Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>倒れる

2016-04-13 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)
家庭教師募集 メンター募集



学内の掲示板に貼ってあるその張り紙を、雪はその場でじっと見ていた。

来学期から休学をしようがしまいが、アルバイトをしなければならないことに変わりはない。






雪は連絡先の紙を一枚ちぎると、そこに色々と書き込んで行った。

依然として体調は最悪だ。

 




紙をポケットに仕舞い、雪は胃が痛いのを我慢しながら一人廊下を歩いた。

すると向こうから、見覚えのあるシルエットが近付いてくる。

「!」



先程、彼と太一を間違えてしまったこともあり、雪は気まずさを感じて狼狽えた。

アタフタしながら、彼に背を向けて歩き出す。



「あっ!」



すると目の前に、良いタイミングで聡美と太一が現れた。

雪はすぐさま彼らに声を掛ける。

「おーい!」「雪ー」



「何してんの?」「ん?バイト探してたー」







青田淳は、雪の背中を見つめながらその場にじっと佇んでいた。

手の中には、薬局で買った栄養ドリンクが握られている。



会話一つ入り込む隙間も無い、彼女と自身との関係。

淳はポケットにドリンクを仕舞うと、彼女に背を向けて歩き出す。



頭の中に、およそ半年程前の雪の声が蘇った。

「おはようございます!」



あの頃は、毎日のように彼女から声が掛かった。

「こんにちはー」



どんなに人ごみに囲まれていても、

「こんにち‥うっ」



淳を見つけると彼女は挨拶を口にした。

「おはようございます先輩!」



半ば捨て鉢のようなその挨拶。

淳が無視することに腹を立て、そうしているであろうことはすぐに分かった。

「先輩、こんにちは!」



「こんにちは‥」



いつしかその声も、聞こえなくなって行った。

そして彼女に接触する要素が、一つも無くなった今に至るのだ‥。



僅かに開いた心の扉の隙間から、冷たい風が吹き込んでくるようだった。

淳がその場に立ち止まっていると、不意に後方から声が上がった。

「雪さん!」「えっ?!どうしたの?!」



振り返ると、福井太一が雪のことをおぶりながらこちらに向かって走ってくる。

「雪!しっかりして!」



伊吹聡美は雪が倒れたことに狼狽し、太一は冷静ながらもその足は急いていた。

彼らは横の通路に佇んでいる淳のことには気づかない。

「死んじゃいやぁ~~!」「死にませんヨ」



彼らが、雪が、目の前を通過する。

「それじゃ保健室に行きまショ」



去り際に見えた彼女の横顔に、

滝のような汗が流れているのが見えた。



淳はその場に立ち尽くしたまま、そんな彼女の背中を見送る。




「雪ぃーー!」






遠ざかって行く彼ら。

淳は目を丸くしながら、嵐のように去って行ったその背中を見つめていた‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>倒れる でした。

冒頭の「メンター募集」ですが、



メンターとは、助言者、教育者、後見人‥いわば”師”のようなものらしいです。

バイトの体制としては家庭教師とはどう異なるのか‥。ちょっと謎でした‥。どうなんだろう。


次回は<雪と淳>動く です。


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<雪と淳>彼らの距離

2016-04-11 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)


空は広いのに、世界は明るいのに、雪の目には何も入って来ない。

目に映るのは、汚れた地面と無機質なコンクリートの壁だけだった。

時の隙間に落ち込んでしまったかのように、疲労の蓄積した身体も心も、埋もれて行く。

そんな中、雪はふと思いついた。

‥休学しようか



そうだ、どうせ家の経済状況も良くないし、

全額奨学金もあの人がいるせいで受けられるかどうか分からない。

それにどうせあと一年で青田淳は卒業だ。また一年間苦しめられたいの?




これ以上はもう‥無理だ



繰り返すさざ波に打ちのめされ、雪の心と身体は限界を迎えていた。

ふと思いついた”休学する”という考えは、今の雪には現状から脱却出来る、唯一の選択のように思える。

そうだよ、皆で集まる度にわざと姿を避けることも



無理に笑うことも、



挨拶しようかしまいか悩むことも、もうウンザリじゃないか



全ての元凶はあの男だった。

雪の想像の中で彼は、頭に”首席”のプレートを貼り付けて笑っている。

奨学金も問題といえば問題だけど、

どうせ来年は休学しようがしまいがバイト三昧なことに変わりはない




雪はやけくそな気分で、はっと息を吐き捨てた。

ていうかどうして私より勉強も出来るのか?

