボルテージMAXである。

そのまま背を向けようとする雪に、淳は行かないで行かないでと言ってウリウリした。



そして淳は本来の彼が持つ小狡い笑みを浮かべると、彼女の肩に腕を回しながら口を開く。

「俺も分かってるよ。事実ちょっと後悔半ば。色々な面で‥」



彼は自分の気持ちを口にした後、意味有りげな視線を彼女に流した。

それに射られる雪はタジタジだ。

 

「も、もちろん!犯人を捕まえたことはとっても素晴らしいことですが‥」

「でもあれはやり過ぎだよね?」



淳はそう言って彼女の肩から腕を外すと、呟くようにこう口にした。

「他に方法はいくらでもある‥」



頭脳明晰、そして社会的地位の高い彼が口にする”他の方法”‥。

雪はあんぐりと口を開けた。



それきり何事も無かったかのように本を眺める彼。

雪はそれ以上何も言えずに俯いた。(恐ろしくてそれ以上は聞けない‥)




空気を変えるように、雪は「そうだ!」と一言発した。

「資格が取れたのも先輩のおかげです。ありがとうございました」



「え?いや俺は何もしてないよ」

「それでも‥塾だけじゃなく、勉強も一緒にしてくれたじゃないですか」

雪はもう一度、ありがとうございましたと彼に感謝を伝えた。

どういたしまして、と彼が笑顔でそれに応える。

 

雪は彼を見上げたまま、もう一言彼に言葉を掛けた。

「‥二学期もよろしくお願いします」



「うん」



いつの間にか見慣れた、彼の笑顔。

雪はそんな彼の顔を見ながら、ある思いが心の中に浮かぶのを感じた。

先輩と学生生活を送るのも、もう次が最後の学期だ



彼は次の学期を最後に、大学を卒業する。

その先はどうなっていくのだろう、二人は、どうなっていくのだろう‥?




未来は、予測することが出来ない。


本屋を見回してみると、色々な人が居る。

皆様々な事情を抱えて、沢山の縁に導かれ、出会い、別れ、それぞれの人生を歩んでいく。




雪は思う。


これから先どんなことが起こるのか、誰と出会うのか、知ることは出来ない。と。


雪は周りを見回していた視線を、目の前の彼に戻した。

彼は雪の目の前に立ち、こちらを見つめて微笑んでいた。


けれど、

互いが一緒に居るということだけで、

もっと素敵な未来が待っているというそんな期待をしてみたって、良いのではないだろうか。






未来を予測することは出来ないけれど、もっと素敵な明日が来て欲しいと願ったり、

この人とずっと一緒にいたいと祈ることは出来る。


運命という大きな歯車に組み込まれた、小さな私達。


けれどそんな一人一人が持つささやかな願いで、この広い世界は回っている。


二学期もよろしく、そんな前向きなメッセージを抱いて、二人は次のステージへと向かって行く‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<二学期もよろしく>でした!

遂に二部も終わりを迎えました~~~!皆様、ここまで着いてきて下さってありがとうございましたT T

記事にして、二部は全154話でした‥長かったですね。一部の三倍‥。

さて明日からは三部に入ります!

