Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(27)ー嵐ー

2016-03-06 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
「まだ受け取ってない人は取りに来て」



級長の淳がそう言ってプリントを手渡すのを、亮は頬杖を付きながら自席でじっと眺めていた。

胸中はモヤモヤと煙る。

全部いつも通りだ‥。オレと静香に対して以外は



淳はクラスメートと普通に談笑していた。

先日淳から言われたあの言葉も、あの凄まじい怒りも、まるで嘘であったかのように。

 

それでも自分と淳との間に軋轢が出来てしまったことは、紛れも無い事実だった。

その証拠に、彼は一度たりとも亮と目を合わせては来ない。



亮は今の状況を引き起こした原因と言える出来事に思いを馳せていた。

あの時自分が口にしたあの言葉は、間違いなく過ちだったー‥。









ピアノコンクールが終わり、受賞祝いの花束を抱えた亮は、気が大きくなっていた。

そんな折に投げ掛けられたその質問が、運命の歯車を狂わせることになるとは、まるで想像出来なかったのだ。

「Z社の会長さん、河村君を見に来たんでしょ?」「当然!さっき見ただろ?

「本当?あの会長さん、すごく河村君を可愛がってるように見えたけど‥

どういった縁でそうなったの?」




話し掛けて来た他校の学生は、亮と青田会長がどんな関係なのかを聞きたがった。

ただの知り合いには見えないただならぬものを、彼を始め皆が感じ取っていたのである。

「単にお祖父さんの知り合いって感じには見えなかったよ。本当に不思議でさ」



その時亮の心の中に、むくむくととある感情が膨らんだ。

有名人と特別な仲であるという優越感や、光を浴びる自身への驕りが生んだ、虚栄心が。

「それは‥」



そして運命の歯車は、音を立てて回り出す。

「ははは!見りゃ分かんだろ!親父みてぇなもんなんだって。

もしかしたら実の息子より可愛がられてるかもしんねーな!なーんて冗談冗談ww




亮は今自身が口にした”親父”という言葉に、どこか温かい響きと、反対に皮肉の意味合いを感じた。

とうに両親を失くした自分が今更父親を得たような口ぶりは、亮の心に微かな陰を落とす。

亮はどこか淋しげな表情で、その単語をもう一度口に出した。

「親父‥みてぇな‥」







亮のその表情とその言葉は、その男子学生にどこか違和感を残す結果になった。

そして彼の憶測がいつしかおかしな噂となって、嵐のように吹き荒れることになる。

有名人を相手に、バカな過ちだった。

その言葉が誤って広まって行った過程自体は、オレは知らない。

そんなことはどうでもいい。




重要なのは、「河村亮と青田淳は腹違いの兄弟」という

とんでもない噂が学校全体に広まったことと、




その噂が、淳に相当な衝撃を与えたってことだ。



その噂を耳にした時の淳は、恐ろしい程憤っていた。

「欺瞞という言葉を知ってるか」と問われたあの時、二人の間にあったその全てが、



壊れた。








とんでもない噂は学校全体を巻き込んで嵐のように吹き荒れ、

飛び交う憶測が、変な方向へどんどん肥大して行った。

状況はもはや収拾不可能かと思われたが、とある人物の鶴の一声で、事態は終息へと向かう。

結局会長が丸く収めてくれたおかげで、噂はデマということで落ち着いたけど



なんと会長が直々に学校まで出向いて、事実関係を教師達に説明したのだ。

「流れているという噂は、ご存知の通り全て根も葉もない嘘ですので。

静香と亮に被害が及ばぬよう、きっちりと取り締まって頂くようお願いします」




担任も校長も、突然現れたその大物人物に目を剥いていたが、

青田会長は柔和な態度で、至極寛容に事態を収めた。

「子供達というのは気短で想像力も長けていますからね、

話が捻じ曲がって伝わってしまったんでしょう」




にこやかに、柔らかに、その残酷な真実をつまびらかにする。

「無論亮は、私の子供ではありません」







確かにな‥



