毎日新聞より転載
<認知症男性JR事故死>「負けられない」1日に最高裁判決
毎日新聞 2月28日(日)11時0分配信
男性が愛用した服や靴、帽子には、行方不明時に備えて名前や家族の連絡先が書かれていた=愛知県大府市で2016年2月22日、大竹禎之撮影(画像の一部を加工しています)
愛知県大府(おおぶ)市で列車にはねられ死亡した認知症男性(当時91歳)の遺族がJR東海に損害賠償を求められた訴訟の最高裁判決が3月1日に言い渡されるのを前に、男性の長男(65)が思いを語った。1、2審判決は遺族の監督責任を認め、同様に認知症の身内を介護する全国の家族らに大きな衝撃を与えた。「もう私たちだけの裁判ではない。負けるわけにはいかない」。長男はそう祈りながら判決を待っている。
長男の父は2007年12月7日夕、母(93)がまどろんだわずかな間に戸外へ出た。所持金はなかったが、最寄り駅から電車に乗り、隣の共和駅で線路に入ったとみられる。
父の要介護度は5段階中2番目に重い「4」で、長男らは「認知症があり線路上に出たと考えられる」と書かれた死体検案書と医師の診断書をJRに送り、わざと起こした事故ではないと伝えた。しかし、JRは「他者に損害を及ぼさないよう家族は監視する義務があった」などとして、電車の遅れなどに伴う賠償金約720万円を請求してきた。
1審は全額賠償を命じる全面敗訴。判決は「(家族が)目を離せば他人の生命、身体、財産に危害を及ぼす事故を引き起こす危険性を予見できた」と断じた。長男は「父は温和な性格。認知症になっても穏やかなままで、とぼとぼとしか歩けなかった。なのに判決は父を何をしでかすか分からない危ない存在としか見ていない」。判決後、親をあわてて施設に入れた人がいると聞き「とんでもない判決を招いてしまった」とショックを受けた。
2審判決は賠償額を約360万円としたが、出入りを知らせるセンサーを切っていたことも問題視した。父は以前、自宅で不動産業を営み、センサーは当時の事務所で来客を把握するためのもの。飼い犬にも反応し、介護とは無関係だった。
長男ら家族には「介護に全力を尽くした」との思いがある。ヘルパーを雇ったり、入院など環境が変わったりすると、父は落ち着きをなくした。センサーを切っていたのも、アラームが頻繁に鳴ると働いていた当時に気分が戻って緊張してしまうからだ。
こうしたことから、父の介護は母だけでなく、長男の妻(63)が単身で近くに転居し、週末には長男も横浜から帰省して手伝った。「他にできることがあったなら裁判長に教えてもらいたい」と語気を強める。
2審判決後、長男は勤め先を退職し、父の不動産事務所を再開した。父のお気に入りのソファや事務机など、思い出が詰まった場所で新生活を送る。「判決の重みは分かっている。司法の良心を信じたい」と語った。【銭場裕司】
【関連記事】
<介護の在り方に影響も…>争点は家族の監督責任
複雑な思いの病院側、リスク管理と人権尊重の両立に悩む
トイレは1日数十回…70歳女性、昼夜叫ぶ夫を「楽に…」
もし親が認知症になったら…賠償保険&給付金が出る治療保険
認知症110番 介護で切れそうになる私、どうしたら?
最終更新:2月28日(日)11時0分
<認知症男性JR事故死>「負けられない」1日に最高裁判決
毎日新聞 2月28日(日)11時0分配信
男性が愛用した服や靴、帽子には、行方不明時に備えて名前や家族の連絡先が書かれていた=愛知県大府市で2016年2月22日、大竹禎之撮影(画像の一部を加工しています)
愛知県大府(おおぶ)市で列車にはねられ死亡した認知症男性(当時91歳)の遺族がJR東海に損害賠償を求められた訴訟の最高裁判決が3月1日に言い渡されるのを前に、男性の長男(65)が思いを語った。1、2審判決は遺族の監督責任を認め、同様に認知症の身内を介護する全国の家族らに大きな衝撃を与えた。「もう私たちだけの裁判ではない。負けるわけにはいかない」。長男はそう祈りながら判決を待っている。
長男の父は2007年12月7日夕、母(93)がまどろんだわずかな間に戸外へ出た。所持金はなかったが、最寄り駅から電車に乗り、隣の共和駅で線路に入ったとみられる。
父の要介護度は5段階中2番目に重い「4」で、長男らは「認知症があり線路上に出たと考えられる」と書かれた死体検案書と医師の診断書をJRに送り、わざと起こした事故ではないと伝えた。しかし、JRは「他者に損害を及ぼさないよう家族は監視する義務があった」などとして、電車の遅れなどに伴う賠償金約720万円を請求してきた。
1審は全額賠償を命じる全面敗訴。判決は「(家族が)目を離せば他人の生命、身体、財産に危害を及ぼす事故を引き起こす危険性を予見できた」と断じた。長男は「父は温和な性格。認知症になっても穏やかなままで、とぼとぼとしか歩けなかった。なのに判決は父を何をしでかすか分からない危ない存在としか見ていない」。判決後、親をあわてて施設に入れた人がいると聞き「とんでもない判決を招いてしまった」とショックを受けた。
2審判決は賠償額を約360万円としたが、出入りを知らせるセンサーを切っていたことも問題視した。父は以前、自宅で不動産業を営み、センサーは当時の事務所で来客を把握するためのもの。飼い犬にも反応し、介護とは無関係だった。
長男ら家族には「介護に全力を尽くした」との思いがある。ヘルパーを雇ったり、入院など環境が変わったりすると、父は落ち着きをなくした。センサーを切っていたのも、アラームが頻繁に鳴ると働いていた当時に気分が戻って緊張してしまうからだ。
こうしたことから、父の介護は母だけでなく、長男の妻(63)が単身で近くに転居し、週末には長男も横浜から帰省して手伝った。「他にできることがあったなら裁判長に教えてもらいたい」と語気を強める。
2審判決後、長男は勤め先を退職し、父の不動産事務所を再開した。父のお気に入りのソファや事務机など、思い出が詰まった場所で新生活を送る。「判決の重みは分かっている。司法の良心を信じたい」と語った。【銭場裕司】
【関連記事】
<介護の在り方に影響も…>争点は家族の監督責任
複雑な思いの病院側、リスク管理と人権尊重の両立に悩む
トイレは1日数十回…70歳女性、昼夜叫ぶ夫を「楽に…」
もし親が認知症になったら…賠償保険&給付金が出る治療保険
認知症110番 介護で切れそうになる私、どうしたら?
最終更新:2月28日(日)11時0分