相変わらず誤訳等あると思いますが、生温かい目で見守って下さるとありがたいです

「三部もよろしくお願いします」



と雪ちゃんに言ってもらっちゃたりして‥^^


さ、次回は<新学期>です。

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綺麗な夕陽

2014-02-05 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
まだ日が昇る前の、静かな時間。

河村亮は丁寧に靴紐を結んだ。



早朝の空気はひんやりしていて、夏の終わりといっても肌寒いほどだった。

亮は長袖のジャケットに灰色のキャップという出で立ちで、自分の部屋のドアの前に立つ。



そんな亮の気配を察して、寝ぼけ眼の小太り君が自分の部屋から顔を出した。

「河村クン、何でこんな朝早く出てくんだなん?新しい仕事かん?」



「おう」

「何の仕事かん?」



「食堂」

「はっは~ん」

小太り君は頷き、頑張れだなん、と言って大あくびをした。



亮が短く「おう」と答える。

小太り君が部屋のドアを閉めると、亮は一つ深呼吸をした。

自分の部屋の玄関まで持ってきている、大荷物を振り返る。



河村亮は、今日この下宿を去る。

二つの大きなカバンと身一つで、また違う町へと移動する。



階段を下り、下宿の玄関を出た。朝の光が眩しかった。

亮は大あくびをしながら、その清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。



通い慣れた通りを、一人闊歩する。もう来ることは無いだろう。

ここからの旅立ち、そして新しいステージへの、出発の朝だ‥。








そして私達は、私のせいで行けなかった旅行に日帰りで行った



ザザン、と海岸に波が打ち寄せる。

雪、聡美、太一の三人は波打ち際に立っていた。太一は二人の方を向きながら、ある重大な発表をする。

「もうあのゲームはしないッス」



太一はどうやらネットゲームのオフ会に参加し、メンバーとの仲違いの末喧嘩をして帰ってきたらしい。

ギリギリと歯噛みしながら、その事件を語る。

「自分達はゲームヘタクソのくせに、全部俺のせいにしやがったんス!

それにアイテム配分もめちゃくちゃで!それに対して不満も言っちゃいけないっていうんスか?!!」




そんなん知るか!と聡美の喝が飛ぶのも構わず、太一は叫びながら海へと走って行った。

多数こそが正義なのか!抗議すら出来ないのか!と憤りながら太一は飛ぶ。



聡美は太一を指さし喝を飛ばす。

「何で旅行直前にオフ会なんかして騒ぎを起こすのよ!それみたことか!」



雪と聡美が、砂浜に座る。

「日帰りだってのに時間がもったいないっての!」



海辺は風も強く、少し肌寒いほどだった。

相変わらず海に向かって叫び続ける太一の背中を見て、聡美が呆れ顔で息を吐く。



聡美は隣に座る雪に、日頃太一に感じている不満をぶち撒けた。

それは怒っているようであり、心配している風でもある。

「太一の奴、普段は無表情で飄々としてるくせに、

たまにカッとする癖があるから問題なのよ。いつか何かやらかすんじゃないかと思って気が気じゃないよ」




聡美はそう言った後、雪に向かって忠告するように言葉を掛けた。青田先輩のことだ。

「雪、あんたも先輩のこと注意して見てなさいよ。

あの事は確かにすごいと思うけど‥。理由はともかく暴力は良くないよ」





青田先輩が捕まえたあの犯人は、見ているこちらの気分が悪くなるくらいに殴られていた。

彼女を助けてくれた彼氏、と言うと聞こえは良いが、暴力が大嫌いな聡美にとっては、あれは衝撃的な出来事だったのだ。




「ヒーローはフィクションの中だけで、現実は現実なんだしさ」



聡美の言葉に、雪は複雑な気持ちで頷いた。

雪も彼の暴力は良くないと思ったが、”自分のため”にしてくれたことだからと、

彼にその是非を問うことが出来ないでいたからだ‥。




「あ!メウンタン!」



不意に太一が振り返り、メウンタン(魚出汁の辛い鍋)を食べに行こうと言って二人の元に戻ってきた。

ここの地方の名物料理なのだ。

太一が携帯でお店を調べるのを、二人がワイワイと覗き込む。味趣連、いよいよ出陣である。



すると雪が、とあるものに気がついた。

思わず顔が綻ぶ。



「夕焼けだ!夕焼け!」



三人はそれを見て感嘆の声を上げた。

「おおー」 「キレー!」



夕陽に向けて携帯を向けた。こういうのは撮るのが難しいと言って太一が苦戦する。

三人はキャイキャイとはしゃぎながら、日が沈む前の刹那を堪能する。










聡美が言った。


やっぱり三人はいいね、と。





太一が頷く。


携帯の中の夕陽は、キラキラと輝いている。





うん、と雪が答える。


黄金の光が、彼女の瞳に映りこむ。






少し寒いから、と言って太一が上着を二人に着せ掛けた。


三人は風に吹かれながら、互いの温もりを感じながら笑い合う。





三人って超いいね、と誰かが言った。


他の二人は心から頷く。


綺麗な夕陽が三人を染め上げる。


キラキラと輝きながら、キャイキャイとはしゃぐ彼らを。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<綺麗な夕陽>でした。

いや~もうなんか最終回みたい^^;

誰にも告げずに下宿を出て行く亮、一匹オオカミが様になってますね!