会長が口にしたその真実は、亮の心にどこか暗い陰を落とした。

そして”河村亮は青田会長の息子ではない”というその事実は、再び変な方向へと枝葉を伸ばして行く。

失言一つの対価はあまりにも大きい。

援助されているという事実が明らかになった途端、手の平を返すようなあの態度、




見下すようなあの目付き、



あの眼差し‥



幼い頃嫌というほど目にして来たあの眼差しを、亮は今再び皆から向けられていた。

そしてそれは亮と同じく、静香にも向けられることとなる。

関係の無い静香まで巻き込んでしまったことに亮の良心は痛んだが、それでも少しの救いがあった。

不幸中の幸いは‥静香はあの性格だから大していじめらんなくて済むってこと‥。

まぁ‥淳に無視されんのがキツイみてーだけど‥




そんで‥



頬杖を付きながら、亮はクラスメートと談笑する彼の方を見た。

淳‥



事態は収拾したが、未だ問題は間違いなく残っている。

事件はちょっとしたハプニングとして幕を閉じたけど、



あの出来事は、凄まじい程淳の怒りに触れた。



あの時、ヒソヒソと「青田の親父の‥隠し子‥」とどこからともなく聞こえていた。

淳は押し黙って皆にその怒りを向けることはしなかったが、亮に対してはその憤りを剥き出しにしたのだ。

あんな淳を、亮はかつて一度も目にしたことが無かった。

「本当に俺があの噂一つで怒ってると思ってるのか。

お前は自分の過ちに何一つ気付いていない」




”何一つ気付いていない”

淳のその言葉は、確かに事実だった。

その証拠に亮は、自分が何をどうすべきかが一向に分からないのだ。

このままじゃいつまでたっても許してもらえねぇかもしんねぇ‥



けどよ‥!



自身が犯したというその見えない過ちが、自身を縛り付ける。

亮は拳を握り締めながら、前にも後ろにも進めない今の状況に苛立った。

アイツ‥オレが何度謝ったと思ってんだ?これ以上何して欲しいんだよ?

どうしてあんな態度‥一体何考えてんだよ?!




苛立ちはいつしか怒りに変わり、亮は淳の行動の真意にその意識を向ける。

「まさかそれ、本当なの?」「調べてみなよ」







その淳の言葉は、かつて西条和夫に対して言った言葉と同じ様な匂いがした。

その結末を見越した上で発せられる、毒の入ったその言葉‥。

マジで‥



沸々と湧き出る感情が、亮の拳を固く握らせる。

マジでオレに復讐するためにアイツにんなこと言ったってのか‥?!

身分をわきまえろってことか?じゃなきゃ、庇う義理さえ残ってないってのか?!




そして握り締めたその拳が、淳への怒りで強く震えていた。

しかしその怒りの行き場はなく、亮はその感情をただ持て余すしかない。

それでも‥頼むから教えてくれよ‥。

それに静香に何一つ落ち度はねぇ。アイツには良くしてやってくれたら‥




顔を上げた先に、淳が居た。

こちらの方をチラとも見ず、ただ背を向けて去って行く。



ダメかよ‥



いくら待っても、級長が亮の元にプリントを持ってくることは無かった。

亮は机に突っ伏したまま、未だ吹き荒れる嵐の中でただじっと目を瞑っていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(27)ー嵐ー でした。

亮が犯した”過ち”が、遂に明らかになりました。

しかし「親父みたいな」の言葉を聞いたのは他校(D高)の生徒なのに、よくこんなにB高内で広まりましたよね‥。

しかも亮と淳が腹違いの兄弟て‥裏目が外国人の女性の愛人を作ったってことになり、

正妻と愛人が同い年の子供生むってことになりますよね‥(しかも静香も居るから愛人年子ペースで出産)

う~ん‥噂って怖い‥(白目)


さて次回は<亮と静香>高校時代(28)ー自信とプライドー です。

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<亮と静香>高校時代(26)ー見えない過ちー

2016-03-04 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
亮と静香は、二人で暗い記憶の淵をなぞっていた。

