Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

慣性

2017-01-11 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)


雪が勉強していると、携帯電話が震えた。先輩からメールだ。

勉強は捗ってる?

試験終わったら海に遊びに行こうか




わぁ



そのメールを読んで、思わず雪は先輩と海に居る場面を想像する。

「うんうん、冬の海も良いよね〜」



「人は居ないし、雰囲気あるし。前は聡美達と行ったけど今度は先輩と‥」



二人は寒い寒いと言い合いながら、お互いに手を繋ぐだろう。

身体を寄せ合って見上げた先にはきっと、笑顔の先輩がいる‥。



ときめくわ〜



雪が妄想にふけっていると、再び携帯が震えた。

今度は静香からメールが入っている。

ねぇ、また店で奢ってよね



なんと調子の良い‥

雪がムキーと憤慨しながら返事を打とうとした矢先、再び携帯が震える。

「次はお金もらいますよ!?‥ってビックリした!」



また先輩からメールが入っていた。

あと、前雪ちゃんが言ってたハーブ園も見に行こうよ。博覧会もいいよね‥



「そうそう!あそこ行きたかったんだ!」



先輩からの提案に雪の心が躍る。

そういえばこの間彼の家に行った時、「あそこに行きたいあそこにも行きたい」と、

彼の前で零したことを思い出した。







雪は携帯を置いて、彼の提案を手放しで喜んでいる自分をふと疑問に思う。

あぁ‥そうだよね。

私は勉強で先輩は就職の準備で、今まで遠出はおろかまともにデートも出来なかった




この間もそうだった。

仕事をしてる先輩の方が忙しいに決まってるのに‥




雪の脳裏に、自身の忙しさなどおくびにも出さず雪にエールを送る彼の姿が思い浮かんだ。

申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、雪は彼に返信を送る。

「はい、どこも良いですよね‥一緒に行きましょう‥と。

単位のことばっかりであんまりデートも出来なくて、ごめんなさい」




「私が!空気!読めなくて!」



そう言いながらゴツンゴツンと机に額をぶつけていると、早速彼から返事が返って来た。

雪の気持ちを見通した上の、その温かなメッセージが。

ううん、ただもっと良くしてあげたいだけだよ。



会いたいから







その言葉は雪の胸の中をくすぐり、前向きになれる力をくれる。

雪はううんと伸びをしながら、声を高らかに気を引き締めた。

「うあー!ちゃっちゃと勉強して試験終わらせるぞー!」



「うわっ!」



勢い良すぎて転げていたが‥。




一方。

単位のことばっかりであんまりデートも出来なくて、ごめんなさい



雪が送ったそのメッセージを、淳は車内で一人眺めていた。

暗いその空間で唯一、彼女がくれたその言葉だけが仄かに明るく光っている。



こうしていると、何も変わっていないように思えた。

「日々に追われて息詰まる彼女」と、「手を差し伸べる自分」の構図は。

「そうだ」



「全部元通りになればいい」



「原状回復すれば‥」



いつだって打って出る度に変数は誤差となった。

今回だって例外ではないはずー‥。







引き続き雪が勉強を続けていると、キィとドアが開いて蓮が入って来た。



「何?」



そう尋ねても、蓮は何も言わない。



ツカツカとベッドまで歩いて来て、そのままバタンと寝転がる。



「ただ横になってるだけ。勉強しててよ。邪魔しないからさ」






蓮は背を向けたまま、そう言って本当にただ横になっていた。

雪は弟の背中を見つめたが、自分からは何も聞き出したりはしない。



暫くコチコチと時計の針が動く音だけが部屋に響いた。

そして暫しの後、背を向けたままの蓮がポツリと口を開く。

「やっぱアメリカ戻るっきゃないよね?」



雪はテキストに目を落としたまま、少しおどけながらこう返した。

「そうだね。窓から飛び降りようとしたその負けん気で、アメリカでも頑張んな」

「うん」



姉弟はそう言ってクククと笑い合う。

もう笑い事に出来るくらい、先日のピラミッド商法騒動は既に過去の出来事になっていた。



色々あったけど、結局慣性のように元通りになるのだろう。



蓮はきっと頑張れる。そう信じている。



少し頼りないその背中を見つめながら、雪はそう思った。

再びテキストに目を落とし、ぼんやりとこう思う。

冬休みになったら、バイト代使って蓮に会いがてら先輩と一緒に旅行してもいいな



その言葉は雪の胸の中に温かな光となって灯る。

先輩と一緒に‥



彼と一緒に居るだけで未来は、少し輝いて見える気がした。

沢山デートして、些細なことで喧嘩したり、仲直りしたり。

皆みたいに、もっと恋愛を楽しまなきゃ。




ごく、平凡に。



いつだって願うのはごく普通の平凡な日常だった。

しかし雪を取り巻く慣性は、思い描く未来とは違う方向へと雪を導いて行く‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<慣性>でした。

