暫し沈黙を貫いていた淳であったが、ニヤつく横山に対して遂に口を開き始めた。
「そうだな‥なぜいきなり雪を巻き込むのか知らないが‥。
何の話なのか、俺には本当に分からないんだ。何か誤解してるんじゃない?」

誤解? と横山は彼の言葉を反芻し、鼻で嗤った。
しかし淳はそのまま頷くと、困ったような表情を浮かべてこう言った。
「他の人と勘違いしてるんじゃない?俺こんなメール送ってないよ」

横山は舌打ちをしながら、吐き捨てるように言った。
「は?知らん振りもここまで来ると反吐が出るぜ‥」

横山は携帯を再び淳に見せるように手に持つと、その手の内を淡々と話し始めた。
「ひとまず言い訳すれば何か変わるんすか?先輩、番号すら変わってないっつーのに。
は~マジ往生際悪すぎなんスけど‥」

淳は何も言わない。
横山を俯瞰したまま、彼の発言をただじっと聞いていた。
「本当なら皆が忘れた頃復学して、じっくり機会を見てから先輩を責めるつもりだったんすよ。
当然携帯の番号も変わってると考えてね」

横山は彼を見上げながら、呆れたような口調で話を続ける。
「しっかし意外に先輩が考え無しでお粗末なんで、俺若干戸惑ってんすけどw
これまでの間、先輩はさぞ平和な日々を送られたんでしょうね?」

嫌味をふんだんに込めた横山の言葉にも、淳は何も言い返さない。
だんだんと焦れてきた横山は、ギリッと唇を噛んで言った。
「人をオモチャにすんのは楽しかったか?けどこんなこと許されないからな!」

しかし淳は尚も冷静だった。
何を言ってるのか分からない、なぜそんなに攻撃的なんだと言って彼を宥めた。
「ちょっと落ち着いてくれ。困るよ」

依然としてシラを切り続ける淳に、横山は逆上した。
もう終わりだ、と言った後、携帯を手に取る。
「もっと困らせてやろうか?!」

そして彼は時限爆弾のスイッチを入れた。
アドレス帳に載っている”青田先輩”のコールボタンを。

010-5555-4508。
横山はスピーカーモードにした携帯を淳に見えるようにかざし、ニヤリと口元を歪めた。

プルルル、プルルル、というコール音が、静まった教室に響く。
目を見開いている淳。そんな彼を見て、固まってる固まってると横山は嗤う。

淳の鞄の中で着信音が鳴るはずだ。
それかマナーモードで消音になっているかもしれないが。

横山は息を止めて待った。その爆弾が爆発するその瞬間を。
淳が携帯を取り出し、横山からの着信が鳴り響いているのを目にした瞬間、彼の勝利が確定する。
プルルル プルルル

プルルル プルルル

プルルル プルルル

‥しかし、待てど暮らせど、電話は繋がらなかった。
目の前の青田淳も微動だにしない。
「‥え?」

これはおかしい、と横山が思った瞬間、事態は思わぬ展開を迎える。
数回ものコールの後、電話が繋がったのだ。
「何よ、誰なの?」

「えっ?」

突然繋がった電話から、気怠そうな女の声がした。
思いも寄らない展開。横山はただ狼狽した。
「え‥?は‥?何で‥?!は‥?!」

もしもし、と電話口からは女の呼びかける声が聞こえている。
淳は、自分の携帯には何の反応も無いことを横山に見せた。

「ちょっと!何とか言ったらどうなのよ!!」

未だ理解がついていかない横山を、急き立てるように通話口から女の声がした。
何も言わない通話主に焦れたのか、女はだんだんとヒートアップする。
「ったく最近ただでさえムカつくことばっかだってのに‥。
お前みたいなク◯野郎のせいで更に滅入るっつーの!
つーかアンタ誰なのよ?ケイスケ?ヒロアキ?ノリタカ?おい、誰なんだってば?!また掛けてきたら承知しないから!」

