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tim walker : story teller




ロンドンはサマセット・ハウスで1月下旬まで開催している、写真家ティム・ウォーカーの展覧会。
サーチ・ギャラリーであったシャネルの「リトル・ブラック・ジャケット」展ではつまらなさそうにしていた娘も、ティム・ウォーカーはおもしろかったようだ。リトル・ブラック展はカールが何者で被写体が誰であるかということを知らなければおもしろさ半分かな...とはわたしも思う。


わたしはもともとアンドレ・ケルテスあたりが好きで...なんと言うのか、セッティングのない切りつければ血が噴き出すような生のシーン、とろとろとあるいは怒濤のように流れる「時」の一瞬を切り取った、その中のわずかな歪み、というような写真が好きなのだ。

一方、ティム・ウォーカーはファッション紙ヴォーグ出身であるからなのかどうなのか、作りに作り込んだセッティング、凝りに凝ったストーリーの上に成立した作品を生む。まさに「作り話の語り手」。「どこにもない、けれど、誰もがどこかで見たことのあるような世界」「塔の一番上にあるなかなかたどり着けない部屋の扉を開ける」という彼自身の解説そのままの儚い(「はかない」は人の夢と書く)お話。善悪の分かれ目のない夢の世界。甘い童話の中の邪悪さ、邪悪さの中の諧謔、諧謔では終わらない結末...


昨日はハリーポッター・スタジオツアーで職人さんの技とファンタジーを言祝いだことを書いたが、「どこにもない」夢を「誰もがどこかで見たことがあるような」対象として具体化してくる才能はそれこそが魔法みたいだ。


もうすぐ同サマセットハウス内で始まるヴァレンティノ展も楽しみにしている。デザイナーも「どこにもない」夢を「誰もがどこかで見たことがあるような」対象にして欲望をかき立てる仕事だ...
女はイブニング・ドレスを買う時、まだ何が欲しいか分かっていない。しかし優れたデザインに出会った途端、「まさにこういうのが欲しかったのよ!」とあたかも前から出会いが運命づけられていたような気がするのである。またそういうドレスを作れるデザイナーが優れたデザイナーなのである。


(写真は展覧会で娘が最も気に入ったものを載せた)
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