Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

救済

2013-08-03 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
青田淳の携帯画面に、赤山雪の名前が点滅して光っていた。

先ほどから何度も電話しているのだが、彼女からの応答は無い。

 

淳は暫し携帯画面と睨めっこをしていたが、ふと顔を上げた。

少し先の道の先で、立ち止まっている人影に気が付く。



それは、見慣れた彼女の後ろ姿だった。

自分からの着信に気づくことなく、赤山雪はその場に立ち尽くしている。



雪ちゃん、と彼は声を掛けた。

俯いていた彼女は、その声にビクッと身を揺らす。



淳は不思議そうな顔をしながら、雪の居る方へ歩いて行った。

「そんなとこで何してるの?電話にも出ないし‥」



そのまま近付いて来る彼に、雪は顔を手で覆いながら狼狽した。

頬も鼻も、幾分赤らんでいる。

「い、いえ‥」



その横顔は、明らかにいつもと違った。

淳は目を丸くしながら、感じるままに口を開く。



「‥雪ちゃん、泣いてるの?」



淳はそう言って雪の肩を掴むと、拒む彼女をも構わずその目を覗き込んだ。

しかし雪は顔を逸らしながら、必死でそれを否定する。

「ち、違います!」



けれど淳は引かない。反射的にこう言った。

「嘘つけ!」



そして雪の肩を掴むと、幾分強引に顔を覗き込む。

「泣いてるんだろ?ちゃんと顔見せて」



至近距離にある淳の顔面に、雪はヒッと息を飲みながら手で顔を隠した。

けれど淳は雪が引けば引くほど、その顔を近づけて何があったか知ろうとする。

「こっち向いてみって」 「な‥」



「泣いてませんてば‥!」 「うん?」

二人の距離は近く、その雰囲気は意味深だ。

偶然見ていたキノコ頭が、あんぐりと口を開けて固まるほどに。



冷や汗が止まらない。突然の出来事に、雪は思考回路が回らなかった。

おかしくなりそう‥。顔近づけすぎ‥



しかしそんな雪の思いとは裏腹に、淳はより一層顔を近づけた。

「こっち見てみ。な?」



瞳と瞳が、僅か数センチの距離にあった。

雪は気が動揺し、思わず大声を上げる。

「もうっ!泣いてませんってば!!!」







淳はあまりの大声に、ぎょっとして固まった。

そんな彼の表情を見て、雪はハッと我に返る。

「あ‥すみませ‥」



動揺のあまり大声を出してしまったと言って、雪は俯いた。

頬に手の平を当てながら、気まずい気持ちを持て余す。



そしてそのまま項垂れる雪を、淳はじっと見つめていた。

いつもとは明らかに違う雪の姿が、淳の心を騒がせる。



ガシッ!



いきなり、雪は手首を掴まれた。

その力の強さと突飛な行動に、雪の身体は思わず強張る。



去年横山翔によって味わった記憶が、脳裏を掠めた。

強い力で手首を掴まれ、大声を上げて追いかけられ‥。




しかし己の中のトラウマがそれを蘇らせる前に、淳は口を開いた。

雪は思わず顔を上げ、反射的にこう質問する。

「行こう」 「え?どこへ‥?」



淳はそのまま雪の手を引っ張り、振り返ること無くスタスタと歩き出した。

動揺する雪に構うこと無く、前を向いたまま言葉を続ける。

「おいしいもの食べに行こ」「え?え?」



そして淳は笑顔になると、振り返ってこう聞いた。

「甘いもの好き?」










気がついたらティラミスを、雪は半分以上平らげていた。

美味しそうにそれを口に運ぶ雪を見ながら、淳は満足そうに微笑む。



幾らか落ち着いた頃合いを見計らい、淳はゆっくりと切り出した。

「気分は良くなった?」



淳のその言葉に、雪はハッと我に返った。

咄嗟に顔を上げると、心配そうに自分を見つめる彼の顔が目の前にある。

「‥何があったのか、聞いちゃダメかな?」



雪は遠慮がちにそう口にする彼を見つめながら、口を噤んだ。

普段の自分なら、誤魔化す所だ。何でもない、気にしないで下さいと、遠慮がちに言って終わりだったろう。



でも今日の雪は違った。

目の前の彼を見つめながら、心に揺蕩う自分の気持ちを素直になぞる。

実は 誰でも良いから



一度は聞いて欲しかった‥



抑圧され続けた心が、限界を訴えていた。

雪は心の扉をそっと開けて、抱えきれなくなったその断片を口に出した。

「実は‥就活相談に行ってきたんですけど‥」



おずおずと話し始めると、淳は静かに相槌を打つ。

「相談担当の人に英会話が足りないって言われて、塾に行かなきゃならない状況なのに‥

そこに通うためのお金が‥」




そこまで言った所で、雪は慌てて補足した。

「あ‥!勿論家にお金が無いってわけじゃなくて‥!私が自力でどうにかしなきゃならない状況で‥!

