Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

はぐれ者達の会話

2016-06-22 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
A大の片隅で、柳瀬健太は声を上げた。

「マジでどーすりゃいいんだ?!全然寝れんかったっつーの!



健太を悩ませているのは、もっぱら青田淳との件であった。

健太は頭を抱え足を踏み鳴らしながら、苛立ちを持て余す。

くっそーおかしくなりそうだぜ‥!

海外のサイトまで全部見てみたけど、半額だとしても学費レベルの出費じゃねーか!




学費のローンさえまだ返済出来てねぇってのに‥



つーか生活費はどうする?バイトすべきか?

いやいや!そんじゃ就活はどうすんだよ?!




卒業試験は?!結局過去問も手に入らんかったし!

うう‥うううう‥うああああああああ!!!!!!!




考えれば考える程、自分が袋小路へと追い込まれているのが分かる。

それでも何か手を打たなくてはと、健太は必死になって現状を打破する糸口を掴もうと足掻いていた。

考えろ、健太。



A大生・柳瀬健太!考えるんだ‥!



自分はただのボンクラ野郎じゃない、一流大学の学生なのだー‥。

今健太を冷静へと引き戻したのは、自分を立てるそんなプライド‥。



しかし‥。

「くっそぉぉぉ!考えるったって何を考えりゃいいんだよ!!」



「もー知らん!!チョームカつく!!



「知らん!知らん知らん知らん!!!」



健太は鞄を地面に投げつけ、その巨体をブンブンと揺らしながら地団駄を踏んだ。

A大生であるというプライドの中身は、何も無いただのハリボテに過ぎなかったのだ‥。

ゲホゲホッ‥!あー‥喉カラカラ‥



そう思いながら自販機の方を見ると、

そこに見覚えのある人物の姿があった。



糸井直美である。



久しく見掛けなかった彼女の姿を目にして、

健太は目を点にして動きを止めた。






「!」



自販機の前に立っていた直美は、

こちらに近づいて来る黒木典達の姿を目にしてギョッとした。

「あ‥あ‥」



瞬時に身を隠そうと思ったが、隠れられるような場所はどこにもない。

直美が途方に暮れようとしたその時、急に目の前に壁が出来た。



黒木典は自販機の前に佇む人物に向かって、若干の苦い表情で挨拶を口にする。

「あ、健太先輩。こんにちは」



「おお、チワ」「それじゃ失礼しますー」



典達一行は、健太に近寄ることなくそのまま場を離れて行った。

健太の後ろに佇む、糸井直美には一向に気付かないまま。






無言のまま、二人は顔を見合わせた。

今となっては学科を追われた科代表と、最年長の先輩。

彼らはそれぞれにはぐれ者だった。



「なんか飲み物奢ってくれっか?」



直美を隠してやったお礼とばかりにそう言う健太に、直美は頷いた。

二人は自販機のジュースを手に、ベンチへと腰を下ろす。



黙っている直美に向かって、健太の方から声を掛けた。

「専攻、夜間に移したんだって?」



「はい、まぁ‥」「うわー大変じゃねーか!」



頷く直美に、健太はお得意のオーバーアクションで言葉を続ける。

「ったくどうして女の子達ってのはそうなんだろうなぁ!

本人が違うっつってんだから信じてやれっての!俺はともかく、友達なら味方になってやるべきだろ!なぁ?!」




「薄情だよなぁ!」

「もう良いんです。過ぎた事ですから‥」



直美はそう言って諦めたように下を向いた。

今の直美は為す術もない現実の前に、打ちのめされたような雰囲気だ。

「結局この程度の仲だったってことですよ。

すごく悔しいですけど、防犯カメラも無いのにどうやって犯人を捕まえるって言うのか‥」




やるせない気持ちが溢れ、直美は悲しげな表情を浮かべていた。

そんな中でも、健太の隣でうっすらと微笑みが浮かぶ。

「それでも今もあたしの味方になってくれるのは先輩だけです。雪ちゃん達を止めてくれたのも‥」

「ん?俺はまぁちょっと人よりは心が広い方かもな!ははは!」



褒められた健太は得意気な態度で、

俺ってばよ‥。と髪を触って見せる。 ウゼー



直美はそんな健太に向かって、彼の近況を尋ね始めた。

はぐれ者達は、片隅のベンチで会話を重ねる。

「試験勉強は順調ですか?」

「あー期末にしろ卒験にしろ、アイツの過去問にしてもさぁ‥」



「あ、そうだ夜間授業で聞いた情報なんですが‥」「おお!そーなのか!」



「糸井、困ったことがあったら言うんだぞ?」「はい」



ははは!