小太り君、悲しむだろうなぁ‥。


そして夕陽の前に肩を寄せ合う味趣連!大好きなところでした。

三人が食べに行くというメウンタンはこちら↓



めっちゃ辛いらしいですね。いつか食べてみたいです。

今回の太一のセリフは、訳をるるるさんに手伝って頂きました^0^!!感謝感謝デス~!

Special Thanx!!


さぁ、次の話で長かった2部もとうとう終わりを迎えます!!

次回<2学期もよろしく>、がんばります~!


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最後のボランティア

2014-02-04 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)


夏休み中通ったボランティアも、遂に最終回を迎えた。

雪は倉野愛の隣に座り、絵本を読んであげていた。

全ての物事には、ケジメが必要な時が来る

 

雪はウサギが出てくる絵本を読んでいた。愛は手遊びをしながらも、じっと雪の声に耳を傾けている。

「そしてウサギは、にんじんを一つ持って行ってもいいよと言われました」



雪は絵本をただ読むのではなく、時にオーバーアクションを混ぜながら愛の意識を自分の方に向けた。

しかし愛は絵本の内容自体に興味が無いようだ。

「ウサギはいーっちばん!大きなにんじんを!」



「にんじんきらい!」

マズイもん、と言って愛は机に突っ伏した。

しかし雪は慌てずに、「それじゃあ愛ちゃんは何が好き?」と質問した。



「アメちゃん!」と愛が答える。

雪は機転を利かせて、にんじんをアメに代えて絵本を読むことを続ける。

「ウサギは一番大きなアメを一つもらいました。けれどそれだけでは足りなくて、

隣にいたウサギのアメも取って‥」




ニコニコと雪は絵本を読むが、愛の想像ではズルいウサギが踊り狂っているイメージだ。

クスクス笑いながらウサギは、愛の脳裏をクルクルと‥。



「ウサギきらい!みんなきらいーー!!」



愛と雪の大騒ぎは、今やボランティアの時間恒例の光景になった。

またやってる‥と言いながら先生が、そんな二人の様子を微笑ましく見守っている‥。




愛の機嫌が悪くなったら、一旦外へ出て新鮮な空気を吸う。冷たいものでも食べに行こう、と言って席を外す。

”こうしなければ”に囚われず、相手を見て臨機応変に対応すること。

それは彼から教わった。



雪は愛にアイスキャンディーを買ってあげた。

まだ暑さの残る日差しの中を、アイスをかじる愛と並んで歩く。



しかし途中で愛は、アイスキャンディーを落としてしまった。

雪は泣き叫ぶ愛を抱き上げて、彼女なりに一生懸命愛をあやす。



そして愛は号泣したまま、やがて雪の腕の中で眠ってしまった。

ベンチに愛を横たえると、疲れた雪はそのまま一緒に居眠りを‥。

 


初めは愛との時間に戸惑って、思うようにいかない授業に苛立ったこともあった。

自己嫌悪に陥ったこともあった。

 

けれど共に過ごす内に、彼女と向き合う内に、雪は自分なりの方法で愛に接することが出来るようになっていった。

それは彼女のひたむきな努力と、相手を思いやる優しさの成せる技だ。



「けれどウサギ‥いや子犬は‥」



教室に戻った雪と愛は、絵本の続きを読み始めた。

ウサギは嫌、にんじんは嫌、と何かと嫌がる愛に合わせて読んでいるので、もう内容はハチャメチャだ。

「子犬‥のおばあさんね。だからえーと‥大きな犬‥大きな犬は‥

到底アメを諦めることは出来ませんでした」




こんなに苦労して読んでるのに全然聞いてない‥orz

雪は絵本を閉じて、最後の文章を愛に向かって語った。

「そしてついにアメを二個持って‥逃げましたよ、と」



愛の目の前に、雪はアメ玉を二つ置いた。気が散っていた愛も、思わずそれに手を伸ばす。

「アメちゃん!」



アメを持って喜ぶ愛を見て、雪が安堵の息を吐く。

愛はアメを両手に持ちながら、アメちゃんアメちゃんと呟いていた。そして雪は、信じられないものを耳にする。

「に、こ」



雪は目を丸くした。聞き間違いでなければ、今確かに愛は「二個」と言ったのだ。

愛がアメを一つ口に含む。



そして愛は片手に持ったアメを持って、呟くようにこう言った。

「いっこ‥」



雪の顔がみるみる笑顔になっていく。

「愛ちゃぁぁん!