今回は「元に戻る」というのがキーワードになっていますね〜。

しかし淳は「もうそれが出来ないんじゃないか」という恐怖に必死に抗おうとしているように思えます。

雪が今のところその辺に気づいてないのが今後のキーになりそうですね。

うう〜ん‥。

次回は<通告>です。

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けじめ

2017-01-09 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
「ほら、金持って来ましたよ」



河村亮はそう言って、封筒に入った札束を差し出した。

それを元職場の社長・吉川が受け取る。

「もういいっスよね?」



吉川はそれには返答せずにフンと息を吐くと、キョロキョロと周りを見回した。

「ところでお前、この辺に住んでるのか?」



吉川のその言葉に思わずギクッとする亮。

最近彼はこの辺りのシェアハウスに移ったので‥つまり図星だったのである。

「だからどうしたって言うんすか!ピラミッド‥いやプライドはお互い守るべきでしょーが!」

「プライバシー?」「とにかくっ!」



「それじゃこれでオレとは縁切って‥」



そう亮が言葉を続けようとした矢先、吉川はニヤリと笑ってこう言った。

「元金分はあるがな」



「え?」



目を丸くする亮に向かって、吉川は用意して来た切り札を出す。

「利子があんだろ?利子が」



「は‥?」



吉川が出したそのカードは、亮を自身の傍に引き止める為の策だった。

亮は同期の男が吉川への法的措置に備えて準備していることを考慮して、

とりあえず今は吉川の要求を飲むことにし、この場を去ったのだった。






亮はその足で大学へと移動し、練習室でピアノを弾いた。



熱心に鍵盤を叩く亮の姿を、志村教授が見守っている。



亮は先程、志村教授にその胸の内を語った。

利息と言っても、そんな深刻に考える必要はありません。

返す方法は沢山あるわけで。




オレもだてに年食ったわけじゃないですけど、

汚ない仕事もそれなりにやって来ました。




曲の旋律と共に、閉じ込めた苦い記憶が脳裏に蘇る。

ハーフだからっていじめられたし、家庭環境も良くなくて



周りが敵だらけな毎日で



家に憧れ、家に裏切られ、いつしか絶望した。

あの日見上げた空の暗さは、今も瞼の裏にこびり付いて離れない。

きっと一生忘れることなんて出来ないだろう。



信じてた人に見放されて、これ以上失望されたくなくて逃げ出しました。

傍から見たら逃げ回るだけの人生かもしれません。




それでも、そのお蔭で強くもなれました。



指が鍵盤を弾くと、音符をひたすらに追っていくと、それはいつしか曲になる。

先が見えない一日一日を闇雲に走り抜けて、今亮はようやく人生という曲の楽譜を手にした所だった。

その中で悟ったことは、



どこに逃げ出しても彷徨っても‥



オレは最初に捨てた才能とその喜びを、忘れるなんて出来ないということです。

大きな拍手はないけど、自分の演奏の中に吸い込まれそうな気持ちがしています。




今亮の胸の中には、穏やかな気持ちが満ち満ちていた。

あれほど憎んだ過去も、荒れた記憶も、全てが赦されていく。

ここに来てから‥



その発端は、その契機は、彼女との出会いだったのだろう。



顔を合わせれば口喧嘩して、メシを奢れと食い下がって。

「これでお礼はしましたからね?」「おいおいつめてー奴だな!最低二回はおごれっつの!」



冷たい雨に降られたあの夜、彼女は自分に傘を差し掛けた。

