
学内の掲示板に貼ってあるその張り紙を、雪はその場でじっと見ていた。
来学期から休学をしようがしまいが、アルバイトをしなければならないことに変わりはない。


雪は連絡先の紙を一枚ちぎると、そこに色々と書き込んで行った。
依然として体調は最悪だ。



紙をポケットに仕舞い、雪は胃が痛いのを我慢しながら一人廊下を歩いた。
すると向こうから、見覚えのあるシルエットが近付いてくる。
「!」

先程、彼と太一を間違えてしまったこともあり、雪は気まずさを感じて狼狽えた。
アタフタしながら、彼に背を向けて歩き出す。

「あっ!」

すると目の前に、良いタイミングで聡美と太一が現れた。
雪はすぐさま彼らに声を掛ける。
「おーい!」「雪ー」

「何してんの?」「ん?バイト探してたー」


青田淳は、雪の背中を見つめながらその場にじっと佇んでいた。
手の中には、薬局で買った栄養ドリンクが握られている。

会話一つ入り込む隙間も無い、彼女と自身との関係。
淳はポケットにドリンクを仕舞うと、彼女に背を向けて歩き出す。

頭の中に、およそ半年程前の雪の声が蘇った。
「おはようございます!」

あの頃は、毎日のように彼女から声が掛かった。
「こんにちはー」

どんなに人ごみに囲まれていても、
「こんにち‥うっ」

淳を見つけると彼女は挨拶を口にした。
「おはようございます先輩!」

半ば捨て鉢のようなその挨拶。
淳が無視することに腹を立て、そうしているであろうことはすぐに分かった。
「先輩、こんにちは!」

「こんにちは‥」

いつしかその声も、聞こえなくなって行った。
そして彼女に接触する要素が、一つも無くなった今に至るのだ‥。

僅かに開いた心の扉の隙間から、冷たい風が吹き込んでくるようだった。
淳がその場に立ち止まっていると、不意に後方から声が上がった。
「雪さん!」「えっ?!どうしたの?!」

振り返ると、福井太一が雪のことをおぶりながらこちらに向かって走ってくる。
「雪!しっかりして!」

伊吹聡美は雪が倒れたことに狼狽し、太一は冷静ながらもその足は急いていた。
彼らは横の通路に佇んでいる淳のことには気づかない。
「死んじゃいやぁ~~!」「死にませんヨ」

彼らが、雪が、目の前を通過する。
「それじゃ保健室に行きまショ」

去り際に見えた彼女の横顔に、
滝のような汗が流れているのが見えた。

淳はその場に立ち尽くしたまま、そんな彼女の背中を見送る。

「雪ぃーー!」


遠ざかって行く彼ら。
淳は目を丸くしながら、嵐のように去って行ったその背中を見つめていた‥。

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<雪と淳>倒れる でした。
冒頭の「メンター募集」ですが、

メンターとは、助言者、教育者、後見人‥いわば”師”のようなものらしいです。
バイトの体制としては家庭教師とはどう異なるのか‥。ちょっと謎でした‥。どうなんだろう。
次回は<雪と淳>動く です。
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