初冬の空に、健太の笑い声が響き渡った。

まだ自分は完全に終わったわけじゃない、笑い声に潜むのは、そんな一縷の望み‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<はぐれ者達の会話>でした。

アレッ?!時計の弁償額、学費レベルとな!!

調べてみましたら韓国の大学の一年間の学費が60万くらいだそうなので、そのくらいってことですかね‥?!

プラス佐藤先輩へのPC代‥。健太、確かにピンチ!(しかし自業自得‥)


そして直美がすっかりはぐれ者に‥。一応科代表なのに‥。

この二人が徒党を組んでこれから何かしでかすんでしょうか‥。うーん波乱の予感!

4部38話はここまでです。

次回は<不可の烙印>です。

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甘言

2016-06-20 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
インターホンの音で起こされた河村亮は、寝ぼけ眼で玄関に立っていた。



そこにはテンション高めの赤山蓮が、沢山の参考書を手にニコニコと笑っている。

「じゃーん!検定試験の過去問集〜!やっぱ亮さんには俺しかいないっしょ?」



亮は蓮からそれらを受け取り、仏頂面でパラパラと捲り始める。

「ピアノも大事だけど、勉強もしっかりやんなきゃね!

その過去問集、問題と解説が超良いんだ。こんな良いモンあげるんだから、この恩は忘れないでよ?」




亮が参考書を見ている間にも、蓮はお喋りを続けながら河村宅の探索を始めた。

ダメージが買ったヤツじゃねーか‥バレバレだっつの

「ジュースねーの?ジュース!」



参考書の重さを両手に感じながら、亮は複雑な気持ちを持て余した。

こうして自分を気に掛けてくれる彼女の真心が、亮の覚悟に揺らぎを掛ける‥。





「水と酒ばっかじゃん」



冷蔵庫を開けた蓮は、そう言って残念そうに口を尖らせた。

黙っている亮の周りを、蓮はキョロキョロしながら忙しなく動き回る。

「つーかこの家、亮さんのモン何もねーのな!女物ばっか!亮さんの姉ちゃんは今日居ないの?

つーか顔どうしたん?二日酔い?」




蓮からそう言われ、亮は気怠そうに髪を掻き上げた。

「あー‥」



翌日になってもまだ酒が残っているのは、昨日の飲みの席のせいなのだ。

自分を追いかけて上京して来た元社長・吉川と元同僚の顔が、亮の脳裏に蘇る‥。


「コンクールの準備はどうなんだ?ちゃんとやってんのか?」



「そのコンクールっていつなんだ?

終わったらすぐに俺等とドロンだからな?」




会う度にそうダメ押しして来る吉川から目を逸らし、亮は曖昧に頷いた。

「はぁ‥分かってますって」



元同僚が吉川に皿を差し出す。

「召し上がって下さい」



すると吉川はガハハと笑いながら、元同僚の肩をバンバンと叩き始めた。

「お、そうだ!最近こいつこの近くで土方の仕事やってんだよ。知ってんだろ?」



「あー‥そうなんすか」



興味なさそうに相槌を打つ亮に、吉川は見かねて言葉を掛ける。

「おいおい〜こいつにもっと興味持ってやれよ。

こいつがどんだけお前のこと好きだと思ってんだ。俺に殴られてもお前の行方漏らさなかったんだぜ?」




吉川は元同僚の男に対しては一層高圧的だ。

「お前もせっせと稼がにゃ〜な?」



「お前らおつむが足りねーのか、金銭感覚ってモンがねぇんだよなぁ。

毎日毎日利息は増え続けんのに懲りずにまた金借りてよぉ。なぁ?」




吉川は何度も男の頭を殴り、罵倒し、見下すが、男はただ下を向いてそれに耐えるだけだった。

「お前なぁ、俺は本来金貸しなんてしねーってのに、お前には特別に貸してやってんだぜ?」

「いや俺は借りたくて借りてるわけじゃ‥社長が半強制的に‥

「おらおら、乾杯ー!」



「早くしろ!」「はい‥」



「わはは!良い気分だぜー」



やられっぱなしの元同僚を見ていると、亮の胸中が苛立ちに煙った。

それを誤魔化すように酒を何杯も飲み干したが、遂にその靄が晴れることはなかった‥。

「亮さん、見て見て」



考え込む亮に向かって、蓮は軽い調子で自身の携帯に表示されたアプリを見せる。

「このアプリさぁ、作るだけでもかなりオイシーから!これマジだよ!」



亮はそんな蓮がウザったくなって足を向けた。蓮は口を尖らせて抵抗する。

「くっそ!お前もう帰れ!そんで仕事しろ!何がアプリだ!