あの地獄のような日々にまた舞い戻ってしまうのではないかという恐怖が、

過去と現在を倒錯させるかのような錯覚に陥らせ、静香の気を動転させる。

「違う‥こんなの違う‥。ああ‥そうか、そうよ」



「そうだわ」



思わず取り乱した静香であったが、自分達がなぜ今の状況に陥ったか、その答えに繋がるヒントを、

以前目にしていたことを思い出した。

「あのピアノ科の‥援助受けてるあのチビ‥あのチビが‥」「え?」

「あたし見たの‥この騒ぎが起こる前‥」



「あのチビが‥淳に‥」



静香は偶然遭遇した、その場面のことを亮に説明し始める。

「河村亮‥あの人も‥」



言葉は切れ切れに聞こえた。

それでも、何を話しているのかを知るのには十分だった。

「君の家の会社‥援助を受けてるって‥まさか‥」



「それ、本当なの?」



その質問を受けた淳の表情は、長い前髪のせいでよく窺えなかった。

しかし彼は何の動揺も感じられない口調で、ただこう答える。

「気になるなら‥」



「調べてみなよ」



校舎の裏で聞いたあの言葉。

それはまるで鎌のように大きな弧を描き、いつか誰かに命中するー‥。



亮は今耳にした話を、信じられない思いで聞いていた。

何としても一度淳と話をしなければならない。

そして亮はその日、青田家の前で彼の帰りをずっと待っていた。






外灯の光がぼんやりと辺りを照らす、薄暗い道。

数メートル先を歩く淳の背中に向かって、亮は頭を下げた。

「すまん」







淳は足を止め、半身を残して亮の方を振り返った。

二人の間には、見えない壁があるかのようにぽっかりと距離があいている。







外灯の明かりが逆光になって、淳がどんな顔をしているかは分からなかった。

どこかで鳴いている秋の虫の声が、落ちる沈黙の中でただ聞こえる。



亮はその中で、自分の足元にただ目を落としていた。

頭を下げている今の状況でそうしているのもあるが、それ以上に淳と目が合わせられない。

まるで鉛を飲み込んだかのように重たい胸の内を押して、亮はゆっくりと口を開いた。

「‥学校じゃ話せんから‥。お前オレのこと徹底的に避けてるし‥」



「オレが悪かった。軽率だった。オレは‥」



「オレは‥お前を騙そうとか、悪い意味でああしたわけじゃ絶対ねぇから‥。

分かんだろ、オレの口が‥この口が悪ぃんだ」




亮の脳裏に、あの時の自分の過ちが蘇る。



「つい舞い上がっちまって‥お前のこと考えずに、勝手に騒いじまった。

本当にそんだけなんだ」




亮は徹底的に謝罪しているつもりだったが、

今口にしたその発言が、どこか言い訳めいたものに感じたので、頭を振りながら再び言葉を選び直した。

「あ‥いや、違う違う!全部無駄な言い訳だよな‥。全部オレが悪ぃんだ。許してくれよ、マジでオレ‥」

「違う」









全ての流れを断ち切るかのような淳の声は、再び二人の間に沈黙の幕を敷いた。

弾かれたように顔を上げた亮の目の前で、淳はただ彼のことをじっと凝視している。

掠れた声で聞き返す亮に、淳は感情の図れない低い声で言葉を続けた。

「‥え?」

「お前はいつも分かったフリをしてるだけだ。未だに分かっていない。

気付くのが遅いってレベルじゃなく、最後まで。いや、いつまで経っても分かりっこない」




淳の声が小さく震える。

目を凝らして見ると、口元を固く食い縛りながら感情を吐露する淳の姿が微かに見えた。

「本当に俺があの噂一つで怒ってると思ってるのか。お前は自分の過ちに、何一つ気付いていない」



「自分がどういう人間なのか、俺に一体何をしたのか、」



「お前は永遠に分からないし、絶えず俺を‥」



「‥‥‥‥」



淳が背を向ける前のほんの一瞬、こちらを凝視する彼の瞳が見えた。

何もかもを拒絶し、少しの憐憫も赦さない、深い闇を宿した瞳が‥。








淳の背中が小さくなっていくのを、亮はその場に立ち尽くしながら呆然と眺めていた。

暗い夜道に残された亮に、投げかけられた見えない過ちー‥。



秋の虫の声だけが、無情にも響いていた。

亮の呟きがぽっかりと浮かぶ。

「え‥」



「何だよ‥今の‥」



消えて行く淳の背中には、何もかもが届かない。

まるで見えない壁に阻まれているかのように、彼との間に深い溝が出来てしまったかのように、

亮はただ立ち尽くすことしか出来なかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(26)ー見えない過ちー でした。

今回の秀逸の一コマ!