気が重い‥みたいなそんな感じなだけです!」




そんな雪の悩みを聞いた淳は、自分の思うところを言葉にした。

「そういうことなら、ご両親に相談してみた方が良いんじゃない?

ちょっと気が引けるかもしれないけど、後々考えたらその方が良いと思うけどな」







雪は言葉に詰まった。

先輩の意見は正しいが、雪にとっては一番厄介な回答だったからだ。

雪は躊躇いながら、切れ切れに言葉を選んだ。

「‥そういう頼みごと‥その‥父がいい顔しない‥」



「と思うし‥」



雪は消え入るようにそう言い終わると、そのまま俯いて黙り込んだ。

目の前の彼は何も言わない。



沈黙に耐えかねた雪は、

自分の発言がどこかおかしかったんじゃないかとグルグル考え始めた。

い、言い方おかしかったかな‥??今のじゃお父さんが変な人みたいじゃん?!

てか今のじゃ悲劇のヒロイン気取ってるように思われたかも‥




雪は堪らず顔を上げ、補足修正を試みる。

「あああの、そうじゃなくて‥!」



しかし雪が口を開ききる前に、淳は力強く優しい口調でこう切り出した。

「雪ちゃん、俺の知り合いに英語塾を運営してる人が居るんだけど、

友達連れてきたら安くしてくれるって言ってたんだ。一度頼んでみようか?」




もちろん雪ちゃんが良ければの話だけど、と彼は付け加えた。

雪は目を丸くしながら、彼が切り出したその話を受け止める。








一瞬で、頭の中に色々なことが浮かび上がって来た。



どうしてここまでしてくれるの? いやこの人にはこの程度のことはどうってことないんだろうな‥。

あたしのこと同情してるのか? いや考え過ぎか? どうしようこのまま素直に甘えていいもの?

後々ややこしいことにならないよね?



グルグル廻る考えも、結局一つしか無い答えに吸い込まれていく。


「い‥いいんですか?」



雪はそう言って身を乗り出した。彼はニッコリと笑顔を浮かべる。

「もちろん。難しいことじゃないから俺も話をしたんだし。

父親の知り合いだから、負担に思わないで大丈夫だよ」




雪は彼を見つめながら、改めて礼を言った。

「あ‥ありがとうございます」



甘えを受けるのは慣れないー‥。

雪のぎこちないそんな態度を前にして、淳はふっと息を吐く。



淳はゆっくりとした動作で頬杖を付くと、和らいだ口調でこう雪に質問した。

「‥雪ちゃんてさ、心に溜め込むタイプでしょ」「え‥え‥?」



予想外の発言に雪は少し驚いたが、そうかもしれないと頭を掻いた。

淳は言葉を続ける。

「内に溜め過ぎるのも身体に悪いよ。何かあったら人に相談してみるのも良い方法だよ」



淳は真っ直ぐに彼女を見つめた。

目を逸らす雪の中に、似たような自分を透かし見ながら。

「一人で悩むより、言葉にした方がスッキリするんじゃない?」



「良い友達いっぱいいるみたいだし、

そうじゃなくても言葉にすることで上手く事が進むって事もあるしね」




雪は、八方塞がりだった心の迷路が、スルスルと解けて行くような感覚になった。

「一人で生きてるんじゃないんだから、そのくらい大丈夫だよ」








驚いた。

今まで彼に抱いていたイメージが、少し揺らいだような気持ちだった。

冷淡に見えていたあの瞳‥。



傲慢で堅苦しい、そのプライドの高さ‥。




そのイメージの隙間から、今向かいに座る彼が映った。

そして仄かに感じ取る。

暗く沈んだような瞳の奥に、温かく灯る一本の灯火のような優しさを。





カフェを出て二人が歩いていると、ふと彼が口を開いた。

「あ、そうだ!」



「さっき電話で話そうとしたことなんだけど」



彼は無邪気に微笑むと、雪の顔を覗き込みながら言った。

「週末空いてる?映画観に行こうよ」



突然の誘い。思わず雪は動揺した。

「えっ?えぇっ?!」



しかし彼は顔色を変えることなく、笑顔でそのワケを説明する。

「一緒に取ってる授業の課題で、映画観なきゃならないやつがあっただろ?