何も言わずに、ただ黙って傷ついた自分に寄り添って。



小さな小さな希望の種を、彼女は一粒ずつ渡してくれた。

先の見えない荒れた道筋に、やがて小さな芽が出るようにと。



亮が憧れた”家”の面影を、その温かさを、亮は彼女の中に見る。

「河村氏が忙しいのも分かってるんですけど、もしちょっとでも時間が出来るなら‥、

店の仕事、続けてもらえないですかね‥?」




彼女がくれた希望の種は、彼女自身の光でぐんぐんと芽を伸ばした。

その温かさに触れたくて、手を伸ばしたあの夜。



見開いたその瞳を前にして、どうしても触れることが出来なかった‥。








オレはだんだんまともになって来ました。

自分でもよくやってると思います。




伸ばした手は、そのまま仕舞うことにした。

だからもうどこへ行っても、きっとちゃんと生きて行ける。



太陽みたいな彼女の温かさだけ、宝物のように胸の中に閉じ込めて、

この曲の先を奏でて行く。



亮が語った胸の内を聞いた後、志村教授は彼の演奏をただ黙って聴いていた。

諦めと覚悟を背負ったその背中を、複雑な気持ちで見つめながら。








いつしか曲は終わり、その音の余韻が止んだ後、亮が一言口にした。

「会いに行きたい人がいるんです」



それは亮の、最後のけじめだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<けじめ>でした。

うう‥亮さん‥。なんて穏やかな顔なんでしょうね。

それでも全てを諦めているようで、切なくなります。。

せめて雪ちゃんに想いを打ち明けようよー!バレてるけどさー!

あぁ‥切ないですね‥。

次回は<慣性>です。


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彼女の味方

2017-01-07 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
静香に手を引っ張られ、雪は全速力で走らされた。

ぽかんと口を開けた健太の顔が遠ざかる。

「ええええ?!」



色素の薄い長い髪が、目の前で舞っていた。

突然の出来事に、ただただ圧倒される雪‥。



「ちょ‥ちょっと待って!待ってーーっ!」



キキッとブレーキが掛かり、ようやく二人は止まった。雪はゼーゼーと肩で息をしている。

「何?!なんなんですか?!」

「あの図体のデカイのが怖い顔で近付いて来るから!」「えぇ?!」



「来る!と思ったら〜チョー怖かった〜」「‥‥‥」



雪は息を落ち着けると、怪訝な顔でその理由を静香に問うた。

「あの人は私の先輩なんですけど‥どうしてでしょうか?」

「え?そりゃまぁ‥」(色々ね‥)



静香は含みのある返事をした後、その理由を説明し始めた。

「実はあいつ、前からあたしにちょくちょく絡んでくんのよね。

あたしが淳ちゃんのオンナだって勘違いしてるみたい」
「えぇ?」



「淳ちゃんとどういう関係なのかってやたら聞いてくんのよ。

あたしとワケアリだって踏んで詮索してくるの」




「あっ!誤解しないでね?

こうして正直に自分からぶっちゃけたワケだし」




「絶対に淳ちゃんに言っちゃダメよ?」「‥‥‥‥」



調子の良い先手を打たれながら、雪はプルプルと怒りに震えた。

黒いオーラを纏いつつ、悶々とそのオーラの中で静香を睨む。

つーか柳瀬健太‥あの人なんでずっとああなんだろ‥

とにかく!先輩もこの人との関係は何でもないって言ってたけど、なんだかムカつくんですけど!