雪は愛を抱き締めて喜んだ。

きゃあきゃあと大騒ぎする二人を見て、先生は若干呆れ顔‥。




「愛ちゃん!お姉ちゃん行っちゃうよ~?」



物事には必ず終りが来る。そして遂に、愛とのお別れの時が来た。

先生と教室を出ようとする雪は愛に何度も声を掛けるが、愛はいつも通り目も合わせず俯いているだけだった。



雪は教室のドアから、オーバーアクションで愛に言葉を掛ける。

「あいちゃーん!お姉ちゃん今日で最後なんだよ~?もう会えないんだよ~?」



雪は何度もバイバイ、と愛に声を掛けたが、最後まで愛は雪の方を向くことは無かった。

初めから終わりまで、残念だけれどそれは変わらなかった‥。


「お疲れ様」 「はい、短い間でしたがありがとうございました」



大学頑張ってね、と言って先生は雪に別れを告げた。雪は会釈をしながら廊下を歩き出す。

塾も終わって、ボランティアもこれで終わった‥



雪は心の中で呟きながら、ぽっかりと穴の空いたような気持ちを感じていた。

色々なことをやり遂げたのに、どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろう‥



廊下を歩く雪の耳に、小さな足音が聞こえた。

雪が振り返ると同時に、足音の主の愛が、雪の腰に抱きついた。



愛はゆっくりと口を開いた。顔を雪のお腹にうずめているので、若干声がくぐもっている。

「おねえちゃん‥いっちゃうの?」



雪は驚いていた。尚も愛は言葉を続ける。

「もうこない? なんでもうこないの?」



抱きつかれたお腹の辺りに、愛のぬくもりを感じた。ぽっかりと空いた心の穴が、温まっていくような気がする。

ぎゅっと強く服の端を掴んだ、小さな愛の手。雪は大事なことに気付かされた思いだった。

‥そうだ。なぜ忘れていたんだろう。



夏休みに巡り合った縁は、みゆきちゃんだけじゃない



雪は愛の目の高さに視線を合わせ、その小さな手をぎゅっと握った。

俯く彼女の瞳を覗き込むように、雪なりにこれからのことを説明する。

「愛ちゃん、お姉ちゃんはもう夏休みが終わるから、忙しくなるんだ‥」



しかし愛は必死に、アメ玉を手に持って言葉を紡いだ。

「ア‥アメちゃんがいっこ‥」



愛の手を握った雪の手を、愛はぎこちなく掴むとその掌を開いた。

コロン、と小さな気持ちが雪の手に乗った。

「にこ‥」



雪はアメを受け取りながら、愛の顔を見つめた。

いつも雪と目を合わせなかった愛だが、その時初めて二人の視線は、真っ直ぐに繋がった。



心と心が通い合う感覚が、雪の心の穴を温かく埋めていく。

思わず笑みがこぼれて、雪は微笑んだ。



雪は愛から、大切なことを教わった。

私はかつてこのボランティアを、就職活動の一環とだけ考えていた

雪は愛の顔を大きく撫でながら、彼女に優しく声を掛けた。

「愛ちゃん、お姉ちゃん行かないよ。また時々来るからね」



愛ちゃんが、人間関係の内の大切な一人だということを、見過ごしていたのかもしれない。

それはあまりにも申し訳ないことだ


雪の言葉と真心が、愛にゆっくりと伝わって行く。

「ほんとに?」



雪は「本当だよ!」と言って、愛を抱きしめようと手を伸ばした。

しかし愛はその手をすり抜けるように、さっさと元来た道を戻って行った。



小さな足が教室へ入って行く。

最後はやっぱり、いつも通りの倉野愛だった。



雪は笑顔を浮かべながら、愛が去って行くのを見届けた。

心の中に浮かぶのはたった一言だ。もうこの一言で、苦労した二ヶ月間も報われたように思う。

嬉しかった




終わっていくものと、終わらないもの。

雪はこの夏休みの終わりに、その二つのものに囲まれていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<最後のボランティア>でした。

