駅から家へ帰る道すがら、雪は悩みながら歩いていた。
このまま家に‥う~ん‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/d9/c05eed7fb45ac85ffd4f411c9e865667.jpg)
帰ってしまえば楽だが、店のことが気がかりだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/3f/fbc70d580cb246c090464557433da9af.jpg)
なんとなく胸が騒いだので、雪はやはり店へと向かうことにした。
店内へ入ってみると、案の定多くのお客さんで賑わっている。
「すいませーん」「はい!今すぐ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/65/4e60896618ce75dcbaea7511723120d1.jpg)
「さっきから呼んでるんだけど」
「あ‥申し訳ありません」
やっぱりな、 と思いながら、雪はすぐにエプロンを手に取った。
「あなた!こっち!」「はい!」「お?雪、来たのか」「私やるよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/5f/a2f891de0a10f76d71409574f6d33802.jpg)
雪はそう言うと、すぐに料理を運んだ。
そして髪を結いながら、カウンターに居る母に話し掛ける。
「今日って河村氏来る日じゃなかった?」
「そうなんだけど‥連絡つかないのよ。何かあったのかしらね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/6c/d659137395c8c4ac475b6911f2f84d16.jpg)
河村氏は連絡無しに欠勤‥。人出は明らかに足りていない。
「じゃあ蓮は?他のバイトさん‥は今日出勤日じゃないか」
「蓮も今日は帰らせたのよ。毎日働かせるのもねぇ。
もうちょっとで閉店だし、もうお客さんも増えないでしょ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/34/86e68d8a54206271116366b1da0dcc4a.jpg)
母はそう言って厨房へと戻って行くが、あまりの客の多さに閉店を一時間延長した先日の例もある。
雪はポケットから携帯を取り出して、”河村氏”の発信ボタンを押そうと指を伸ばした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/be/f874fb5bacf193b583416036931ad54d.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/57/ce4808bef1f460a797ed7aac5cbeee70.jpg)
けれど雪は、結局そのボタンを押せなかった。
暫く画面をじっと見た後、やがてそれをポケットに仕舞い直す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/99/b66eead94f21cfc808a324d77e87f00f.jpg)
すると近くで働いていた父が、腰を押さえながら低く声を出した。
「いてて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/aa/c55b9315983ef7df31c39af28049c289.jpg)
雪は思わず駆け寄る。
「大丈夫?」「ずっと立ちっぱなしだからな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/19/ca09607d31d3386778de2148b58813e2.jpg)
そう言って父はゆっくりと歩いて行った。
ふとした時に感じる、両親の老い。
雪の心はずっとソワソワと落ち着かないまま、亮の姿を探して外を窺っている‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/e4/b2f513923a3e791c627c36cd4b91e5da.jpg)
その頃河村亮は、麺屋赤山に向かって全力疾走中だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/52/a2b610ed6c598d10570859ccde0c73ee.jpg)
「あー!くそったれッ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/e7/098dd48fd1c6a5f18ceccd30ead90877.jpg)
頭の中に、先程受けた志村教授のレッスンの模様が思い浮かぶ。
「指、完全に戻ったな?それじゃ最初から最後まで通して弾いてみなさい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/36/e2bbc869c1d2c869bb1e70d847a79b76.jpg)
その結果こんな時間だ。
亮は後悔のあまり、頭を押さえながら走る。
「テンション上がって仕事のこと忘れてたじゃねーか!ガッデム!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/fa/7672718152f073c48554107fcb334176.jpg)
客沢山いるんじゃねーだろーな‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/2e/ac7451d63265b6fb104619d03ddc1b80.jpg)
店のことを心配しながら駆ける亮。
すると突然、後方から聞き慣れた声が掛かった。
「あー!My bro~!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/43/877e961ef2e534ada199a290ef3a3604.jpg)
亮は思わず目を丸くし、立ち止まった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/c3/b20ecd443f3a4c9da024b1d6e0f55ae3.jpg)
声のする方へと身体を向け、二三歩後退る。
「何だ?静香か?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/fc/45754c4005ef60bfa45779c86fdc9a42.jpg)
「ちぃーす
」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/88/9c95153be0c72f1cd584a4c3c4dffeff.jpg)
すると暗い路地の方から、静香がフラフラと歩き出て来た。
「今帰りィ~?」「は?」「どこ行ってたんだよぉ~店には居ないしぃ~」「またやんのか?コラ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/a3/fdcc8b00e558f8ff020c3257f87b6f14.jpg)
顔を掴んで来た姉に、また喧嘩をふっかけられているのかと一瞬亮は思ったが、すぐにそれは違うと思い直した。
静香は笑いながらフラフラしている。どう見てもただの酔っ払いだ‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/9d/bc5707b1d8f193639a2bb8862ff9f57f.jpg)
静香は上機嫌で亮に話し掛けた。
「ピアノ弾いて来たのぉ~?あ~よく出来た弟だことぉ」
「完全に酔っ払ってんな。おい!