そんなにまで完璧な必要ある?あームカつく








どれだけ心の中で毒づいても、自身を取り巻く環境を呪ってみても、状況は何も変わらなかった。

ただ最初からそういった現実が、そこに横たわっているだけだから。

同じように努力しても、最初から比較にもならないほど、違う世界の人なのに



しゃがみこんだ雪が見上げた校舎は、いつもより高く聳え立っているように見えた。

ふと瞼の裏に、こちらを見て笑っている蓮の姿が浮かぶ。

昔からずっと彼に対して抱えて来た、劣等感が雪の心を蝕んで行く。

大学でまでこんな気持ちにならなきゃいけないのか



直面させられる劣等感、自身の弱さ、味合わされる屈辱感‥。

全てはあの時から始まった。



耳元で囁かれた彼の言葉は、今も雪を縛り付ける。

「これからは気をつけろよ」



警告と共に肩に置かれた彼の手は、今も冷たい跡を残す。

ううん、嫌だ



どこを向いても、どこかしらに彼が居た。もうそんな現実に、耐え切れる自信は無い。

このまままた一年間ぶつかり続けたら、

青田淳のせいでも私自身の弱さのせいでも、私の存在そのものが、取って食われてしまう




本気で取って食われてしまう



自身を奪われ行くという恐怖が、じわじわと雪の心を蝕んで行く。

沈み込んだ時の狭間に、深く深く埋ずもれて‥。

絶対に‥











彼は立ち尽くしていた。

車道を挟んだ対岸の歩道で、うずくまっている彼女のことを見つめながら。



気が付けば、彼女の後を追って来ていた。

淳はその場に立ち止まりながら、小さく埋もれている彼女のことを凝視し続ける。




世界の隙間に落っこちてしまったかのような、彼女の背中。





間にある広い道幅の車道は、今の彼らの距離そのものだった。





一歩踏み出そうとするも、





出来なかった。





まるで見えない壁があるかのように、淳は向こう側には渡れない。






彼女は、暗い世界に現れた、もう一人の自分。







同じ世界の狭間に落っこちた、自身の同類‥。







鼓膜の奥でカチャリと音がする。

いつしか、心の扉が開いていた‥。









どのくらいこうしていただろうか。

しゃがみ込んだ雪の背後から、聞き覚えのある声が掛かる。

「雪さーん!」



見上げてみると、太一の姿が見えた。こちらに向かって走ってくる。

「ここでなにしてるんスか?」「太一」

「どうかしたッスか?」



太一は心配そうな表情で、乱れた雪の髪の毛を直し始めた。

「大丈夫デスか?!」「え?大丈夫だよ」

「なんで髪ぐちゃぐちゃなんスか」



彼の登場で、止まっていた時間が流れ出す。

「行きましょ。ほら鞄貸して。って重っ!なにこれ殺人兵器ッスか?めちゃ重いんスけど」

「専攻書籍だもん。当然重いって!」「なんで全部持って歩いてんスかー」



気心の知れた太一の隣で、ようやく雪は笑うことが出来た。

二人はそのまま教室へと歩いて行く。



「あ、そうだ。俺今日青田先輩と服似てるでしょ?すげー挨拶してもらっちゃいましたヨww」「そ‥そう‥」









淳はその場に立ち尽くしたまま、彼女が去って行くのをじっと見ていた。

心の扉は僅かに開いている。

彼女が気になって、仕方が無かった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>彼らの距離 でした。

ここで遂に雪が休学を決意するのですね。

だんだんと時系列が揃って来ましたね~!わくわくします!


次回は<雪と淳>倒れる です。

そういえばLINE漫画、三部までで完結になっちゃいましたね
突然だったのでビックリです。

また時間空けて再開するんでしょうか‥。
そして完結分はもう読めないのか??
どうなるんだろう‥。

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<雪と淳>彼女の劣等感

2016-04-09 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)