雪ちゃん報われてよかったね~~T T

彼女のひたむきな気持ちが伝わったんだと思います。

ピンクのワンピースが可愛い愛ちゃんですが、



最後走り去る愛ちゃんの服がなぜか緑色に‥。



細かいクラブ~でした。


次回は<綺麗な夕陽>です。

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彼女との最後

2014-02-03 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
塾での最終試験が終わった雪は、大きく伸びをした。

「ああ~!終わった~!!」



手にした成績表の内容は上々だった。

何かと一緒になって勉強を見てくれた先輩に、感謝しなければ‥。



とうとうこれで塾も終わった。

雪が帰路を歩いていると、見慣れたあの子と出くわした。



二人は顔を見合わせたまま暫し沈黙したが、やがて近藤みゆきが口を開いた。

「試験‥どうだった? もう塾通わないんでしょ?」 



雪は頷き、みゆきに同じ質問を返した。みゆきは溜息を吐きながら答える。

「みゆきちゃんは?」

「あたし全然ダメー。勉強してないからしょうがないんだけどさ」



みゆきはもう大学も始まるし、雪と同じく塾は辞めると言った。

二人は互いに、元の日常に戻って行く。

「それじゃあ‥大学頑張って」 「うん、ゆっきーもね‥」
 


そう言って二人は別々の方向に歩き出した。

雪は前を向き、みゆきは雪の後ろ姿を横目で窺っている。



「みゆきちゃん」



不意に雪が振り返り、彼女の名を呼んだ。みゆきがビクッと身を固める。

みゆきの心の中に、未だわだかまりが残っている。雪は彼女を責めた自分に怒るだろうか、捨て台詞でも吐くだろうか‥。

「ありがとうね」



しかし雪はみゆきの予想に反して、ありがとうと言った。それは皮肉でも嫌味でもない、純粋な感謝だった。

「え?」と聞き返すみゆきに、雪は言葉を続けた。



「塾で話しかけてくれて、一緒に居てくれて」






始まりは、隣の席になったことだった。

派手な外見と周りを気にしない彼女の性分に、正直言って戸惑った。



けれど共に過ごす内に、彼女の内面は素直でいい子だと気付かされた。

誰もノートを貸してくれなかった時も、嫌な顔一つせず見せてくれた。



けれどどうしても価値観が合わないところがあった。

その度に雪は微妙な気分になり、みゆきはどこか不満気だった。

 

そしていつしか二人の間には亀裂が入り、

互いへの不信感は増し、結果関係は破綻して‥。



雪はトラブルが起こった時に、今まで築いてきた関係ごと諦めた彼女に失望した。

みゆきは他人の言葉を鵜呑みにして、目の前の雪を信じようとはしなかった‥。



けれど彼女にも彼女の考えがあるだろう、雪はそう考えた。

自分の意見を押し付けることも出来ず、結果みゆきとはそれまでの仲だったんだと関係を諦めた。



けれども、塾の中でみゆきに救われた場面が幾つもあった。

嬉しかったことも、楽しかったことも。

 

その時に感じた温かさや感謝は、本当の気持ちだった。

関係は破綻してしまっても、その時感じた気持ちまで無かったことにしてしまうことが、

雪にはどうしても出来なかった‥。







予想外の言葉を耳にしたみゆきは、そのまま暫し固まっていた。

雪はそれきり、彼女に背を向けて歩いて行く。



みゆきは雪の後ろ姿を目にしたまま、自分も廊下を歩き出した。

ゆっくりと彼女が言った言葉の意味と、彼女の懐の広さに気づいていく。

 

みゆきの瞳に、涙が滲んだ。

それはみるみる内に溢れ、気がつけばみゆきは号泣しながら廊下を歩いていた。




雪は心の中で、みゆきを思いながら独り呟いた。


本当にこれで全て終わり。私は、笑って言えていたかな‥?