」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/29/e9131a8674cb4643fdaca5a2f0c5e8b0.jpg)
亮はグニャグニャと身体を揺らす静香の姿勢を正そうと、姉の肩に手を伸ばした。
その、希望の左手を。
「しっかり‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/1b/2d81be7d658a24a477ea2476710d28a7.jpg)
すると静香は、その左手に自身の指をグッと絡ませ、こう聞いた。
「治ったわけ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/63/e384dd643692951e1d8c04df834d18cc.jpg)
赤く鋭い爪が手に食い込む。
見開いた目に気圧されるように、亮はその場から動けない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/9b/bc9419ae4372a46a4eff46afec926d64.jpg)
酔っぱらっているとは思えない程の強い力が、手に込められていた。
「なんなんだよ?離せって!」
「全部治ったらぁ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/0e/13d57869c1e94e9caefc716c2cfb7482.jpg)
「また逃げるんでしょ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/c1/9fc8bd30b413e314af5e33c72f8502ba.jpg)
「あたしを捨てて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/91/93f88676e6b1730b7be458e8a370f615.jpg)
グググ、と指に力が加えられる。
静香は恨むような目つきで亮を見据えながら、呂律の回らない舌でこう続けた。
「アンタ一人で暮らして‥最初から存在すらしなかった人間みたいに‥あたし一人残してぇ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/89/3b40b46ea575afa723a5a7004a53c09c.jpg)
吐露される姉の本音。
しかしそれは亮にとっては、心外以外の何者でも無かった。
「んだよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/48/c019085f3879c7054fb30a205eeb98a4.jpg)
亮はバッと手を振りほどくと、静香の肩を掴みながら声を荒げる。
「連絡入れようと思って電話しても、一度も取んなかったじゃねーかよ!
一緒に逃げようっつっても、はぐらかし続けてたのはどこのどいつだよ?!」
「あ~‥そういうさぁ~しょぼいのはマジ勘弁なんだって‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/be/f17dd4e57b78bffbefdabd6a69e04f4e.jpg)
鬼のような形相の亮を前にしても、静香はニヤニヤ笑うのを止めなかった。
揺れながら、亮のキャップへと手を伸ばす。
「しょっぼ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/3b/27ee0a34e4d82842b659d96dbf7c1c5b.jpg)
続けて着古したジャンパーにも。
「しょっぼ~い」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/65/cd7f6a3702a6e6fb95194d844c8f67b0.jpg)
「アンタが行ってた所も、アンタが今居る場所も全部‥しょぼいんだよぉ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/9e/3b4246f616456ecda980e8bd58bf3a37.jpg)
ヒック、としゃっくりをしながら、静香は亮へとしなだれかかった。
「それでもさぁ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/28/47dfb3da3f218bf2d0c4700d8faff236.jpg)
「あたしン所にぃ‥残ってんのはアンタだけみたいだよ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/fb/bd574e8e1ab5c4c59f4e6d2294f4265a.jpg)
「アンタだけ‥」「あ?おい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/52/729de75b5b2cb83b9519f504b82fd560.jpg)
静香はそう言ったきり、
亮の腕の中で眠り込んでしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/f9/8071fb1ff5f6df74bf1c2fcd7794fe08.jpg)
いつもは毒しか吐かない姉の漏らした、心の声。
その気弱な側面を、亮は困惑の淵で受け止めている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/cd/e6090badf38136853f627e83c72ddbc0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/07/69d698987a156ad03863df6209433fa6.jpg)
顔を上げると数メートル先に、雪の姿が見えた。
店から出てきた彼女は軽く身体を伸ばした後、眠たそうにアクビをしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/64/012d0b08249878dbc03a329d823c93a2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/d1/a5d8d2c9fba9c4cedcbe0ecc0eddb3ed.jpg)
亮は暫し彼女の姿を見ていたが、やがて大きく一息吐いた。
腕の中でぐったりしている静香が、言葉にならない声を出している。
「おい、しっかりしろよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/7c/3c2b665acf5314b0d61c7ca1963b409b.jpg)