いや、ていうか‥




「それで先輩とは何でもないって言ってくれたんですか?」



引き攣った笑顔を浮かべつつ、静香に事実確認をする雪。

しかし案の定、彼女は健太に否定をしてない様子だった。

「ん〜それは‥ん〜‥」



雪は声を上げながら、ハッキリと静香に釘を刺す。

「私が怒ると思ったんですか?!そんなことせず正直に話して下さいよ!告げ口しませんから!」



んー‥



静香は雪から目を逸しながら、煮え切らない態度ではぐらかし続けた。

そして勉強のチェックが終わっても、静香はなぜか雪の後にくっついてくる。

「ねぇちょっと〜!」



「交通費、後で絶対返して下さいよ?!」「夕飯代も借りちゃダメ?」
「ダメ!」



不本意ながら金欠の静香に交通費を貸した雪。

そして今夕飯代をせびられている‥。

「腹ペコじゃ勉強出来ない〜」「‥‥‥」



ぐぅぅと鳴るお腹を押さえながら、静香は恨めしそうに雪の顔を見た。

雪は溜息を吐くと、静香を店へと連れて行ったのだった。



「アンタ勘違いしてるみたいだから言っとくけど、」



「本来あたしはさっきみたいに逃げる女じゃないのよ。

今みたいなしみったれで貧乏くさい女でもないし」
「はいはい」



温かな宴麺に手を伸ばしながら、静香は不本意そうにそう語った。

今は牙を隠しているだけにすぎないのだと。

「健太だか何だか知らないけどあの図体のデカイ男、やたらイライラして突っかかって来てさぁ‥。

亮に頼んでボコボコにしてもらいたいわ。いつもだったらそうするのに‥」




「‥‥‥‥」



雪はむっつりと黙り込みながら、以前河村氏が静香のフォローをしていた場面を思い出した。

「うちの姉ちゃんが‥ とりあえずオレが代わりに謝るから」



そして、店の前で一人涙を流していた光景も。



雪はゴォォと黒いオーラを纏いながら、目の前の無神経な女を睨む。

ていうか自分のことなのにどうして河村氏を巻き込むの?

皆が迷惑を被るでしょうが!




ふと、初めて静香とテーブルを囲んだ時の会話を思い出した。

「先に噛み千切ることが出来なきゃただの間抜けなカモよ。

それは家族の間柄だとしても変わらないわ。今回の件が終われば、次のターゲットはあたしの好きなようにする」


あの時は、今にも私を取って食いそうな目つきをしていたのに



思わず背筋が凍りそうな眼差しと、まるで銃口を突きつけられているような恐怖を、

あの時静香と相対していた雪は感じていた。



こんな関係になるだなんて、あの時の自分は想像もつかなかっただろう。

今ではすっかり落ち着いた



運が良かったんだよね。もし喧嘩になってこの人が掴み掛かって来たらと思うと‥



雪は頬杖をつきながら、以前目にしたことのあるこの人の凶暴な面を思い出していた。

そして先日期せずして遭遇した、彼女が抱える闇を垣間見たあの一瞬のことも。

こんな性格になったのも、何か理由があったんじゃないか?






雪の手首を掴んだあの瞬間、静香の瞳孔の絞られた瞳の中に、得体の知れない感情が凍った。

何かが彼女の中に爪痕として遺されている、そんな直感が雪の中を駆け抜けたのだ。



雪はあの時掴まれた手首を見つめながら、段々と知ることになった河村静香という人間について考えていた。

自身の感情を出来るだけ客観視しながら。

まぁ、ぶっちゃけムカつく相手だけど、人間的にはどこか可哀想な人でもあって‥。

何よりもこの姉弟は二人共まず手が出るっていうのがちょっと‥




大人しく食事をしている静香に向かって、雪は落ち着いた声でこう話し掛けた。

「確かに、柳瀬健太は私でも時々殴りたくなることがありますよ」



その声に顔を上げる静香。雪は話を続ける。

「でもね、ずっとこんな風に過ごしてたって何も変わらないって思いませんか?

面倒でも、まず動いてみないと‥」







説教かよ、と聞こえてきそうな表情をする静香に向かって、雪は根気よく言葉を続ける。

「考えてみて下さいよ」



「大変かもしれませんけど、頑張れば就職出来るなんてラッキーじゃないですか!

