散々泣いた雪の目は、既に腫れ始めていた。
雪はヨレヨレになりながら、建物の陰で一人佇む。
↓人気のない場所で落ち着こうとしたけど‥
まるでメガネを外した、の◯太君のような顔‥。
雪は顔を両手で覆いながら、そんな自分が恥ずかしくて悶絶する。
これはナイわー!!何この顔!!
もう早く帰ろう‥
そう思いながら、一歩踏み出した時だった。
「泣いてるの?」
聞き覚えのあるその声、その言葉。
雪はゆっくりと振り返る。
そこには彼が立っていた。
柔らかな笑みを浮かべながら、少し不思議そうな顔をしながら。
「どうして泣いてるの?晴れの日なのに」
驚きのあまりポカンと口を開ける雪。
青田淳はニッコリと笑って、雪に向かって手を広げる。
「やぁ」
瞬間、学位服が翻った。
雪は風のように駆けて行き、思い切り彼に飛びついた。
「先輩!!」
「うう‥」
「うわあああん!!」「おお?」「来るなんて聞いてない!!」
淳の顔を見た瞬間、止まっていた涙が再び溢れ出した。
彼の胸でえんえん泣く雪と、彼女の柔らかな髪を撫でて微笑む淳。
「来れないって言ってたのに〜〜!」「はは、また泣いてる」
「だって私今日本当に情緒不安定で‥先輩は来れないって言うし〜〜」
「だから泣いてたの?」
「ううん、そのせいじゃないけど‥」「泣かない泣かない」
泣きじゃくる雪の身体を、淳は優しくさすってやった。
それでもまだ涙が止まらない雪に向かって、淳は落ち着いたトーンで呼び掛ける。
「雪ちゃん」
顔を上げる雪を、淳は穏やかな表情で見つめていた。
そしてその瞳に浮かぶ涙の粒を、温かな指先で静かに拭う。
「幸い母さんの飛行機が時間通りに来てね。見送ったその足で来たんだよ。泣かないで?ね?」
「遅くなっちゃったけど来れたから許してよ。ね、笑って?
今までお互い忙しくてまともに顔も見れなかったんだから。でしょ?」
淳は雪の頬に触れながら、そう言ってニコニコと嬉しそうに笑っている。
そしてどこか決まり悪そうな顔で唇を尖らせる雪に向かって、
淳は伝家の宝刀、この台詞を口にした。
「雪ちゃん、俺とメシでも食いに行かない?」
は‥、と雪は思わず笑った。
雪のその顔を見て、満面の笑みを浮かべる淳。
その台詞から二人の物語は始まった。
そしてそれはこれからも、ずっと続いて行くのだろう。
「行こう」
二人は手を繋いで、共に歩き出した。
雪の学位帽を淳が被り、二人で他愛のない会話をしながら。
「両親と聡美が待ってます。一緒に食べに行きましょ」「ああ」
「ところで私先輩の会社不採用だったじゃないですか。
お父さん、先輩に会ったらいきなり怒り出すかもしれません」「ええー?」
「卒業したことだし名前で呼ぶとかどう?」
「うーんもう先輩呼びがシックリ来ちゃってるからな〜‥あ、そういえば花束は?」
「車にあるよ。すっごく大きいからね?」「わ!」
先程雪は思った。
先輩は、河村氏は、いわば蜃気楼だったのだと。
けれどその言葉には続きがある。
<私が見た蜃気楼には実体があった>
<もしかしたら私達は、ただ道端ですれ違っただけだったかもしれない>
<そのままお互い遠く離れて、二度と会えなかったかもしれない>
けれどそうでない場合もある。
もしその人が自分にとって大切な人になったとしたら、覚えておきたいことがある。
<他者と互いにその違いを認めて、距離を縮めるということは>
<一方だけでなく両者が共に努力を必要とする難しいことなのだと、
私は数多くの経験を経て知ることが出来た>
”私達は別々の人間だ”と、かつて諦めに似た気持ちを抱いたことがあった。
だから分かり合えないのはしょうがないことなのだ、と。
けれどそれは自分一人の頭の中で考えていたことに過ぎなかったと、いつしか気づいたのだ。
彼と向き合い、ぶつかり、二人で歩み寄って行く中で。
<これからも、これまでと同じように色々なことが起こるだろう。
その結末に、必ず幸せが待ち受けているという保証もないけど>
赤山雪、青田淳。
二人が歩んだその軌跡は、幻想ではなくリアルな現実の中にあった。
そしてこれから向かう未来への道のスタートラインに、雪は自信に溢れた表情で立つ。
<今はもう、選択する準備は出来ている>
手に入れた全ての経験が、未来を生き抜く術になる。
この道の先にトラップが仕掛けられていたとしても、もう潜り抜けて行けるだろう。
その術を駆使しながら、自分をまた少し変えて行きながら。
彼と彼女が共に歩む未来が、輝かしいものになりますように。
さぁ帆を張り、錨を上げて、Bon Voyage!
<チーズインザトラップ ー完ー >
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<最終章(7)ーBon Voyageー>でした。
これにて、チーズインザトラップ最終話になります。
こうして最終話を見届けられたこと、本当に感無量‥いや感無亮です。
皆様、長い間本当に本当に本当にありがとうございました。
大団円、素晴らしいハッピーエンドでしたねー
しかし結局雪と淳はラブラブだったというオチ!!
まんまとスンキさんに踊らされましたよね〜んもう!罪なお方‥!
そして振り返ってみると‥
ブログを初めて約四年。
書き始めた時三歳だった長女は七歳になり、
長男が生まれ、そして次女が生まれ、私はいつの間にか三人の母となっていて。
ブログを始めた当初とは比べ物にならないくらい日々に忙殺されていく中で、
それでも定期的に更新を続けることが出来たのは、チーズインザトラップという物語への情熱と、
そして皆様が下さるコメントのおかげでした。
時に勉強になり、時に励まされ、まさに私を動かす原動力でした。
飽きっぽい私がこれだけ続けて来られたのは、紛れもなく皆様のおかげです。
皆様、本当にありがとう
そして作者のスンキさんへ、心より愛をこめて
あなたの紡いだ物語が、確実に私の人生を変え、数々のかけがえのない出会いをくれました。
本当にありがとうございました。そして七年間お疲れ様でした。
今後のご活躍を心よりお祈りしています!
さて、本家ではこの後エピローグが公開されています。
今最後のご挨拶をしたところですが、続けてエピローグ編行きますよ!
もう少しだけお付き合い下さいね!
あ、あとどうしてもこの場面の解説だけ‥
記事では日本設定の為「卒業したことだし名前で呼ぶとかどう?」という訳にしてますが、
本当は↓
「卒業したことだしオッパって呼ぶとかどう?」「ん〜それ微妙‥」
こうでした!先輩‥オッパ呼びして欲しかったのね‥!
次回は<エピローグ(1)ー涙の行方ー>です。
ようやく!!!あの淳の涙の続きが見れますよ!!!
再び淳号泣祭りだーっ!!
祭りだドン!!
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