「帰んぞ、家に‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/db/4d5f71921591091cb730b60f4ce3fc75.jpg)
そして亮は静香を引き摺ったまま、家へと歩いて行った。
一歩一歩進むごとに、だんだんと雪が遠くなる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/50/b2ac0ac91d79708a01b4fc549ccee1e1.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/e4/3852e4828204e8d1a896c381a899d728.jpg)
雪は寒そうに身を縮めながら、未だ現れない亮のことを気に掛けていた。
しかし二人は出会うことなく、背中と背中がだんだんと離れて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<姉の本音>でした。
いつもは強気の静香の本音‥ですかね。亮に対しての気持ちが少し知ることが出来たような。
静香にとって亮は、愛憎相半ばする存在という感じでしょうか。
そして最後の亮さんのセリフ↓
「帰んぞ、家に‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/db/4d5f71921591091cb730b60f4ce3fc75.jpg)
は、2部50話のこのセリフと繋がっていますね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/37/9a92de23f51419793a3035e5db4f98c2.jpg)
形ある家は無いけれど、結局戻って行くのは家族の元というか‥。
亮も静香も自分からは認めようとしなかったそんな意識が、浮き彫りになって来たような感じがします。
次回は<自信の裏付け>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
このまま家に‥う~ん‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/d9/c05eed7fb45ac85ffd4f411c9e865667.jpg)
帰ってしまえば楽だが、店のことが気がかりだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/3f/fbc70d580cb246c090464557433da9af.jpg)
なんとなく胸が騒いだので、雪はやはり店へと向かうことにした。
店内へ入ってみると、案の定多くのお客さんで賑わっている。
「すいませーん」「はい!今すぐ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/65/4e60896618ce75dcbaea7511723120d1.jpg)
「さっきから呼んでるんだけど」
「あ‥申し訳ありません」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/25/733e1a9aea754605b50a89720ad53146.jpg)
やっぱりな、 と思いながら、雪はすぐにエプロンを手に取った。
「あなた!こっち!」「はい!」「お?雪、来たのか」「私やるよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/07/1bfda5cc9166e55f4c0d05e9d0ae0e66.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/5f/a2f891de0a10f76d71409574f6d33802.jpg)
雪はそう言うと、すぐに料理を運んだ。
そして髪を結いながら、カウンターに居る母に話し掛ける。
「今日って河村氏来る日じゃなかった?」
「そうなんだけど‥連絡つかないのよ。何かあったのかしらね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/6c/d659137395c8c4ac475b6911f2f84d16.jpg)
河村氏は連絡無しに欠勤‥。人出は明らかに足りていない。
「じゃあ蓮は?他のバイトさん‥は今日出勤日じゃないか」
「蓮も今日は帰らせたのよ。毎日働かせるのもねぇ。
もうちょっとで閉店だし、もうお客さんも増えないでしょ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/34/86e68d8a54206271116366b1da0dcc4a.jpg)
母はそう言って厨房へと戻って行くが、あまりの客の多さに閉店を一時間延長した先日の例もある。
雪はポケットから携帯を取り出して、”河村氏”の発信ボタンを押そうと指を伸ばした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/be/f874fb5bacf193b583416036931ad54d.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/57/ce4808bef1f460a797ed7aac5cbeee70.jpg)
けれど雪は、結局そのボタンを押せなかった。
暫く画面をじっと見た後、やがてそれをポケットに仕舞い直す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/99/b66eead94f21cfc808a324d77e87f00f.jpg)
すると近くで働いていた父が、腰を押さえながら低く声を出した。
「いてて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/aa/c55b9315983ef7df31c39af28049c289.jpg)
雪は思わず駆け寄る。
「大丈夫?」「ずっと立ちっぱなしだからな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/19/ca09607d31d3386778de2148b58813e2.jpg)
そう言って父はゆっくりと歩いて行った。
ふとした時に感じる、両親の老い。
雪の心はずっとソワソワと落ち着かないまま、亮の姿を探して外を窺っている‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/e4/b2f513923a3e791c627c36cd4b91e5da.jpg)
