「もらってない人ー?」「あたしもあたしも!」
誰かが手に入れて来た過去問が、大量にコピーされ机の上に置かれた。
学生達はそれを一部ずつ取って行き、それぞれに自分の意見を口にする。
「過去問は雪ちゃんだけが持ってるモンじゃないっつーの」
「あの子には絶対あげちゃダメ」
「いやでもさー、健太先輩が変にでしゃばったから、
雪ちゃんにお願いするにも誰も出来なくなったんじゃん?」
過去問と赤山雪。それをめぐる皆の意見は様々だ。
そんな中、直美の友人・黒木典は客観的な意見を述べる。
「てか雪ちゃんは青田先輩の過去問持ってんだから、
欲しがんないでしょ」
去年の学年首席の過去問以上に上質な物などない。
皆内心そう思っているが、糸井直美はそのプライドから典に対してこう言ってみせた。
「もういいって。過去問なんて持ってなくてもいーし。
遠藤さんの話では教授、問題新しくするって言うしさ」
問題が一新されれば、過去問はただの紙切れ同然。
従って雪が持つ”青田先輩の過去問”も、何の意味も持たなくなる。
そんな直美の意見に、同期の女子はこう返す。
「うちの学科の卒験、もう3年連続過去問通りなのに、
遠藤さんの話を信じるの?」
そして雪と同期の吉田海という女の子は、ポツリとこう口にした。
「それでもあたしは青田先輩の過去問が‥」
「ストップ!」
直美は強引に彼女の話を切り、ウンザリしたような顔で口を開く。
「それじゃ雪ちゃんがますます調子に乗‥」
「ちょっと通りますね」
直美の後ろから、雪が突然姿を現した。
雪の悪口を言いかけていた直美は、口を貝のように閉じて固まる。
しんとする教室内。
雪は彼女達を横目で窺いながら、空いている席へと向かう。
雪は歩きながら、チラッと一人の女の子の方へと視線を流した。
先ほど「それでもあたしは青田先輩の過去問が‥」と口にした吉田海だ。
海は雪と目が合うと、思わずビクッと身体を震わせた。
しかし雪は何も言わず、ふいっと背を向けて行ってしまう。
席に就いた雪の元に、親しくしている子達が集い始めた。
「雪、おはよ」「今日は一人?」
外ハネヘアーの同期が、口に手を当てながらコソッと雪にこう話す。
「あたしこの空気マジで胃に来る ムカツクー」
雪は二人の同期に挟まれながら、離れた席に座る直美の方を窺った。
直美は過去問をしっかりと抱え込みながら、隣に座る典にこう聞いている。
「あの子これ欲しがってそう?」「さぁ」
どこか不穏な空気が、教室全体に漂っていた。
不満そうな顔をした女子達や、寝ている男子、音楽を聞いて素知らぬフリをする子。
交錯する関心と無関心‥。
暫くしてからもう一度、海は雪のことを窺った。
すると再び、バチッと二人の目が合う。
二度目のビックリ。
海は目を丸くしながら、再び身体を震わせる‥。
授業が始まり、教授が壇上で講義を始めた。
雪は教授の話に耳を傾け、板書された内容をノートに取る。
ブルル‥
すると鞄に入れた携帯が震え、バイブ音が教室に響いた。
画面には”先輩”の文字が踊る。
「ここの箇所絶対テストに出るぞー。チェックしろー」
雪は携帯の電源をオフにしながら、教授の指摘した箇所を強くマークした。
そして最後まで、雪は真面目に授業を受けたのであった。
終了のチャイムが鳴り、雪は一人で外へと出た。
道を歩いていると、後ろから彼女を呼び止める声が掛かる。
「雪ちゃん」
雪が振り返ると、あの子が立っていた。
同期の海ちゃんである。
雪は微笑んで彼女に声を掛けた。
「あ、海ちゃん。どうしたの?」
すると海は鞄からプリントを取り出すと、雪に向かってこう言った。
「さっき配られた過去問、雪ちゃんも見る?」
変なプライドで噛み付いたりとか、相手を悪者にしたりとか、下手な小細工など何もなしに、海は過去問を差し出した。
そんな海を前にして雪は、ニッコリと微笑んでこう返す。
「ううん、大丈夫」
雪のその返事を聞いて、海は若干窺うようにこう言った。
