またしても両手をぶらんと下げたまま、健太は固まった。
雪は厳しい表情を崩さぬまま、キッと健太のことを見据える。
「その反応を見ると、間違いないようですね」
そう言ってから、雪は徐々にこの場を後にする準備を始めた。
これ以上健太を刺激すると、きっと厄介なことになる‥。
「ですからもう、何度も変な弁解をするのは止めて、
今回の件、事の収拾を試みて下さい」
このままソロソロと健太の前から姿を消せば良い。
そう思って、一歩踏み出そうとした時だった。
「おいっ!!」
突然、凄まじい力で腕を引っ張られた。
その大声と力の強さ、そして何よりその剣幕に、雪は思わずサッと顔が青ざめる。
見上げたその先には、荒々しく肩で息をする健太の姿があった。
怒りのあまり顔にも首にも血管が浮き出ている。
固まる雪。
そんな彼女の上方から、健太の大きな手が伸びてくる。
すると次の瞬間、雪の視界がグルングルンと回り始めた。
「何回言わせんだっ?!俺じゃねーっつの!
証拠あんのか?!ねーだろ?!どうしてこんな仕打ちすんだよぉ!おらぁ!」
健太は必死の形相で、力加減も無しに雪の身体を前後に揺さぶる。
「俺がやったって言い張りやがって!次はどうしようってんだ?!
マジで学科長に言いに行くつもりか?!
俺が卒験の為に、教授達に良い顔しようとどれほど努力してると思ってんだっ!」
「あ!てかお前学科長に言いに行くって嘘だったんだろ?!このクソがっ!」
回り続ける視界。「ちょ‥待っ‥」と呟いた雪の声は、健太には届かなかった。
「んなナンセンスなことやるなら、他のヤツ探してやれよ!」
「俺に絡んで来んじゃねぇ!!」
そして健太は雪を揺さぶり続けた挙句、バッと強引に突き放した。
雪の視界はグラグラと揺れ、気持ち悪さを覚えた雪は思わず嘔吐く。
「おえっ‥」「クソが‥何てヤツだ‥!」
しかし健太はそんな雪の様子に気付かず、怒りにまかせて更に大声で捲し立てた。
「おいお前!ちゃんと考えて行動しろよ?!」
「どっかで俺が泥棒だなんて言ってみろ!マジでぶっ殺‥」
健太がその先を口にしようとした時、雪に異変が起こった。
揺れる視界のせいで、地面がグラリと歪む。
「あ‥」
平衡感覚を失くした雪の足元がフラフラともつれ、重心が後ろへと傾いた。
徐々に天地がひっくり返る‥。
その時、後方から彼女に走り寄る人物があった。
スローモーションのように倒れて行く彼女に向かって、その人物は両手を差し伸べる。
後ろへと傾いで行く彼女の後方に、その人物が重なって倒れて行く。
咄嗟に振り向いた視線の先には、みるみる迫り来る地面があった。
そして倒れる瞬間、そこにあったコンクリート杭が、その人物の手の甲を掠める。
ドサッ、という音と共に、雪とその人物は同時に地面に倒れ込んだ。
健太はその場で手を伸ばしながら、突然の出来事に面食らうばかりだ。
駐車場には、見覚えのある白い車がいつの間にか停まっていた。
そこから出て来たその人物が、雪と共に倒れている。
突然の大きな衝撃。雪はただ目を閉じていた。
そして彼女が薄目を開けると同時に、聞き覚えのある声が掛かる。
「大丈夫?」
見上げたそのすぐ傍に、今ここに居るはずのない人物の顔があった。
青田淳。
思わず雪は目を見開く。
「先‥」
青田淳は、ふと右手の手の甲に痛みを感じて、そこを眺めた。
しかしやがて、痛むその手を、守り切った彼女にそっと被せる。
嵐の前の静けさのように、不気味な静寂が三人を包み込んだ。
しかしそんな彼らの元へ、大声を上げながら近づいて来る三人組の姿がある。
「おいっ!」
「ストップストップ!おいっ!」
「何だよこのヤバイ男は!!」「止めろ止めろ!!落ち着いてくれぇぇ!!」
そこには、凄まじい形相で木の棒を掴み、こちらへ向かって来る河村亮の姿があった。
しかし彼を止めるべく、両脇に柳楓と佐藤広隆が必死になって縋り付いている。
亮は大汗をかきながら、はぁはぁと肩で息をしていた。
混乱の嵐が、皆を巻き込んで吹き荒れるーー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<健太との対決(3)>でした。
なんとここで主要人物達が一同に会すると‥!
今まで平行線だったストーリーが、ここを境に動き始めますよ!
次回<二度目の闇>です。
次回更新の2月17日は、0時ちょうどに日記もアップします~。そちらもよろしければどうぞ~^^
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