その頃河村亮は、麺屋赤山に向かって全力疾走中だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/52/a2b610ed6c598d10570859ccde0c73ee.jpg)
「あー!くそったれッ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/e7/098dd48fd1c6a5f18ceccd30ead90877.jpg)
頭の中に、先程受けた志村教授のレッスンの模様が思い浮かぶ。
「指、完全に戻ったな?それじゃ最初から最後まで通して弾いてみなさい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/36/e2bbc869c1d2c869bb1e70d847a79b76.jpg)
その結果こんな時間だ。
亮は後悔のあまり、頭を押さえながら走る。
「テンション上がって仕事のこと忘れてたじゃねーか!ガッデム!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/fa/7672718152f073c48554107fcb334176.jpg)
客沢山いるんじゃねーだろーな‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/2e/ac7451d63265b6fb104619d03ddc1b80.jpg)
店のことを心配しながら駆ける亮。
すると突然、後方から聞き慣れた声が掛かった。
「あー!My bro~!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/43/877e961ef2e534ada199a290ef3a3604.jpg)
亮は思わず目を丸くし、立ち止まった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/c3/b20ecd443f3a4c9da024b1d6e0f55ae3.jpg)
声のする方へと身体を向け、二三歩後退る。
「何だ?静香か?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/fc/45754c4005ef60bfa45779c86fdc9a42.jpg)
「ちぃーす
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/heart.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/88/9c95153be0c72f1cd584a4c3c4dffeff.jpg)
すると暗い路地の方から、静香がフラフラと歩き出て来た。
「今帰りィ~?」「は?」「どこ行ってたんだよぉ~店には居ないしぃ~」「またやんのか?コラ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/e1/3b3a306b50d4202c200d9248f5b54ad5.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/a3/fdcc8b00e558f8ff020c3257f87b6f14.jpg)
顔を掴んで来た姉に、また喧嘩をふっかけられているのかと一瞬亮は思ったが、すぐにそれは違うと思い直した。
静香は笑いながらフラフラしている。どう見てもただの酔っ払いだ‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/9d/bc5707b1d8f193639a2bb8862ff9f57f.jpg)
静香は上機嫌で亮に話し掛けた。
「ピアノ弾いて来たのぉ~?あ~よく出来た弟だことぉ」
「完全に酔っ払ってんな。おい!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0152.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/29/e9131a8674cb4643fdaca5a2f0c5e8b0.jpg)
亮はグニャグニャと身体を揺らす静香の姿勢を正そうと、姉の肩に手を伸ばした。
その、希望の左手を。
「しっかり‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/1b/2d81be7d658a24a477ea2476710d28a7.jpg)
すると静香は、その左手に自身の指をグッと絡ませ、こう聞いた。
「治ったわけ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/63/e384dd643692951e1d8c04df834d18cc.jpg)
赤く鋭い爪が手に食い込む。
見開いた目に気圧されるように、亮はその場から動けない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/9b/bc9419ae4372a46a4eff46afec926d64.jpg)
酔っぱらっているとは思えない程の強い力が、手に込められていた。
「なんなんだよ?離せって!」
「全部治ったらぁ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/0e/13d57869c1e94e9caefc716c2cfb7482.jpg)
「また逃げるんでしょ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/c1/9fc8bd30b413e314af5e33c72f8502ba.jpg)
「あたしを捨てて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/91/93f88676e6b1730b7be458e8a370f615.jpg)
グググ、と指に力が加えられる。
静香は恨むような目つきで亮を見据えながら、呂律の回らない舌でこう続けた。
「アンタ一人で暮らして‥最初から存在すらしなかった人間みたいに‥あたし一人残してぇ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/89/3b40b46ea575afa723a5a7004a53c09c.jpg)
吐露される姉の本音。
しかしそれは亮にとっては、心外以外の何者でも無かった。
「んだよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/48/c019085f3879c7054fb30a205eeb98a4.jpg)
亮はバッと手を振りほどくと、静香の肩を掴みながら声を荒げる。
「連絡入れようと思って電話しても、一度も取んなかったじゃねーかよ!