「なんでだよぉ〜!」



しかし蓮は引き下がらない。寧ろ目を輝かせながら、弾むような口調で話を続けて来た。

「これ怪しい話じゃねーよ?

ある程度根拠があるオイシー話なんだよ!今が打って出るその時なわけ!」
「‥‥‥」



「俺、本気だよ亮さん!いずれ会社作ったら良いポストあげるからさ!入ってよ!」



まるで根拠の無い、絵空事ような未来の話。

亮はため息を一つ吐いて、現実的な問題を口にする。

「おい、そんでも会社作んのに金が要るだろ?」

「そりゃそうさー!」



しかし蓮は亮のその言葉を耳にした途端、待ってましたとばかりに食い付いて来た。

「だから先立って金がどうしても要るわけなんだけどさぁ、

したら、ここに良さげな職見つけたのよ」




携帯の画面には、「ヤングマン産業営業職募集」と書いてあるサイトが表示されている。

「若手ベンチャーのための資金を支援する会社なんだって。

営業の教育受けたらすぐ現場入れるみたい。俺の性格からして営業向いてると思うんだよねー」




「三ヶ月インターンすれば、実績によっては支店長になれんだって!

ま、俺は短期間で事業資金だけ稼いですぐ辞めるけど!」


「ハァ?!んな上手ぇ話があるわけねーだろ!詐欺だろそれ!ったくコイツは‥



そう声を荒げる亮に向かって、蓮は不思議そうに首を傾げた。

「いやいや、実際行ってみて怪しげだったらドロンすりゃいい話じゃん。何が問題なの?

つーか面接受かんなきゃどうせ入れねーし。変なとこじゃねーって!」
「ほぉ‥」



「最近はTOEICだなんだじゃなくて、人そのものを見るのがトレンドだからね。

なおさらこの流れに乗らなくちゃぁ!」
「ほぉぉ‥」



だんだんと亮の理解の範疇を越えて行く蓮の話。

一旦冷静に戻るべく、亮は彼の家族の話を持ち出した。

「おい、お前このこと親とか姉ちゃんに話したのか?」

「俺の就職だぜ?なんで姉ちゃんが出てくんのよ?」



蓮は苛ついた口調で素っ気なくそう返すと、再び亮に向かって勧誘を始める。

「いいから、亮さんも一緒に入ろうぜ。中卒以上ならオッケーみたいだから。

亮さん今無職だから真っ昼間からゴロゴロしてんだろ?何してんのかも謎だしさぁ」




「早く申し込んでよ!つーか俺が代わりにやったろか?」

「はぁぁ‥」



甘言を誘う蓮の前で、亮はただただ呆れて口を開けていた。

風向きが、変な方向へと変わって行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<甘言>でした。

い‥嫌な予感しかしないよ、蓮‥

本当考えが短絡的というかなんというか‥。暗雲立ち込めてまいりましたね‥。

そして今回の見どころは冬も近いというのに自宅では黒タンク&裸足の亮さんですね。眼福!!ww


次回は<はぐれ者達の会話>です。


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一件落着

2016-06-18 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
翌朝。雪は一人キャンパス内を歩いている。



道の先に、見覚えのある人物の姿が目に入った。

糸井直美である。



直美は参考書に目を落しながら歩いていたが、



雪の視線に気付いたのか不意に顔を上げると、

思わずビクッと身を強張らした。



クルッ



タタタ、と小走りで駆け出す直美。

雪はその場に佇みながら、じっと彼女のそんな姿を見つめていた。



直美さん‥



夜間授業に移ったって聞いた‥最近見ないもんな



過去問盗難事件で居場所が無くなった直美は、あれ以来ひっそりと姿を消した。

真実を知りたくて組み敷いた意図がもたらした現実に、雪は複雑な気持ちになる‥。

「‥‥‥‥」












聡美の耳には、あのピアスが光っていた。

「あたし‥もう‥」



「これ以上喧嘩したくない」



「これ以上泣きたくもないよ‥!」



涙をポロポロ流しながら、彼女は恋人に想いを語っているのだ。

雪と萌菜は彼らの狭間に立ちながら、その一部始終を見守っている。

「太一もあたしのこと長い間待ってくれたから、

残ってる僅かな時間楽しく過ごして、送り出してあげる」




「だから‥」



「待ってるよ、太一」



涙で頬を濡らしながらも、聡美は気丈にそう言い切った。

彼女の下したその結論に、太一は思わず涙腺崩壊だ。

「身体‥気をつけてね‥!」「聡美さん‥っ!」




(エンダーァァァァァァ!!!のBGMでお楽しみ下さい)