雪はそのまま、最後まで振り返らなかった。

みゆきのように泣いていたのかもしれない、それとも涙を堪えて歯を食いしばっていたのかもしれない。

胸中で様々な思いが交錯する‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女との最後>でした。

少し短めですいません~~区切りを付けるとどうしても‥^^;

みゆきちゃんとの出会いから最後までのダイジェスト風にしてみました。色々ありましたねぇ。

遠藤さんや秀樹兄さんの時もそうでしたが、人間余裕がなくなると変に人を疑ったり卑屈になったり‥。

みゆきちゃんも本来はいい子なのに、他人の目や中傷、そしてあの悪評に疲れてやさぐれちゃったんだろうなぁと。

そんな本当の彼女の温かい部分に、最後感謝した雪ちゃんは大人ですね。

振り返らなかった雪ちゃん、涙が滲んでいたかもしれませんね^^

次回は<最後のボランティア>です。

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収束

2014-02-02 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)


淳と雪は病院へ行き、ひと通りの検査と処置を受けてから警察署へ向かった。

過剰防衛で問題になるかと思われた淳も、特に問題なく警察署から出ることが出来た。



雪が淳と蓮に付き添われながら建物から出ると、署の前に憮然とした表情で座っている亮と目が合った。

「あ」



亮は三人が出てくるのに合わせて立ち上がり、「無事終わったか?」と雪に声を掛けた。雪が頷く。

亮は、雪と淳の目の前に立った。雪の顔に貼られた湿布が痛々しい。



亮は複雑な胸中だった。雪に対してなんとも言えない想いが交錯する。

何かと災難に巻き込まれる彼女、そして亮が一番警戒している男と付き合っている彼女‥。

「‥お前の人生もマジで楽じゃねーな」



亮は溜息を吐きながら、彼女の運命を思って憂い嘆いた。

様々な経験を積んできた亮から見ても、雪の人生は多難なのだ‥。

亮は外食すると何かと色々なことが起こると言って、それきり三人に背を向けた。

「んじゃオレはこのへんで」



そう言って去って行く後ろ姿に、雪が申し訳なさそうにお礼を言う。蓮も明るく声を掛けた。

「亮さん!バイトの件、三日以内に連絡下さいね!それ過ぎたらアウトっすよ!」



亮は「わーってるわーってる!」と言って頷いた。

彼はこれから携帯の番号を変えたり引っ越しをしたり新居を探したり‥多忙なのだ。

亮は後ろ手に手を振りながら、「迷わねぇ様に出迎えよろしくな!」と言って去って行った。



彼の背中が小さくなるのを見送ると、淳が二人の帰宅を促す。

「行こう。弟くんも」



二人は頷いて、あの雑然としたアパートに向かった。蓮が「とんでもない一日だった」と言って溜息を付き、

淳が「皆災難だったね」と同意して頷く。



雪は警察署の方を見ながら、様々な想いが胸の中を交錯するのを感じた。

先ほど刑事から聞かされた事件の顛末が脳裏に蘇る。




刑事は男のプロフィールを雪に教えてくれた。

男はやはり大家の孫ではなく、架空の旅行会社の社長という立場であった。

年齢は三十三、前科もあるという。



大家のおばあさんはこの男からパッケージ旅行の詐欺に合い、入国が大幅に遅れていたらしい。

おばあさんが男から身体的な被害を受けたわけでは無いことを知って、雪は安堵した。



しかし心配なこともあった。それは先ほど刑事から聞いた男の供述内容であった。

ここに男が話した彼の主張を記載しよう。

「なぜ僕が捕まらなくてはならないんですか?あんたらの考えの方がおかしいと思いますけどね。

大したことしたわけでもないのに、性暴行だ下品だ愚劣だって‥大騒ぎしすぎなんですよ。僕のどこが変なんですか?

今の社会自体が歪んでいるってのに‥僕程度ならザラにいると思いますけどねぇ。

男が女を好むのは当たり前のことでしょう?刑事さんだってそうでしょ?