「ゲホッ‥ゲホッ‥」



猛ダッシュで青田淳から逃げて来た雪は、急に猛烈な吐き気を感じて嘔吐した。

壁に手をつきながら、嗚咽と咳を繰り返す。

「ゲホッ‥」



「はあ‥」



その場で暫く休んだ後、ようやく落ち着いた。ふぅと深く息を吐く。

驚きすぎたからか?どうして吐き気が‥



でも食べてないから何も出てこないや‥掃除せずに済んだな‥






急に全ての力が抜けた気がした。

雪はその場にへたり込むと、額や頬を壁に付けた格好で目を閉じる。

「はぁ‥ひんやりする‥」



身体全体が熱っぽかった。

しかも先程のことを思い出せば出すほど、顔から火が出るようだ。

それでなくても熱あるのに、何たる失態‥。あの人の前で真っ赤になっちゃって‥



「‥‥‥‥」



恥ずかしかった。

繰り返し思い出すのは、目を丸くして紙幣を差し出すあの人の顔‥。






その手に握られた千円札四枚を見て、わけもなく苛立った。

雪の心が皮肉に歪む。

お金いっぱい持ってるわけね。羨ましいですこと‥



似たようなことが前にもあった。

あれはグループワークのメンバーで飲みに行った時、会計を全て彼が出すという雰囲気になった時‥。

「お、おごりですか?皆で飲んでるのになんで一人で‥」



あの時の彼の顔が忘れられない。

まるでお金の心配など無いであろう彼の、変なものでも見るかのようなあの目付き‥。



あの時のことを思い出すと、ふと冷めた気分になる。

私のこと、さぞバカみたいに思ったでしょうね‥



彼と相対する度に思い知らされる、この圧倒的な劣等感。


あの人は私に‥




地面をカサカサと這う落ち葉のように、心が乾いて虚しくなる。


恥辱を与え、



踏み付けられた書類。あの時雪のプライドさえも、粉々に踏み潰された。


屈辱を与え、



ペンを落としたあの時も、無視されたあの時も、

その後姿を見る度に、いつも心は屈辱に歪んだ。


当惑させ、



意図の分からない行動も、衆人環視の中での言動も、常に雪を当惑させた。

どうしてこの人は、いつも私をこんな気持ちにさせるのだろう?と。


そして先程差し出された、あの同情。

惨めにさせる



悔しかった。

その手に握られた紙幣を見た途端、カッと燃えるように心が燃えた。

あんな状況で、私の最後のプライドまでも、



躊躇いもなく粉々にしてしまうような人間



彼と相対するといつも、自身の弱さを自覚させられる。

目を背けたい脆弱な面を、嫌でも見せつけられるのだ‥。



雪はぎゅっと口元を結んだ。

様々な感情が胸の中を駆け巡っている。

「‥‥‥」



広いキャンパスの一角で、一人ぺしゃんこになっている自分自身。

耳を澄ませば、楽しそうに会話する学生達の声が聞こえてくるというのに‥。



皆と同じ立場のはずなのに、まるで余裕の無い自分自身に、雪は改めて向き合っていた。

いや、向き合わされていた。

空は広いのに、世界は明るいのに、今の雪の目には、何も入っては来なかった‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>彼女の劣等感 でした。

まるで走馬灯のような今回‥。雪と淳の黒歴史を遡るような展開になりました。

こうやって見ると、雪ちゃん本当に先輩が嫌い‥というか苦手なんだなと思いますね。

でもこれら過去の出来事は全部真実ではなく、全ては雪の視点なんですよね。劣等感に苛まれている雪の。

一年後の淳と雪を知っているからこそ、彼らの互いへの誤解が見て取れますね。。


次回は<雪と淳>彼らの距離 です。


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<雪と淳>赤面

2016-04-07 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)


淳は服の端を掴まれたまま、その場に立ち尽くしていた。

雪は未だ彼を福井太一だと思い込んだまま、気まずいその頼み事をおずおずと口にする。

「ちょっと寒気するんだ‥。薬局で栄養ドリンクでも買って飲めば治ると思うんだけど‥」

 

