グループワークの授業が始まり、雪は机の上にPCを広げた。
画面に映し出されているのは、聡美と柳から送られてきた各々の分担資料だ。
「皆大体良いけど‥聡美が調べた事例、ちょっと合わない所があるみたい。
柳先輩はここにERG理論の説明を加えると尚良いですね」

テキパキとした雪の指摘に、聡美も柳もそれぞれ快く了承する。
しかしグループワークのメンバーは三人だったであろうか? いや、もう一人居るはずだ‥。
雪はジットリとした視線をもう一人のメンバーである彼に送った。
「そして‥健太先輩は‥」 「えっ?えぇ~?」

わざとらしくしらばっくれる健太に、雪は冷静に状況を伝える。
「先輩‥結局資料送って貰ってないんですけど‥昨日までに絶対送るって言っといて‥」

白目の雪に、呆れた表情の柳と聡美。そんな後輩達を前に、健太は甘えた口調で謝った。
「あ~ゴメンゴメン赤山~!昨日家でマ~ジ大変なことがあってよぉ。
全然抜けれなかったんだよぉ~」

雪は健太の度重なる言い訳の数々に、呆れて物も言えなかった。
そのまま黙っていると、雪の代わりに柳が健太を批判する。
「ちょ、先輩マジひどくねーすか?
分量一番少ないの任せたのに、それもしてきてねーんすか?」

柳は呆れ果てたように彼を批判したが、健太はまるで反省していない様子である。
そして続けて軽い調子の健太節が炸裂した。
「マジでゴメンって~!どーしても就活と家のゴタゴタが重なってよぉ。
赤山が理論の整理だけしてくれれば、後の事例は俺が全部入れるからよぉ!な?それでいいだろ?!」

健太の厚かましい提案に、雪は冷や汗を掻きながら異議を口に出す。
「あの‥先輩!理論の整理と事例を探すのは個人の役割なんですけど、
何で私が先輩の分までやらなきゃいけないんですか?!」

正論である雪の理論だが、健太は健太独自の理論で事を進めようとした。
「そりゃ~当然、赤山がすげー出来る子だからこうやってお願いしてんじゃんか~。
しかも班長なんだからこれくらいは‥なぁ?」

しかし雪も折れるわけにはいかない。健太の目を真っ直ぐに見据え、正論で切り返す。
「班長として私は、他のメンバーの資料を全部保管して確認もしてるんです!
基本的な個人パートまで私に任されても、それは処理出来ませんよ!」
もっともな雪の物言いをまともに受けて、健太は少し譲歩した。
「‥それじゃあ、俺も出来るとこまでやってみる‥」

そうポツリと口にした健太だったが、次の瞬間やはり大きな声で笑いながら、健太節を炸裂させた。
「おいおい~!若い奴がカリカリ心配ばっかすんなって!神経過敏だぜ?!
去年も聞いた授業だからそんなにヘマしねーって!!」

健太はそう言って雪の頭をグリグリと撫でた。その唐突な大きな動きに、皆戸惑いっぱなしである。
「まぁ足らんかったら赤山が補ってくれんだろ!ハッハッハッハ~!」

まるで悪びれずにそう口にする健太を前にして、三人は皆一様に心の中で呟いた。
こいつ、絶対やってこないな‥

雪の脳裏に、先学期の嫌な記憶が蘇る。
徹夜明けの体に、冷たく響いた教授の宣告‥。
グループ5は全員Dです。

このままでは同じ轍を踏むことになると、雪を始め聡美と柳もそれを感じていた。
柳が健太の腕を取る。
「先輩、ちょっと俺と話‥」

そのまま席を立たせようとする柳に、健太が抵抗しようとした時だった。
雪の低い声が、最終通告を健太に言い渡したのは。
「‥今回協力しなければ‥グループから除名します」

健太を始め雪のグループの他のメンツも、一瞬にして動きを止めた。
雪の宣告は、それほどセンセーショナルなものだったのである。

雪の方から、固い決意の炎が燃えるゴオオオという音がする。
ようやく本気で雪がそれを口にしたことを理解した健太が、改めて口を開いた。
「あ‥赤山‥、お前今なんつった?」

雪は自分が口にしていることの重大さを重々承知しながら、淡々と冷静に言葉を続けた。
「先週の授業、聞いてませんでした?
教授が”無賃乗車するメンバーは除名しても良い”と言っていたんです」

厳しい眼差しで強気に出る雪に、次の瞬間健太はガラリと態度を変えた。
「何だとっ?!呆れたぜ赤山ぁ!それが先輩に対する口の利き方かっ?!」

突然キレた健太に、雪達を始め教室中が驚き彼に視線を送った。
健太はそんなことなど構わずに、尚も自分の主張を続ける。
「誰がしないっつった?!してくるつっただろーがよ!
家庭の事情があるとも言ったじゃねーか!それも理解してくんねーっつーのか?!」