横山は狼狽したまま、その女の剣幕に押されて電話を切った。
時限爆弾は思いも寄らない場所で爆発し、横山は顔面蒼白である。

顔から血の気が引いた横山は、何も考えられないまま淳を見上げた。
勿論紡ぐ言葉など、何も無いままに。

目の前の青田淳は、ゆっくりと天を仰ぐような仕草をしながら口を開いた。
「で‥」

そして彼は横山を俯瞰した。
それはただ高いところから彼を見下ろした、というよりも、横山そのものを見下げたような視線だった。
「お前今、何してるの?」

完璧と思っていた計画が、音を立てて崩れていくのを横山は感じた。
再び脳裏には、去年の夏休みの記憶が蘇る‥。


赤山雪にストーカー呼ばわりされ、福井太一に殴られ、横山は夜道を転がるようにひた走った。
蒸し暑い夏の夜、鼻血を拭いながら逃げる自分が、情けなくてしょうがなかった。
しかしそれ以上に、心の中は不安で揺れている。
起訴されたら俺はどうなる?い、いや赤山は許すって言ったじゃんか‥。
それでも噂が立ったら‥

不安と苛立ち、そしてとりとめのない怒り。
横山は携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。

何度目かのコール音の後、青田淳は電話に出た。
横山は噛み付くように声を荒げたかと思うと、勢い良く彼を責め立てた。
「どうしてくれんすか!先輩の言うとおりにしたのに全然ダメだったじゃないっすか!
全部先輩のせいッスよ!」

事態が飲み込めない、という淳の言葉にも、横山はひたすら先輩のせいだと繰り返した。
「赤山はレコーダーまで持ちだして告訴するって大騒ぎですよ!全部先輩のせいっすよ!
どうしてくれるんすか?!え?!」

淳は「お前は一体何をやらかしたんだ」と静かに問うた。それは程度の線を超えた彼に対する、冷たさを孕んでいる。
先輩の言うとおりに‥と横山が尚も彼に対する呵責を口にすると、通話口からは溜息が聞こえた。
「‥やめてくれ。もう疲れた。いつまでお前の話を受け入れれば満足するの?」

その言葉に、横山は沸々と湧いた怒りの全てをぶつけた。
握りしめた拳の中に、無念の情が篭っている。
「先輩こそ今更どういうつもりすか!さも俺の気持ちを分かってくれたようなフリして優しくしておきながら、
先輩のせいで結局ダメだったじゃないっすか!なんとか言ってみて下さいよ!」

横山の激昂が夏の夜道に響き渡る。
しかし通話口から聴こえてくるのは、凍えるほど冷たい声だった。
「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」

横山の脳裏に、球技大会での自分の言葉が蘇った。
てめぇら見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、
デレデレデレデレしてんじゃねーよ!!

言葉に詰まった横山に、淳は静かに通告した。
「あの言葉、そっくりそのままお返しするよ」

因果応報、悪因悪果。
彼を貶めた言葉で貶められた悔しさが、横山の胸の内を憎しみで燃やす。
そして今、彼はこれまでにない憤りが全身を駆け抜けていくのを感じていた。

思い描いていた予想図とは真反対の今の状況。
横山はそれを受け入れることは難く、燃え盛る怒りで震えている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<横山翔の復讐(3)>でした。
さて皆様、淳の仕掛けたトリックが分かりましたでしょうか?^^
なぜ横山の携帯は淳に繋がらなかったのか‥?
以前当ブログのコメ欄にも載せましたが、本家版コメ欄にあったそのトリックの全貌をもう一度書き出しますね。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
整理すると、淳は二つ携帯を持っていた。携帯A(末尾4580)と携帯B(末尾4508)である。
携帯Aは青田淳の携帯番号として、すべての後輩が知っている。

だが、横山がウザくなった淳は横山からのメールを無視し出して、横山ががなぜ無視するのかと問うと、
携帯番号を変えたんだと言い、携帯Bの番号を知らせた。

携帯Bを利用して、横山を慰めた赤山雪に対して、横山のストーカー気質を利用してメールで横山の行動を操作する。
(このメールは淳ではなく静香が打ったものであるのだが‥)


そして横山との最後の通話後、携帯Bを河村静香に譲った。

復学後、淳に復讐しようとしていた横山は友人の携帯アドレスに載っている淳の携帯Aの番号を見て、
携帯Bの番号と同じだと錯覚して(末尾が違うだけで番号自体が似ているから間違えたのだ。)復讐を決心する。

そして友人の携帯を使い携帯Aにメールを送り、淳を空き教室に呼び出して脅迫した。
すなわち真実は、淳は携帯Bを利用して雪と横山を陥れた事実、そして緻密に証拠隠滅したということである。
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ということでした。
詳しくは<淳>その回想にも書いてありますのでどうぞ~^^
次回も<横山の復讐(4)>です‥横山長引きましてスイマセン~^^;
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「そうだな‥なぜいきなり雪を巻き込むのか知らないが‥。
何の話なのか、俺には本当に分からないんだ。何か誤解してるんじゃない?」