一緒にやろうよ。俺が予約しとくから」




先輩の誘いは、デートではなく課題の道連れだった。

雪はドギマギしながら、わざとらしいほど明るくそれを了承する。

「は、はい!観に行きましょう!ははは!うっかり忘れてました‥!」



そんな雪の答えに彼は微笑み、頷いた。

「それじゃまた連絡するね。授業頑張って」



そうして淳は手を振りながら、雪に背を向けた。

その後姿に、雪は咄嗟に声を掛ける。

「あの‥色々と、ありがとうございます‥!」






背後から掛けられたその言葉に、淳は目を見開いた。

今まで当然のように食事を奢ったり何かを人に与えることに慣れていた彼は、

改めてお礼を言われることが幾分珍しかったのかもしれない。

「は‥はは‥」



雪はそんな彼のリアクションに二の句が継げず、気まずさを隠すように頭を掻いた。

彼はそんな雪を見て、人差し指でトントンと自分の顔をタップして見せる。



目を丸くする雪。

その仕草に込められた意味合いを図りかね、無言でじっと彼を見つめる。



淳は雪を見つめながら、ニッコリと笑顔を浮かべた。そしてこう口を開く。

「笑顔でいてね」



笑顔で居れば何もかも上手くいくと、かつて淳は幼馴染の秀紀から教わった。

それはこの世を上手く渡っていくための処世術だ。

この世を不器用に生きる彼女に向けた、彼の心からのアドバイス‥。



淳はそう言ったきり、そのまま歩いて行った。

雪は先程感じた彼の仄かな温かさを、もう一度その笑顔の中に感じる。




自分のことを人に話したのは久しぶりだ‥。

塾の件も解決した‥




雪は地面を見ながら歩いた。

先ほどの就活相談の後も下を向いて歩いたが、気分は180度変わっていた。

超おいしいケーキ屋さんも知ることが出来たし、映画も観に行ける‥。



雪は知らず知らずの内に、歩調が早まるのを止められなかった。

がんじがらめだった心と、八方塞がりだった物事が、全て解けて行く。



雪は自分も気付かぬ内に、顔を上げていた。

自然とこぼれ出る笑顔が、陽の光を浴びて輝いていた。


道は開けた。

雪はその方向へ向かって、颯爽と走って行った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<救済>でした。

前回の<行き詰まり>が、青田先輩によって救われるという回でした。

雪にとっての青田先輩のイメージを変えるキッカケの回でもありますね。

全て一人で解決してきた雪が、珍しく人にその悩みを打ち明けるという大事な回でもあります。

普段なら今まで警戒してきた先輩になんて絶対打ち明けないでしょうが‥。

なんにせよ先輩の手慣れ感にアッパレでした。太一なら連れて行かれるのはラーメン屋か‥?w


次回は<それぞれの準備>です。


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行き詰まり

2013-08-02 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
遠藤修の恋人は、昨日彼からかかってきた一方的な電話に、落胆と苛立ちを感じていた。

捗らない勉強、狭い部屋に閉じこもっている孤独、家族から見放された寂しさ‥。

誰かにこの気持ちを聞いて欲しい。

彼はアパートの隣りに住む女子大生が朝出てくるのを見計らって、その扉の前で屍と化していた‥。



あたしのこの姿を見てよく平気な顔して素通り出来るわね‥。

え?マジで行っちゃうの?うわ‥そんな冷たい子だったんだ‥。あんた一生後悔するわよ‥。




呪いにも似たオドロオドロしい視線に、隣の女子大生は足を止めた。

二人並んで座りながら、彼は隣人である赤山雪に自らの境遇について愚痴り始めた。



彼のために、自分は家族も名誉も全て捨てた。

今までの暮らしからは想像出来ないくらい貧乏たらしい生活に身を落とし、

日がな一日勉強しているというのに‥。

「あいつは自分のことばっかり‥!」



そう言って彼は爪を噛んだ。

隣に座る雪が、彼の吸うタバコの煙にむせているのも気付かぬくらい、

彼の悶々とした心はささくれ立っている。



彼は、恋人についての不満を感情のままに並び立てた。

人間なのだから失敗することもある、他人に迷惑を掛けることもある。

けれど彼の恋人は、そんな彼のちょっとしたミスにも目をつぶることなく、いつもそれを責め立てる。


昨日だって久々に連絡が来たのだ。

なのに久しぶりの電話に耳を当てると、間もなく彼の怒号が耳に入ってきた‥。



しかし彼の憤りはそこだけでは無かった。もっと大きなわだかまり‥。

心にこびりついたその不信感を、彼は感情のままに吐露した。

「許せないのはあいつはあたしなんかとは比べ物にならないくらい、酷いことしてるってこと!