このご時世、なかなか入れるもんじゃないですよ」




雪はまるでプレゼンターのように静香が今置かれている状況を改めて説明し始めた。

何やってるんだか、と若干自虐的に思いながらも、雪は舌を滑らせる。

「自分の力で稼いで堂々と使えるんです。美術館に行っても良いし趣味で画を描いてもいい。

ダサいと思うかもしれないけど、少なくとも今は好きになれないかもしれないけど、

実際静香さんは美人だし頭も良さそうなんだから、このままじゃもったいないですよ」







テーブルに置かれた静香の手が、徐々に握り締められていくことに雪は気付かなかった。

雪はペラペラと饒舌に、まるで静香の機嫌を取るように立ち回る。

「それを生かせば誰よりも上手く行きそうなのに‥。

あ、足りなかったら言って下さいね。今日はうちの店からのおごりですから!」




すると静香は雪のことを凝視しながら、一言こう口に出した。

「それじゃアンタ、あたしの味方なの?」



「え?」






瞬きもせずに、静香は雪のことを真っ直ぐに見つめてくる。

雪は彼女から目を逸らせずに、その予想外の質問に答えあぐねた。

「あ‥私はその‥味方というか‥」



「味方ってことよね?」







畳み掛ける静香の瞳の中に、以前雪が恐怖を覚えたあの色が溶け込んでいた。

嘘も世辞も全て見透かす、そんな鋭さを帯びた瞳‥。



「はい‥まぁ‥」



曖昧にそう返した雪に、静香は何も言わずただ食事を続けた。

雪の胸の中に、言い様のない不安と違和感がこびり付く。

何だろう‥



どうして突然そんなことを‥?



静香が麺をすする音を聞きながら、どこか落ち着かない気分で雪は彼女の前に座っていた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の味方>でした。

静香と雪の回でしたね。

最初あんなにも静香にビビってた雪ちゃん、もう対等に喋れるようになって‥。

そして「店からのおごり」を雪ちゃんが出来るのか‥?!後から雪が払うのかなぁ‥ホロリ


次回は亮さんの回ですよー。

<けじめ>です。



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寄す処

2017-01-05 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
ふうーーーっ



「ゲホゲホゲホッ!」



静香の吐き出す煙草の煙が辺りに充満し、雪はゲホゲホと咳き込みながら声を上げた。

「ちょっ‥煙草は後にして下さい!」「は?細かいわねぇー」

「はあぁ?!」



ゆっくりと煙草を嗜む静香を見て、

雪は先程講義室で感じた穏やかな気分が吹っ飛ぶのを感じていた。

そうじゃん‥まだこの人が残ってた!



ようやく補整された道路を歩めると思った矢先、静香の出現によってそれはまた獣道に逆戻りだ。

この自由奔放なトラブルメーカーは、今最も雪の心を憂鬱にさせる人と言っても過言ではない。

雪は鼻を押さえながら、早速静香から回収したプリントに目を通し始めた。

二人共金欠の為、この寒空の下で答え合わせだ。

「寒いから早く終わらせましょう。今日は早めに来たんですか?」



その雪の質問に、ゆっくりと答える静香。

「まぁ‥家に居たって‥」



静香は、煙草を燻らせながら先程の出来事を思い出していた。





「今すぐご注文を!もうお時間ありませんよ〜!」



数時間前、静香は家でぼんやりとテレビショッピングを見ていた。

けどもう何の商品を紹介していたのかも思い出せない。

「これはテレビだから言ってるわけじゃありませんよぉ」



携帯電話の履歴には<不在着信 青田淳>が七件表示されていたが、携帯を手に取る気にはならなかった。

静香は寝転がった体勢のまま、販売者の甲高い声をただ聞いている。

「私も素人じゃありませんからね、この商品は本当に破格なお値段ですよ!」



すると突然、誰かがドアを叩いた。

ドン!






静香は思わず身を起こし、目を見開いたまま固まっていたが、

ドアの向こうには依然として誰かの気配がしていた。

トントン



静香は亮の部屋に向かって大声で叫ぶ。

「ちょっと亮!外出てみて!変な音がしてる!」



しん‥







静香はハッとした後、最近の弟の様子を思い出して舌打ちした。

そうだ、最近外出たらなかなか帰って来ないんだった‥



ドンドン!



