事務室の助手の遠藤さんが、レポートの提出期限を三日間延ばしてくれると言った。
雪は三日間では不可能だと抗議したが、
居眠りする奴が悪いとバッサリ却下された。
すると教室の向こう側から、青田先輩がひょっこりと顔を出した。
「それなら俺が平井にリサイクルに出すように頼んだプリントのはずです。
あの子がしくじったみたいですね」
「俺がやるべきだったのに、丁度手が込んでたんだ。雪ちゃん、ごめんな」
よかったら手伝おうか、と彼は言いかけたが、
違う人の用事を言いつけられてここに来ているらしく、また教室の向こう側へと戻っていった。
遠藤さんからも、さっさと出てってくれよと邪険にされた。
雪は事務所の前で立ち尽くした。
それもそのはずだ。とばっちりのせいで三日間の徹夜が確定したのだから。
偶然か否か、平井和美がそこに通りかかる。
雪は和美の方へツカツカと歩み寄ると、和美が先に口を開いた。
「期限はちゃんともらえたの?あたしのせいで悪かったわね。
でも居眠りさえしてなかったら、こんなことも起きなかったのにね。もどかしいわ。」
その悪びれない態度に、雪の腹の中は沸々と煮えくり返り、言いたいことがモクモクと膨れ上がった。
本当に故意じゃないのか?故意なのか?
もしや青田のせいで? 青田のせいならどうしろっていうの? てか彼女でもないくせになんなの。
あー腹立つ。時間ないし眠いし他の課題も山積みなのに、これで成績落ちたらあたしの奨学金どうしてくれるわけ?
誤解が解けない以上この嫌がらせは続くと見た。絶対そうだ。
それならこの状況だけじゃなく全部をはっきりさせるべきだ。
肚の決まった雪は、そういう馬鹿げた嫌がらせはやめてくれとハッキリ言った。
青田先輩には全く興味はないし、ゼミも本当に偶然だったし、そもそももう辞めた。
だからこれ以上変な誤解をしないでほしいと、彼女の目を見てまっすぐに言い切った。
しかし彼女には全く伝わらず、却って逆効果だったんじゃないかと思うほど言い返してきた。
「何言ってるの?ちょっと今あなたあたしのこと変人扱いしてるわけ?
プリントの話から何で急に淳先輩の話が出てくるの?
点数が欲しいのは分かるけど、人のミスをいいことに人格的なことまで侮辱するなんてひどいじゃない。見損なったわ」
雪は自らを奮い立たせ、怯むことなくもう一度念を押した。
「何しろほんっっとうに興味ないから、私を巻き込むのはもうやめて」
ようやく信じたかのように見えた和美の横を、あの男が通りかかった。
「二人そんなとこで何してるの?授業がまだ残ってるんだな」
彼に気がついた和美は、一緒に帰りましょうと駆け寄っていった。
しかし彼はそれに構わず、雪に笑いかけて言った。
「そうだ雪ちゃん。後でもし必要なら連絡してくれていいから。課題手伝うよ。やっぱり俺のせいでもあるし、気になってさ」
和美の表情が変わった。
私なら大丈夫ですと、気にしないでくださいと、そう言いながらも冷や汗が背中を伝う。
「強制ではないし、気軽にな」
そう微笑む彼に、雪は「早く行けっ」と願いながら、大丈夫です気にしないで下さいと繰り返した。
すると和美は雪の方へ振り返り、嘲笑する。
「あんた賢いのは知ってたけど、ここまでとはねー‥まんまと騙されるとこだった」
そう言い残して、淳の方へ走り去って行った。
雪は苛つきながら、帰路を歩いた。
くだらない、そうだよ全部私が悪いんだよ!
そう愚痴りながら、ある思いで胸の中は一杯だった。
なんであのタイミングで現れるの?偶然?それとも運が悪いのか?
頭の中ではあの男の言葉が反響している。
「後でもし必要なら連絡してくれていいから。課題手伝うよ」
雪の胸中は苛つきで充満していた。
自分がコントロール出来ない所での波紋に、腹が立ってしょうがなかった。
心にもないこと言いやがって!誰のせいでこうなったと思ってんだよ!