健太は続けて雪ににじり寄り、今までお前に良くしてやったのに、と彼女を責め始めた。
身長190cmを超える大男から凄まれるとさすがに怖い。雪は固く身を強張らせた。

すると場の空気を変えるように、柳が間に割って入る。
「もう止めて下さい、恥ずかしいじゃないっすか。
健太先輩は先学期の前科があるんすから」

俺も無賃乗車は遠慮願いたい、と続ける柳に、健太は尚も声を上げる。
「俺は4年だぞ?!」「はい。俺も4年ですが何か?」

柳の冷静な対処に、だんだんと健太の主張は弱くなっていった。
そして最後に聡美が雪の援護射撃をする。
「雪が担当してる箇所の分量が一番多いんです!
健太先輩は何もやって来なかったのに、逆ギレですか?!」

批判を口にする聡美に健太はカチンと来て再び文句を言おうとしたが、
ハッと気がつけば皆恨めしそうに健太のことを睨んでいた。さすがにこれにはお手上げである。

健太はそそくさと資料に目を落とすと、
「や‥やればいいんだろ?やればよぉ‥」

と言ってその後はブツブツ何かを呟いていた。
ようやく終息した騒動に、雪は深く一つ息を吐く。
い、一応収拾ついたか‥。怖かった‥。

背筋に伝った汗が、冷たくなっていた。
雪は未だ早鐘を打つ心臓を落ち着けながら、気まずい空気の中で居住まいを正した。

騒然となった教室内の雰囲気も、健太が黙ったことで徐々に落ち着いてきていた。
しかし雪達のグループの後方から、じっと彼らを見つめる視線がある‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<同じ轍を踏まず>でした。
雪が柳に言及したERG理論とは、モチベーション理論の一つだそうで。
http://ameblo.jp/work-life-harmony/entry-10385253387.html
詳しく書いてある記事のリンク貼ります。興味のある方はどうぞ‥。
健太先輩‥やってくれますね。しかし先学期とは同じ轍を踏まない雪ちゃん、お見事でした。
さてここで健太先輩のプロフなどおさらいしてみましょう。

やたら「家の問題」を出してくる健太ですが、家族構成は両親、弟、妹。三人兄弟の長男なんですね。
何がごたついてるのか‥それとも完全な嘘なのか‥。ちょっと気になるところです。
そして今回は‥また柳先輩の見せ場があって嬉しかったので、柳のプロフもおさらいさせて下さい。。

家族構成は祖母、父、兄。
あ~次男って感じ!でもA型ってところが何気に気を遣えるとこを表している!(興奮)
秋生まれだから「楓」? 韓国語でギョンファンって楓の意味なんでしょうか‥?(食いつきすぎ)
色々考えてスンキさんは人物像を作ってらっしゃるんでしょうね。
プロフから色々想像すると面白いです。脱線失礼しました~
次回は<仕掛けた罠>です。
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画面に映し出されているのは、聡美と柳から送られてきた各々の分担資料だ。
「皆大体良いけど‥聡美が調べた事例、ちょっと合わない所があるみたい。
柳先輩はここにERG理論の説明を加えると尚良いですね」

テキパキとした雪の指摘に、聡美も柳もそれぞれ快く了承する。
しかしグループワークのメンバーは三人だったであろうか? いや、もう一人居るはずだ‥。
雪はジットリとした視線をもう一人のメンバーである彼に送った。
「そして‥健太先輩は‥」 「えっ?えぇ~?」

わざとらしくしらばっくれる健太に、雪は冷静に状況を伝える。
「先輩‥結局資料送って貰ってないんですけど‥昨日までに絶対送るって言っといて‥」

白目の雪に、呆れた表情の柳と聡美。そんな後輩達を前に、健太は甘えた口調で謝った。
「あ~ゴメンゴメン赤山~!昨日家でマ~ジ大変なことがあってよぉ。
全然抜けれなかったんだよぉ~」

雪は健太の度重なる言い訳の数々に、呆れて物も言えなかった。
そのまま黙っていると、雪の代わりに柳が健太を批判する。
「ちょ、先輩マジひどくねーすか?
分量一番少ないの任せたのに、それもしてきてねーんすか?」

柳は呆れ果てたように彼を批判したが、健太はまるで反省していない様子である。
そして続けて軽い調子の健太節が炸裂した。
「マジでゴメンって~!どーしても就活と家のゴタゴタが重なってよぉ。
赤山が理論の整理だけしてくれれば、後の事例は俺が全部入れるからよぉ!な?それでいいだろ?!」

健太の厚かましい提案に、雪は冷や汗を掻きながら異議を口に出す。
「あの‥先輩!理論の整理と事例を探すのは個人の役割なんですけど、
何で私が先輩の分までやらなきゃいけないんですか?!」

正論である雪の理論だが、健太は健太独自の理論で事を進めようとした。
「そりゃ~当然、赤山がすげー出来る子だからこうやってお願いしてんじゃんか~。
しかも班長なんだからこれくらいは‥なぁ?」

しかし雪も折れるわけにはいかない。健太の目を真っ直ぐに見据え、正論で切り返す。
「班長として私は、他のメンバーの資料を全部保管して確認もしてるんです!
基本的な個人パートまで私に任されても、それは処理出来ませんよ!」
もっともな雪の物言いをまともに受けて、健太は少し譲歩した。
「‥それじゃあ、俺も出来るとこまでやってみる‥」