誤解? と横山は彼の言葉を反芻し、鼻で嗤った。
しかし淳はそのまま頷くと、困ったような表情を浮かべてこう言った。
「他の人と勘違いしてるんじゃない?俺こんなメール送ってないよ」

横山は舌打ちをしながら、吐き捨てるように言った。
「は?知らん振りもここまで来ると反吐が出るぜ‥」

横山は携帯を再び淳に見せるように手に持つと、その手の内を淡々と話し始めた。
「ひとまず言い訳すれば何か変わるんすか?先輩、番号すら変わってないっつーのに。
は~マジ往生際悪すぎなんスけど‥」

淳は何も言わない。
横山を俯瞰したまま、彼の発言をただじっと聞いていた。
「本当なら皆が忘れた頃復学して、じっくり機会を見てから先輩を責めるつもりだったんすよ。
当然携帯の番号も変わってると考えてね」

横山は彼を見上げながら、呆れたような口調で話を続ける。
「しっかし意外に先輩が考え無しでお粗末なんで、俺若干戸惑ってんすけどw
これまでの間、先輩はさぞ平和な日々を送られたんでしょうね?」

嫌味をふんだんに込めた横山の言葉にも、淳は何も言い返さない。
だんだんと焦れてきた横山は、ギリッと唇を噛んで言った。
「人をオモチャにすんのは楽しかったか?けどこんなこと許されないからな!」

しかし淳は尚も冷静だった。
何を言ってるのか分からない、なぜそんなに攻撃的なんだと言って彼を宥めた。
「ちょっと落ち着いてくれ。困るよ」

依然としてシラを切り続ける淳に、横山は逆上した。
もう終わりだ、と言った後、携帯を手に取る。
「もっと困らせてやろうか?!」

そして彼は時限爆弾のスイッチを入れた。
アドレス帳に載っている”青田先輩”のコールボタンを。

010-5555-4508。
横山はスピーカーモードにした携帯を淳に見えるようにかざし、ニヤリと口元を歪めた。

プルルル、プルルル、というコール音が、静まった教室に響く。
目を見開いている淳。そんな彼を見て、固まってる固まってると横山は嗤う。


淳の鞄の中で着信音が鳴るはずだ。
それかマナーモードで消音になっているかもしれないが。

横山は息を止めて待った。その爆弾が爆発するその瞬間を。
淳が携帯を取り出し、横山からの着信が鳴り響いているのを目にした瞬間、彼の勝利が確定する。
プルルル プルルル

プルルル プルルル

プルルル プルルル

‥しかし、待てど暮らせど、電話は繋がらなかった。
目の前の青田淳も微動だにしない。
「‥え?」

これはおかしい、と横山が思った瞬間、事態は思わぬ展開を迎える。
数回ものコールの後、電話が繋がったのだ。
「何よ、誰なの?」

「えっ?」

突然繋がった電話から、気怠そうな女の声がした。
思いも寄らない展開。横山はただ狼狽した。
「え‥?は‥?何で‥?!は‥?!」

もしもし、と電話口からは女の呼びかける声が聞こえている。
淳は、自分の携帯には何の反応も無いことを横山に見せた。

「ちょっと!何とか言ったらどうなのよ!!」

未だ理解がついていかない横山を、急き立てるように通話口から女の声がした。
何も言わない通話主に焦れたのか、女はだんだんとヒートアップする。
「ったく最近ただでさえムカつくことばっかだってのに‥。
お前みたいなク◯野郎のせいで更に滅入るっつーの!
つーかアンタ誰なのよ?ケイスケ?ヒロアキ?ノリタカ?おい、誰なんだってば?!また掛けてきたら承知しないから!」