偶然にしては出来すぎ、故意にしては仕組まれ過ぎている。
雪は正体不明の不穏な感情を持て余し、そのまま早足で街を歩いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>災難の始まり(3)へ続きます。
雪は三日間では不可能だと抗議したが、
居眠りする奴が悪いとバッサリ却下された。
すると教室の向こう側から、青田先輩がひょっこりと顔を出した。
「それなら俺が平井にリサイクルに出すように頼んだプリントのはずです。
あの子がしくじったみたいですね」
「俺がやるべきだったのに、丁度手が込んでたんだ。雪ちゃん、ごめんな」
よかったら手伝おうか、と彼は言いかけたが、
違う人の用事を言いつけられてここに来ているらしく、また教室の向こう側へと戻っていった。
遠藤さんからも、さっさと出てってくれよと邪険にされた。
雪は事務所の前で立ち尽くした。
それもそのはずだ。とばっちりのせいで三日間の徹夜が確定したのだから。
偶然か否か、平井和美がそこに通りかかる。
雪は和美の方へツカツカと歩み寄ると、和美が先に口を開いた。
「期限はちゃんともらえたの?あたしのせいで悪かったわね。
でも居眠りさえしてなかったら、こんなことも起きなかったのにね。もどかしいわ。」
その悪びれない態度に、雪の腹の中は沸々と煮えくり返り、言いたいことがモクモクと膨れ上がった。
本当に故意じゃないのか?故意なのか?
もしや青田のせいで? 青田のせいならどうしろっていうの? てか彼女でもないくせになんなの。
あー腹立つ。時間ないし眠いし他の課題も山積みなのに、これで成績落ちたらあたしの奨学金どうしてくれるわけ?
誤解が解けない以上この嫌がらせは続くと見た。絶対そうだ。
それならこの状況だけじゃなく全部をはっきりさせるべきだ。
肚の決まった雪は、そういう馬鹿げた嫌がらせはやめてくれとハッキリ言った。
青田先輩には全く興味はないし、ゼミも本当に偶然だったし、そもそももう辞めた。
だからこれ以上変な誤解をしないでほしいと、彼女の目を見てまっすぐに言い切った。
しかし彼女には全く伝わらず、却って逆効果だったんじゃないかと思うほど言い返してきた。
「何言ってるの?ちょっと今あなたあたしのこと変人扱いしてるわけ?
プリントの話から何で急に淳先輩の話が出てくるの?
点数が欲しいのは分かるけど、人のミスをいいことに人格的なことまで侮辱するなんてひどいじゃない。見損なったわ」
雪は自らを奮い立たせ、怯むことなくもう一度念を押した。
「何しろほんっっとうに興味ないから、私を巻き込むのはもうやめて」
ようやく信じたかのように見えた和美の横を、あの男が通りかかった。
「二人そんなとこで何してるの?授業がまだ残ってるんだな」
彼に気がついた和美は、一緒に帰りましょうと駆け寄っていった。
しかし彼はそれに構わず、雪に笑いかけて言った。
「そうだ雪ちゃん。後でもし必要なら連絡してくれていいから。課題手伝うよ。やっぱり俺のせいでもあるし、気になってさ」
和美の表情が変わった。
私なら大丈夫ですと、気にしないでくださいと、そう言いながらも冷や汗が背中を伝う。
「強制ではないし、気軽にな」
そう微笑む彼に、雪は「早く行けっ」と願いながら、大丈夫です気にしないで下さいと繰り返した。
すると和美は雪の方へ振り返り、嘲笑する。
「あんた賢いのは知ってたけど、ここまでとはねー‥まんまと騙されるとこだった」
そう言い残して、淳の方へ走り去って行った。
雪は苛つきながら、帰路を歩いた。
くだらない、そうだよ全部私が悪いんだよ!
そう愚痴りながら、ある思いで胸の中は一杯だった。
なんであのタイミングで現れるの?偶然?それとも運が悪いのか?
頭の中ではあの男の言葉が反響している。
「後でもし必要なら連絡してくれていいから。課題手伝うよ」
雪の胸中は苛つきで充満していた。
自分がコントロール出来ない所での波紋に、腹が立ってしょうがなかった。
心にもないこと言いやがって!誰のせいでこうなったと思ってんだよ!
偶然にしては出来すぎ、故意にしては仕組まれ過ぎている。
雪は正体不明の不穏な感情を持て余し、そのまま早足で街を歩いて行った。
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<雪>災難の始まり(3)へ続きます。