一緒に逃げようっつっても、はぐらかし続けてたのはどこのどいつだよ?!」
「あ~‥そういうさぁ~しょぼいのはマジ勘弁なんだって‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/be/f17dd4e57b78bffbefdabd6a69e04f4e.jpg)
鬼のような形相の亮を前にしても、静香はニヤニヤ笑うのを止めなかった。
揺れながら、亮のキャップへと手を伸ばす。
「しょっぼ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/3b/27ee0a34e4d82842b659d96dbf7c1c5b.jpg)
続けて着古したジャンパーにも。
「しょっぼ~い」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/65/cd7f6a3702a6e6fb95194d844c8f67b0.jpg)
「アンタが行ってた所も、アンタが今居る場所も全部‥しょぼいんだよぉ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/9e/3b4246f616456ecda980e8bd58bf3a37.jpg)
ヒック、としゃっくりをしながら、静香は亮へとしなだれかかった。
「それでもさぁ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/28/47dfb3da3f218bf2d0c4700d8faff236.jpg)
「あたしン所にぃ‥残ってんのはアンタだけみたいだよ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/fb/bd574e8e1ab5c4c59f4e6d2294f4265a.jpg)
「アンタだけ‥」「あ?おい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/52/729de75b5b2cb83b9519f504b82fd560.jpg)
静香はそう言ったきり、
亮の腕の中で眠り込んでしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/f9/8071fb1ff5f6df74bf1c2fcd7794fe08.jpg)
いつもは毒しか吐かない姉の漏らした、心の声。
その気弱な側面を、亮は困惑の淵で受け止めている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/cd/e6090badf38136853f627e83c72ddbc0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/07/69d698987a156ad03863df6209433fa6.jpg)
顔を上げると数メートル先に、雪の姿が見えた。
店から出てきた彼女は軽く身体を伸ばした後、眠たそうにアクビをしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/64/012d0b08249878dbc03a329d823c93a2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/d1/a5d8d2c9fba9c4cedcbe0ecc0eddb3ed.jpg)
亮は暫し彼女の姿を見ていたが、やがて大きく一息吐いた。
腕の中でぐったりしている静香が、言葉にならない声を出している。
「おい、しっかりしろよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/7c/3c2b665acf5314b0d61c7ca1963b409b.jpg)
「帰んぞ、家に‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/db/4d5f71921591091cb730b60f4ce3fc75.jpg)
そして亮は静香を引き摺ったまま、家へと歩いて行った。
一歩一歩進むごとに、だんだんと雪が遠くなる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/50/b2ac0ac91d79708a01b4fc549ccee1e1.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/e4/3852e4828204e8d1a896c381a899d728.jpg)
雪は寒そうに身を縮めながら、未だ現れない亮のことを気に掛けていた。
しかし二人は出会うことなく、背中と背中がだんだんと離れて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<姉の本音>でした。
いつもは強気の静香の本音‥ですかね。亮に対しての気持ちが少し知ることが出来たような。
静香にとって亮は、愛憎相半ばする存在という感じでしょうか。
そして最後の亮さんのセリフ↓
「帰んぞ、家に‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/db/4d5f71921591091cb730b60f4ce3fc75.jpg)
は、2部50話のこのセリフと繋がっていますね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/42/15cf7985c74d973bf24079f561d184c3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/37/9a92de23f51419793a3035e5db4f98c2.jpg)
形ある家は無いけれど、結局戻って行くのは家族の元というか‥。
亮も静香も自分からは認めようとしなかったそんな意識が、浮き彫りになって来たような感じがします。
次回は<自信の裏付け>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
![](http://image.with2.net/img/banner/banner_21.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)