だんだんとノックは大きくなり、ドアの向こうで苛立っている人の気配を感じる。

静香は身体を強張らせたまま、その場から動けない。



指の先から体温が引いて行って、背筋がすうっと冷たくなった。

頭の中で、ドアが大きな音を立ててバンと開く。

「静香ぁ!今日こそお前を殺してやる!!」



鬼のような形相の叔母は、そう言って幼い静香を叩いた。何度も、何度も。

「宅配便です」「はーい、ちょっと待って下さい」



耳からはドアの外のやり取りが聞こえて来るが、静香は未だ現実に戻れず瞼の裏の幻影を追っていた。

頭を抱えた体勢から見える叔母の口元が、幼い静香に残酷な真実を教える。

「亮を探してるのか?あの子はここには居ないよ!」








ようやく動けるようになったのは、静寂を取り戻して随分経ってからだった。

こんな時弟が傍にいたとしたら、こう言っただろう。

「ほらみろ、ただの宅配だったろ。

けどお前のじゃなくて隣のってのは珍しいな」




そのちょっとした皮肉に姉弟は言い争いを始める。

怒っていれば、あの暗い記憶も思い出さずに居られたのに。






玄関を見るとあのブーツを思い出す。あのゴツくてボロボロの黒いブーツを。

自分の靴が置けなくなると文句を言いながら、よく足で端に寄せた。




あの靴も今はもう、ない。




口を開けば喧嘩して時に疎ましかった、弟の存在。

けれどそれは自分の寄す処だったのだと、ひしひしと実感する。

空いた椅子を見る度に、広くなった玄関に立つ度に。

もうあたしにはアンタしかいないと、あの時伝えたはずだったのに。







思いが溶け出すその前に、静香は身支度をして家を出た。

胸中に渦巻く様々な感情を、振り払うように急ぎ足でー‥。







「‥やることないしねー‥」



静香は前を向いたままそう言った。雪は静香の横顔をじっと見つめている。

「ていうか煙草すら許してくんないなんて、あたしのこのストレスは誰が責任取って‥」



静香を見ていた雪の視線が、ゆっくりと外れて後方の一点を見つめて固まっていた。

静香は雪が見ているそれを追う。



「くれる‥」



そこには、一人立ち尽くすもう一人のトラブルメーカーが居た。

彼の姿を見て、二人はそれぞれに目を丸くする。







柳瀬健太の背後からは、だんだんと鬱々としたオーラが立ち上って来た。

えーっとこの二人が親しいってことは、

赤山にあの女と青田の関係をぶっちゃければ奴は終わりじゃねーか?

横山は間違ってなかったんだ。いくら青田でも弱点の一つや二つ‥


「あの、もうこれで‥」



嫌な予感がする、と雪の第六感が告げていた。

健太が近付いて来るその前に、この場を立ち去ろうとしたその時。

ガッ!



突然雪の手首を掴んだかと思うと、凄い勢いで静香が逃走を始めた。

「えっ?!」



「えぇっ???」



健太はただポカンと口を開け、去って行く二人の後ろ姿を見つめていた‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<寄す処>でした。

今回、静香が亮が居なくなった空間を見ている場面を見て、
「ぼくは勉強ができない」という山田詠美さんの小説の一節を思い出しました。

以下転載します。

「この人が死んだら嫌だなあと思った。彼も多分、ぼくを残して死ぬのは嫌だろうなあ、と。
そこまで思うと、なんだかやるせなくなった。
それは、大きな悲しみというより、ひとり分の空間が出来ることへの虚しさを呼び覚ます。
人間そのものよりも、その人間が作り上げていた空気の方が、ぼくの体には馴染み深い。
笑いや怒りやそれの作り出す空気の流れはどれ程、他人の皮膚に実感を与えることか。
多くの人は、それを失うことを惜しんで死を悼む。
生きていることは錯覚ばかり、とぼくは病院に来る途中に思ったけれども、
残す空気は形を持たずして、実感を作り上げるのだ。
しかし、その空気より他人に記憶を残せなかった人間は虚しい。
やがて灰になるなら、重みのある空気で火を燃やしたい」


どんな存在にもそういう気持ちを感じるでしょうが、静香の場合は唯一の肉親ですからね。

幼い頃叔母に虐待していた時に見放され憎む気持ちもあれど、

やはり亮の存在は静香の心の寄す処なんだと思います。

次回は<彼女の味方>です。


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満足感と閉塞感

2017-01-03 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)