「だよね、雪ちゃんのは青田先輩から貰ったヤツだから、他のなんて‥」
そう言う海に対し、雪はかぶりを振って笑顔を浮かべる。
「ううん、貰えなくて残念だよ。
先輩の過去問、今日大学に持って来てたら見せ合いっこ出来たのに」
そして雪は笑顔を浮かべながら、海にこう提案した。
「今度持って来た時、交換しよっか」
「えっ?」
予想外の返答に、思わず目を剥いた海。
そんな海の目の前で、雪は穏やかに微笑んでいる。
拍子抜け、というか、呆気に取られた、というか、とにかくポカンとした表情をしながら、
海は雪のことを見つめていた。そんな同期を前にして、雪は思う。
皆が同じ状況なわけじゃない。
だから当然、皆が同じ意見であるはずがない。
そんな非常に単純な事実を、私たちは実によく忘れてしまうー‥。
一方こちらは、教室内でテキストに目を落とす佐藤広隆。
ポケットの中の携帯が震えると、佐藤はすぐにそれを取り出した。
河村静香?!
メールが一通届いている。
佐藤は緊張しながらそれを開いた。
先輩、財務学会の発表の資料、もう全部準備しました?
もしまだなら、一緒にお昼食べながらやりませんか?
しかしそれは、赤山雪からの勉強お誘いメールだった。
思わず気が抜ける佐藤‥。
とりまOKっと‥
欲しい返事はなかなか貰えない。
佐藤は心をソワソワさせながら、あの自由奔放な彼女のことを考え続ける‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの意見>でした。
海ちゃん、青田先輩の過去問GET!ですかな。
登場人物それぞれが自分の考える”賢明な対処”を全うする、という流れになって来てますね。物語全体が。
さて次回は<鍵の行方>です。
聡美の考える賢明な対処は、果たして実を結ぶのか否か‥。
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誰かが手に入れて来た過去問が、大量にコピーされ机の上に置かれた。
学生達はそれを一部ずつ取って行き、それぞれに自分の意見を口にする。
「過去問は雪ちゃんだけが持ってるモンじゃないっつーの」
「あの子には絶対あげちゃダメ」
「いやでもさー、健太先輩が変にでしゃばったから、
雪ちゃんにお願いするにも誰も出来なくなったんじゃん?」
過去問と赤山雪。それをめぐる皆の意見は様々だ。
そんな中、直美の友人・黒木典は客観的な意見を述べる。
「てか雪ちゃんは青田先輩の過去問持ってんだから、
欲しがんないでしょ」
去年の学年首席の過去問以上に上質な物などない。
皆内心そう思っているが、糸井直美はそのプライドから典に対してこう言ってみせた。
「もういいって。過去問なんて持ってなくてもいーし。
遠藤さんの話では教授、問題新しくするって言うしさ」
問題が一新されれば、過去問はただの紙切れ同然。
従って雪が持つ”青田先輩の過去問”も、何の意味も持たなくなる。
そんな直美の意見に、同期の女子はこう返す。
「うちの学科の卒験、もう3年連続過去問通りなのに、
遠藤さんの話を信じるの?」
そして雪と同期の吉田海という女の子は、ポツリとこう口にした。
「それでもあたしは青田先輩の過去問が‥」
「ストップ!」
直美は強引に彼女の話を切り、ウンザリしたような顔で口を開く。
「それじゃ雪ちゃんがますます調子に乗‥」
「ちょっと通りますね」
直美の後ろから、雪が突然姿を現した。
雪の悪口を言いかけていた直美は、口を貝のように閉じて固まる。
しんとする教室内。
雪は彼女達を横目で窺いながら、空いている席へと向かう。
雪は歩きながら、チラッと一人の女の子の方へと視線を流した。
先ほど「それでもあたしは青田先輩の過去問が‥」と口にした吉田海だ。
海は雪と目が合うと、思わずビクッと身体を震わせた。
しかし雪は何も言わず、ふいっと背を向けて行ってしまう。