皆それぞれの方法で性欲を解消するんじゃないですか? うう‥いてて」




男は蓮を指さし、見下したような視線で彼を見て言った。

「世の中には僕より異常な人がいっぱいいるんですよ。そいつらから掴まえて消すべきで‥」



男の主張は続いた。独自の価値観で語られる饒舌な供述。

刑事は男を取り調べた感想を、最後に雪達に述べた。

「とにかく意識はしっかりとして喋っていました。

しかし勘違いを通り越して完全に詭弁ばかりです。正常でないことは確かでしょう」




もし今後の調査で男に精神的異常が認められれば、あの男は軽い処罰のみになると刑事は述べた。

それを聞く雪の表情は険しく、淳の表情は飄々としていた。



彼なりの報復は、法など関係ないということだろうか?

何にせよ今回遠藤さんに怪我をさせ、皆に被害を与えたあの男‥。



減刑になる可能性があるということに、雪は不快感を感じた。

神様、法律様、どうかあの男に重刑を‥。









まだ顔に痣の痕が痛々しいものの、雪は何とか事務室のアルバイトに来ることが出来た。

今回の事の顛末を、遠藤助手に報告する。

「それじゃ犯人は捕まったってことか。青田が捕まえたってのがちょっと癪だけど‥、

まぁとにかく!秀紀の容疑はこれで晴れたってことだよな?!」




雪は笑顔で頷いた。完全に疑惑は晴れたので心配しないで下さい、と言って。

「そりゃ良かっ‥」



遠藤は携帯を取り出して彼にメールしようとした。

しかし今自分と秀樹がどういう状況なのか、改めて気がついてその手が止まる。



遠藤は携帯を仕舞うと、そのまま雪に背を向けて自分のデスクへと戻って行った。

その態度と言動を見て、雪が遠藤と秀紀の関係を察する‥。



そして遠藤は自分のデスクに戻った途端あることを思い出し、雪のデスクにある物をドンと置いた。

「??」



遠藤は、自分を助けてくれた人はお前の知り合いだろうと言ってその包みを雪に渡した。

雪は頷く。河村亮のことだ。

「何度かお礼の電話したんだけど、いっつも面倒くさがられて‥。

それでも恩人に何もしないのも心苦しいからな、これ渡しといてくれ。言っとくけど超高級のハムだぞ」




妙に義理堅い遠藤と、何かと頓着しない亮と‥。雪は苦笑いしながら頷いた。

すると遠藤は「これやるよ」と言って、今度は雪に紙袋を寄越した。



中を見ると、そこにはビタミン剤が入っていた。これはお前に、という遠藤の言葉に雪が顔を上げる。

「まぁ‥その‥お前にも色々‥なんだ」



遠藤は雪と目を合わせないまま、言葉を濁した。

けれど彼女を心配する心と今までを詫びる気持ちは真っ直ぐ伝わり、思わず雪は笑顔を浮かべる。

「あたしには?!」 「私にはぁ~?」



遠藤の後ろから、品川&木口タックルが炸裂した。彼女らの突然の行動に、思わず遠藤は顔を青くする。

「あたしもビタミンのサプリよく飲むのに~」 「私も~」

「お前らビタミンの効果ゼロだな?!離せって!」



「まいっか、止めよ」 「そうね。遠藤くんの血管切れてまた出血しちゃう」

「押すなっつーの!!


夏休み中通った事務室のアルバイト。

最初は遠藤さんからの嫌がらせにやられてばかりで、慣れない仕事に緊張して‥。



夏休みも終わりの今は、この場所が居心地良く感じる。

「遠藤くんえーんえーん」 「えーんえーん」 「やめろ!



雪は心の中で呟いた。

大きな事件は時に傷を残すけれど、結局全てのことは時間が解決してくれるのだろう


 

事務室のバイトを終えて、夕方塾に向かう。雪は不思議な気分だった。

たった一日過ぎただけなのに、私と私の周囲は何事も無かったかのように日常に戻る

しかも塾では夏期講習最後のテストが行われた。雪は今までの勉強の成果をぶつけるように、解答用紙に向かう‥。



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<収束>でした。

遠藤さんのツンデレっぷりが良いですね‥!やっぱり本来は優しい人なんですね、遠藤さん。

携帯を手に取りかけて止めるところは切なかったですが‥T T


次回は<彼女との最後>です。

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