人のクレジットカード勝手に使いやがって‥!」




彼の言葉に、雪は「おじさんのクレジットカードを勝手に使ったんですか?」と訝しげに言った。

「あたしのがあったらとっくにあげてるわよ!あたしのじゃなくて学校の‥」



彼はそこまで言ったところで口を噤んだ。

理性が感情の扉にストップをかける。



彼は、雪にこのことは一切他言無用でと頭を下げた。

言わないと約束した雪に、何度も何度も念を押す。


就活相談があるから‥とその場から立ち上がった雪を、彼は無言のまま眺めた。

彼女は彼の入りたいA大の三年生で、成績も良い‥。



「‥そう。無事卒業して良いとこに就職出来たらいいわね」



彼は酒気の残る身体で立ち上がりながらも、彼女にエールを送った。

そして、「あたしみたいになっちゃダメよ」と消え入るように呟きながら去って行く。



トボトボと歩いて行く彼の後ろ姿を見ながら、雪はその心情を憂いた。

勉強のストレスに、自分を理解してくれない恋人、心に残った大きなわだかまり‥。



雪は彼を可哀想に思いながら、学校へと向かった。








雪が学校で受けた就活相談は、それはそれは容赦無いものだった。

「単位だけ見たら問題無いけど、サークル活動もしてないし語学研修もしてないし‥」



担当の女性は気乗りしない口調で、ネガティブな意見を淡々と述べた。

卒業ノルマを超えている英語の成績でさえ、最近は満点も多いからと難色を示された。

しかも文法の方は問題ないものの、英会話のスキルが圧倒的に足らないとズバリ指摘された。

さっさと英会話のスキルを出来るだけ早く伸ばすこと‥。

インターンもさっさと決めてさっさと行くこと‥。




雪は次々と投げかけられる課題が、エクトプラズムのように耳に入ってくるのに閉口した。

すると続けて担当者は、雪の履歴書に書かれた二つの資格に目を留めた。

去年塾に通って取得した、電算会計と流通管理士資格証だ。

「必要ないわ!」「え‥?!」



担当者は、資格を取っておくにしても系統を統一すべきだと言った。

これだと会計に進みたいのか流通に関わりたいのか、企業からしても優柔不断な印象しか得られないと。

「あなたがやりたい事は一体何なの?」



そう言われて、雪は頭が真っ白になった。



良い会社ならどこでも‥と辛うじて口を出た答えも、

どこの会社のどんな部署かとの質問の前には効力を失くした。

「良い会社ならどこでも良い」という漠然とした展望を言い当てられた雪は、

返す言葉も無く意識がフェードアウトして行った‥。








同じく就活相談で身も心もズタズタになった聡美と雪は、

トボトボと帰り道を歩いていた。



生気を吸い取られたような雪に負けずに、聡美もひたすら溜息を吐かれてズバズバやられたと言う。

ファッションやアパレル関係に携わりたい聡美は、父親から彼女の為に衣料店を建ててやると言われている。

その進路を就活相談で言及すると担当者は安心したが、店の切り盛りはやはり聡美の才覚にかかっている。



先の話だが、聡美は店が上手くいくかどうかを案じて溜息を吐いた。

誰にとっても、先の見えない進路に対する悩みは大きかった。

それでも雪は成績も良いし、あまりショックを受けなくても大丈夫だよと聡美は言う。



とりあえず英会話のスキルを伸ばすことを言われたのなら、塾にでも行くといいと前向きな提案もしてくれた。

しかし雪はとにかく気が重かった。

その暗鬱たる気持ちから、自然と溜息が出てしまう。



そんな折、聡美の携帯電話が鳴った。

父親からの電話に、聡美はキャピキャピと応答する。



何度見ても慣れないその光景に、雪は若干引き気味だ‥。


電話を切ると、聡美は夜ご飯一緒に食べようと言った。

パパがご馳走してくれると言うのだ。



しかし雪は丁重に断った。

資料探しに図書館に行かなくちゃならないし、課題も溜まっている‥。

聡美は惜しんだが、やがて二人は別れた。











聡美を見送ってから、雪は下を向いて歩きながら先ほどの心配事について考えを巡らせた。

英会話の塾の月謝‥どのくらいするんだろう‥。

通帳の残高も底尽きようとしてるのに‥夏休みにバイトしながら通うことになるの‥?









雪は先日実家に帰った際の、母親の言葉を思い出していた。

電話口で父親と話している母親の後ろ姿は、いつもより小さく見えた。

そんなに忙しいの?一旦帰ってきてお肉だけでも食べて行けばいいのに‥



それじゃあ今月の収入はほとんどないってこと‥?



ざわつく心は、憂鬱な記憶を引きずり出す。

ある日耳にした、父と部下との何気ない会話。

「うちの娘は高校時代にちょっと塾に通っただけで、後は独学で大学に上がったよ」

「ははは、赤山社長の娘さんは凄いですなぁ」



雪は天才では無かった。だから常に努力しなければならなかった。

テスト期間は徹夜に近いほど毎日勉強して、毎回必死に勝ち取っていた全校一位の成績‥。


「姉ちゃん、この電子辞書貰っていい?俺留学するからさぁ~」

雪が自分で買った電子辞書を持って行った弟。



雪は、留学に行きたいなんてとてもじゃ無いが両親に言い出せなかった。

弟のその天真爛漫さは、雪がどう足掻いても持ち得ないものだった。



「パパが店建ててくれるって!」



自分とはあまりに違う父親との関係。

素直に甘え、愛情を受ける聡美のことが、雪はいつも羨ましかった。


「女の子が高いお金出してまで、大学に通う必要なんて無いんだからな」





頑張っても頑張っても、得られない愛情。

努力しても努力しても、与えられない評価。





のしかかるプレッシャー。

優等生であることが当然とされてきた人生。

泣き言が言えない性格。







そして、あらゆる方向が行き詰まっている現実。



雪はたった一人、下を向いて唇を噛んだ。




助けを求める先は、どこにも無かった。



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<行き詰まり>でした!

