『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第6回目です。
◆関節炎と湿性肋膜炎
漢方では、体内の水分が過剰な状態を水毒(すいどく)とよびますが、これは腎臓の機能障害が直接の原因だそうです。
次に、どういう人に水毒が多いかというと、下痢しやすい体質の人は水毒が多いそうです。また、関節炎にかかって関節内に水が溜(た)まる人も水毒が多いそうです。さらに、湿性肋膜炎も水毒によって引き起こされるそうです。
ところで、西洋医学では、関節内に溜まった水を注射器などで抜く治療法がありますが、鮎川氏は、こういった手法を、
「治療法という可(べ)きものでは無くして疾病(びょうき)の本態を弁(わきま)えざる医師の瞞着(ごまかし)手段である」
と厳しく批判しています。
というのも、関節の炎症に際して水が溜まる現象は、炎症を起こした関節面の摩擦を防ぐために必要な生理現象であり、その病気の根本を治さないで水だけを取ると、病気がますます悪化する危険があるからです。
鮎川氏は、こういった場合は、漢方薬を内服して水毒を除去してやればすぐに治るので、溜まった水を注射器などで抜くような迂遠(うえん=遠回り)な治療は必要ないと断言しています。
湿性肋膜炎についても事情はまったく同じですが、この本には具体的な治療例が載っているのでご紹介しましょう。
それによると、あるとき、西洋医学の専門家が穿刺(せんし=中空の針をさすこと)によって排膿を試みた湿性肋膜炎の患者が、結局治らなくて鮎川氏のところに来たそうです。
この話は、同じ著者が書いた『漢方医学入門』(日本漢方医学会:1935年刊)という本に詳しく書かれているのですが、患者は二歳の男児で、肺炎から湿性肋膜炎を起こし、右季肋部(右側の肋骨下部)が膨隆(ぼうりゅう=ふくらんで盛り上がること)していたそうです。
そこで、大柴胡湯(だいさいことう)と排膿湯(はいのうとう)の合方と大黄䗪虫丸(だいおうしゃちゅうがん)を五日分投与したところ、一週間後に再診した際には、患者の顔つきがよくなり右季肋部の膨隆もなくなっていたそうです。
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今回登場した漢方薬は湿性肋膜炎用の薬ですが、一般的には膝関節の不具合で困っている人の方が圧倒的に多いと思いますので、関節炎で膝に水が溜まった場合によく使われる防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)という漢方薬をご紹介しましょう。
『皇漢医学 第1巻』(湯本求真:纂著、湯本四郎右衛門:1933年刊)という本によると、この薬は、本来は身体の湿気が呼び寄せた風邪(かぜ)を治す特効薬で、体表および体内の水分を尿として排泄させる作用があります。
また、腰より上は正常で腰から下が重く腫(は)れて屈伸しにくい症状を治してくれるとも書かれていて、これが、関節炎で膝に水が溜まった状態に適合するようです。
ただし、体質的に防已黄耆湯が適さない場合もありますから、膝関節の不具合でお悩みの場合は、必ず漢方医に診断してもらうようにしてください。
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