翌日。晴れた空に鳥の声が響いていた。

まだ期末試験は続く。



味趣連の三人は肩を並べて教室へと急いだ。

試験が始まる。



終わると三人は手を振り合って別れた。互いにエールを送りながら。

「試験がんばってー!」「アンタもねー!」



雪は次の試験が行われる講堂へと急いだ。

お馴染みのメンバーににこやかに挨拶する。

「こんにちは」



「赤山ちゃん、ハ〜イ?」「やぁ」



雪の顔を見て、柳がニヤニヤしながら言った。

「さては沢山勉強出来たな?表情が明るいぞ?」

「はは、そうですか?」



雪は軽く笑いながら柳の隣の席に腰掛けた。

会話する柳と佐藤。雪はふと後ろへと視線を流してみる。

「面接のメールがさぁ‥」「おお」







目に入って来るのは、心を憂鬱にさせるメンバー。

平井和美、横山翔、柳瀬健太。



清水香織、糸井直美。







心に刺さった棘が一本一本抜けて行くように、一人二人と消えて行く。

ようやく現実に戻った雪が見たのは、こちらを睨む視線など一つもない世界だった。



後ろを向いたままの雪を見て、柳は不思議そうな顔をする。

「どしたん?」「あ、いえ。なんだか講義室が寂しい感じがして‥」



その雪の答えに、柳はふっと笑った。

「そーか?静かになって良かったんじゃね?」



「平和に試験受けれるよな」



憂鬱から解放されたその世界に、未だ雪は慣れてはいないようだった。

それでも柳の言葉を聞いて、ホッとしている自分を認めざるをえない。

これって満足感か?それもちょっと笑えるな



どこか落ち着かない気分だった。

例えるなら、今までずっと歩いて来た獣道が急に補整された道路になったような。

何の障害物もないその道は、確かに歩きやすいのだが。

「ていうか健太先輩はどうしたんだろう?」「バイト地獄らしいぜ」

「この時期に?」



一方柳瀬健太は、

補整された道路どころかこの先どこに進めば良いのかすら分からなくなっていた。

ズーン‥



突然ですが、ここで彼のコーナーです

<今日の健太くん日記<1>>



「カテキョの時間、勝手に変更しちゃダメでしょ〜?俺にも予定ってもんがさぁ‥」



ピキピキと顔を引き攣らせた健太が彼の受け持っている生徒にそう説教するが、

生徒は二人共不服そうに言い返して来る。

「俺だって予定があるんスよ。俺って忙しいヒトなんで」



「その時間はダメって言ったのは先生の方でしょ?他のカテキョがあるからって。

いきなりコマ増やして来たのは先生の方じゃないですか」




「あー母さんがコーヒー代忘れててくれなくてー」

「そ、そーか?そんじゃ俺が払っとくわ」「先生は?」

「俺はいいよ‥」(ふざけんなよ!チョロまかしやがって!)



「お前今どこだ?!ネカフェだろ!音でバレバレだっつーの!」



しかも一方は調子に乗ってコーヒー代をせびり、一方は授業をバックレる有様である。

年下にナメられ振り回され、健太はストレスの限界だった。

「タバコ‥タバコ‥」



からっぽ‥



「ぐわああああ!」



健太は地団駄を踏みながらこの無情な現実を嘆き、その場で暴れた。

そしてダメもとでもう一度、青田淳にメールを送ってみた。

卒業試験も単位も絶望だわ。

俺、そんな悪いことしたか?俺が金欠で困ってんのは重々承知のはずだろ?フツーここまでするか?

今家教もバイトもやっててこれ以上何も出来ねぇよ。俺の人生どうしろってんだ!




すぐに来る返信。

先輩の事情まで考慮しないといけませんか?

一人で用意出来ないような大した額では無いと思いますけど。




その心無い返信を読んで、健太は逆上し携帯を放り投げた。

「この薄情ボンボン野郎が!んだと?!大した金額じゃねーだと?!気が狂いそうだぜぇぇぇ!!」



イライラと惨めさと、先の見えない不安と怒り。

健太は取り乱したり落ち着いたりと随分と忙しい。

「ふ‥いいさ‥我慢してやるよ。数日待ちゃバイト代が入るしな‥」



「けどその金全部払っちまったら俺はどーすりゃいいんだ?!」



「いや、けどそれでアイツと手が切れんなら!これが手を切らずにいられるかっての!」



イライラMAXでポケットを探るも、何も掴めはしなかった。

「煙草もねぇし!クソーッ!」



先行きがまるで見えない閉塞感。

タバコの煙は吐き出せないが、その道筋は白く煙って見通せない‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<満足感と閉塞感>でした。

このコマ!びっくりしたー!



一瞬平井和美や横山翔が戻ってきたと思いましたよ

彼ら全員がいなくなるまでかれこれ6年掛かったと思うと感慨深い‥。

あ、でもまだ健太がいますね。

この人はどうやっていなくなるのか、といういなくなる前提で考えちゃいますね。。


次回は<寄す処>です。


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