そうポツリと口にした健太だったが、次の瞬間やはり大きな声で笑いながら、健太節を炸裂させた。
「おいおい~!若い奴がカリカリ心配ばっかすんなって!神経過敏だぜ?!
去年も聞いた授業だからそんなにヘマしねーって!!」

健太はそう言って雪の頭をグリグリと撫でた。その唐突な大きな動きに、皆戸惑いっぱなしである。
「まぁ足らんかったら赤山が補ってくれんだろ!ハッハッハッハ~!」

まるで悪びれずにそう口にする健太を前にして、三人は皆一様に心の中で呟いた。



雪の脳裏に、先学期の嫌な記憶が蘇る。
徹夜明けの体に、冷たく響いた教授の宣告‥。
グループ5は全員Dです。


このままでは同じ轍を踏むことになると、雪を始め聡美と柳もそれを感じていた。
柳が健太の腕を取る。
「先輩、ちょっと俺と話‥」

そのまま席を立たせようとする柳に、健太が抵抗しようとした時だった。
雪の低い声が、最終通告を健太に言い渡したのは。
「‥今回協力しなければ‥グループから除名します」

健太を始め雪のグループの他のメンツも、一瞬にして動きを止めた。
雪の宣告は、それほどセンセーショナルなものだったのである。

雪の方から、固い決意の炎が燃えるゴオオオという音がする。
ようやく本気で雪がそれを口にしたことを理解した健太が、改めて口を開いた。
「あ‥赤山‥、お前今なんつった?」

雪は自分が口にしていることの重大さを重々承知しながら、淡々と冷静に言葉を続けた。
「先週の授業、聞いてませんでした?
教授が”無賃乗車するメンバーは除名しても良い”と言っていたんです」

厳しい眼差しで強気に出る雪に、次の瞬間健太はガラリと態度を変えた。
「何だとっ?!呆れたぜ赤山ぁ!それが先輩に対する口の利き方かっ?!」

突然キレた健太に、雪達を始め教室中が驚き彼に視線を送った。
健太はそんなことなど構わずに、尚も自分の主張を続ける。
「誰がしないっつった?!してくるつっただろーがよ!
家庭の事情があるとも言ったじゃねーか!それも理解してくんねーっつーのか?!」

健太は続けて雪ににじり寄り、今までお前に良くしてやったのに、と彼女を責め始めた。
身長190cmを超える大男から凄まれるとさすがに怖い。雪は固く身を強張らせた。

すると場の空気を変えるように、柳が間に割って入る。
「もう止めて下さい、恥ずかしいじゃないっすか。
健太先輩は先学期の前科があるんすから」

俺も無賃乗車は遠慮願いたい、と続ける柳に、健太は尚も声を上げる。
「俺は4年だぞ?!」「はい。俺も4年ですが何か?」

柳の冷静な対処に、だんだんと健太の主張は弱くなっていった。
そして最後に聡美が雪の援護射撃をする。
「雪が担当してる箇所の分量が一番多いんです!
健太先輩は何もやって来なかったのに、逆ギレですか?!」

批判を口にする聡美に健太はカチンと来て再び文句を言おうとしたが、
ハッと気がつけば皆恨めしそうに健太のことを睨んでいた。さすがにこれにはお手上げである。

健太はそそくさと資料に目を落とすと、
「や‥やればいいんだろ?やればよぉ‥」

と言ってその後はブツブツ何かを呟いていた。
ようやく終息した騒動に、雪は深く一つ息を吐く。
い、一応収拾ついたか‥。怖かった‥。

背筋に伝った汗が、冷たくなっていた。
雪は未だ早鐘を打つ心臓を落ち着けながら、気まずい空気の中で居住まいを正した。

騒然となった教室内の雰囲気も、健太が黙ったことで徐々に落ち着いてきていた。
しかし雪達のグループの後方から、じっと彼らを見つめる視線がある‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<同じ轍を踏まず>でした。
雪が柳に言及したERG理論とは、モチベーション理論の一つだそうで。
http://ameblo.jp/work-life-harmony/entry-10385253387.html
詳しく書いてある記事のリンク貼ります。興味のある方はどうぞ‥。
健太先輩‥やってくれますね。しかし先学期とは同じ轍を踏まない雪ちゃん、お見事でした。
さてここで健太先輩のプロフなどおさらいしてみましょう。

やたら「家の問題」を出してくる健太ですが、家族構成は両親、弟、妹。三人兄弟の長男なんですね。
何がごたついてるのか‥それとも完全な嘘なのか‥。ちょっと気になるところです。
そして今回は‥また柳先輩の見せ場があって嬉しかったので、柳のプロフもおさらいさせて下さい。。

家族構成は祖母、父、兄。
あ~次男って感じ!でもA型ってところが何気に気を遣えるとこを表している!(興奮)
秋生まれだから「楓」? 韓国語でギョンファンって楓の意味なんでしょうか‥?(食いつきすぎ)
色々考えてスンキさんは人物像を作ってらっしゃるんでしょうね。
プロフから色々想像すると面白いです。脱線失礼しました~
次回は<仕掛けた罠>です。
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