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いい学校、いい社会




英国にご縁のある方から「いい学校」とはどういう学校だと思うか聞かせて欲しいとメッセージを頂いたので、少し考えてみた。


わたし自身は中等教育に関しては日本での経験しかないが、それでも13歳/中学2年生(8年生)の娘は英国でとても「いい学校」に行っていると思う。

お嬢様学校ゆえののびのびした感じや偏差値の高さ、またスポーツや音楽強豪校であるから...ではない(もちろん親としてはそういう気持ちもあることは認める)。

生徒がお互いの成長をお互いに支援し合うことに非常に高い価値を置いていることが、毎日の学校生活を通して伝わって来るからだ。
学校という小さい社会の中に自分の居場所がある、自分が役に立っている実感がある、頼り頼ってくれる人がいる、達成目標がある、認めてくれる人がいる...簡単に言えばそのようなことだ。
「生徒がお互いの成長をお互いに支援し合う」のは校内で奨励されているだけではく、国内や国外の子ども達の成長を支援することにも非常に力を入れていて、詳細は書けないが、施設を貸し出すことから、ボランティア、チャリティ、コンペティションの主催、世話役、国際交流や勉強会なども。

他を蹴落とし、いい大学に行き、いい職に就き、高い地位を得、より金儲けをする、それらを達成するために教育を受けるのではない。
教育とは「自分だけがよければいい」というグローバル・スタンダード式人間を生産するためにではなく、社会をメインテナンスし、縁の下から支える人間を1人でも多く社会に出すためにある。
過去と歴史に敬意を払い、今に集中し、未来に責任を持つ。この社会をよりよい社会にするのは自分たちひとりひとりであるという自覚と成長を促すのが教育なのだと思う。


今日は日本のニュースにもこんなヘッドラインが踊った。
イングランドの若者、100万人超がニート
「イングランドの16~24歳のうち、就業せず教育や職業訓練も受けていないニート(NEET)は102万7,000人に上ることが、教育省が22日発表した最新の統計で明らかになった。1年前からは減少しているものの、依然として100万人を上回っている

それによると、若者のニートの割合は第3四半期(7~9月)に17%に上った。前年同期から2.1ポイント減少したが、19~24歳に限ると19.6%と、依然として5人に1人がニートとなっている。このような無就業者の数は季節によって変動し、毎年、第3四半期に最も増加するという。

教育省の報道担当者は、イングランドでは16~19歳の教育や職業訓練に75億ポンド、成人向けの職業訓練にも38億ポンドが費やされている点を指摘。ニートの減少を歓迎しながらも、「依然として気を緩めず問題に対応していく」と話している。」(NNA.EU の記事 2012年11月26日)


こういう記事を読むと英国の若者も気の毒だが、所得税を半分持って行かれる英国中産階級の「あの税金、役に立ってないやん」的哀愁もひしひし感じるのである。


英国では50年代から「ゆりかごから墓場まで」が抜群に有効な処方箋となった。その後、いわゆる英国病を発症、社会保障制度を利己的に受給する人は年々増加し、各種生活保護を受けるのは全体で400万人(英国の人口は日本の約半分で6000万人)、負担は1兆円以上、英国経済破綻の一因になっている。

保護が必要な人は手厚く保護しなければならない。スフィンクスの謎かけではないが、朝には4つ足、昼には2本足、夜には3つ足で歩く人間には、自分が明日「保護が必要な人」になる可能性がゼロではないからだ。特に英国ではチャンスは全く平等ではなく、才能も元から平等ではない。しかし「働くより保護を受けた方が多くもらえる」からとか「シングルマザーなのは保護を受けるため」とか「エスタブリッシュメントに対する反抗のジェスチャーである」という考えは泥でできた舟に乗っているか、タコが自分の足を食うのと同じことである。

「自分だけ(金儲けができたら)よければいい」方式の教育が主流になった過去のある時点で、社会保障制度に無闇に頼る人が徐々に増え始めたのではないかとさえ思う。自分1人くらいズルをしてもいいという考え方は、自分だけ高い地位に就いて高収入が得られればいいという考え方と紙一重ではないだろうか。



そういうわけでわたしが思う「いい学校」とは、過去と歴史に敬意を払い、未来に責任を持ち、この社会をよりよい社会にするのは自分たちひとりひとりであるという自覚と成長を促す学校のことだと思う。自分の居場所がある、役に立っている実感がある、頼り頼ってくれる人がいる...という小さい社会。

こういった類いの小さな社会を喜々としてぶっ壊して来たのはわれわれ自身だ。失ってしまったものを構築しなおすのは難しいと思うが、小さな幸福な社会(例えば学校、例えば家庭、例えば町内)をたくさん作りそれらを緩やかにつなげることでしか「いい社会」は再生できないのではないか、と思う。難しいが、アドバンテージは誰でも今日から着手できる、ということだ(家庭レベルから始められる)。
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