亮と淳の立っている道が、坂道なのが何かの象徴のように思えます。

まるで転がり出す運命を示しているかのようで‥。

だんだんスンキさんの作画が神の域に達しているようで震えますね‥。

かつての聡美の腕の関節がおかしなことになっちゃってた頃はいずこ‥。




次回は<亮と静香>高校時代(27)ー嵐ー です。

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<亮と静香>高校時代(25)ー独りぼっちー

2016-03-02 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
あれはまだ小学生の頃だっただろうか。

暗くじめじめとした記憶の中で聞こえてきたのは、自分を嘲笑う同級生の声だった。

「このヤンキー!」「ハーフ野郎!」「自分の国に帰れ!」



ことあるごとにからかわれ、蔑まれ、虐められる日々。

今日は数人がかりで鞄を奪われて、中に入っていた教科書をメチャクチャに踏まれた。

日常茶飯事だが、まだ少年の亮には怒りを抑えることが出来ない。



「うわっ!あああ!」



元々腕っ節は強い方だったから、怒りの制御を忘れた亮が拳を振るうと、

時にやり過ぎてしまうことも多かった。

「すみませんでした、すみませんでした」

「子供の躾けくらいちゃんとして下さいよ!」



亮と静香の祖父である河村教授が亡くなってから、彼の遺言通り彼らを引き取った叔母は、

亮を連れて相手の親に頭を下げに行った。もう何度目になるか分からない。

「まったくもう!」



相手の親はそう嫌味を言ったが、叔母は平身低頭のまま弁解しなかった。

しかしそれは亮の為を思っての行動ではない。

その悔しさを、その憎しみを、引き取った彼らに向かわせるだけだ。



凄まじい力で、叔母の指が亮の頭に食い込む。

叔母は亮に頭を下げさせたまま、震える声で口を開いた。

「お前みたいな畜生を、私が引き取ったのはなぁ‥

後でお前が必ず私にこの恩を返すと、よぉく分かってるからだよ」




陰湿な、まるでヘドロのような、叔母の口から漏れる毒。

「お前なんてピアノがなきゃ、とっくに路上に‥」

「分かってるから‥」



亮は下を向かされたまま、掠れた声で懇願した。

「お願いだから、静香のこと殴んないで下さい」



自分に出来ることはそのくらいしか無いことを、亮はこの年にして分かっていた。

砂を噛むような日々を生きていた、この頃の少年亮‥。






毎日毎日、同じことの繰り返しだった。

あの頃のことを思い出すといつも、どこか靄のかかった映像しか思い出せない。

そしてこの日も亮は、顔面傷だらけにして家への道をトボトボと歩いていた。

「ったく‥キリがねぇよ。

もう隣の学校の奴らまでイチャモンつけやがる‥オレがチンピラって噂まで‥」




傷だらけの身体を引き摺りながら、亮は歩いた。

けれど家が近付くにつれ、憂鬱が足を引っ張って、なかなか歩みは進まなかった。



家のドアを開けてみると、案の定また静香が殴られていた。

メチャクチャになった室内から、怒号を上げる叔母の声と、姉の悲鳴が聞こえる。



「どうした?今日も亮が助けに来るのを待ってるのか?