就活相談大変そうですね。

しかし聡美パパ、娘のために服屋建てるとかどんだけ!


次回は<救済>です。



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彼の周囲

2013-08-01 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
雪が地下鉄に乗っている頃、

教室では柳と健太が携帯電話について話をしていた。



携帯を新しくしたという柳は、健太とその機能の面白さについて語っていると、

ふいに健太が、机に置きっぱなしになっている青田淳の携帯に目を留めた。



淳の携帯を手に取る健太。

「彼女の写真とかあったりして」



「勝手に見ちゃ悪いような‥」と言う柳に、

健太は「大丈夫だって!」と言って画面を覗きこむ。

「ん?」







画面はロックされていた。

健太が「なんだよ~。つまんねーな」と溜息を吐くと、

ふいに携帯に手がかかる。



青田淳だった。

淳は困ったような顔をして、何も言わずただ健太を凝視する。



そのまま淳は鞄を取ると、「用事があるんでお先に失礼します」とにこやかに去って行った。

青い顔をして柳を振り返る健太。

「おい‥見たか?今の顔‥。ちょっと携帯勝手に触ったからって、

上から目線で見てきやがって‥」




柳はそんなことないと言ったが、健太は到底納得出来ない。

「いーや、あいつは俺のこと見下してやがるんだ。

それとなく俺のことバカにしてると思わんか?」




健太は、日頃の不満を並べるように彼の印象を述べた。

あいつは時々自分の事を無視する行動をする。女を得意げに横取りしたり、時計を自慢したり‥。

先ほどの携帯を見て嫌そうな顔をしたのが良い例じゃないかと、

疑問気な表情をした柳も厭わず健太は、淳の印象を決定づけた。

「あいつには何か裏があるな」






淳は教室を出た後、事務室へ向かう廊下を歩いていた。



携帯電話をポケットから取り出し、暗証番号を入れる。



彼がロックしておきたかったもの。



淳はその写メを見て微笑んだ。



同族だと思い近付いた彼女。

話してみると殊の外面白く、そしていつも予想外の行動で彼の心を揺さぶる。

  







淳は浮き立つような気分で、廊下を歩いて行った。








事務室では、遠藤修が彼の到着を待っていた。



時間より少し遅れて入ってきた青田淳は、

「鞄と携帯を取ってくるのに手間取りまして、少し遅れました」と淡々と言う。

遠藤は早速切り出した。

「その‥お前が早期卒業を申請するんなら、この書類に記入してもらおうと思って‥」



彼は淳と目を合わさず、早口で言った。

そのために呼んだんですか、という淳の質問に、遠藤は答えずもう一度確認する。

「申請するんだろ?」



「いえ?」



その答えに、遠藤は慌てた。

前々から、それこそ淳が3年生の頃から周りでは彼が早期卒業をすると囁かれており、

事務員の一人が淳に確認した所、その意向だということが、遠藤の耳には入っていたのだ。








「ど‥どうしてだ?早期卒業出来るんだから、した方が良くないか?」



遠藤は以前彼から聞いた卒業後の進路を口にした。

「お前、卒業後は留学してさらに勉強すると言ってたじゃないか。

じゃなきゃすぐ親父さんの会社に入るって。年を重ねる前に、少しでも早く卒業した方が‥」


そう言った遠藤に、淳は困ったように口を開いた。

「他人事に興味津々ですね。そんなに気を遣って頂かなくても、全部分かってますから」



遠藤は、自分は淳の持つ点数をこのままにするのは惜しいから言っているんだ‥とモゴモゴ言う。

淳はそんな遠藤に、「俺も惜しいです」と返した。

そしてどこかを見つめるように微笑むと、思いを込めてこう言葉を紡ぐ。

「だから、残りの学期も最後まで通いたいんです」



遠藤は淳の言葉の意味が飲み込めなかった。




しかし淳は言ったのだ。

「大学に通った時間を全部合わせても、俺は今が一番楽しいんですよ」とさえ。



淳は遠藤を見ると、憐れむような表情を浮かべ、こう言った。

「遠藤さんが、俺に大学から早く出て行って欲しいのは分かりますが、

俺は今までのことを無かったことのようにして過ごしているのに、なぜ度々蒸し返すんですか?」




「気にしなければ良いだけの話でしょう?」




遠藤は何も言えなかった。

静寂が、事務室を覆う。







淳は遠藤を見下ろすと、「それじゃ、俺はこのへんで」と事務室を出て行った。

パタン、とドアが閉まる音を聞いてから、携帯を取り出す遠藤。



相手が出るやいなや、遠藤はふざけんじゃねーよと怒り出した。



電話の向こうの恋人は狼狽していた。

久々の電話なのに、開口一番なに怒ってるのと恋人が言うと、遠藤はより一層怒号を上げる。

「なんで怒るかって?!全部お前のためだよ!お前のために俺は‥!」



遠藤は忌まわしい記憶が蘇るのを感じていた。

お前のために俺は‥。貯金も崩した、他人のカードを盗んだ、脅迫されて罪を犯して、皆から白い目で見られた‥。

遠藤は乱暴に電話を切ると、机の上に放り投げた。



その後長い間、事務室では彼の呻く声が響いていた。







一方、散らかった安アパートの一室で、

遠藤の恋人はたった今かかってきた電話に困惑していた。



最近遠藤は機嫌が悪く、この間など笑っただけでバカにしてるのかと怒られたりするのだ。

彼は自分の感情ばかりを優先する遠藤を、窮屈に感じていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼の周囲>でした!