「どうしても授業に集中出来なくて‥」



消え入りそうな小さな声。

淳はそのような内容を突然口にした彼女に、この状況に、驚きを隠せなかった。



雪は下を向いたまま、まだ彼の方を見ようとはしない。



淳はそんな彼女から、目が離せなかった。

秋風が彼女の髪をサラサラと揺らすのを、まるでスローモーションのように眺めている。



形の良い唇が、きゅっと結ばれるのに目を奪われる。







そして何よりも淳の意識をとらえたのは、自身を掴む彼女の指先だった。

あの日、学祭の準備で寝込んでしまった時のあの感情が、再び彼の心に蘇る‥。






ざぁっ、と強い風が吹き、色付いた木々の葉が一斉に揺れた。

それと共に淳の心もまたざわめき立つ。ざわざわ、ざわざわと。

二人が立ち尽くすその光景は、切り取られた一葉の写真のようだった。








何も言わない彼の隣で、雪は次第にその違和感を募らせはじめていた。

いくらお金の話をしたからといって、ここまで無言なのはさすがにおかしいと。

「ん?なんで黙って‥







遂に顔を上げた雪の目の前に居たのは、福井太一ではなかった。

彼女が徹底的に避けているその人、青田淳だったのだ。

雪は瞬時にその状況が理解出来ず、曖昧な笑顔を浮かべたままその場で固まる。









サッ、と血の気が引いた。白目になった雪は思わず叫ぶ。

「あおっ‥!!」



雪は真っ青になりながら、口元を押さえてあからさまに動揺した。ガクガクと足が震える。

しかし淳はというと、彼女の方を向いたままポケットから財布を取り出している。

「あ‥あ‥あ‥?」「あ‥」



「これ‥」






そう言って差し出された淳の手には、千円札が四枚握られていた。

淳は彼女がお願いした何倍もの額を渡そうとする。



真っ直ぐに彼女を見つめる彼の瞳は、澄んでいた。

彼女からの頼み事に、ただ純粋に応えるような。







雪は彼の顔を見上げながら、ポカンと口を開けたまま固まっていた。

熱に浮かされた頭でも、だんだんと今の状況を理解して行く。



そして気付いた。

とんでもないことをしてしまったのだと。よりによって青田淳に。

あの、青田淳に。

カアッ



瞬間、火がついたように顔が赤くなった。

心が、身体が、全てが燃える。



淳は彼女の表情が歪むのを見て、目を丸くした。

雪はアタフタと慌てながら、必死にその理由を説明する。

「す、すいません!ちょっと間違えちゃって‥

私今‥ちょっとおかしいんです。その‥服が同じで、」




「太一かと思っちゃって‥」



「本当にすみませんでした、先輩!」



淳は彼女が紡ぐ言葉よりも、バカ正直に紙幣を差し出した今の自身に驚いていた。

人違いだなんて冷静に考えればすぐに分かったのに。

突然の予想外の出来事を前にして、淳はそれにすら気が付かなかったのだ。

「それじゃ‥」



しかし雪はそんな彼のことになど気が回らなかった。

雪は今恥ずかしさと惨めさで、一刻も早くこの場から立ち去りたかったから。

「さようならっ‥」



淳は彼女が口にした別れの挨拶を耳にして、ようやく雪がこの場から去って行くことに気が付いた。

弾かれたようにその背中へと手を伸ばす。

「いや、これは‥」




バッ!



彼女の腕を掴もうとした淳の手を、雪は瞬時に振り払った。

振り返りもしないまま、完全なる拒絶を彼に示す。






チラリと見えた口元は、言葉にならない声を漏らして震えていた。

雪はそのまま猛ダッシュで、一目散に逃げて行く。

「失礼しましたーー!!」







まるで秋の嵐だった。

淳は突然吹き込んだその風に心を乱されたまま、ただ呆然と立ち尽くす。



心の中がざわめいていた。ざわざわ、ざわざわと。

そして彼女が去って行ったその方向へと、ゆっくりとその足を一歩踏み出す‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>赤面 でした。

今回の構図の美しさときたら!

カメラワーク、センスありますよね~。

こことか、壁の少し手前から描かれてるのがにくいね~!(興奮)



台詞は少ないですが、伝わるものがありますよね。う~ん本当すごい。。


次回は<雪と淳>彼女の劣等感 です。


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<雪と淳>勘違い

2016-04-05 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)
学祭も終わり、再び日常がやって来た。



しかし雪はというと、未だに学祭準備の時からの不調を引き摺っている。

雪はズキズキと痛む腹部を押さえながら、全く耳に入って来ない授業を聴いていた。

「‥‥‥‥」



痛みのピークが去っても、体調は最悪だ。

今日マジでヤバイかも‥何日も経ってるのにどうして一向に良くならないの?



