「ああああっ‥!!」

血を吐くような叫びが、周りの空気をビリビリと震わせる。
その静香の奇行に吉川は動揺し、慌てて辺りを見回し始めた。
「おい騒ぐな!人が集まって来ちまうだろうが!おい!お前はこっちのクソ女を捕まえとけ!」

「早くしろ!!」

吉川は後ろに居る男にそう指示を出した。
悲壮な表情で男を見つめる雪と、男の目が合ったその時。
「くっ‥!」

ドンッ!

男は雪の方ではなく吉川に向かって走り、そのまま体ごと覆い被さった。
「ああああーっ」

未だ叫び続ける静香の隣で、目まぐるしく展開する事態に圧倒される雪。
「逃げろ!!」「何す‥っ!」

ハッ

「早く!」と男が叫ぶのと同時に、雪は静香の手を掴んで立ち上がった。
「静香さんしっかりして下さい!」「何しやがる?!離せコラァ!」

吉川と男が揉み合っている横をすり抜け、二人は再び走り出した。
路地裏を抜けると、そこにタイミング良くパトカーが到着する。
「何してくれんだよ!」「くっ‥!」

「うわっ!何だぁ?!」

大勢の警官が吉川と男を取り囲むのと同時に、雪と静香は角を曲がって姿を消した。
「令状持ってんのかよ?!」「この人に殴られたんです!」

その喧騒が、だんだんと遠くなる‥。
「はっ‥はっ‥」

「はっ‥」

静香の手を引きながら、雪は必死で走った。
息が切れ、再び静香の足は傷だらけになり血が滲む。


いつしか二人は手を離し、走るその足もやがて止まった。
よろ、とよろけた拍子に、静香はその場に倒れ込む。


静香は地面にへたり込むと、焦点の合わない瞳で、うわ言のように言葉を発した。
「あ‥ああ‥」

「なんなのもう‥は‥は‥」

「底辺じゃん‥は‥」

見開かれた目からはボロボロと涙が零れ落ち、いつしかそれは滝のように静香の頬を濡らす。
「うっ‥うぅっ‥」

「亮ぅ‥淳‥会長ぉ‥」

しかし、地面に突っ伏す静香の口から出たのは、この期に及んで彼らの名前だった。
それを聞いた途端、雪の胸に猛烈な怒りが込み上げる。

バッ!

「いい加減にしなさいよ!!!」

雪は静香の胸ぐらを掴むと、その目を真っ直ぐに見つめながら言葉を繰り出した。
「どうして誰も駆け付けて来ないのか、どうしてこんな目に合うのか、その原因を考えたことありますか?!
自分がこれまでして来たことを振り返ってみなさいよ!!」

「あの二人から奪うだけで!あれだけ与えてもらっていたのに!!」

「それなのに!!」

「静香さんは何一つ返したことないじゃない!」

雪の胸中は、複雑に歪んで揺れていた。
”与えられる”ことに飢えた魂が、痛いくらいに叫んでいる‥。


涙がその頬を流れ落ちるのを、雪はただ目の前で見ていた。
胸の中に湧き上がった怒りは、未だ轟々と燃え盛っている。


二人は暫しそのままの姿勢で向き合っていたが、
やがて静香は顔を逸らし、ふっと軽く吹き出した。

「何言ってるの?どうしてあたしが?」

「あたしは‥」


「空っぽで何も返せない‥」


真っ暗な奈落の底に堕ちないように、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。
けれど本当は気付いていたのだ。
もうとっくに自分は、何も持ってはいなかったのだとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(8)ー空っぽー>でした。
雪ちゃん!!よくぞ言ってくれた!!
往年の静香に対するモヤモヤを言葉にしてくれました。
今までの静香なら殴り合いになってたかもしれませんが、こんな時だから響きましたよね。
最後に口にした静香の本音が、重たいですね‥。
そして亮の元同僚の男、「この人に殴られた」と警察に申告するも、

顔、つるんと元通りやがな!