「聡美さぁんっ‥!!」「太一ぃぃぃぃ〜!!」



盛り上がるカップルの隣で、雪と萌菜は彼らの愛に拍手を送った。

「本当に感動的ね?私泣くの苦手だけどアレ?目から汗が‥

「ははは‥」



紆余曲折あったが、聡美と太一はようやくハッピーエンドへの道を歩むことにしたようだ。

そして気になる<ピアス事件の顛末>は‥。

「よぉ太一、何見てんの?」「チワす」



実はこの眼鏡の男性こそ、萌菜の言うところの「気になる人」なのであった。

彼は同じ職場で働くカメラマンだ。

「これプレゼントしようと思ってんですヨネ」「おっ」



カメラマンは太一の携帯に表示されたピアスをいたく気に入り、

二人とも同じサイトで買ったとのことじゃ。(昔話風)

「買っちゃお!」「送料安く済んだッス!」「ちょ‥何そのノリ‥ガクブル」



〜完〜

こうしてピアス事件は一件落着、聡美と太一もハッピーエンドだ。

萌菜はニッコリと笑う。

「それじゃ‥謝ったことだし‥」



「私はこれで失礼‥」



そう言ってこの場を去ろうとする萌菜を、雪はガシッと引き止めた。

「メシおごれ。高いやつ」



「あんなおふざけやっといてごめんの一言で済むと思ってんの?」

「ひぃぃぃ!」「聡美さーん!」「太一ぃぃ!うおーん!」



萌菜はひぃぃと叫びながら涙を流すが、雪は萌菜を離そうとしない。

聡美と太一はおんおん泣き続け、初冬の空にそれぞれの声が響いたのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<一件落着>でした。

ここでの聡美&太一のセリフ‥↓

「なぜ空は君を‥」「俺死んでませんヨ」



ですが、「なぜ空は君を」はこの曲の歌詞ですかね?



歌詞からすると大切な人が亡くなって悲しみに暮れるバラード‥という感じでしょうか。

お詳しい方、教えて下さいー!


次回は<甘言>です。

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女狐と熊

2016-06-17 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
雪はオドロオドロしい形相で、友人の名を口にした。

「も・え・なぁぁぁ?」



その低くドスの利いた声に、通話先の萌菜は狼狽する。

「いやいやいやいや!」



雪は聡美と太一の間で面白がって関係をこじらせた萌菜に、怒っているのである。

「なんでそんな余計なことすんのよ?!」

「だってさぁ‥あの子たちがお互いチラチラ意識し合ってんのが微笑ましくてつい‥」









聡美が撮影現場に見学に来た折、萌菜は太一を意識する聡美を見て、

つい意地悪の虫が騒ぎ出してしまったと言う。

それでも後日太一の幸せを願って涙を流した聡美のことが、気になって仕方が無かったらしい。




「二人共電話掛けても出ないし、よりによって私もその時仕事がトラブっちゃってさぁ。

この件が無くても一回大学行こうと思ってたよ」




萌菜の弁解を聞いた雪は、ふぅっと大きく息を吐いた。

「ま、それでも二人が上手く行くことになって良かったけどさ」「おお、そう?」

「てか太一が軍隊行く話って聞いた?」

「え?マジで?うわー大変。いきなり遠距離恋愛かー」



終わり良ければ全て良し、で雪はこれ以上親友を責めるのは止めにした。

久しぶりの世間話は続き、話題は柳瀬健太の過去問盗難事件についてへと移行する。



雪の口からその顛末を聞いた萌菜は、呆れ返って声を上げた。

「うーわマジか!健太って人リアルにそんな痛い男なんだ?