後半部分は日本語版未掲載部分です。

ここで先輩の卒業後の進路が言及されているなんて知りませんでした。。


次回は<行き詰まり>です。


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ファーストコンタクト

2013-07-31 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
雪と聡美が構内の廊下を歩いていると、不意に健太先輩とすれ違った。



いつもの彼とは違い、幾分ぼんやりとしているようだ。

雪は振り返って彼を呼び止めた。

「先輩!この前は‥てか私のメール見てくれましたか?」



健太先輩はこの間、恵と彼との面会現場に雪が隠れていたことに対して、もう気にしていないと言った。

続けて、恵には俺より青田のほうが似合ってると言って、頭を掻いた。

「恵ちゃんも青田のこと気になってるみたいだし‥お前も青田と仲良くなった甲斐があったな~」



否定する雪だが、健太先輩は授業があるからとそのまま行ってしまった。

どうしてこうなるんだろう‥。

最善策をと考えてきたのに、結局悪い方へ事態は流れてしまっている。



頭を抱え苦悩する雪に、「健太先輩怒ってないだけマシだよ」と聡美は一生懸命フォローした‥。






雪は学校が終わると、急いで地下鉄乗り場まで走った。

実はこの間実家に帰った際、教科書を忘れてきてしまったのだ。

明日も学校があるので、また下宿に帰ってくるつもりの雪は、急いで改札へ向かった。



母親にどの教科書が要るかを電話していると、今日の夜ご飯は焼肉だというので、

晩御飯も食べて下宿に帰ることに決めた。

鼻歌混じりに、雑踏の中を行く。



雪の後ろから、ある人物が付けてきていた。

雪は不穏な視線を感じると、パッと後ろを振り返った。



特に怪しい人影は見えない。

そのまま雪は改札へと向かったが、さすが彼女の感覚は鋭い。



柱の影から、河村亮がその後姿をじっと見ていた。


雪は冷や汗が頬を伝うのを感じていた。



その感覚に、去年横山からストーキングを受けた過去が蘇る。

その後プラットホームへ向かう道すがらも、雪は何度も後ろを振り返った。



忌まわしい横山の記憶を思い出してしまったことにも、嫌な気持ちになってしまう。



亮は雪の後を付けながら、そんな自分を焦れったく感じていた。

「あー‥オレとしたことが何やってんだ‥気になるなら直接聞いてみればいいじゃんかよ!」



亮は意を決すると、早足で彼女の後を追いかける。







雪はぼんやりと電車を待ちながら、音楽でも聞こうとMCプレイヤーを取り出した。



しかし手が滑り、ガシャンと音を立ててそれは地面に落ちてしまう。



慌てて拾おうとしゃがむと、彼女より先に誰かがそれを拾い上げた。



雪がお礼を言おうと顔を上げると、




その男は、真っ直ぐに雪のことを見つめていた。




彼は外国人のような、ハーフのような、独特の雰囲気があった。

雪はその端正さに顔を赤らめながら、たどたどしくお礼を言う。



すると男は、雪に「おい」と声を掛け、ストレートにこう聞いた。

「お前、青田淳とどういう関係?」



雪は一瞬固まったが、最近この質問を受けるのは実は三度目‥。(直美さん達、遠藤さん、そしてこの初対面の男‥)