席に就いた雪の元に、親しくしている子達が集い始めた。
「雪、おはよ」「今日は一人?」
外ハネヘアーの同期が、口に手を当てながらコソッと雪にこう話す。
「あたしこの空気マジで胃に来る ムカツクー」
雪は二人の同期に挟まれながら、離れた席に座る直美の方を窺った。
直美は過去問をしっかりと抱え込みながら、隣に座る典にこう聞いている。
「あの子これ欲しがってそう?」「さぁ」
どこか不穏な空気が、教室全体に漂っていた。
不満そうな顔をした女子達や、寝ている男子、音楽を聞いて素知らぬフリをする子。
交錯する関心と無関心‥。
暫くしてからもう一度、海は雪のことを窺った。
すると再び、バチッと二人の目が合う。
二度目のビックリ。
海は目を丸くしながら、再び身体を震わせる‥。
授業が始まり、教授が壇上で講義を始めた。
雪は教授の話に耳を傾け、板書された内容をノートに取る。
ブルル‥
すると鞄に入れた携帯が震え、バイブ音が教室に響いた。
画面には”先輩”の文字が踊る。
「ここの箇所絶対テストに出るぞー。チェックしろー」
雪は携帯の電源をオフにしながら、教授の指摘した箇所を強くマークした。
そして最後まで、雪は真面目に授業を受けたのであった。
終了のチャイムが鳴り、雪は一人で外へと出た。
道を歩いていると、後ろから彼女を呼び止める声が掛かる。
「雪ちゃん」
雪が振り返ると、あの子が立っていた。
同期の海ちゃんである。
雪は微笑んで彼女に声を掛けた。
「あ、海ちゃん。どうしたの?」
すると海は鞄からプリントを取り出すと、雪に向かってこう言った。
「さっき配られた過去問、雪ちゃんも見る?」
変なプライドで噛み付いたりとか、相手を悪者にしたりとか、下手な小細工など何もなしに、海は過去問を差し出した。
そんな海を前にして雪は、ニッコリと微笑んでこう返す。
「ううん、大丈夫」
雪のその返事を聞いて、海は若干窺うようにこう言った。
「だよね、雪ちゃんのは青田先輩から貰ったヤツだから、他のなんて‥」
そう言う海に対し、雪はかぶりを振って笑顔を浮かべる。
「ううん、貰えなくて残念だよ。
先輩の過去問、今日大学に持って来てたら見せ合いっこ出来たのに」
そして雪は笑顔を浮かべながら、海にこう提案した。
「今度持って来た時、交換しよっか」
「えっ?」
予想外の返答に、思わず目を剥いた海。
そんな海の目の前で、雪は穏やかに微笑んでいる。
拍子抜け、というか、呆気に取られた、というか、とにかくポカンとした表情をしながら、
海は雪のことを見つめていた。そんな同期を前にして、雪は思う。
皆が同じ状況なわけじゃない。
だから当然、皆が同じ意見であるはずがない。
そんな非常に単純な事実を、私たちは実によく忘れてしまうー‥。
一方こちらは、教室内でテキストに目を落とす佐藤広隆。
ポケットの中の携帯が震えると、佐藤はすぐにそれを取り出した。
河村静香?!
メールが一通届いている。
佐藤は緊張しながらそれを開いた。
先輩、財務学会の発表の資料、もう全部準備しました?
もしまだなら、一緒にお昼食べながらやりませんか?
しかしそれは、赤山雪からの勉強お誘いメールだった。
思わず気が抜ける佐藤‥。
とりまOKっと‥
欲しい返事はなかなか貰えない。
佐藤は心をソワソワさせながら、あの自由奔放な彼女のことを考え続ける‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの意見>でした。
海ちゃん、青田先輩の過去問GET!ですかな。
登場人物それぞれが自分の考える”賢明な対処”を全うする、という流れになって来てますね。物語全体が。
さて次回は<鍵の行方>です。
聡美の考える賢明な対処は、果たして実を結ぶのか否か‥。
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