脅威の回復力が空回り!
次回は<見えない傷>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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血を吐くような叫びが、周りの空気をビリビリと震わせる。
その静香の奇行に吉川は動揺し、慌てて辺りを見回し始めた。
「おい騒ぐな!人が集まって来ちまうだろうが!おい!お前はこっちのクソ女を捕まえとけ!」

「早くしろ!!」

吉川は後ろに居る男にそう指示を出した。
悲壮な表情で男を見つめる雪と、男の目が合ったその時。
「くっ‥!」

ドンッ!

男は雪の方ではなく吉川に向かって走り、そのまま体ごと覆い被さった。
「ああああーっ」

未だ叫び続ける静香の隣で、目まぐるしく展開する事態に圧倒される雪。
「逃げろ!!」「何す‥っ!」

ハッ

「早く!」と男が叫ぶのと同時に、雪は静香の手を掴んで立ち上がった。
「静香さんしっかりして下さい!」「何しやがる?!離せコラァ!」

吉川と男が揉み合っている横をすり抜け、二人は再び走り出した。
路地裏を抜けると、そこにタイミング良くパトカーが到着する。
「何してくれんだよ!」「くっ‥!」

「うわっ!何だぁ?!」

大勢の警官が吉川と男を取り囲むのと同時に、雪と静香は角を曲がって姿を消した。
「令状持ってんのかよ?!」「この人に殴られたんです!」

その喧騒が、だんだんと遠くなる‥。
「はっ‥はっ‥」

「はっ‥」

静香の手を引きながら、雪は必死で走った。
息が切れ、再び静香の足は傷だらけになり血が滲む。


いつしか二人は手を離し、走るその足もやがて止まった。
よろ、とよろけた拍子に、静香はその場に倒れ込む。


静香は地面にへたり込むと、焦点の合わない瞳で、うわ言のように言葉を発した。
「あ‥ああ‥」

「なんなのもう‥は‥は‥」

「底辺じゃん‥は‥」

見開かれた目からはボロボロと涙が零れ落ち、いつしかそれは滝のように静香の頬を濡らす。
「うっ‥うぅっ‥」

「亮ぅ‥淳‥会長ぉ‥」

しかし、地面に突っ伏す静香の口から出たのは、この期に及んで彼らの名前だった。
それを聞いた途端、雪の胸に猛烈な怒りが込み上げる。

バッ!

「いい加減にしなさいよ!!!」

雪は静香の胸ぐらを掴むと、その目を真っ直ぐに見つめながら言葉を繰り出した。
「どうして誰も駆け付けて来ないのか、どうしてこんな目に合うのか、その原因を考えたことありますか?!
自分がこれまでして来たことを振り返ってみなさいよ!!」

「あの二人から奪うだけで!あれだけ与えてもらっていたのに!!」

「それなのに!!」

「静香さんは何一つ返したことないじゃない!」

雪の胸中は、複雑に歪んで揺れていた。
”与えられる”ことに飢えた魂が、痛いくらいに叫んでいる‥。


涙がその頬を流れ落ちるのを、雪はただ目の前で見ていた。
胸の中に湧き上がった怒りは、未だ轟々と燃え盛っている。


二人は暫しそのままの姿勢で向き合っていたが、
やがて静香は顔を逸らし、ふっと軽く吹き出した。

「何言ってるの?どうしてあたしが?」

「あたしは‥」


「空っぽで何も返せない‥」


真っ暗な奈落の底に堕ちないように、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。
けれど本当は気付いていたのだ。
もうとっくに自分は、何も持ってはいなかったのだとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(8)ー空っぽー>でした。
雪ちゃん!!よくぞ言ってくれた!!
往年の静香に対するモヤモヤを言葉にしてくれました。
今までの静香なら殴り合いになってたかもしれませんが、こんな時だから響きましたよね。
最後に口にした静香の本音が、重たいですね‥。
そして亮の元同僚の男、「この人に殴られた」と警察に申告するも、

顔、つるんと元通りやがな!

脅威の回復力が空回り!
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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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