頭を抱えて悶絶する雪に、亮は不信な目を向けた。



もう一度どういう関係か亮が聞くと、雪はパッと顔を上げて言った。

「そういうあなたはどちら様ですか?!」



亮は少し黙った後、目を合わせずに俺は淳の友達だと言った。

早く質問に答えろと急かす彼に、雪は苛つきを覚える。

「何の関係でもありません!」



その取り付く島もない答えに、亮は溜息を吐いた。

そして雪のことを、ジロジロと観察し始める。

「まぁ‥そうだよな。ルックス、背丈、ファッションからしても‥ナイもんな」



続けて「淳の奴がこんな低レベルの女を傍に置くはずがない」と言った亮に、さすがに雪もカチンと来た。

「あの!さっきから黙って聞いてりゃあぬけぬけと‥!何なんですか?!」



亮は天を仰ぎながら、納得出来ないながらも感じていた疑問が口を吐いて出た。

「んー‥、でもあいつのニヤニヤしたあの眼差し‥」



「絶対何かあるはずなんだよな‥」

「??」



プラットホームに風が吹き込み、電車の到着を告げるアナウンスがこだまする。

まだ青田先輩との関係を聞いてくる男を、無視して雪は電車に乗り込もうとした。



すると男は「待てよ」と、雪の腕を掴んだ。



雪の脳裏に、横山から受けたストーキングの記憶が鮮烈に蘇る。

その恐怖にも似た衝動を受けて、雪は咄嗟に叫んでいた。

「ぎゃあっ?!何すんのよ!!」



亮は、いきなりのその剣幕に驚きを隠せず、その目を見開いた。



そんな彼の目の前で扉は閉まり、淳と何かしらの関係を持った彼女を乗せて、地下鉄は発車したのだった。






雪は男から見えない席へ座ると、電車が彼を過ぎ去るまで身じろぎせずその身を凍らせた。

突然腕を掴まれたとはいえ、自分でも驚くくらいの大声を出したことが、なんだか恥ずかしい。

けれどあの男は一体何者なんだろう‥。

本当に青田先輩の友達なのか?なんだか変な人みたいだけど‥



雪は電車に揺られながら、彼の残像が瞼の裏に映るのを感じていた。






轟音を上げて過ぎ去る地下鉄を見送りながら、亮は一人プラットホームに佇んでいた。



しかし次の瞬間彼は被っていたキャップを地面に叩きつけると、苛立ちのあまり地団駄を踏む。

「なんだぁあのキ◯ガイ女?!淳とクレイジー同士お似合いじゃねーかよ!」



すると携帯が鳴った。♪卑怯と罵るな~♪との着信とともに表示された名前は、

彼の元職場の同僚だ。

「おい!もう電話してくんなって言っただろ?!オレはもうお前達とは縁を切ったんだよ!」



同僚は亮の言葉を遮って、社長が怒り狂っているということを彼に伝えた。

亮が社長から金を借りた巻き上げたまま姿を消したということで、社長は机をひっくり返す大騒ぎを起こし、

元職場は軽いパニックに陥っているらしいのだ。

亮は、俺が上京したことは社長に伝えるなと同僚に命令すると、もう切るぞと言って電源を切った。



気がかりな同僚の言葉に、亮は小さな胸騒ぎを感じ、黙り込む。




「Hi~! Where are you from?!」



突然亮は、彼を外国人だと勘違いしたバックパッカーに声を掛けられた。

しかし亮は英語が分からないため絡まれていると思い、大騒ぎし始める。

「何ほざいてやがんだ?!失せろコノヤロー!オレはヤンキーじゃねぇぞ!!」



地下鉄の構内に、その大声はしばし響いていたのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ファーストコンタクト>でした!

亮の着メロはこれらしいです↓
CAN - Spring days of my life, Music Camp 20020202



亮と雪の初対面でしたね。高校時代は淳とのことを散々聞かれてウンザリだった亮が、今度は雪にしつこく聞くという‥。

今回は日本語版未掲載分もあり、漫画の流れを少し変えて記事を書きました。ご了承下さいませ。。

次回は<彼の周囲>です。

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接触

2013-07-30 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
「何だって?」



健太先輩が素っ頓狂な声を上げた。

それもそのはず。

雪は言ったのだ。「恵のことを、諦めてもらいたい」と。

健太先輩は雪に詰め寄った。自分の何がダメなのか。

「顔か?!金持ってなさそうだからか?!」



雪はその勢いに後退りながら、「あの子男の人に興味ないみたいで‥」と上ずった声で答えた。

「‥嘘じゃないだろうな?」



ここで健太の野生の勘が働いた。雪のことを疑り深く見つめると、きっぱりと言い切る。

「納得いかん。本人の口から聞くまでは何も信じないからな!」

そんなぁ‥と当惑する雪。



その彼女の態度に、健太はますます苛立ちを濃くして行く。

「直接会ってもしも断られたら、その時は潔く諦める!それでいいだろ?!」



その言葉をまだ信じられない雪が、「本当ですか?」と尋ねると、健太先輩はキレ気味に言った。

「どうしてそう人を疑うかね~?!約束するっつーの!

その代わり電話とかメールとか、仲介は一切認めないからな!Eye to Eye!分かったな?!」




「‥‥‥‥」






雪は悩んだが、恵にそのことを正直に打ち明けると、意外なほどすんなり承諾してくれた。

「ハッキリ言えば諦めてくれるんでしょ?