ところで雪、アンタがそこまでやるとは予想外なんだけど!」


「なんで?私だって怒る時は怒るよ。あの人には相当我慢させられて来たし」



「まさかアンタが学科長の名前まで出して周りの人達まで巻き込むとはね。超意外だよ!」



通話先の萌菜は嬉しそうに、雪のその変化について言葉を続ける。

「女狐のように小狡く生きる、出来てんじゃん雪!お姉様は嬉しいわ」

「何言ってんのよ」



”狐のようにしなやかに、そして時に小狡く”

それは萌菜が度々雪に対して口にするフレーズだった。



彼女は言葉を続ける。

「それでも”熊女”よりは良くない?

高校生の頃のこと、思い出してみなよ」




”熊女”という比喩は、全部飲み込んで溜め込んで、我慢を重ねる鈍臭い女を表しているらしい。

高校時代その”熊女”だったという雪について、萌菜はあの頃の彼女をこう語る。

「見て見ぬフリ、やられてもやられてないフリ、

腹が立ってもただひたすらに我慢して、最後には結局手の平返すみたいにして絶交したじゃん?ヨーコ覚えてる?杉田陽子




雪の脳裏に杉田陽子という同級生の姿が浮かんだ。

我慢に我慢を重ねて、遂には関係を断った雪的黒歴史のかつての友人‥。

「アンタって忍耐強いけど、人を見切る時は恐いくらいスパッと切るじゃん。

ヨーコが天狗状態だった時、結局アンタあの子をスルーし続けたでしょ?ヨーコにとってはそれが屈辱だったのよ。

普段何も言わなかったくせに突然絶交なんてどうしてって、結局アンタのこと恨んで終わりになったけどさ」




大人しいヤツが実は一番怖い、と言って萌菜は笑った。

愚鈍で不器用なこの親友を、萌菜はずっと気に掛けて来たのである。

「女狐みたいに小狡く生きろって、

私あの時もそう言ってたじゃんか」




高校時代の自分を思い出し、思わず雪は「うぅむ、」と低く唸った。

萌菜はそれ以上ヨーコのことには触れず、代わりにとある話題を口に出す。

「てか私だって無駄に蒸し返してるわけじゃなくて‥。

高校時代の友と言えばさ、最近変な話を聞いたんだけど、アンタ知ってる?」
「?」



疑問符を浮かべた雪の耳に入って来たのは、予想外とも言える彼の話題だった。

「アンタが御曹司だか何だかと付き合ってるって聞いて、

皆突然アンタと連絡取りたがって、合コンセッティングして欲しいみたいな流れになってんだけど」


「はぁぁ?なんで私がぁ?」



「いや‥てかどうしてそれを‥」

「ゆりっぺが話広めてるみたいだけど、アンタあの子と何かあった?」

「ゆりがぁ?」



その名前を口に出した時、雪の脳裏に瞬時に記憶が蘇った。

この前皆で集まった時、偶然顔を合わせたゆりの彼氏と、青田淳とのやりとりが。

「あ」



雪は頭を抱えこみながら、ナンテコッタと項垂れる。

「とりあえず私が間に入って流しといたけど、もしかしたら次の集まりはアンタ色々大変かもね」



「覚悟はしとくんだよ。分かった?」「もー集まり行かないもん!」

「そーしなww」「おやすみ!」「おやすみー」



雪は若干やけっぱちになりながら、萌菜におやすみの挨拶をして電話を切った。

信じられない思いを抱えながら、仰向けに寝転がる。

「はぁ?何なの?はぁぁ?」



自分は何もしていなくても、時に理不尽に追い詰められるこの窮屈な現実。

以前似たようなケースに陥った時に聞いた、彼の言葉が鼓膜の裏で再生される。

「生きている以上仕方がないんだよ。自分が賢くなるしかないんだ」



「打ち勝つには、誰より毅然と賢明にね」



まるで狐のようにしなやかに生きて行く彼の語る理想論が、白い天井に淡くぼやける。

今の自身は、高校時代の「我慢を重ねて全部飲み込む熊女」から脱却出来ているんだろうか‥?



先ほど聞いた萌菜の言葉が、いやに胸を刺す気がした。

雪は一人、その言葉を口に出す。

「見て見ぬフリ、やられても、」



「やられてないフリ‥」



結局それが、しっくりくる気がした。

雪は重たい胸の内を持て余しながら、白い天井をいつまでも見上げていた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<女狐と熊>でした。

今回は動物が沢山出て来ましたね。

狐は「小狡い、卑怯、人を化かす」といったイメージ、反対に熊は「愚鈍、不器用」なイメージで語られてます。

一気に熊から狐へ変化するのは難しいでしょうね。人は簡単には変わらない生き物ですものね‥。


次回は<一件落着>です〜。

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