横山は狼狽したまま、その女の剣幕に押されて電話を切った。
時限爆弾は思いも寄らない場所で爆発し、横山は顔面蒼白である。

顔から血の気が引いた横山は、何も考えられないまま淳を見上げた。
勿論紡ぐ言葉など、何も無いままに。

目の前の青田淳は、ゆっくりと天を仰ぐような仕草をしながら口を開いた。
「で‥」

そして彼は横山を俯瞰した。
それはただ高いところから彼を見下ろした、というよりも、横山そのものを見下げたような視線だった。
「お前今、何してるの?」

完璧と思っていた計画が、音を立てて崩れていくのを横山は感じた。
再び脳裏には、去年の夏休みの記憶が蘇る‥。



赤山雪にストーカー呼ばわりされ、福井太一に殴られ、横山は夜道を転がるようにひた走った。
蒸し暑い夏の夜、鼻血を拭いながら逃げる自分が、情けなくてしょうがなかった。
しかしそれ以上に、心の中は不安で揺れている。
起訴されたら俺はどうなる?い、いや赤山は許すって言ったじゃんか‥。
それでも噂が立ったら‥

不安と苛立ち、そしてとりとめのない怒り。
横山は携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。

何度目かのコール音の後、青田淳は電話に出た。
横山は噛み付くように声を荒げたかと思うと、勢い良く彼を責め立てた。
「どうしてくれんすか!先輩の言うとおりにしたのに全然ダメだったじゃないっすか!
全部先輩のせいッスよ!」

事態が飲み込めない、という淳の言葉にも、横山はひたすら先輩のせいだと繰り返した。
「赤山はレコーダーまで持ちだして告訴するって大騒ぎですよ!全部先輩のせいっすよ!
どうしてくれるんすか?!え?!」

淳は「お前は一体何をやらかしたんだ」と静かに問うた。それは程度の線を超えた彼に対する、冷たさを孕んでいる。
先輩の言うとおりに‥と横山が尚も彼に対する呵責を口にすると、通話口からは溜息が聞こえた。
「‥やめてくれ。もう疲れた。いつまでお前の話を受け入れれば満足するの?」

その言葉に、横山は沸々と湧いた怒りの全てをぶつけた。
握りしめた拳の中に、無念の情が篭っている。
「先輩こそ今更どういうつもりすか!さも俺の気持ちを分かってくれたようなフリして優しくしておきながら、
先輩のせいで結局ダメだったじゃないっすか!なんとか言ってみて下さいよ!」

横山の激昂が夏の夜道に響き渡る。
しかし通話口から聴こえてくるのは、凍えるほど冷たい声だった。
「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」

横山の脳裏に、球技大会での自分の言葉が蘇った。
てめぇら見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、
デレデレデレデレしてんじゃねーよ!!

言葉に詰まった横山に、淳は静かに通告した。
「あの言葉、そっくりそのままお返しするよ」

因果応報、悪因悪果。
彼を貶めた言葉で貶められた悔しさが、横山の胸の内を憎しみで燃やす。
そして今、彼はこれまでにない憤りが全身を駆け抜けていくのを感じていた。

思い描いていた予想図とは真反対の今の状況。
横山はそれを受け入れることは難く、燃え盛る怒りで震えている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<横山翔の復讐(3)>でした。
さて皆様、淳の仕掛けたトリックが分かりましたでしょうか?^^
なぜ横山の携帯は淳に繋がらなかったのか‥?
以前当ブログのコメ欄にも載せましたが、本家版コメ欄にあったそのトリックの全貌をもう一度書き出しますね。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
整理すると、淳は二つ携帯を持っていた。携帯A(末尾4580)と携帯B(末尾4508)である。
携帯Aは青田淳の携帯番号として、すべての後輩が知っている。

だが、横山がウザくなった淳は横山からのメールを無視し出して、横山ががなぜ無視するのかと問うと、
携帯番号を変えたんだと言い、携帯Bの番号を知らせた。

携帯Bを利用して、横山を慰めた赤山雪に対して、横山のストーカー気質を利用してメールで横山の行動を操作する。
(このメールは淳ではなく静香が打ったものであるのだが‥)


そして横山との最後の通話後、携帯Bを河村静香に譲った。

復学後、淳に復讐しようとしていた横山は友人の携帯アドレスに載っている淳の携帯Aの番号を見て、
携帯Bの番号と同じだと錯覚して(末尾が違うだけで番号自体が似ているから間違えたのだ。)復讐を決心する。

そして友人の携帯を使い携帯Aにメールを送り、淳を空き教室に呼び出して脅迫した。
すなわち真実は、淳は携帯Bを利用して雪と横山を陥れた事実、そして緻密に証拠隠滅したということである。
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ということでした。
詳しくは<淳>その回想にも書いてありますのでどうぞ~^^
次回も<横山の復讐(4)>です‥横山長引きましてスイマセン~^^;
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