あたしのことはともかく、雪ねぇにこれ以上迷惑かけるのは許せない!」




鼻息荒くそう言い切る恵。

その威勢は頼もしいが、やはり雪にとってはいつまでも小さい妹分だ。

「やっぱり心配だし、私が言っとこうか?」と雪は恵を気遣ったが、

彼女は、もう自分は子供じゃない、大学生なんだから心配ないよと笑った。

「Eye to Eye、受けて立とうじゃない!面と向かってキッパリと断ってやる!」



そう言って目からビームを出す恵に、雪は親心に似た気持ちを抱いた。

小さな頃、ミルクを飲んで雪の肩に吐いたのが嘘みたいだと、恵の頭を撫でて言う。

その優しい記憶を思い出しながら。









健太先輩が、落ち合う場所は100歩譲って学校にしてやるよと言ったので、

構内の中庭のベンチで待ち合わせとなった。



待ち合わせ時間より早く、健太先輩はそこに座っていた。

鏡を見て身だしなみを整えた後は、ポケットからバラを一輪取り出して鼻歌を歌う。



何が諦めるだ‥やっぱりアタックする気満々じゃないか‥。



雪は草陰に隠れながらその様子を窺っていた。

健太からは尾行はお断りだと言われ、恵からはついて来なくても大丈夫だと念を押されていたが、

大人しくしていられるわけがない。

雪は盗み見るのに丁度良い場所を得たとほくそ笑み、そこで恵の到着を待った。



草の合間から、恵の姿が見え始めた。




「来た来た」「誰が?」「恵です。あー緊張する‥」





!!

「恵、って雪ちゃんの友達の?」



雪は心臓が口から飛び出そうになった。

青田先輩は、どうして隠れているの?と不思議そうに雪を見ている。

「健太先輩がこっちに居るって聞いて探しに来たんだけど、

雪ちゃんがこんな所に隠れてるから気になって‥」




青田先輩は健太先輩に貸していたノートを返して貰うために来たんだと言った。

草陰の合間から、ベンチに座っている健太先輩に気がつくと、青田先輩は立ち上がり彼に声を掛けようとする。

「あ、健太せんぱ‥」



きゃあ!ストーップ!!



考えるより早く、彼の服を掴んでいた。






ガサッ、とその瞬間草むらが揺れたのだが、丁度その時恵が健太先輩に声を掛けた。

「先輩!」



健太は恵に気がつくと、ベンチに座るよう促した。

このままでいいですと断る恵に、健太は聞く耳を持たない‥。


















草むらでは、フリーズした二人がそこに居た。





彼女を凝視する彼と、





彼より向こうの様子が気になる彼女。



彼女の手の平が、彼の唇を塞いでいた。









雪はなんとか気付かれていないことを確認すると、





そっと、自分の唇に人指し指を立てた。





それを見て頷く淳。





雪は彼が今の状況を理解したことを確認すると、そっとその手の平を外した。









雪の関心はもっぱら健太先輩と恵の方へと注がれていたが、





淳はそのまま雪を見つめて動けなかった。





予想外とも想定外とも言える彼女の行動は、彼に衝撃を与え続ける。







「彼氏と別れたんだって?じゃあ俺でいいじゃん」

「それとこれとは話がまた別だと思うんですけど」



必死で聞き耳を立てる雪を見て、淳はようやくその状況が掴めて来た。

草むらの隙間からあちらを窺い見ると、健太先輩が小西恵に花を渡そうとしているところだ。



今度メシでも‥とめげない健太先輩に、恵はハッキリと言った。

「先輩、話が違いますよ。自分が言った言葉には責任を持つべきだと思います」



目を見て諭されるそのもっともな正論に、健太は二の句も継げず、そのままダッと走り出した。

「クソッ‥!」



恵は健太先輩がこの場から走り去るのを見届けると、草むらに居る雪に声を掛ける。

「雪ねぇ、もう出て来てもいいよ」



雪はバレていたことに驚いたが、恵はカサカサ音が聞こえるからおかしいと思ったと笑った。

すると後ろから、恵の予想だにしなかった人が頭に葉っぱを乗せて現れる。



丁度通りかかってさ、と笑う青田先輩に、恵は驚きと喜びを隠せなかった。









その頃健太は、少し離れた所で一人考えを巡らせていた。



これで諦めたら男じゃないよな?と自分に言い聞かせると、また来た道を戻って行く。









雪たち三人は、その後談笑していた。



青田先輩はせっかくだしご飯でもご馳走してやりたかったけど、健太先輩に用があるからごめんねと言い、

恵の名前を覚えていなかった先輩に、彼女はもう一度自己紹介したりした。



雪は多少困惑していた。恵が青田先輩に気があるのはその態度からして明らかで、

自分がこれからどう振る舞えばいいのかについて考える必要がある。



ふと、視線を感じた。

振り向くと、遠くから健太先輩がこちらを見ている。



しかし彼はすぐ踵を返し、また向こうへと歩いて行った。


雪は漠然とした不安が、心の中を覆って行くのを感じた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<接触>でした。

ここが先輩→雪にとってのターニングポイントなんでしょうね~!

先輩はその予測できない行動をする彼女に対して、ここからより一層関心を抱くようになったのでしょう。

そして、先輩が恵に何度も名前を聞くのは「俺は君に興味ないよ」という遠回しな拒絶のような気がします。
(幼い頃からモテて来た彼は、自分のことを好きな女の子を見抜く力がかなりあると思っています)

マニアック豆知識としては、前回の雪のTシャツと今回の先輩のTシャツはまるでおそろ‥。

 

先輩もしかして、ペアルックを狙ったのか‥?!

次回は<ファーストコンタクト>です!

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