あいにく亮はピアノの塾に行ったよ!」




「お前みたいなのと違ってあの子は天才だからね!」



ドアの隙間から見えたその地獄から、思わず亮は目を逸らした。

ズキズキと頭が痛むを抱えながら、亮はそのまま外へと飛び出す。

「このごくつぶしがっ‥!」



再び殴打の音が聞こえる前に、亮はがむしゃらに走って近くの公園へと向かった。

真夏の公園は、蝉の声で溢れている。



自分のすぐそばを、幸せそうな家族連れやカップル達が通り過ぎて行った。

何の変哲もないその風景の中で、亮は独り佇む。



どうしてだろう。

真夏の公園。蝉の声。

世界は美しかったはずなのに、覚えているのはモノクロの映像だけ。



もうウンザリだ



腫れてきた瞼で目の前が霞んで、太陽がぼやけていた。

亮は空を見上げながら、今は亡き肉親の顔を思い浮かべようとする。

父さん母さんの顔は最初から知らないし、じいちゃんの顔も、もうよく思い出せない‥



少年亮は、独りぼっちだった。

会いたい人の顔を、誰一人として浮かべることが出来ない。

この手を取ってくれる誰かを、狂おしいほど望んでいるのに。




あそこは、家じゃない‥



今暮らしているあの場所は、亮にとっても静香にとっても、地獄でしかなかった。

それでもあの場所が、あの地獄が、今亮が住まなければならない場所だった。

それでも‥帰んなきゃ。静香に‥



見下ろした地面が、ゆらゆらと揺れていた。

いつの間にか目に浮かんでいたその涙が、少年亮の世界を滲ませる‥。





今まで封じ込めて来たあの過去が、あの悲惨な記憶が、今二人の脳裏にありありと浮かんでいた。

亮はあの頃抱いていたある種の羨望が、今の状況を招いたかもしれないと言う。

「オレは‥ただ‥家族が出来たみてぇで‥」



「それが嬉しくて‥」



「オレも分かんねぇ‥」







弟のその言葉を聞いた途端、指先から血の気が引いて行った。

あの時、叔母に殴られていた自分を見捨てた弟の姿が、今目の前で項垂れる亮に重なる。



二人は今も、傷だらけだった。

そして互いを助けられなかったその暗い記憶が、二人をそれぞれに孤独へと追い込んで行く。

「あんたはクズよ」



「あんたは自分一人だけ生き残ろうとして逃げる、クズ同然の男よ」



たった一人の肉親に見捨てられた、彼女の傷は深かった。

その傷は姉弟の間に亀裂を作り、やがてそれが溝となる。

「あんただけ殴られなくて嬉しい?あんただけ凄い才能持ってて嬉しい?この‥ひとでなし‥」

「姉ちゃん、ゴメン‥オレ‥」

「あんたなんてあたしの弟じゃない。姉ちゃんなんて呼ぶな‥」



「言うんじゃねぇ!!この畜生がっ‥!!」



亮が犯したその罪は、世界でたった一人の肉親から目を背けたことだった。

一度出来た溝は埋まることなく、生涯重荷となって亮の背中に伸し掛かることになる‥。









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<亮と静香>高校時代(25)ー独りぼっちー でした。

うう‥なんて悲しいんだろう‥。

亮が家族というものに、こんなにも憧れていたんだということが描かれた回でした。

これを踏まえて漫画を読み返すと、赤山家とのシーンが尚の事胸に迫ります‥。


次回は<亮と静香>高校時代(26)ー見えない過ちー です。


私事ですが、今日でちょうど息子が一歳になりました

出産でブログをお休みしてから一年経ったか~と感慨深いです^^



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<亮と静香>高校時代(24)ー陰への転落ー

2016-02-29 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>


輝かしい未来へと続く道を、いつ踏み外してしまったのだろうか。

強すぎる光に視界を遮られ、深い溝の奥底へと、その闇の中へと、

彼はゆっくりと転落して行く‥。









ぐらりと、世界が歪んだ。

向かい合う青田淳と河村亮を囲んで、大勢の生徒がその現場を目撃していた。



これだけの人が居るというのに、辺りはしんと静まり返っている。

そしてそこに居るほぼ全員が、立ち尽くす青田淳の方を見つめていた。



亮は小さく「あ‥」と呟くも、その続きを口にすることが出来なかった。

目の前に居る淳が放つその闇が、徐々に亮の光を陰らせて行く。



亮の中の第六感が、最大級の警鐘を鳴らしていた。