明らかに顔色は悪いが、隣に座った聡美は寝ているし、

太一は同期と座っているので、誰も雪の不調に気づかなかった。

咳が出ないだけで風邪も治りきってない感じだし‥胃も痛い‥



なのに追い打ち‥教養授業の連続講義まである‥



こなさなければならない授業は多いのに、胃の痛みで目の前がぐらぐらと歪む。

雪はなんとか教養の授業までは聴くことが出来たが、それ以上は無理そうだった。

痛くなったり治まったり‥とてもじゃないけど授業に集中出来なかった‥



病院行って薬もらって‥



そう思って財布を開く雪。しかしそこには札が一枚も入っていなかった。

昨日母からおつかいを頼まれたのもあって、明らかに金欠だ。

なんてこった‥



財布から銀行のカードを取り出してみるも、使えるかといったら話は別だ。

う‥銀行にまだお金残ってるっちゃ残ってるけど‥

ここで使えば後の生活費にしわ寄せが‥すでにオーバーしてるしな‥




うう‥



バイトをして生活費を稼ごうにも、まずは身体を治さないと始まらない。

しかし脳裏には、昨日母がこぼしていた小言ばかりが思い浮かぶ。

「お父さん、今日も帰って来ないの?」

「このマンション、私名義じゃなかったらとっくに人手に渡ってるわよ!」

「生活費が足りなくて‥」







頼るべきところは、どこにも無かった。

重たい身体が、その現実を前にますます重く沈み込む‥。



ふと目線を上げると、自販機の前に見知った後ろ姿があった。

長身に黒いロングコート。



「あ‥太一」



藁をも掴む思いで、雪はその後姿へと近づこうとした。

しかし心に残ったプライドの切れ端が、ピタと雪の足を止める。

「‥‥‥‥」



雪は躊躇いの中に居た。

こんなことを頼むのは、生まれて初めてのことなのだ。



今まで聡美にはおろか、太一にはお金の話なんて、一度も口に出したことなかったのに‥



太一から「今日あの店に行ってみませんか」と誘われても、いつも「忙しいから」とその本当の理由を口にしなかった雪。

いくら親しい友人といえど、その線を越えたことなど一度も無かったのだ。



それでも今は、なりふりかまってはいられない。

雪は自身を押し殺して、そろりと太一の方へと歩いて行く。

まぁいいか‥今回だけ‥今回だけなら‥









彼女が近付いて来ていることなど微塵も気付いていない彼は、一人自販機の前で佇んでいた。

しかし彼は雪が思っていた人物、福井太一ではなかった。

彼女が徹底的に避けているその人、青田淳だったのである。



淳は、出て来た缶ジュースを手に取るとゆっくりとプルトップを開けた。

しかしそれに口を付ける様子はない。

「‥‥‥‥」



頭の中には、彼女の後ろ姿ばかりが浮かんでいた。

いつもつるんでいる友人達と歩いて行く背中や、勉強に疲れたのか突っ伏して眠っている背中ばかりが。

 

ようやく横顔が見えたかと思えば、すぐに後ろを向いてしまう。

「淳がアイスおごってくれるってよ。行こうぜ」

「いえ、胃の調子が良くないので」



淳はずっと、その後姿ばかりを見て来た。



ずっと。





間が‥



会話を始める一瞬の間さえ‥



彼女の前にある扉はひどく分厚くて、接触を試みても完全にシャットアウトされてしまう。

会話一つ、まともに出来ぬ程に。



カンッ



胸中が苛立ちに騒いでいた。

淳はその場に立ち尽くしながら、初めて感じるその感情をただただ持て余す。

‥だからなんでいつもいつも



俺は一体何を‥




その時だった。




「あの‥」



小さな、聞き覚えのあるその声。

いつの間にか淳の隣に、俯いた彼女が立っていた。







鼻を啜りながら、淳の隣に佇む雪。

思いもよらない展開に、淳はただ目を剥いてその場に立ち尽くす。



雪は彼の方を見ないまま、決まり悪そうに言葉を紡ぎ出した。

「私今日うっかりカード忘れて来ちゃって‥だから‥もし現金持ってたら千円‥」



「いや二百円程貸してもらえないかな?」



雪は小さな声でそう言うと、彼の服の端を握ったまま口元をぎゅっと結んで俯いた。

彼女の勘違いが生み出したこんな状況に、淳は信じられない思いで相対する‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>勘違い でした。

雪ちゃん‥病院代くらいはお母さん出してくれると思うよ‥(T T)

親の気持ちになると本当切ないですよね。こんなになるまで我慢して‥と胸が痛くなります。


そして淳は、どんどん雪が気になって来てますね。
缶ジュース投げ捨てるくらいイライラしちゃって‥。


しかし雪‥太一と淳を間違えた!実は服の趣味、先輩と太一は似ているのでしょうか。

そういえば昔こんな一コマもありましたね。

 

昔といっても、時系列ではこの後の話なのですよね、これ。
変な感じです(^^;)
ていうか欲しい服親戚に頼んで買って来てもらったのか淳‥。なんかイメージじゃないな‥


次回は<雪と淳>赤面 です。


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