ドクンドクンと、合わせて鼓動が加速して行く。

「いや‥オレは‥」



嫌な汗が背中を伝って流れ、亮の身体を冷やして落ちる。

亮は掠れた声でその続きを口にしようとしたが、淳の方がその先を待たずに口を開いた。

「お前、」



「欺瞞って言葉、知ってるか?」



暗く深い溝の底へ、ゆっくりと落ちて行く。

加速して行く鼓動のリズムは、その絶望へのカウントダウンだった。










放課後。

亮は授業が終わるといち早く廊下に出て、淳の姿を探した。



「!」



人波の間にその背中を見つけ、思わず駆け出す亮。

「おい!ちょっ‥」



しかし淳を呼び止める前に、誰かに思い切り肩をぶつけられた。

「んだよ!」



その痛みに苛つき、思わず声を荒げる亮。

顔を上げた先に居たのは、岡村泰士だった。岡村は亮を見て、あからさまに顔を顰める。

「あー‥クソッ。河村かよ」



「ムカツクぜー」



岡村とは以前喧嘩になった時以来犬猿の仲だが、

ここまで露骨に嫌味を出してくるのはどこか珍しかった。

しかし亮は淳のことで頭がいっぱいで、すぐにはその異変に気が付かない。

「この野郎‥」



肩の痛みとあからさまな嫌味に神経を逆撫でされ、亮は思わず声を荒げた。

すると周りに居た学生達が、ヒソヒソと何かを囁いているのに気が付く。



その光景は、明らかに今までとは違っていた。

亮は目を見開きながら、思わずその場に立ち竦む。



ヒソヒソ、コソコソと、どこからともなく降って来る言葉たち。

耳を澄ませばその言葉の全てが、亮自身に関連したそれだということが分かる。

「アイツも援助受けてるらしいじゃん」「んだよ、あんな偉そうにしてたくせによぉ」

「俺、てっきり金持ちの息子かと思ってた」「教授の孫じゃなかったの?」「大どんでん返しだな」



まるで暗雲から零れる雨粒のように、その言葉は亮の心に黒い染みを作った。

足が竦んで動けない。

視界の端に、去って行く淳の背中が見える。



「乞食野郎」



俯いた亮の背後から掛かる、心無い言葉。

岡村は亮の背中を小突きながら、真実を晒された彼を嘲笑う。

「なんで学校に乞食が居るんだ~?」



あははは‥ ははは‥



背中越しに聞こえる嘲笑い声。

遠い昔、狂いそうなほど聞かされた。

記憶の奥底に沈めたその過去が、その暗い記憶が、亮の拳を固く握らせる‥。









「あんた何やらかしたのよ?!」



ヒステリックな静香の叫びが、痛む頭をガンガンと鳴らした。

傷だらけの亮に向かって、静香は蒼白な顔で必死に訴える。

「みんなあたしのこと見下すのよ!あたしを!このあたしを!!」



「これじゃ昔と一緒じゃない!何も変わらないじゃない!」



亮は何も言えなかった。

先ほど引き摺り出されたものと同じ記憶が、今静香にも蘇っているのが、手に取るように分かるからだ。

「イヤ‥イヤ!!」



「イヤッ‥!」



静香は頭を抱え、そう叫び続けた。

その甲高い声は、記憶の彼方にある更に深い闇へと、亮を引き摺り込んで行く‥。





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<亮と静香>高校時代(24)ー陰への転落ー でした。

事態がどんどん悪くなりますね‥読んでる方も辛いです。

伏せられている場面はいずれ明らかになりますので、もう少しお待ち下さいね。


次回は<亮と静香>高校時代(25)ー独りぼっちー です。


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<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー

2016-02-27 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
ピアノコンクール当日。

「あー‥クソッ」



河村亮は鏡を眺めながら、首にぶら下がった蝶ネクタイを不満気に弄んでいた。

「フツーのネクタイ頼んだのに‥どうしてもコレかよ‥。

今日のオレってばまた一段と麗しいっつのに、まさに玉にキズだな、こりゃ」




どうしても好きになれない蝶ネクタイを眺めながら、亮は溜息を吐いてふと上を向いた。

この胸をモヤモヤとさせている原因は、首元を締める滑稽なそれだけではなさそうだ。



亮はコツコツと靴先を鳴らしながら、その原因となる青田淳に思いを馳せる。

つーか‥淳の野郎‥一体何考えてやがんだろ。

気になんじゃねーかよ。マジで何かあったとか?




先日青田家に出向いた時の彼は、明らかにどこかおかしかった。

門の前で佇む彼が放つその異様な空気に、亮は気圧されてそれ以上は追及出来なかったのだ‥。






亮は磨かれた革靴に視線を落としながら、淳への対応を改めて考える。

結局コンクールの準備のせいでまともに話せてねーし‥

終わったら一回肚据えて話した方が良いな。静香もなんだかピリピリしてっし‥




そう結論づけて、亮は前を向いた。

自分の出番まであと少しだ。

ま、それはそれだ。



とりあえず、と



亮は髪をかき上げると、ニッと不敵な笑みを浮かべた。十本の指に力が漲る。

そして亮はその晴れの舞台へと、自信満々な表情を浮かべて向かって行った。







その指が鍵盤に触れると、世界は色を変える。

洪水のような音の中へ、彼は沈み込んで行く。



その鮮やかな音の波は、聴く者全てを魅了した。

聴衆が感嘆の息を吐く、その息遣いが聞こえる。



そんな雰囲気の中で、青田会長は誇らしげに胸を張り、亮のことを見つめていた。

まるで息子の活躍を見守る、父親のような表情で。



後方の席で、青田会長の姿を見つけた女性達が、ヒソヒソと話をしている。

「あの人、まさかZ社の‥」「来るかもって噂あったけど、本当だったんだ」

「あの人がこんな所に来るなんて‥」「知り合いでも出てるのかしら」



大企業の会長が、このようなコンクールに直接顔を出すことは珍しい。

亮直々の頼みだからこそ、会長はここへ出向いたようなものだった。



そしてそれに応えるように、亮は最後まで非の打ち所の無い演奏をした。

やがて曲が終わり、割れるような拍手が届く。

亮は胸に手を当てながら、聴衆に向かってぺこりと頭を下げた。






観客はスタンディングオベーションで、亮に熱い拍手を送る。

女性達からは「かわいい」と黄色い声も飛んだ。

そしてその中で一際嬉しそうな顔をしていたのは、青田会長だった。







亮はそんな会長の顔を見て、ニコッと笑った。まるで少年のように。

さながら親子のようなそんなやり取りは、亮がステージを下りてからも続く。



沢山のカメラが、亮と青田会長の周りを取り囲んだ。

次々と焚かれるフラッシュ。

その眩すぎる光の中で、彼らは本当の家族のように喜びを分かち合い、嬉しそうに微笑む‥。









その頃、会場の裏口で河村静香は一人煙草をふかしていた。

亮の演奏が終わってから、もう軽く数時間は経っている。

「あー‥終わったら早く来いっつの‥」



待ちくたびれた静香は、ぶつくさと文句を言いながら建物の中へ入るドアへと向かった。

「どんだけクソ長い挨拶だよ‥もう先にご飯行っちゃお。会長どこかなー



そう独りごちながら歩く静香。

すると外にあるベンチに、一人の男子学生が座っているのに気がついた。



あれ?アイツも来てたの?

亮と同じピアノ科のナントカ‥




顔を覗き込もうとした静香だったが、それはかなわなかった。

なぜなら男子学生は肩を震わせ、ポスターに顔を埋めながらシクシクと泣いていたからだ。

おっつ‥



静香はそんな男子学生を眺めながら、自身の思うところを心の中で呟く。

あーあ、参加すら出来なかったんだから、

わざわざこんなトコまで来て泣かなくても‥。

「あぁボクチン悲劇の主人公!」っての?そんな自分に酔っちゃってさぁ




静香はポーチから口紅を取り出し、その形の良い唇に塗り始めた。

才能が無ければ、結局はああなるのよ



この世界に光と影があるならば、あの男子学生は間違いなく影だろう。

静香は自身の奥に沈めたその影を、唇に塗った赤いルージュで払拭した。






「マジ楽勝~」



光のステージから下りた亮の手には、沢山の花束やプレゼントで溢れていた。

その中から蝶ネクタイを見つけた亮は、廊下にあったゴミ箱にそれを捨てる。

「これはいらねー」



大荷物をガサガサいわせながら、亮は携帯を取り出し、表示される地図へと目を落とした。

「えーっと会長がメシおごってくれるっつーホテルの場所は‥と

静香のヤツ、この大荷物持ってくんねーし。一人でさっさと行っちまいやがって‥クソッ」




その不満気な口調とは裏腹に、廊下を歩く亮の足取りは軽い。

抱えた花束から、爽やかな良い香りがした。その香りを吸い込むと、なんとも晴れやかな気分になる。



「あの‥河村亮君?」



不意に名前を呼ばれ振り返ると、そこに居た男は嬉しそうに亮に近付いた。

「俺、D高の‥。受賞おめでとう」「ああ!お前か」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥」「ん?」







男はそう切り出すと、「聞きたいこと」を口にし始めた。

彼らが何を話しているのかは、まだ明かされはしないが。



そして男の質問が全て終わると、亮はそれに対する答えを口に出す。

口元に笑みを浮かべ、どこか得意げな表情で。

「それはー‥」










そこに当たる光が強ければ強いほど、周りへの視界は絶たれ、そして同時に影が強くなる。

だから彼は踏み外してしまったのだ。

輝かしい未来へと続くその一本の道から足を滑らせ、周りを囲む深い溝の奥底へとーー‥。




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<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー でした。

順風満帆だった亮の未来が、だんだんと陰っていく感じがしますね‥。

なんとも不穏な雰囲気‥うう‥胃が痛くなりそう‥。


次回は<亮と静香>高校時代(24)ー陰への転落ー です。


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